第18話

私は召喚を使い、魅香とクロを呼び出す。


「お呼びでしょうか?信恵様」

「ワオン!」


私の部屋に召喚された二人は、すぐに肘まずいて命令を待つ状態で待機している。


「侵入者だ。しかも、今回のは前に来た連中よりも遥かに強く、数も多い」

「なんと……」

「連中の目的は、私が前に隷属させた人達を開放する事だ。……建前上はな?」

「グルルル…」


クロは、建前上はと聞いた瞬間、唸り声をあげた。

侵入者に対して怒っているのだろう。


「落ち着けクロ。待てを忘れたか?」

「クゥーン…」

「よしよし。次からは気を付けるんだぞ?」

「わふっ!わふっ!」


フフッ…やはりアニマルセラピーは効果的だな。

無意識に可愛がってしまう。

…っと!今はそんな事をしている場合ではなかったな。


「ンン!連中の真の狙いは私を殺すことだ。どうやら、先日制圧した〈迷宮〉の支配者が私の事を殺そうとしているらしい」

「馬鹿な!?そんな事はあり得ません!」

「ああ。だから、連中が侵略してきたんだ。ヤツは自力で私を殺すことができないし、敵対行動もとれない。だから、今侵入してきている連中を使って、私の事を殺そうという魂胆だ」


自衛隊にそんな命令を出すほど、古河は私に支配されるのが嫌か。

まあ、理由は分かっているがな。


「…どうなさいますか?信恵様。その裏切り者は即座に粛清すべきかと…」


魅香は相当ご立腹のようだ。

私に忠誠を誓わない古河の事が気に入らないのだろう。


「気持ちは分からなくもないぞ?魅香。しかし、あんな奴でも利用価値はあるかも知れない。現に、ヤツは侵入者を送り込んできたじゃないか」

「…それのどこに利用価値があると言うのですか?」

「簡単な話だ。ヤツを生かしておけば、また侵入者を送り込んでくるかも知れない。そうなれば、私達に有利な状況で戦う事ができる。外に出てしまうと、圧倒的に奴等のほうが有利だからな」


こちらは剣や棍棒が主流であり、弓矢が主力なのに対し、自衛隊はアサルトライフルを使い、戦車や攻撃ヘリ、ジェット戦闘機にミサイルまである。

どちらが有利かなんて一目瞭然だ。

有利どころか一方的だろう。

シモベ達が虐殺されるのが目に浮かぶ。


「まあ、今のうちに殺れるだけ殺ってしまおうじゃないか。ヤツとてそう何度も侵入者を送り込むことはできん」

「そうなのですか?」

「ああ。ヤツは外ではかなり影響力のある存在だった。故に侵入者を送り込むことができたが、私のシモベとなった事でその影響力は地に落ちた。今や過去の残りカスを使って侵入者を送り込んでいるだけに過ぎん。次はないと考え方が良いだろう」


天下りという言葉がある以上、一概にはそう言えないが…まあ、たった一人の政治家のプライドを守るために、何度も自衛隊を出動させるなど無駄なことを、他の政治家が許すはずない。

今回が最初で最後だろうな。


「では、殲滅をお考えで?」

「そうだな。だが、すべて殺す訳では無い。いくらかは生かして帰すし、奴隷も何人か作っておきたい。私も詳しい銃の扱い方は知らないからな」


今の時代、ネットを使えば何でもわかるが…単なる文章を読むのと、実際に教わるのとでは訳が違う。

百聞は一見に如かずというように、経験こそがもっとも勉強になるものだ。

そのためにも、銃を扱う自衛隊を何人か奴隷にしたい。


「何人か捕まえるのはこちらでやろう。お前達は殲滅だけを考えるんだ。それと……クロは一階に居る私の奴隷を連れてこい」

「わふっ!わふっ!」

「もしかしたら二階まで来ているかもしれないが…とりあえず人間を連れてくるんだ。いいな?」

「ワオオォォン!」

「そうか。では行ってこい」


確か、リポーターは女だったはず。

カメラマンが救出される分にはまったく問題はないが…女が救出されては困る。

危険な状況下では、男よりも女の方が優先される。

働き方改革が起こったのも、女が過労死したからだ。

それまでに同じ理由で何人男が死んだ事か…

とりあえず、最下層に女を連れてきて、まだ中に取り残されているという事にしておけば、連中は次々と下へなだれ込む。

そこを攻撃して殲滅すれば…私の勝ち。

殲滅しきれず殺されれば私の負け。


さて、自衛隊諸君。

戦争を始めようじゃないか。







「最下層に来いだって…」

「俺等にそんな命令は来てないな……つまり、最下層に行っていいのは…」

「私…助からないの?」

「きっと助かるさ!…ただ、君を餌として自衛隊を引き込もうとしているだけで…」

「餌…?」

「まあ、有効活用できるって分かったからには、あの狂人も殺そうとしないはす、。多分、快適かどうかは置いておくとして、生かしては貰えるよ」

「…それ、励ましてる?」

「他に言える事がないんだよ…嘘みたいな励ましをしたところで、現実との落差で苦しくなるだけ。だったら、現実的な話をしたほうがいいはず……マジか、もう行かないと」

「行くって…まさか……」

「大丈夫。流石に『自害しろ』なんて命令はされないよ」

「……分かった。帰ったら、私のお母さんとお父さんに伝えて。『私は必ず生き延びる』って」

「必ず伝えるよ。じゃあね」


元カメラマンは足元に置いてあった銃を拾うと、元ディレクターと共に走っていく。

元リポーターはそれを見届けると、最下層へ向かって走った。









「し、失礼します…」


自衛隊の様子を確認していると、私の部屋に元リポーターが入ってきた。


「クロ、ご苦労さま。ほら、食べなさい」

「わふっ!」


私はささみジャーキーを投げると、クロは可愛らしくジャンプしてジャーキーを口でキャッチした。

そんな可愛らしい一面を見せるクロに、元リポーターは困惑している。


「おい、何を呆けている」

「え?…あっ!はい!!」


私の指摘を受けた元リポーターは、背筋を伸ばして私の方を向く。

どうやら何か覚悟を決めていたらしい。

怯えの感情は見え隠れしているが、絶望はしていない。


「お前には特に仕事がない。適当にそこらの部屋で休んでおけ」

「……以上ですか?」

「そうだ。まあ、何かしたいなら五階へ行け。食べられそうな樹の実の収穫をしてくるんだな」


ゴブリンに収穫させるのはどうも心配になる。

一応、今のところ木が傷付いた事はないが…やはり心配だ。

あまり先入観や偏見というものは持ちたくないが、こればっかりは仕方がない。

人であれ何であれ、知性のあるものは自分の目線でしか物事を判別できないのだから。

どれだけ賢い存在でも、やはり自分の考えを優先してしまう。

私もそうだ。


まあ、そんな事は今考える必要のない事だ。

余計な事まで考えてしまうのは、私の悪い癖だな。


「では、クロは二階層にやってきた連中を始末しろ。必ず闇に身を隠し、怪我をしないように、奴らの攻撃には注意しろ」

「わふっ!」

「魅香は三階層で待機だ。できるだけ多くの人間を始末しろ。ただし、少しでも危険だと感じたら撤退。現状、お前を失うわけにはいかないからな」

「かしこまりました」

「私は一階層で適当に連中を狩る。が、すぐに戻ってくるだろう。その次は四階層で対応するとしよう。五階層へは行かせるな。あそこはシモベ達の食料生産拠点を担う重要階層だ。必要になればお前たちを呼ぶ。いいな?」

「はっ!」「わふっ!」


さて、おそらく外に居る奴らを合わせても千人程度……

うまくやれば問題なく殲滅できるはずだ。

決して油断はしない。

慢心もしない。

必ずお前達を殲滅し、私は次のステップへ進むのだ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る