第13話

一階層


『ん?――ど、どうして貴方達がソレを持ってるんですか!?』


家畜共を見つけた第二班の隊員が驚きの声を上げる。

ソレというのは銃の事だろう。

まあ、一般人が銃を持って現れれば驚くか。


『逃げて……お願い、逃げて…』


ほぉ…アイツ泣いてるじゃないか。

これは、私の悪逆非道さがよく伝わるんじゃないか?


『逃げる?どうし――え?』


バンッ!―という発砲音と共に、家畜共を見つけ話しかけていた自衛官の足に穴が開いた。


『な、何を……』


足を撃たれた自衛官は、苦痛に顔を歪ませながらも、家畜共に優しく問いかける。

それに対し、元リポーターは涙を流しながら話し始める。


『逃げて……じゃないと私が貴方達を殺さないといけなくなる…』


元リポーターの必死の訴えを見た第二班は、何かあった事を確信し距離を取った。

……距離を取っただけで大丈夫なはずが無いんだが……まあ、特に命令はしないでおくか。


『その様子だと何かあった事は確かみたいだな。第三班に何があったんだ?』


第二班の班長と思われる人間が一歩前に出て話し掛ける。

う〜ん……伝えさせるべきか?

泣きながらあった事を話す様子が全国放送されれば、相当効くと思うが……


『第三班は……支配者の居る最下層に到達しました……そこで…支配者に……殺されました』

『……全滅したのか?』

『はい……私達以外は…皆殺しにされました。私達も殺されていたはずです……』


へぇ〜

私が何も指示を出さなくてもいい感じにやってくれてるわね。

このまま頑張ってもらおうか。


『……でも…何でもすると言って命乞いしたら…首輪を付けられて…支配者に逆らえなくなりました……』

『そして、俺達を殺してこいと言われたのか』

『はい……』

『チッ、なんて奴だ……同じ人間とは思えないな』


ふふっ、私はお前等とは違うのさ。

私みたいな優秀な人間が、お前等のような劣等人と同じなはずが無いんだよ。

だからこそ、この家畜は有効活用しないとな。


―撃て。目の前の侵入者を殲滅しろ―


『そんなっ!?…い、嫌!!止めて!止めて下さい!!』

『どうし――不味い!遮蔽物の後ろに隠れろ!!』


ふ〜ん…私の命令に抵抗するか。

隷属させた状態でも本人の意志というのはある程度強いのか。

……それか、単純にそれくらい人を殺すのが嫌だったか。

まあ、私の支配に抵抗するほどの人殺しが嫌だったんだろうね。

人の意志とは存外侮れないようだな。


『くっ!強制命令で無理矢理攻撃させる気か!!』


…第三班の班長と言い、コイツと言い、自衛隊の班長は優秀な奴が多いのか?

私ほどではないにしても、家畜が命令に抵抗しているのを見て、何を言われたのかすぐに理解した様子。

…興味深いな。


『仕方ない、一度撤退する』

『なっ!?あの人達をここに放置するんですか!?』

『大丈夫だ…支配者のシモベとなった以上、雑に扱われる事はあっても、殺される事はないはずだ。救出部隊を用意してもらう方がいいだろう』

『銃を持っただけの素人三人相手なら、我々だけでも出来ます。今ここで救出すべきです!』

『……支配者は、この状況を見ているはずだ』

『それがどうかしたんですか?』

『他のモンスターを送り込んで来ないと、誰が断言できる?』


ふ〜ん…よく分かってるじゃないか。

その通り。私はお前達のいる場所に、援軍を

オーガを主軸とした主力部隊をな。


『撤退する。異論はないな?』


隊員達は何も言わず頷いた。

残念ながら、時すでに遅しだ。

私がニヤニヤしながら第二班を見守っていると……


『なっ!?オーガだと!?』

『十体は居るぞ……勝てるのか?』

『コブリンも山ほど居るな……ここの支配者は、俺達を帰す気は無いみたいだな』


御名答。

私はお前達を逃がす気など無い。

何せ、逃がす理由が無いからな。

せいぜい私の目標達成のための礎になってくれ。


―――殺れ―――


そう命令すると、シモベ達は一斉に第二班へ襲い掛かった。




数分後


「ん?ようやく着いたのか……」


半壊しかかった第二班を眺めていると、例の家畜がようやく追い付いた。

無駄に抵抗して動こうとしなかったせいで、到着までかなり遅れたが…まあ、少しは宣伝してくれるだろう。


『嫌だ…嫌だ…』


やはり元リポーターは抵抗が強いな……心を壊しても良いが、それだと悲壮感がない。

あくまで機械的に命令をこなすだけになってしまう。

それでは私の残虐さは伝わらない。


―撃て―


私がそう命令すると、元リポーターはようやく引き金を引いた。


『―――ッ!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』


銃を乱射しながら謝り続ける元リポーター。

身体が勝手に動いたというのがよく伝わっただろう。

このままオーガと一緒に殲滅戦に加えよう。


こうして、第二班は主力部隊と傀儡化した元取材班立ち寄って殲滅された。






「さて、ネットの反応は……おぉ…ガソリンに引火したくらい燃えてる……」


〈迷宮の核〉を使ってネットを開いてみると、SNSには私の話がトレンドになり、予想取り非難轟々。

罵倒、罵声の雨嵐だった。

様々なコメントが多すぎて全て言うのは難しいが要約すると、


・この支配者はマジでイカれてる。今すぐ射殺すべき

・酷すぎる!同じ人間なのに、どうしてこんなに酷い事が出来るの!?

・誰かあのイカレサイコ外道支配者の頭を診てやれ

・アイツ、平気で人を殺してたぞ?あんなのが侵略戦争を始めたら日本は終わりだ


といった声が多かった。

良い感じに私が悪役化している。

これが刺激になって、他の支配者達に自分達の現状に不安を煽る。

そのためにも、戦力を整えて他の〈迷宮〉へ侵略しなければならない。


「狙うは……ここだな」


私の〈迷宮〉が存在する港区の隣、千代田区の〈迷宮〉。

ここは、元の在米日本大使『古河悟』氏が支配者の〈迷宮〉が存在する。

古河氏は、〈迷宮〉が出現する直前に日本へ一時的に帰国しており、その際に〈迷宮〉に巻き込まれたらしい。

そして、その〈迷宮〉から出てくるなり、古河氏は在米日本大使を引退した。

しかし、今でも政界にはとどまっており、なにかしてるらしい。

何かまでは興味がないので調べるつもりはない。


「支配者となってからも政界に残っていたのなら、戦力は不十分のはず。偶然近くにあった〈ダンジョン〉を侵略の為の足掛かりとして利用して、そこから戦力を送り込むか」


私は、古河氏の〈迷宮〉のすぐ横にある〈ダンジョン〉に目をつけた。

私の狂気的な行動に混乱している今のうちに〈ダンジョン〉を制圧する。

決行は今夜。

支配下に置いている〈ダンジョン〉から出発して、速やかに行動する。

防衛には念のため魅香を配置して、万が一に備えておくか。

ネットの情報やテレビを見ながら自衛隊の動きに合わせ、入念に計画を練った。


「そうだ…まだ労りの言葉を言っていなかったな」


あの宣伝道具に最後の宣伝の仕事をさせなければ。

〈支配領域内転移〉で一階層へ転移すると、急ぎで家畜共がいる場所へ向かう。


家畜共がいる場所まで来ると、いつもの冷静な顔で後ろから声をかける。


「お疲れ様。もう休んでいいぞ」


後ろから声をかけたせいか、かなり驚いたあと、怯えた様子でこちらを見てきた。


「……や、休むって何ですか…?こんな事をした後にゆっくりしたところで、ちっとも気が休まりませんよ……」


う〜ん、この元リポーターは本当に肝が座ってるな。

私を前にしてこの程度しか怯えず、文句まで言ってくるとは……


「休まないなら好きにしろ。私はお前達がどうしようと特に何か言うことは無い」

「……逃げてもですか?」

「逃げられるのならな。まあ、逃げたところで大した損失はない。一応、お前等を傀儡化するために必要なエネルギーは、お前達補填してくれたからな。私はお前達を逃がす気はないが、逃げたければ好きにしろ」


長ったらしい言っていたが、要は、


『お前等を失ったところで大した事ない。逃げたいなら好きにしたらいいが、逃がす気はないぞ?』


という事だ。

『逃げたいなら好きにしろ』にも関わらず『逃がす気はない』のは、『自衛隊に助けられて外に出るのなら追いはしない。ただし、自力で逃げることは出来ないぞ?』と言いたいのだ。


「……逃げてもいいんですか?」

「自衛隊に拉致されたら逃げられるだろうな。その首輪がある以上、自力で逃げることは出来ない」

「……分かりました…それで、私達はどこで休めば…」

「どこだと?それくらい自分で探せ。それと、一応言っておくが、休憩所や寝床を作るつもりはない。床や壁にもたれ掛かって寝ろ」


私のやり方を酪農で例えるのなら、放牧が近いだろう。

〈迷宮〉という柵で覆われた場所で、餌だけ用意して後は放置。

寝床も用意しない。


「…実質、野宿をしろって事ですよね?」

「そうだな。それと、食事はゴブリンやオーガが食べている物と同じものを食べるか、自衛隊が持っているかも知れない携帯食を食え。特別に食事を用意したりはしないぞ?…あぁ、水に関しては安心しろ。水飲み場が複数設置されている。いつでも綺麗で清潔な水が飲めるぞ」


まあ、トイレは無いが。

どうせスライムが綺麗にしてくれるんだ。

エネルギーに余裕が出来るまでは野糞で我慢してくれ。


「侵入者を見つけたら殺す。それ以外は好きにしろ」


私はそれだけ命令し、家畜共のカメラに写らない所まで来ると〈支配領域内転移〉ですぐに自室へ戻った。


「さてと……今回の件で得たエネルギーをどう使うか…」


数十人は殺したからな。

一応、消耗した分は回収出来てはいる。

しかし、相対的に増えたエネルギーはそこまで多くない。

あれだけ消耗したんだから、もう少しほしい所だが……まあ、仕方ないか。

さて、まずやるべき事は……


「……スライムを召喚して、部屋を綺麗にする所からだな」


自衛隊を皆殺しにしたはいいが、その後始末が出来ていない。

五階層に居るオーガとスライムを呼び寄せて、部屋を掃除させるか。

命令を使って五階層に居るオーガとスライムを呼ぶと、一分程度でオーガ五体、スライム二十匹が現れた。


「お前達は死体を外へ運べ。装備品を剥がした後なら食ってもいいぞ」


オーガには死体を部屋の外へ運ぶように命じておく。

自衛隊の装備は、基地を襲撃しない限り手に入らないので、出来るだけ確保しておきたい。

私の命令を受けたオーガ達は、すぐに死体を回収して部屋から出ていった。

……頭をボリボリ食べながら出ていくな。


「はぁ……お前等は畳を傷付けないようにしながら血を啜り取れ。絶対に畳を傷付けるなよ?いいな?」


オーガは脳筋的バカだが、コイツ等は単細胞。

少し……いや、かなり心配だが、恐らく何とかなるだろう。

…駄目らな畳を張り替えれば良いのだから。


「……大丈夫だよな?溶けてないよな?」


私は、心配からソワソワしながら時折スライムの側に来て畳の様子を確認していた。

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