第12話
「殺せたのはたった六人か……あまりにもコスパが悪い」
これなら最初からオーガの挟み打ちでも良かったな。
だが、失ってしまったものは仕方ない。
それに、最初からオーガ挟み打ちをして全滅させてしまっては話にならない。
彼等には私の事を全国放送するという使命があるんだから。
…そう言えば、世間の反応はどうかな?
ネットを使って様々な掲示板やSNSを覗いてみる。
好評とは言えないが、批判的な意見を言うと封殺されるのは変わらないようだ。
だが、それに参加する人も減り、批判が目立ってきた。
……これは非常によろしくない。
彼等には私の姿を全国放送してもらわねばならない。
あまりやりたくはなかったが、誘導するか。
適当にオーガを一体使って誘導しよう。
私は一番近くに居るオーガに命令を出すと、最適ルートを調べておく。
「はぁ…どうしてあんな奴等の為にここまでしてやらないといけないんだか」
そんな不満を溢しながら、私は最適ルートを導き出し、オーガを使っての誘導を始めた。
◆
人間視点
「――っ!またオーガか…」
「こっちに来てますね。武器は持ってないみたいですが」
オーガを発見し、班長とリポーターが観察を始める。
先程のオーガと違い、武器を持っておらずこちらを狙っているようにも見えない。
まるで、ただ散歩しているだけといった雰囲気だ。
そして、どちらも攻撃することなくオーガが曲がり角まで来ると、そのまま角を曲がって歩いていった。
「……班長、あれ追いかけませんか?」
大國がまた突拍子も無い事を言い出した。
あのオーガの後をつけると言うのだ。
「危険だ。……危険だが、あのオーガからは敵意のようなものを感じなかった。もしかしたら、あのオーガは案内役なのかもな……」
「でしょう?さぁ、行きましょう」
「……分かった。あのオーガの後をつける」
班長は大國の提案を飲む事にした。
やはり、班長も不審な動きをするオーガの事が気になったんだろう。
〈迷宮〉に存在する全てのモンスターは支配者の下僕だ。
侵入者がいる中でこんな不自然な事をするはずがない。
つまり、支配者が意図して用意した存在だ。
自衛隊をおびき寄せるを引き寄せる為の罠か、勝利を祝って次の階層へ案内するのか。
理由はどうあれ、第三班はこのオーガの後を追って四階層を進んだ。
数分後
「これは……五階層への階段か?」
「ここだけ材質が違いますよ。まるで昔の和風建築みたいだ」
オーガの後をつけること数分。
そこには今までとは明らかに材質の違う階段があった。
まるで、古いお寺やお城の中に来たかのような材質……木を組み合わせて作る伝統的な造り。
塗料や金具等で装飾がするされており、それも和風建築感を漂わせる理由の一つになっていた。
「おぉ…壁は黒い木の板と漆喰ですよ?如何にも昔の和風建築って感じです」
「黒い木の板?……焼杉か?」
「焼杉?なんですかそれ?」
焼杉の話をする班長と隊員の横をリポーターとカメラマンが通り、階段の様子を写す。
そこには確かに伝統的な日本の壁があった。
「とりあえず、帰ったら自分で調べろ。さあ、五階層へ降りるぞ」
班長の指示で五階層へ降り始めた第三班。
多くの隊員が壁や床、天井を見ながら降りている。
こういった和風建築は物珍しいもののようだ。
中にはまじまじと見つめて、細かい傷や溝を調べているものも居る。
そして、階段を降りるとそこには――
「なんだ…これ…」
「凄い……本物のお城みたい…」
日本の城を連想させる煌びやかな建物。
部屋は畳が敷かれ、入り口はふすまになっていた。
「これが本当に〈迷宮〉なのか…?明らかに毛色が変わり過ぎだろ…」
あまりにも豪華な城に、誰もが目を奪われその場に呆然と立ち尽くしていた。
そんな中、班長があるものを見つけ、警戒心を顕にする。
「……あれが支配者の部屋か?」
五階層の廊下は一本道になっており、左右にはふすまが並んでいる。
その一本道の突き当りに一際大きいふすまがあった。
この城のような見た目の造りがある以上、ここが最下層と考えた方がいい。
となるとあの部屋は支配者がいる部屋だ。
班長は左右のふすまを警戒しながら歩き出す。
第三班の隊員達もそれに続いて歩く。
「横から急にオーガが出てくるとか無いですよね?」
リポーターが心配そうに班長に問いかける。
班長はリポーターの方を振り向く事なくその質問に答える。
「分かりません。ここの支配者の性格上、どこかで襲撃されそうですが……」
奇襲をよく使うような性格の支配者だ。
突然全てのふすまが開いてオーガが出てきてもおかしくはない。
第三班はそれを警戒しながら廊下を進む。
そして、一本道の突き当りにある大きなふすまに辿り着いた。
「虎と龍の襖絵…これ、何メートルあるんですかね」
「オーガの倍くらいはあるぞ…四、五メートルはありそうだな」
また呆然と立ち尽くす第三班。
真っ先に正気を取り戻したのはやはり班長だった。
「行くぞ…」
班長の声に我に返った隊員達が銃を構えて、ふすまの左右に立つ。
そして、二人でふすまを開き部屋の中へ入った。
◆
後ろで勢いよくふすまが開く音がした。
そして、ドタドタと靴を履いたままの足音が私の部屋の中に入ってくる。
これは第一声は確定だな……
私は第三班に背を向けたまま話し出す。
「人様の部屋に土足で踏み込んでくるとは…お前達の親はどんな教育をしてるんだ?」
私がそう問いかけると、第三班の動きが止まった。
いきなり話しかけたのが悪かったか?
それともこの部屋は少し豪華すぎたか?
それか、この服が似合っていなかったか。
まあ理由はどうでもいい。
「それに関しては謝罪させてほしい。ここが貴女の家である事を完全に忘れていました」
ふ〜ん?私の話に乗ってくるか…
「そうか」
適当に一言だけの返事をしてあしらっておく。
『お前たちには興味がない』という意味も込めて。
「一つ、質問させてほしい。貴女は元日本人で、ここの――〈迷宮〉の支配者なのですか?」
コイツ、意外とグイグイ来るな…
「そうだ。私はここの支配者だ。それがどうした?」
そう言いながらスライムを生み出すと、後ろから息を呑む音が聞こえた。
目の前でモンスターが生まれればそりゃあ、びっくりするか。
「そうですか……実はですね、現在日本では〈迷宮〉へと連れ去られてしまった人を助け、社会復帰させる活動が「知っている」…そ、そうでしたか」
無理矢理話に割り込んだせいか、班長とやらの歯切れが悪い。
それとも、知っていてこんな事をしているからかも知れない。
「あれだろう?保護とか言っておきながら殆ど外に出られず、出たところで民間人からは人外を見るような目で見られるという、なんの意味もない活動だろ?」
「なっ…」
私の冷徹淡々とした声に、明らかに動揺している第三班。
私との距離は、想像以上に遠い事を覚ったのかもしれない。
「私はそんな活動に助けを求めるつもりはない。そんな事をしなくても生きていけるし、むしろ私の目標の邪魔でしかない」
「目標?」
「そうだ。保護されて、国のいいようにされては私の目標は達成し得ない。だからこそ、私はその提案は絶対に受け入れない」
私がきっぱりと断ると、誰かの溜息が聞こえた。
……班長か?
「突然の訪問、失礼しました。それでは」
後ろからそんな言葉が聞こえた。
もう帰るのか……まあ、帰す気は毛頭ないが。
私は刀を抜いて、走り出し班長の心臓に突き刺した。
「――っ!?」
「は、班長!?」
突然後ろから突き刺され、班長は目を白黒させている。
第三班の人間?
全員目を見開いてるよ。
私は、そんな状態の第三班の全員に聞こえる程度の大きさの声で話し始める。
「まさかと思うが、帰れると思ってないか?」
「な、なに…?」
「知ってるんだろう?私達支配者がモンスターを生み出すためのエネルギーは、人を殺すことでも手に入ると」
班長の心臓から刀を抜き、背中を蹴る。
私に蹴られて倒れた班長が、苦痛に顔を歪ませながらも信じられないという表情を見せてきた。
「お前等は一体どれだけの私のシモベを殺した?その分のエネルギーを回収しないと、こちらとしては赤字なんだ。まあ、第一班を全滅させた分でかなり回収出来たが」
「ゴブッ!……お前…最初から殺す気だったのか……」
ん〜?
コイツ今、『お前』って言ってたよな?
家畜の分際で私の事を『お前』呼ばわりするとは……
「っ!?」
私は再び刀を刺す。
今度は心臓ではなく腹だ。
内臓をザクザク斬ってから刀を抜き、横たわっているゴミの腹を思いっきり蹴る。
「がはっ!?」
班長はその威力のせいで二メートルほど先まで転がっていった。
「ゴミの分際で私の事を『お前』呼ばわりするとはな。そんなに苦しみ抜いて死にたいか?」
私が冷ややかな声でそう問いかけながら班長に近付いていた時…
「動くな!」
…私に銃を向ける者が居るようだ。
確か……大國とか言われてたな。
「ほぅ…この私に命令するか?」
「あぁ、命令するさ。俺はこれでも自衛か――」
何か話してたが、あっちから攻撃してくるのであればこちらも容赦しない。
そろそろ正気に戻る奴が増えてくる頃か…
班長は後回しだな、先に隊員を殲滅しよう。
私は魔力操作の実戦練習も兼ねて、自衛隊の皆様で試し斬りすることにした。
「ぐぁ――」
「来――」
「うぁあ――」
何人かは私が攻撃してきた事に気付いて悲鳴を上げていたが、最後まで言う前に全員斬り伏せていたから関係ない。
私が戦闘を開始してからものの数秒で第三班は全滅した。
「くそっ……」
ん?班長がなにか言ってる。
というか、内臓を刺してからそれなりに時間は経ってると思うんだが……この程度の時間では人間は死なないのか。
いい勉強になった。
「さて、第三班は文字取り全滅したわけだが――お前はどうやって死にたい?」
私がそう聞くと、班長は手榴弾を取り出した。
……それで自分諸共私を殺す気か?
あまりにも愚かだ。
「はぁ…それがお前の答えか。興冷めだな」
私はそう言って不用心に班長へ近付く。
班長は私が直ぐ側まで来たところで手榴弾のピンを抜いた。
そんな事で私が慌てるはずが無い。
冷静に手榴弾を回収すると、班長の服の中に入れる。
そして、胸ぐらを掴んで班長を投げ飛ばすと、少し遠くで班長が爆発四散した。
「汚い花火、か……どこかの宇宙の帝王はよく言ったものだ」
私は肉片が飛び散る様子に背を向けて、第三班に付いてきていた民間人に目を向ける。
すると、私に見られたリポーターが腰を抜かしてへたり込んだ。
そこへ無表情で近付いてやれば、顔を青どころか白くして、生まれたての子鹿のように震え始めるリポーター。
「さあ、最後はお前達だな。どんな方法で死にたい?」
無慈悲にそう問いかけると、リポーターが土下座をしてきた。
「お願いします!!何でもします!!ですので命だけは!!!」
大声で命乞いをする姿は、もはや見事まである。
どうせならこのまま放置しておきたいが……
「何でも?そうか……何でもか…」
私は、わざと“何でも”という言葉に過敏に反応する。
そして、〈迷宮の核〉を引き寄せると、核を左手に持った状態でリポーターの首を絞め上げる。
「かっ―――」
「何でもするんだな?じゃあ、これから私がすることに抵抗するなよ?」
私はそう言ってとある術を発動する。
すると、リポーターの首に紫色のオーラが纏わりつき、円状に首を包み込む。
そして、その円状の紫色のオーラはやがて首輪となり、リポーターの首にはめられた。
「これは……」
「予想には難くないはずだが?まあ、自分で考えろ。私は残り二人の処分をしなければならないからな」
リポーターに背を向けてカメラマンと、おそらくマネージャーに近付くとその二人も土下座をしてくる。
命乞いの内容もリポーターと同じだったので、途中から聞いていなかった。
そして、リポーターと同じように首輪をつけさせた。
「さあ、初仕事だ。お前意外は好きな武器を選べ」
私はカメラマンを指差すと、武器を選ぶことを禁止した。
そして、ナイフだけを手渡して残りの二人が武器を選ぶのを待つ。
結果はやはりと言うべきか、二人共銃を選んだ。
他の武器でも同じとはいえ、コイツラは銃の使い方を知ってるのか?
まあいいか…
「武器を選んだな?ではうちに湧いた害虫駆除をしてもらおうか」
「害…虫…?」
マネージャーは目をパチクリさせて、銃と私を行ったり来たりして見ている。
なんだ、分からなかったのか?
「うちに湧いた害虫の種類は〈ヒト科ヒト属ヒト〉〈ホモ・サヒエンス〉というらしい。しかも、その生物はかなり社会的な生物でな、うちに湧いたのはその中でも〈自衛隊〉とか言う戦闘に特化した連中だ。攻撃してくるから気を付けろよ?」
私がそう言うと、家畜が面白いほど顔を青くしている。
そして、カメラマンが生意気にも文句を言ってきた。
「わ、私達に人殺しをしろと言うんですか!?」
ふむ…私は何かおかしな事を言った覚えはないんだが。
しかも、誰に向かって物を言っているんだコイツは。
「なんだ?“何でもする”んだろう?だったら私の役に立て。それに、今のお前らは私の奴隷なんだぞ?拒否権があると思っているのか?」
「う……あ…」
私は冷ややかな視線を家畜に向ける。
すると、何かを覚ったらしくまたもや顔面蒼白になり、ぷるぷると震え始めた。
そんな連中にてをかざして、転送の準備を整える。
「害虫のすぐ前に転送してやる。さっさと駆除してこい」
そう言ってコイツ等に激励の言葉をかけたあと、第二班の前に転送した。
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