第6話

自衛隊との戦闘から三日

私はついに〈迷宮の核〉をインターネットへ繋ぐことに成功した。

そこで、私は某掲示板を覗くことにした。




64 名無しの人間  369255


早くダンジョン民間開放されないかなぁ〜


65 名無しの人間  228563

>64

それな。チートスキルで俺TEEEEEしてハーレムまでが、男の夢だよな


66 名無しの人間  636693

>65

厨ニ乙……と言いたいところだが、俺もそうだ!!www


67 名無しの人間  228563


お前もかwww


68 名無しの人間  985216


おい!テレビ見てみろ!自衛隊様がフルボッコにされてるぞ!!


69 名無しの人間  111367

>68

いつもの事だろ?スライム相手に銃乱射してるんだぜ?そりゃあフルボッコにされるわ


70 名無しの人間  742853


そうじゃない!ダンジョンの外に出てきてるをだよ!!


「なんだって!?」


私は掲示板を見るのを中断して、それらしい番組を探す。

今どきテレビはネットで見られる。

そして、それらしいものを見つけるとすぐに調べてみる。


「なんてこった……」


そのテレビで映し出されていた映像は、ダンジョンと思われる場所からゴブリンが山ほど現れ、自衛隊員と戦闘している映像だった。

しかし、私はあれがダンジョンでない事を覚った。

入り口の形が私の〈迷宮〉とまったく同じだ。

そして、全ての〈迷宮〉には同じ初期構造が配布される。

つまり、あれは〈ダンジョン〉ではなく〈迷宮〉だ。


「あまりにも時期尚早…もっと戦力が整ってから攻めれば良いものを。あれでは危険性を鑑みた自衛隊によってあっという間に制圧されるぞ」


それだけじゃない。

自衛隊に対し、ゴブリンを使って攻撃しているところも最悪だ。

自衛隊は何のための部隊だ?

憲法9条によって軍隊を持てない日本が、諸外国の侵略を防ぐための部隊。

では諸外国はなんの生物の国だ?

人間だ。

自衛隊は対人戦闘の為の部隊。

そんな連中に人型のシモベであるゴブリンで挑むと?

しかも、ナイフすら装備させず、科学技術に裏打ちされた完全武装の自衛隊を攻撃するとは……


「この無能はそんな事もわからないのか?なんだ?死にたいのかコイツは」


ゴブリンなら対話できるとでも思ったのか?

残念ながら、ゴブリンは『ギギッ!』とか『ギィギィ』とか『ギャギャ!』しか言わないぞ?

しかも、攻撃されたことで自衛隊を敵とみなして攻撃してる。


「最悪だ…これがトリガーとなって人類による〈ダンジョン〉〈迷宮〉の制圧が始まったらどうする気だ?今の私達の戦力では人類の現代兵器に勝る事は出来ないぞ?」


ゴブリンはスライムの十倍…十エネルギーを消費して生み出す事が出来る。

つまり、単純計算で一日百匹のゴブリンを生産可能だ。

しかし、大量のゴブリンを使っての攻撃は無駄。

銃が有効な上に、人型ということも相まって対人兵器が十分な効果を発揮してしまう。

反撃のために大量のゴブリンを使ったところで外に出た途端ミサイルで木っ端微塵。

なんてこともあり得る。

特に、私の〈迷宮〉に攻めてこられるのは不味い。

ついさっきインターネットに接続したばかりで、シモベを生み出すエネルギーがない。


「唯一の救いはインターネットに接続したこと。これで人類が持つ情報網に干渉し、人類側の動きをある程度把握出来る」


自衛隊の攻撃を予測できるかは不明だが、部隊を動かせば目立つ。

一般人が何か情報を見せてくれるかも知れない。

…そう言えば、私の〈迷宮〉は日本のどの辺りにあるんだ?

ネットやラット偵察隊を使って情報を集めた結果、おそらく港区だという事が分かった。

まあ、私の勤めていた会社が港区にあった事を考えるとおかしな話でもない。


「もう少しネットで情報を集め――また自衛隊か?……いや、これは」


何者かが侵入してきた事を感じ取った私は、侵入者の姿を確認して首を傾げた。


「明らかに一般人。肝試しか、調子に乗ったか……どちらにせよ厄介な相手だ」


自衛隊なら攻撃してきた時点で敵と認定していい。

しかし、一般人ならどうだろう?

自衛隊から死傷者が出たところで特に騒がれないだろうが、一般人は違う。

メディアが面白いおかしくネタにするだろう。


『ダンジョン出現 一般人にも被害』


なんて記事を書かれたら面倒だ。

適当に脅して帰らせるか。


―侵入者を追い出せ。ただし、傷付ける事は許さん―


私の命令を受けたシモベ達が、一斉に行動を開始した。

…そうだ、トラップも発動しないようにしておこう。

〈落とし穴〉に落ちて怪我でもされたら面倒だ。

それに、逃げる時にトラップが起動して足止めを食らったら、追いついてしまう。

だからといって攻撃しなければ、手を抜いている事がバレてしまう。

適当に威嚇して逃げてくれればいいんだけど…


『すっげぇ…本物のダンジョンだぜ?』

『雰囲気あるねー。でも、本当にこんな装備で大丈夫なの?』

『大丈夫だ!深くまで潜らなければ、強いモンスターが出てくることはない……多分』

『多分で命掛けないでよ!!』


正論だな。

こんな危険に満ち溢れた領域に、そんな軽い気持ちで踏み込んでは行けない。

私なら絶対そんな事はしないだろう。

『好奇心は猫を殺す』

こいつ等にもその事を分からせるべきか?

……いや、それこそ軽い気持ちだ。

私が直接手を下さずとも、こいつ等は何処かで躓く。

なら、間接的にそうなるように――見えにくい小石を用意しておこう。

幸い、それをできるだけのエネルギーは溜まっている。


「生成 〈宝箱〉〈鉄の剣〉」


奴等が通るであろう場所に〈宝箱〉を設置して、その中に〈鉄の剣〉を入れる。

そして、数匹のスライムを宝箱の周りに用意した。

私が〈宝箱〉を用意してから数分後。


『おっ!?あれ宝箱じゃね!?』


先頭を歩いていた頭の緩い男が〈宝箱〉を見つけた。


『ほんとだ……でも、スライムがいるよ?』

『スライムはあの色の濃いやつを壊せば死ぬ。溶解液に注意しつつ、ナイフを突き刺せば全然問題ないよ』 


なんだ、少しは頭の回る奴が居るのか。

それに、あの口ぶり的にこちらの情報をある程度把握してる。

おそらく、スライム、ゴブリン、ラットが出現する事は知ってるな。

……まあ、私が生成出来るモンスターはそれだけじゃないんだが。


『オッケー!じゃあモンスターハントの始まりだ!!』


そう言って、先頭の頭の緩い男がスライムに襲いかかった。

――――まあ、結果は予想通り。

ものの数分でスライムは全滅、〈宝箱〉が無防備な状態で残されている。


『さて…何が入ってるかなぁ〜?』


先頭の男が舌舐めずりをしながら宝箱に手をかける。

あまりにも無用心だ……普通、罠を警戒するでしょ。


『おっ!?本物の剣じゃねえか!!カッコイイ!』

『おお!剣ってこんな感じなんだね』

『西洋剣か……ダンジョンらしいお宝だね』


ふむふむ、こんな量産型の粗悪品でも、見た目が良ければ好評なのか。

……これ、使えるのでは?

見た目が良いだけの粗悪品を大量に仕込んで、そのかっこよさに釣られてきた馬鹿をある程度狩る。

一般人を攻撃するのはあれだが、立ち入り禁止のテープが貼られてるのに、勝手に入って来たんだから自己責任。

危険を顧みず来るのであれば、まあ少しだけ殺して後は手土産を持たせて帰す。

このやり方なら、コスパは良いだろう。

量産型の粗悪品ならコストも安価だし、倒させてあげるシモベもスライムに限定すれば、まるで損害にならない。

それどころか、自然繁殖したスライムならノーコスト。

今後の方針は決まったな。

後は、余ったエネルギーを〈迷宮〉の拡張や増設に使えばいい。

それと〈ダンジョン〉の制圧。

〈ダンジョン〉を支配すれば、一日に獲得できるエネルギー量が増加し、〈ダンジョン〉で人間が死ねば〈迷宮〉で殺すよりは少ないものの、エネルギーが手に入る。

箇条書きにするとこんな感じだろうか?


◎エネルギー回収

・罠の設置(餌は粗悪品の武器)

・〈ダンジョン〉の制圧

◎エネルギーの使い道

・〈迷宮〉の拡張、増設

・戦力の強化

・罠に使う撒き餌


「情勢は逐一確認しつつ、私の不利にならないように立ち回る。そして今後の目標は…」


・戦力増強

・東京に存在する全ての〈迷宮〉〈ダンジョン〉の制圧

・関東制圧

・日本統一  


といったところか?

まあ、日本統一はそれなりに先の未来の話になりそうだ。

さて、目標の確認が出来た事だ。


「この侵入者達にはお引取り頂かないと」


―ゴブリン達よ。侵入者を追い出せ―


私は切り札級のゴブリン達に命令を出す。

既に連中の側で待機していたゴブリン達は、すぐに私の命令を実行に移す。


『ゴブリン!?しかも、剣を持ってるやつも居るじゃねぇか!?』


現れたのは、剣を持ったゴブリンを先頭に、全てのゴブリンがナイフで武装した集団。

しかも、全て強化シモベ。


『全員武装してるよ……ねぇ、逃げたほうが良くない?』

『そ、そうだな……刺激しないように目線を合わせたままゆっくりと後退りだ…』


そんな熊みたいな方法でゴブリンから逃げられるとでも思ってるんだろうか?

確かにゴブリンは頭が悪いが、ずる賢い。

そんな弱い姿を見せれば、すぐに襲いかかって来る。

私が命令で止めていなければ、だが。


『よし、そこの角を曲がったら走るぞ……』


後退りで角までやって来た侵入者は一人ずつ角を曲がると、即座に走り出した。


―侵入者を追え―


私の命令にゴブリン達も走り出す。

強化ゴブリンの脚力であれば、簡単に追いつく事が出来るだろうが、手を抜かせる。

……まあ、手じゃなくて足だけど。

それはそうと、こいつ等私の〈迷宮〉から出たあとどうするつもりなんだろうか?

あんな物持ってたら普通に銃刀法違反で捕まると思う。

そもそも、こんな所に来た時点で警察の大目玉を食らうのは確定だろうけど。


『チッ!追ってきてやがる』

『大丈夫。幸い走る速度は私達のほうが速い。このまま走れば逃げ切れる』


あの女…ずっと冷静だな。

少しは慌てれば良いものを。

それとも、私と同類の人間か?

自分の能力に自信があり、人の事を道具としか思っていない。

……いや、そういう気配はしないな。

私は〈迷宮〉に不法侵入してきた不届き者共を叩き返すと、準備に取り掛かった。

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