第4話

三日後


「スライムの総数は十六匹……あれから五匹増えたのか」


三日放置しただけで五匹も増えるとは……これが森とかの植物が沢山ある環境なら、どれだけ数を増やしていた事か。

あのドラゴンなクエストの世界で、スライムを倒しても倒しても絶滅しない理由が分かった気がする。

まあ、その話は置いておくとして…


「…やってみるか?〈スライム合成〉」


やる価値は十分にあるはずだ。

得られた情報は全て処理したが、分かったのは基本情報とやり方だけ。

それをする事でどういった効果があるかは、やってみないと分からない。


やってみなくちゃ分からない大科◯実験。


……さて、ふざけるのも大概にしてと。


「召喚」


私は支配者としての力を使ってスライムを二匹呼び寄せる。

今使った『召喚』は、自分の持つ魔力か〈迷宮〉のエネルギーを消費してシモベを呼び出す技能。

今回はスライム二匹という事で自分の魔力を消費した。

さて、余談はこれくらいで、本番に移るとしよう。


私はスライム達に手をかざし、深呼吸をする。

そして、情報として流れ込んできた〈スライム合成〉を頭の中で思い浮かべる。


「〈スライム合成〉」


私がそう声に出すと、二匹のスライムか輝きだし、一つになっていく。

ものの数秒で光は収まり、そこには一回り大きくなったスライムがいた。


「スライムが二匹合成されたスライム。…二倍スライムとでも呼ぼうかな?」


三匹合成すれば、三倍スライム。

四匹合成すれば、四倍スライム。

十匹合成すれば、十倍スライムだ。


まあ、スライムが十匹束になったところで、その戦闘能力はたかが知れてるが……

それでも優秀な点はある。

スライムを合成すると、そのスライムの体積が増えた。

つまり、大量のスライムを合成すればその分体積が大きくなる。

体積が大きい物ほど倒すのは大変だし、押し潰されれば大の大人でも簡単に死ぬ。

スライムは一匹では雑魚同然だが、合成する事で大きな可能性を秘めている。

今のところ、シモベの維持コストをエネルギーの生産量が大きく上回っている。

もう少しゴブリンを多く配置して、水飲み場も設置するべきだろう。

水飲み場は設置コストが非常に高いが、一度設置すれば多くのシモベが利用出来る。

しかも、維持コストはとっても安価。

余裕があるうちに設置してしまい、ゴブリンが繁殖出来そうな環境を整えたい。


「まずは水飲み場を設置して……で、余ったエネルギーをゴブリンの生成に利用。後は定期的に餌を与えて放置するだけっと」


……そうだ、水飲み場が設置出来たのなら、ゴブリンに訓練をさせるのはどうだろうか?

生み出したゴブリンをそのまま利用するのではなく、少し訓練して強化してから利用する。

要は、筋トレでもさせてゴブリンの筋力を高めるという事だ。


『私のシモベ達よ。己を鍛えろ』


私はここの支配者。

シモベには強制命令を飛ばすことが出来る。

そして、私が考える筋トレの内容は命令を飛ばすのと同時に送っている。

腕立て、腹筋、背筋、スクワット百回三セット。

一般人からすれば、かなり疲れる内容だが、どうせゴブリンは私の使い捨てのシモベ。

代わりはいくらでも生成出来る。

必要なのは、戦っても生き残り続けた強者だけでいい。

そういった有能な物をふるいに掛ける為にも、戦闘を経験させたい。

模擬戦もさせるべきだね。

筋トレが終わって、ある程度休憩出来たら模擬戦をさせよう。

それで、強いゴブリンには武器を持たせ、初期の切り札として利用する。

この案で行こう。


「エネルギーの回復と、ゴブリンの筋トレ&模擬戦が終わるまでは私も筋トレするか…」


いくらシモベを強くしても、支配者としてそれを超える力を持っておかないといかない。

……そう言えば、エネルギーを消費して私やシモベを強化出来るみたいだ。

普段から筋トレもしつつ、強化も施していこう。

私は強化された身体能力を利用しつつ、筋トレを続けた。





二日後


「お腹空いた……うん?お腹…空いた…?」


筋トレの疲れか、小腹が空いた程度の空腹感を感じた。

そこで私は思い出した、


『ここ五日間、不眠不休、飲まず食わず』


で生活していたことに。

急いで初日に得た情報を遡り、私の今の状態を調べる。

流れ込んできた知識の中に、それに該当するものを見つけた。


・〈迷宮〉の支配者の身体は非常に頑丈であり、五日から一週間に一度三時間程度の睡眠及び、一食分の食事をするだけで不眠不休で活動する事が出来る。なお、一日三食、八時間睡眠をしてもなんら問題はない


つまり、ほんの少しの休息で五日から一週間活動し続ける事が出来るという、異常なコストパフォーマンス。

効率が良いどころの話じゃない。

コレをサラリーウーマン時代に実装してほしかった。

そんな風に過去を悔いながら〈迷宮の核〉に手をかざし、生み出したい物を言う。


「一食分の食料」


すると、私の目の前に食パン二枚と肉や野菜がゴロゴロ入ったポトフが現れた。

The・洋食

出来れば和食が良かったが……まあ、贅沢は言わないでおこう。

一汁三菜が恋しいが、そんな贅沢をしなくても十分生きていける。

私は、あまり好きではない食パンとポトフと言う組み合わせをなんとか食べきった。

……意外と美味しかったのは、悔しいから忘れよう。


「ご馳走さまでした……さて、三時間睡眠をして、また色々としないと」


着ていたスーツを丸めて枕代わりとして使い、スマートウォッチにアラームをセットしておく。

……そう言えば、ここ五日充電していないのにずっと使える。

しかも、常にフル充電状態。

これも〈迷宮〉の謎技術か…

起きたら他の謎技術も調べてみよう。



―――――三時間後


ピピピッ!ピピピッ!ピピピッ!

スマートウォッチのアラームが鳴り、私は目を覚ました。


「たった三時間でここまで疲労が回復するとは……これもサラリーウーマン時代にほしかった…」


これだけ聞くと社畜脳と呼ばれるかも知れないが、人には言えない理由がある。

私はただの労働者として働くつもりはない。

それだけの才能があり、努力出来る精神もあった。

そんなエリートである私よりも、長くいるだけの無能が自分の上に立っている事が許せなかった。

だから、大量の仕事を一人でこなして評価を集め、出世の邪魔になる存在は徹底的に排除した。

いじめ、脅迫、冤罪。

邪魔者を排除するためにはどんな行為もいとわない。

しかし、自分に賛同してくれる者は最大限活用した。

成功すればしっかりと褒め、失敗すればちゃんと怒る。

分からない所は細かく教え、提案もすぐには否定せず『考えておく』と言って落ち込ませない。

私生活の相談や悩みも聞いてあげて、私に出来る範囲で手を差し伸べた。

世間一般で言う『理想の上司』を目指し努力した。

全ては私の出世のため。

私に全幅の信頼を寄せる、都合のいい駒を作るための努力。

こういう努力が出来る私こそが上に立つ者として、ふさわしい存在のはず。

それなのに、どこを見ても上に立つ者は皆無能ばかり。

少しは努力しようとは思わないんだろうか?

…そう言えば、少し前に母親に妙なことを言われたような気がする。

確か…


「……選民思想、だったか?元はユダヤ教かどこかの言葉だった気がするが…まあそんな事はどうでもいいか。確かに私に当てはまる気もする」


だが、それは普通じゃないのか?

自分より劣るものを見下して何が悪い?

弱者、低能、有象無象。

そういった奴等は私のようなエリートに身を粉にして尽くせばいい。

弱者は弱者らしく喰われればいいんだ。


「弱肉強食。これこそが、世界の掟だろう?」


私は誰も居ない部屋で一人そう虚空に問いかける。

……話が逸れた。

〈迷宮〉の謎技術の検証をするか。

私は〈迷宮の核〉に触れて謎技術が存在しないか調べる。

そこで、私は信じられないようなものを見つけた。


「〈迷宮の核〉をインターネットワークに接続………はぁ!?」


なんだって!?

こんないかにもファンタジーな物を、現代文明の叡智に繋げるだって?

しかも、コストが高すぎる。

これは使いたいが今は保留だな。

他に謎技術は……見当たらないな。

やはりネットへの接続はインパクトが強すぎる。

エネルギーが溜まり次第接続したほうがいいのか?

情報の有無の差は大き過ぎる。

将来性を考えて接続を視野に入れておくとしよう。

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