第30話 亜月③

「アヅキ!アヅキ!!」


「ライヤード…さん?」


 眩い光の中から抜け出すと、そこは先程の地下牢だった。そして、ぼんやりとしている亜月にライヤードが勢いよく抱きついてくる。


「アヅキ!良かった!突然消えてしまうから心配したんだ!」


「あ、そうだったんですね…。ごめんなさい、心配かけて。」


 ライヤードの体に自分の腕を回すと、その体がビクンと震える。そして、両肩を持たれて体を離された。


「え!?な、なんで!アヅキが抱きしめ返してくれるなんて!そ、そんな!ど、どうして!」


「…しちゃだめなんですか?」


 もしかして嫌がられてるんだろうかと、亜月が唇を尖らせながら尋ねる。するとライヤードは「とんでもない!」と大声で返して、すごい勢いで顔を左右に振った。


「嫌じゃない!嫌じゃないよ!!!!すっごく嬉しい!あと、アヅキ!なんだか色が変わったんだね!前も可愛かったけど今はさらに可愛いよ。抱きしめていいかな?」


「…ダメです。」


「なんで!?」


 改めて抱きしめていいか聞かれると恥ずかしくなってしまい、プイッとヨコを向いてしまった。こんな子供っぽい仕草をしたら呆れられるかと思って心配になり、チラリとライヤードを見る。しかし、こちらの心配をよそに「怒ってるアヅキも可愛い」と顔を蕩けさせてこっちを見ていた。




「わたくしの聖獣様に勝手に触れるなど万死に値します。死になさい、ライヤード。」


「うおっ!」


 先程までのライヤードがいた場所にスルドイかかと落としが振り下ろされる。それに気づいたライヤードが飛び退くと、地面がゴリってと抉られた。


「何するのかな、ミィ?」


「ですから、美しくて可愛らしいわたくしの聖獣様に勝手に触れるなと申し上げているのです。このバカ魔王。」


「黙れ、アホ女神。お前が捕まったりするからこんなめんどくさいことになったんだろ?って、聖獣?聖獣って言ったのか,今?」


「ええ、そうです。聖獣様です。アヅキ様は聖獣だったんですの。」


「そうなの、アヅキ!!」


「ひっ、近い!いや、私は全然分からないんだけどミィさんがそう言うから。」


 至近距離まで近づいてきたライヤードの顔をべしりと手で遮る。


「ほんとに!?アヅキが!聖獣!?この世界にはもういないって思ってたのに…!ミィも帰ってきて、聖獣も生きてたなんてこんなに良いことがたくさんあると怖いな…。」


「ふふ。それこそが聖獣様のお力。その存在こそが幸運、いらっしゃるだけでら周りに幸せを引き寄せるのですわ。」


 ミィが胸を張る。


「…お前が無事で良かったよ、ミィ。」


「モルガーン…。あなたのミィがただいま帰りました。」


 モルガーンがミィを後ろから抱きしめると、ミィが頬を寄せる。


「こら!イチャイチャするな!まだ敵地なんだぞ!」


 ライヤードが珍しくまともな言葉を口にした時。






「どうして封印が解かれてるの!!!!!」



 金切り声とともに、ミィがいた場所が焼け焦げる。しかし、モルガーンがいち早く彼女の体を抱えてライヤードたちの近くまで飛んだ。




「…お前、亜月なのか?」


「…御門君。」


 亜月たちの所にやってきたのは、御門たち、勇者御一行だった。

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