第29話 亜月②
(え?!は、な、なにこれ?)
自分の姿を見て亜月は悲鳴のような声を上げる。
「ぐぅるるるる!」
しかし聞こえてきたのは獣の唸り声だった。
「まぁ!なんと雄々しいお声!素晴らしいですわ!そんなに美しく可憐なお姿をしているのに、お声は凛々しいだなんて!あぁ!嬉しい!嬉しすぎますわぁ!」
「ぐるぅ!」
ミィが感極まったように亜月の体に抱きついてきた。そしてふわふわの胸毛に顔を埋めて「うふふ」と悦に入っている。
「きもちぃ…うふ…うふふ。」
(大丈夫かな、この人。)
「大丈夫ですわ。聖獣様はあちらの世界で亜月様と呼ばれていたのですね。よろしければわたくしも同じように名前で呼ばせていただいてもよろしいですか?」
ミィには亜月の心の声が聞こえるようで、顔を上げて目線を合わせてくる。了承するように頷くとにっこり笑ってまた顔を胸に埋めた。
(あ、また声が…。)
遠くからまた声が聞こえてくる。そしてそれはさっきよりもはっきりしていた。
間違いない。その声は亜月のことを呼んでいる。
(だれ?)
「あら。そろそろ戻らないといけないかしら?この場所を壊す勢いで攻撃してきてますわね、あの人。怖いわ。」
遠くからアヅキ!アヅキ!と悲鳴のような声で絶叫している。あれは誰だっただろうか。こんなにも自分のことを求めてくれているあの人は。
「ライヤード…さん?」
思い出すと同時に、再び亜月の体から光が溢れ出す。そしてその光が収まると、自分の体が人間に戻っていた。
「まぁ、なんとお美しい。ぜひご自身でご覧になってください。」
「わぉ…。」
またミィがどこからともなく鏡を出してきて渡してくれる。それで自分の顔を見てみると、先程の獣の姿の時の色が映っていた。美しいまんまるの緑の瞳が宝石のようにおさまっている。そして白銀の髪が美しく足元まで伸びていた。肌も真っ白に変わっていて、形の良い唇は血のように赤い。
「…び、美少女になってる!」
「いいえ、お姿自体は変わっておりません。ただ本来のお色を取り戻されただけですわ。あぁ…先程までの獣の姿も素敵でしたが、人間の姿は神々しいまでにお美しい…!」
「あ、ありがとうございます。」
絶世の美少女に美しいと褒められるのは悪い気がしない。亜月が頬を染めてお礼を言うと、「あぁ!可愛らしいですわ、亜月様!」とまたもや抱きついてきた。
「あ!そんなことよりライヤードさんが!!!」
亜月はライヤードのことを思い出す。ミィを助けるために死にかけていたライヤード。でもこの場にミィがいると言うことは、彼は助かったのだろうか。
「ふふ。あなた様が覚醒されたおかけで、わたくしは封印を解くことができました。なのでライヤードも無事ですわ。本来、あの封印を解くにはライヤードの腕の一本は軽く犠牲になるところでした。」
「そ、そんな!」
「でも大丈夫ですわ。あなた様がおりますので。さぁ、そろそろ戻らないとライヤードにこの空間を壊されてしまいますわ。」
ミィが亜月の手を引く。そして2人は眩しい光の中へ進んでいったのだった。
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