第19話 魔王城での療養③

「さーて、まずは傷を見せてもらおうか。アヅキがこの城に来た時は俺は外に出ていなかったからな。他のものが治療にあたったはずだ。」


 ロースキンさんが丁寧に私の包帯を解いていく。それが全部外されると、胸の間に大きな傷跡が残っていた。


「…これは酷いな。嫁入り前の女にこんな傷跡を残すとは。勇者め、万死に値する。心配するな、アヅキ。お前に傷をつけた馬鹿者どもは俺が直々に殺してやる。」



「それは僕の役目だよ、ロースキン。それになんで男型のロースキンがアヅキの治療をしてるのさ!僕は女型だけって言ってたはずだよ!」


「そんなの俺がこの城で一番の治療魔法の使い手だからに決まってるだろう。おい、誰だこの馬鹿を治療室に入れたのは。即刻叩き出せ。」


「酷い!!アヅキ、今朝ぶりだね?どう?傷は痛まない?」


「あうっ!」


 私とロースキンさんの間に突然ですが割って入ってきたのはライヤードさんだった。頬を膨らませてロースキンさんに不満を言った後、私の胸の傷にそっと触れてくる。


「こんな傷をアヅキの綺麗な体に残すなんて。本当に許せない。この傷は必ず治するから心配しないでね、アヅキ?」



「っきゃあーーーーー!」


「へぶっ!」


 傷に口づけしてきたライヤードさんに耐えられず悲鳴を上げてその頬を引っ叩いてしまった。しかし、私は悪くない。なんたって今、私は上半身裸なのだ。


「ば、馬鹿っ!わ、私の今裸なんですよ!な、なんで!」


「えー!だってロースキンだって見てるじゃないか!」


「ロースキンさんは治療のためです!」


 慌てて近くにあったシーツを上半身に巻き付ける。するとライヤードさんは残念そうな顔でこちらを見つめてくる。


「アヅキの裸は最初の治療の時にみてるんだよ。だから恥ずかしがることなんてないさ。それに僕らは夫婦になるんだからね!お互いに秘密をつくるのは良くないよ!あっ!僕の裸も見たいかな?」


「ばかーーーーー!」


「ぎゃあ!!!」


 いそいそと服を脱ごうとくるライヤードさんをまた引っ叩いてやった。



「…魔王はこんなにポンコツだったか?」


「なんでも運命の相手らしいぞー。わらわもアヅキのような可愛らしい娘が魔王の伴侶になるのは嬉しい限りじゃ。」


 私とライヤードさんがグダグダと言い合っている間、メルリダさんとロースキンさんはそんなことを語り合っていた。







「よし、とりあえず今日の治療は終わりだ。これ以上回復魔法をかけ続けると、アヅキの体力がもたん。」


「ありがとうございました。」


 ロースキンさんが魔法をかけ続けてくれた傷を見るとピンク色に盛り上がっていた傷が少しだけ平坦になっているような気がする。


「数日体を休めたらまた治療をするから、それまでゆっくりしておくといい。」


「おぉ、終わったかのぉ。」


 お菓子を大量に食べていたメルリダさんがふわぁと可愛らしいあくびをしている。外を見るともう夜の帳が下りていた。


「アヅキも疲れただろう。このまま、城にある欲情に行こう。広いし、入れる者は限られているからゆっくりできるはずじゃ。」


 確かに身体はぐったりと疲れ切っている。すぐにでも寝てしまいたいが、お風呂でさっぱりしたい。メルリダさんの誘いに頷こうとした。




「だーめ。ここからは僕との時間だよ、アヅキ。」


「ひゃっ!」


 突然横抱きされて持ち上げられる。犯人であるライヤードさんはニコニコ笑って私の顔を覗き込んできた。


「メルリダ。アヅキは僕専用の浴場に入れるから心配するな。世話も僕がするからお前は休んでいい。ロースキンもご苦労だった。アヅキの裸は忘れろ。」


「「御意。」」



「私はいいって言ってないんですけど!!」


「まぁまぁ!」


 ニコニコと笑い続けるライヤードさんは大きな羽を出して窓から飛び出した。メルリダさんの方へと手を伸ばすが、呆れてような表情で手を振ってくれただけだった。





「まさか史上最強の魔王をあそこまで骨抜きにするとは。」


「勇者も惜しいことをしたのぉ。アヅキさえいなければ、ライヤードも本気にならなかっただろうに。まぁ、こちらも我慢の限界であったからちょうど良いタイミングだった。」


 メルリダがカッカッと笑うと、鋭い歯が月夜に照らされギラリと光っていた。

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