第20話 魔王城での療養④

「だ、ダメです!お、お風呂に一緒に入るなんて!」


「えー、いいでしょ?お風呂ぐらいみんな入ってるよ。」


「入りません!!!」


 私は横抱きのまま、ライヤードさんと空中散歩を楽しんでいた。大きな大きな月を横目に、少し上にあるライヤードさんの整った顔に手を伸ばす。そして、思いっきり頬を引っ張ってやった。


「私言いましたよね!そんなにすぐに次の男の人って切り替えられないって。」


「いだだだだ!分かってるよ。でもアヅキを可愛がっちゃいけないとは言われてないからねぇ。そこは僕の好きなようにさせてもらうよ。だってアヅキを世界一幸せな女の子にするって約束したからねぇ。」


「それも誤解ですって!そもそも私は意識が朦朧としてたから覚えてなくて。」


「僕が覚えてるから大丈夫!」


「ライヤードさんの馬鹿!」


 ライヤードさん、全く人の話を聞いてくれない。


「ほら、そろそろ僕の部屋だよ。お散歩も終わりだ。」


 ライヤードさんの大きくて力強い羽が羽ばたくと、城の最も高い部屋のベランダに降り立った。


「はい、到着。」


「着いたなら降ろしてください!」


「駄目。このままお風呂に行くよ。」


「いや!」


「わがまま言わないの。」


「どっちがわがままなんですか!あのねぇ、さっきから言ってますけど私は!」


「アヅキ。」


「っ!」


 体を降ろされたかと思うと、そのまま抱き寄せられる。顎を親指で優しく撫でられたかと思うと、そのままクイっと上にあげられる。


「僕は魔王だ。魔王はわがままで横暴な存在なんだよ。魔物はね、自分の欲望や快楽のためならなんだってやる生き物なんだ。」


「ひぃん!」


 ベロリと耳を舐め上げられて甲高い悲鳴が口からこぼれでる。慌てて両手で口を塞ぐが、ライヤードさんにはもちろん聞こえてしまっているようで、ニヤリと笑っていた。


「そんな残酷な生き物である魔物が人間たちを襲わないのはね。僕が命令しているからだよ。人間たちに手を出すなって。単に戦争するのがめんどくさかっただけなんだけど。アヅキに会ってから考えが変わったんだ。君を手に入れるために、勇者たちが邪魔になるんだったら僕は容赦なく殺すよ。」


「あっ…。」


 ライヤードさんの緑色の瞳がギラリと輝く。


「一目惚れだよ、アヅキ。魔王である僕に惚れられたんだ。もう諦めてくれ。君が僕のものになるまで、僕は絶対に諦めない。僕の奥さんになってくれるって言うまで、1人ずつ人間を殺していくことだってできるんだ。」


「ライヤードさん…?」


「初恋で最後の恋にしたいんだよ、アヅキ。基本的に魔物は一目惚れしかしないし、たった1人しか愛さない。君が僕を選ばないのなら、僕は一生一人で生きないといけない。」


「一人?」


 一人は駄目だ。悲しくて辛くて死にたくなる。一緒にいて、寄り添って、支え合うような人がいないと。でないと、一人で生きるには人生はあまりにも長いから。




「…私、平凡で何の取り柄もなくて無価値な女ですよ?」


「誰が君にそんなことを言ったのかは後で聞き出すとして。僕に乗っては特別で取り柄ばっかりで価値のある女の子だ。お願いだから僕を選んで。きっと君を幸せにするよ。」


「…まだ選べません。でもそばにいてもいいですか?一人は…つらいから。」


「ありがとう、アヅキ…。」






「あ、キスは駄目。」


「けち。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る