第18話 魔王城での療養②
「アヅキ、こっちだ。」
「あ、メルリダさん!」
廊下の向こうでメルリダさんが手を振っている。私は小走りでそこへ駆け寄った。
「今日は胸の治療を重点的に行うからの。おそらく一日中かかる。」
「分かりました。」
メルリダさんが私の手を引いてくれる。御門君たちの攻撃を受けてから、すっかり体力が落ちてしまった私は、歩く際もふらついてしまうことが多くなってしまった。それを心配してメルリダさんやライヤードさんは、私が歩く時には必ず手を差し出してくれるようになった。
魔王城に来て数日。とても自堕落な生活を送っている。寝ているのは魔王であるライヤードさんの部屋。朝日がすっかり昇った後に目覚めて、夕食を食べお風呂に入ったらすぐに寝てしまうような生活スタイルだ。しかし、これは私が望んでやっているわけではない。ライヤードさんに「傷が治るまでは絶対安静」と強制されているのだ。
ただで滞在させてもらったり、治療してもらったりするのが申し訳なくて、何か手伝いたいと申し出たのだが、ライヤードさんが「絶対に何もさせない」と許してくれなかった。何度お願いしても結果は同じだったので、ならばもういっそこれ以上ないほど自堕落に過ごしてみようと決めたのだ。
寝てる時以外でもベッドから降りずに、お菓子を食べたり、わざわざ私のために自室で執務をしているライヤードさんを眺めたり、本を読んだりしている。お腹がいっぱいになったら昼寝も。お菓子や飲み物がなくなったらライヤードさんに追加をお願いしている。ライヤードさんの仕事の邪魔をしているはずなのに、頼み事をするといつもとても嬉しそうに部屋を出て山盛りのお菓子を持ってきてくれるのだ。
「いくらなんでも甘すぎるよなぁ…。」
メルリダさんに手を引かれながら、小さな声でつぶやいてしまった。
「ん?どうした?今日の菓子は甘すぎたか?なら別のものを用意させよう。」
「いや、お菓子はおいしいです。用意はいらないです。」
私の言葉に気付いたメルリダさんもまた私を甘やかす人物だ。なんでもメルリダさんは魔族の中でも「吸血鬼」と呼ばれる種族らしく、非常に長命らしい。すでに数千年生きているメルリダさんにとって、私はまるで赤子のような存在であるらしい。
「まぁ、とりあえず治療室にそなたのお気に入りの菓子をたくさん用意しておいた。治療を受けながら糖分を摂取しようじゃないか。」
手を引かれてメルリダさんに連れてこられたのは、魔王城の一階、真っ白な扉の前。
「おーい、ロースキン。アヅキを連れてきたぞ。」
「遅い!1分の遅刻だ!」
「ごめんなさい、ロースキンさん。」
「アヅキは悪くないさ。悪いのは無駄に年とっただけだ、何の成長もないこの吸血鬼だ。」
「なぜわらわにだけ当たりが強いかのぉ。」
がくりと肩を落とすメルリダさん。
「怪我を繰り返す戦闘狂の馬鹿だからだ!全く…。まぁいい。まずはアヅキの治療だ。」
白衣を着て、黒髪がボサホザ。黒縁の眼鏡をかけたらメルリダさんたよく似た男の人はにやって笑った。
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