第6話 御門君と聖女と私②

「…。」


「あんなの元気に私に噛み付いてきたあなたはどこにいったのよ…。」


 女神が頬杖をつきながら私の顔を覗き込んでくる。御門君たちと別れた私と女神は、大聖堂を出て大きなお城にやって来た。どうやらここはこの国の王都であるらしく、白亜の城はとても美しかった。


 女神に手を引かれて連れてこられた部屋は贅の限りを尽くした所だった。とびらは黄金でできていて、床は真っ白な石材でできている。部屋には立派な暖炉があって暖かな炎が部屋全体を照らす。大きな天蓋付きのベッドに、細かな彫り細工が施されたテーブルにはたくさんの食べ物が置かれている。


 女神は椅子に座って、テーブルに置いてある果物をパクパクと口に入れていた。一方私には食欲なんてあるはずがない。私の全てだった御門君が離れていこうとしているのだ。


「…どうすれば引き止められるかなんて考えているんだったら無駄よ。御門君とサキラは魂が引き合う運命の相手なの。普通で平凡で何の力もないあなたが二人の絆に勝てるわけないわ。」


「わ、私にだって御門君との絆があります!」


「いい?サキラは聖女なの。魔王をも倒す力を持つ唯一無二の存在なのよ。悪いけどあなたのようにどこにでもいる平凡で、男に縋るしかできない女の子とは格が違うの。」


「男に…縋る…?」


「えぇ、そうよ。…御門君があなたに腹を立ててたのも分かるわ。あなたって御門君の足を引っ張ってばっかり。あちらの世界でも助けてもらってばっかりだったんじゃないの?…そんなんじゃ愛想尽かされたって文句は言えないわ。」


 女神の言葉がショックで言葉が出ない。それを図星だと勘違いしたのか、女神がさらに言い募ってくる。


「サキラはね。小さい頃からずっと聖女としての修行に明け暮れてきたの。自分の力を高めるためにね。あの可愛らしさだもの。たくさんの男性から言い寄られているけど世界を救うのが自分の役目だからって断り続けてるの。そんなサキラがやっと恋をしたのよ。…どうか邪魔しないで。」


「そんな…!」


 私が邪魔者なのか。


「私が御門君の彼女なのよ?ずっと彼と一緒にいたの。横恋慕してきたのはあなたたちなのに!どうして私が!」


「それは悪かったと思ってるわ。でもね、あなたのちっぽけで平凡な恋とサキラの重くて輝かしい恋は同列には語れないわ。私は何があってもサキラの味方をする。」


 女神の強い視線が私を捉える。


「あなたに御門君は返さないわ。もう諦めて。元の世界に帰って他の男とお付き合いして幸せになればいいじゃない。」


 その言葉を聞いた私は、怒りのあまり女神の顔にコップに入っていた水をかけてしまった。

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