第7話 御門君と聖女と私③
「っ!何をしてるんだ亜月!!」
「あっ!」
タイミングの悪いことに、女神の顔に水をかけた瞬間、部屋の入り口の扉が開き御門君とサキラさんが入ってきた。コップを持って立ち尽くす私の所に駆けてきた御門君は、乱暴に私の手からコップを奪い取った。
「また癇癪か!いい加減にしろ!お前も子供じゃないんだ!少しは理性的に行動できないのか!」
「だ、だってこの人が…。」
「いいのよ、御門君。…亜月さん、明日あなたを元の世界に送り返すわ。」
「そんな勝手な!私は御門君と一緒に!」
女神の勝手な言い分に憤慨していると、私と女神の間に御門君が割って入ってくる。
「…もう帰れ亜月。」
「御門君…?」
自分よりずっと高い位置にある整った顔。いつも冷たい表情が、もっと冷たく見えるのはきっと気のせいじゃないんだろう。
「もうたくさんだ。お前のわがままに付き合うのは。俺はサキラと共に行く。今まで世話になったな。もうお前はいらない。」
「…そん…な…。」
ひどいことを言われてるのに涙が出ない。ただただ頭が真っ白で何も考えられないのだ。
「アヅさん。…あなたの大事な御門は私がしっかり守りますわ。だからどうか安心して元の世界にお戻りください。きっと私と二人で魔王を倒して世界を救って見せますわ。」
「っ!アヅさんなんて呼ばないでよ!」
「きゃあ!」
「亜月ぃ!!!」
私の目の前に来てにっこりと笑うサキラさん。もう耐えられなかった。私の大事な大事な御門君を盗んでいく泥棒猫。そんな人に軽々しく名前など呼ばれなくないのだ。
サキラさんの体を突き飛ばした私に御門君は鬼の形相で近寄ってくる。
「よくもサキラを!俺の大事なサキラに怪我をさせたな!」
彼の瞳は、私に対する憎悪に満ちていた。私が大好きだった優しい瞳はもうどこかへ行ってしまった。私が愛していた御門君は異世界転移とともに消えてしまったのだ。
「私の御門君を返してよ!私の!大事な御門君を返してよ!返してよおおおお!」
そうか。もう御門君は戻らないのか。
初めてはっきりとわかって涙が後から後から流れ出てくる。床に座り込んで、わんわんと泣いた。御門君とサキラさんはなにも言わずに寄り添って情けない私の姿を眺めている。
「…明日帰るときは見送る。今日はゆっくり休め。」
「ごめんなさいね、亜月さん。」
もう二人に言葉など返さない。なにも言わない私に、御門君はまたもため息をつく。そしてサキラさんの肩を抱いて部屋から出ていった。
「今日は泣きたいだけ泣くといいわ。明日にはあなたは元通りの世界よ。…御門君のことは忘れなさい。新しい男と恋をするの。」
もちろん、女神にも返事はしなかった。
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