第4話 私と御門君と聖女と②

「それで、どんな話だったの?」


「あぁ、まぁ別にいいだろ。」


 あの後、私は結局御門君とサキラさんがいる部屋に入ることは許されなかった。「大事な話をしているから」と扉を守る兵士の人に言われて外で待機させられていたのだ。


 一時間ほど経って、御門君が扉から出てきたので急いで駆け寄ってみたが、彼はサキラさんの手を引いて優しく微笑んでいた。


「御門君!」


「お前か。すまん、サキラと話があるから外してくれないか?」


「え?でももう話は終わったんじゃ!」


「これか魔王を倒すための旅に出ないといけないんだ。それに関する打ち合わせだ。」


 旅に出るなんて聞いてない。そんな、サキラさんと御門君が2人きりで旅に出るなんてそんなこと絶対に許さない!


「駄目ーーー!2人で旅なんてぜったい駄目だから!」


「なっ!ふっ2人じゃない!他のメンバーもいる!」


 2人っきりという言葉に御門君は異常に反応した。でも2人きりじゃないなら安心だ。


「じゃあ私もついて行くから!」


「駄目だ。」


 私の提案は即座に却下されてしまった。なんで!?


「他の人も行くんでしょ!なら私が行ったっていいじゃない!御門君と一緒にいたい!」


「遊びに行くわけじゃないんだ。危険なんだぞ?それに他のメンバーは騎士だったり回復役の魔法使いだったりだ。亜月は何もできなだろ。足手まといだ。ここで待ってろ。」


「っいや!!!一緒に行くってば!!」


 迷惑そうにため息をつく御門君にしがみついて駄々をこねる。


「危険なんだったら御門君が守ってよ!だって御門君は私の彼氏なんだから!だから!」


「っ!いい加減にしろ!!!」


「きゃっ!」


 大声を出した御門君が私の体を突き放す。その衝撃に耐えられず、私は後ろに尻餅をついてしまった。


 こんなこと初めてだった。御門君はいつでも冷静で怒ってるとこなんて見たことなくて。私にはいつも紳士的で。


「お前が勝手についてきたんだろ!俺はついてくるなって言ったはずだ!これから世界を救わないといけないのに自分のことばっかりじゃないか!いつでも世界や国民の安全を考えてるサキラを見習ったらどうだ!!」


「えっ…?あ…。」


 怒りに満ちた表情で私を睨みつけてくる御門君。初めてのことで全く声が出せなかった。確かに御門君は私に冷たいけれど、こうやって激昂してきたことは一度もなかった。


「いつもいつも好きだ好きだって言って付き纏ってきて迷惑なんだよ!少しは一人でなんでもやってくれよ!」


「みかど…くん。」


「御門、落ち着いてください。」


 興奮で息を荒げる御門君を止めたのは、サキラさんだった。怒りで震える拳を自分の手で優しく包み込み、優しく微笑む。


「女性にそんな激しい物言いをしてはいけませんよ。ほら、アヅさんがびっくりしているじゃありませんか。アヅさん、ごめんなさいね。」


 どうしてサキラさんが謝るのか。サキラさんは関係ない。これは私と御門君の痴話喧嘩なんだから。


 いつも通り元気に「ごめんね!」って返せばいい。許してって腕に抱きつけばいいのに。


「すまない、サキラ。ついカッとなって…。」


「いいんです。御門だって人間なんだから腹が立ってことだってあるはずよ。でもそんなに怒ったら男前が台無しです。」


「男前って…。お前には俺が男前に見えているか?」


「えぇ、もちろんです。」


 二人の世界に入れない。さっきまでなら割って入れたかもしれない。でもあんな風に怒鳴られたら。サキラさんと比べられたら。まるで無能のようにこき下ろされたら。


(私ってなんなの…?)


 彼女じゃないのか。一番愛する人なんじゃないのか。


「…悪かったな。」


「みーかーどー?」


「ちゃんと謝ってるだろ?」


「もう!本当に子供なんだから!」


 にこやかに笑って顔を見合わせる二人。



 どう考えても除け者はわたしだった。

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