【声劇台本 ♂2:♀2】 ―欲望を充たす詩(後編)―

〇上演 目安 時間:40分


〇比率 ♂2:♀2の4人用声劇台本

 

〇登場人物


・リリィ:♀

 CAFE & BAR 欲望をたすうたの従業員


片桐かたぎり 修二しゅうじ:♂

 CAFE & BAR 欲望をたすうたの店長


鷲尾わしお たくみ:♂

 鷲尾探偵事務所 所長


かなえ 円香まどか:♀

 鷲尾探偵事務所 事務員。霊感が強い


・ヴィクター:♂

 強そうで強くない少し強い淫魔インキュバス


女性モブ:♀

 パパ活してる風の女子大生。危ない事はしちゃ駄目なんだぞ


男性モブ:♂

 ざぁこざぁこ♡ざこ淫魔♡

------------------------------------------------------------------------------------------------

※利用規約につきましては別途項目を設けておりますので、

 そちらをご一読くださいませ。


〇名前の横に(M)の記載がある場合は各キャラクターのモノローグです。

 一部【】内で括っているセリフは心の声としてお読みください。

 それ以外の()は動作を表すト書きとなります(セリフ内に入っている箇所が

 多々あり読みにくいかと思います。誠に申し訳ございません!)


〇演者様の性別不問(男性→女性、女性→男性)、及び登場人物の性別変更、

 セリフの改変、アドリブ等は可能です。


〇人数の増減についても不問、もしくは一人芝居で頑張って頂いても勿論結構です。

 (なるべく過不足無くセリフ配分をしたつもりですが、

 それでも偏りが多いですので、配役については適宜ご自由にどうぞ)


 配信等を含めたご利用の際は宜しければ下記テンプレートをご利用くださいませ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 作品:―欲望を充たす詩―

 作者:平野 斎


〇配役

・リリィ   :

・片桐 修二 :

・鷲尾 匠  :

・鼎 円香  :

・ヴィクター :

・女性(モブ):

・男性(モブ):


〇配役(4人用)

・リリィ:

・片桐 :

・鷲尾/ヴィクター/男性(モブ):

・円香/女性(モブ):

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


◇CAFE & BAR 欲望をたすうた


 片桐「ただいま」


 リリィ「お帰りなさい。なんだか楽しそうね」


 片桐「うん、色々収穫がね……。それで皆に伝えなきゃいけない事が、って……

 あのリリィさん?カウンター席のお客様の視線が心なしか痛い気がするのはボク

 の気のせいかな?」


 リリィ「……そうね、自らの胸に手を当てて考えたら分かるかも知れないわね。

 コロッケ温めてくる(裏の厨房に下がって行く)」


 片桐「わざわざ良いのに。ボクは冷めたままで全然構わないから……って

 行っちゃった。(咳払いをし)さて、何かご注文は如何ですか?お客様」


 円香「………………お二人の事ですから、部外者が口を出すべきじゃない事

 なのは分かっています。でもリリィさんが悲しむ顔は見たくないです」


 鷲尾「貴方が出て行った後「迷惑になるくらいなら切り捨てて欲しい」そう言って

 たんですよ。それだけ深く愛してるって事なんじゃないんですか?

 それなのに……。俺には片桐さんも同じくらい大切に思ってると感じたから、

 余計に腑に落ちない」


 片桐「そんな事言ってたのか。それにしてもキミは本当に人を良く見てるよね。

 名探偵・鷲尾わしおたくみの事件簿始めないと。

 とりあえず彼女が戻って来たらボクなりの弁証べんしょうを行うとするよ」


 リリィ「お待ちどおさま」


 片桐「ありがとう!さて、さっきまでボクがどこで何をしてたか報告をする為

 にはとあるについて話さなきゃいけないんだけど、コロッケを食べる

 のに忙しいから、(鷲尾を見つめ)説明して貰えると大変有り難いんだけど……」


 鷲尾(M)「俺は改めてスイートスピリットについて、効能を含めて説明を行った。

 これから受ける報告が嫌な予感しかしない事も併せて」


 片桐「それを踏まえてこの動画を見て欲しいんだけど……

(ホテルでの動画を再生する)」


 鷲尾「(無言で拳を握りしめながら)………………っ。

【人には危ない事するなと忠告しておきながら何考えてんだこの人はっ……⁉】」


 円香「(困惑した表情で)私達は一体何を見せられているんでしょうか……」


 片桐「動画が終わったら叱責しっせきも軽蔑も甘んじて受け入れるから、

 もう少し我慢して欲し……ってリリィ、顔真っ赤だよ⁉大丈夫?」


 リリィ「………っ⁉大丈夫……だから【ひざまずいてる姿が美しいとか、

 押さえつけてる時の声がいつもよりセクシーに聞こえたとか口が裂けても

 言えないっ……】」


 片桐「それなら良いんだけどね……【そんな顔されると思ってなかった

 から必死でこらえてるけど、正直、これ以上理性を保てる自信が

 無いんだよなぁ。早いけど今日はもうお店閉めようかな】」


 片桐(M)「動画が終わった後、今後の事について詳細は後日伝えるとだけ言い、

 早々に店じまいをし帰路に着いた。その後のボク達がどうなったかはご想像に

 お任せするよ」


◇鷲尾探偵事務所 

  

(事務所のドアをノックする音)


 円香「はーい、お待ちください(ドアを開ける)」


 片桐「トリック・オア・トリート!ちなみにお菓子くれてもイタズラするけどね」


 鷲尾「強欲の悪魔はお帰りください。では」

 

 リリィ「ごめんなさい……どうしてもやるって聞かなくて」


 円香「リリィさん、その恰好……」


 片桐「リリィは魔女、ボクは吸血鬼、どう似合ってる?」


 鷲尾「そうですね、誰かさんは黙ってたらかっこいいんじゃないんですか。

 とりあえず目立つのでさっさと入ってください」


 円香「皆さん、美味しい紅茶が手に入ったのでお淹れしようかと思いますが……

 如何ですか?」


 リリィ「ありがとう。私達には気を使わなくて良いのに」


 鷲尾「鼎君、俺がやるから。代わりに説明をお願い出来るかな?」


 円香「分かりました、所長。先日の動画内に出てきたVブイという人物です

 が、実は私達が追っている事件に関わっているかも知れないんです。

(古びた手帳を広げながら)これは所長のお父様が使っていた物なんですが、

 ここにVブイの文字が。それから同じページにキリカと有りますが恐らく

 失踪した伯母おば桐迦きりかの事ではないかと……」


 鷲尾(M)「(紅茶を差し出しながら)鼎君と俺はそれぞれ伯母おばさんの

 失踪と、事件を担当していた親父の不可解な死についての真相を突き止めようと

 している事を話した。向かい側に座る二人の顔が心なしか険しく感じた」


 リリィ「これから話す事はあくまで仮定でしかないのだけれど、

 今回のドラッグの件、私達の同族が関与している可能性が非常に高いの」


 円香「え……?」


 片桐「ボク達は人間じゃない」

 

 鷲尾「…………は?」


 リリィ「貴方達人間がサキュバスやインキュバスと呼んでいる淫魔いんま————。

 それが私達の正体。(円香を見つめ)あの日貴方を助けた時は牽制のつもりで

 名乗ったけれど、結局効果が無かったわね」


 円香「……冗談だと思ってました」


 リリィ「大多数の人間が、知覚出来ない現象に神や妖怪の名を付け、

 畏怖いふのヴェールに包む事で、精神を保って来たのだから無理も無いわ。

 そんな未知の存在である私達は、人間ヒトの望む姿で交わり子を成すとされて

 いる。けれど、それはあくまで本来の目的に付随するモノでしか無いの」


 片桐「ボク達の糧は精気なんだ。それを効率良く摂取する手段として気持ち良く

 なってもらう訳なんだけど、クスリの効果がそっくりなんだよね。快楽を伴った

 強烈な多幸感と行為中の催眠状態に似た症状。杞憂きゆうで済めば良かったけど、実物を

 口にした事で嫌な予感はほぼ確信に変わりつつある。同族には効かないからね」

 

 リリィ「貴方達が追っている事件との関連性については正直分からない、

 だけれど唯一の手掛かりであるVブイと接触を図れば

 糸口が見えるかも知れない。二日後、お店で直接会う事になってる」


 鷲尾「二日後……ハロウィンか」


 片桐「キミ達の真実を追い求めたい気持ちは充分に理解しているつもり。

 だけど当日は事務所内で大人しくしていて欲しい。本当は同じビルの中だから

 家でのんびり過ごして貰いたいんだけど。……ボクは弱くないけど易々と

 敵に隙を見せるほどお人好しでもないんでね。話はこれで終わり」


 リリィ「ごめんなさい、きつい言い方をして」


 鷲尾「いえ、分かっています……お二人こそ気を付けて」


◇CAFE & BAR 欲望をたすうた 


 リリィ(M)「10月31日 18時30分———―。Vブイとの約束の時間が訪れた。

 窓越しの色めく街の喧騒けんそうとは裏腹に、店内には張り詰めた空気が漂っている」


 リリィ「———―時間ね」


 リリィ(M)「開かれた扉から滑り込んだ闇そのものが、うやうやしくこうべを垂れながら

 口を開いた。その饒舌じょうぜつな物言いを聞くのはいつぶりだろうか」


 ヴィクター「ふふっ……今日は実に良い日だ。新しい苗床なえどこと探し物が

 同時に手に入るとは。改めて私がVブイです。以後お見知りおきを」


 リリィ「…………ヴィクター」


 片桐「これはご丁寧にどうも。挑発に乗って会いに来てくれるほど懐が深そう

 なら、ついでにそこに居る二人も解放してくれないかな?大切な人達なんでね」


 ヴィクター「あぁ……これは失礼しました。こちらへ向かう途中であまりに美味うま

 そうな匂いがしたものですからつい……。少々手荒な真似をした事は謝ります。

 だがお二人……特にこちらの女性はメインディッシュなのでお返しする訳には。

 重ねて差し出がましいお願いなのですが、話し合いの場を変えさせて頂きたい。

 下に車を用意しているので、ご案内しますよ」


 片桐「選択の余地は無さそうだけど、とりあえず通じそうで良かった。

 じゃあ行こうか」


◇Club Lust


 円香(M)「私達の事務所から車で15分———。森園もりぞのビルの地下一階にある

 このクラブでは夜毎イベントが行われており、多種多様な人々が入り乱れている

 ようだ。壁に貼られたフライヤーを横目に階段を降りていく。気分はさながら

 絞首台に向かう罪人つみびとのようだ」


 ヴィクター「さて、お客人はそちらの席へ。あぁ、リリアーナ、君は私の隣に来て   

 貰うよ」

 

(店内の奥にあるVIP席に通され、片桐、鷲尾、円香の三名は右側、ヴィクター、 

 リリィの二名は左側にそれぞれ置かれたソファーに腰掛ける。VIP席の外には

 ヴィクターの配下であろう者達が五名、フロアを行き来している)


 ヴィクター「ご足労をおかけし誠に申し訳ない。お詫びと言ってはなんですが、

 年代物のワインと、数は少ないですがオードブルを用意しております。 

 勿論、人間用のモノも。……如何ですか?」

 

 片桐「(周りを見渡し)…………折角だしボクは貰おうかな、どうせ皆遠慮する

 だろうし。あ、オードブルは要らないんで」


 リリィ「(たしなめるように)……ルシウス」


 片桐「お酒飲む時、いつも困った顔するよね。キミと居る時以外は口にしてない

 でしょ?これでも空気は読んでるつもりなんだけど」


 ヴィクター「ルシウス……。あまりに強くあまりに激しく殺した為、いつしか

 鏖殺おうさつのルシウスと呼ばれるようになった殺戮の悪魔……」


 片桐「そんな噂話さっさと忘れた方が良いよ?こっちは自らに降りかかる火の粉を

 払ってただけなんだから(グラスに注がれるワインを見つめつつ)

 ……さてそろそろ本題に入りたいから単刀直入に訊くけど、あのクスリって

 どうやって作ってるの?なんとなく想像はつくけどさ(ワインを口に運ぶ)」


 ヴィクター「ご想像の通り、スイートスピリットは私の体液から出来ています。効率的な

 エサの確保の為に戯れに作り始めたのですが、試作品サンプルを投与した人間が魔力に

 耐え切れずことごとく狂い死にしてしまいましてね」


 円香「…………っ」

 

 リリィ「私達が直接触れている時は力の制御が出来るのだけれど……。

 ただ壊すだけなら赤子の手を捻るより楽だものね」


 ヴィクター「そんな折、一人の女性と出会いました。人と人ならざる者のあわい

 佇む人間ならば私の望みが叶うかも知れないと思い接触を図りました。結果は想像  

 通り、彼女と交わった体液から抽出した成分は、ほどよく中和され欲望のタガのみ

 を外す事に成功した」


 片桐「苗床なえどこってそういう意味か。それで次は鼎さんを使おうと思ってると」


 ヴィクター「桐迦きりかは気高く聡明で…………何より甘美でしたが、

 深く愛し過ぎたせいか人の姿を保てないほど壊れてしまった。だから泣きながら

 彼女を食べました。悲しいという感情がなんとなく分かった気がしましたよ」


 円香「(消え入りそうな声で)そんなっ……伯母おば様……」


 ヴィクター「懐かしいな……彼女も初めはそうやって怯えていたよ。だが絶望と

 憎悪に満ちた顔が恍惚の表情に変わるのに、さして時間はかからなかった。

 身も心も全て明け渡し私にすがりつく姿は、まるで幼子おさなごのようでたまらなく

 愛おしかった」


 円香「(口元を抑え嗚咽を堪えながら)うっ…………」

 

 鷲尾「それ以上口を開くなクソ野郎っ……!」


 リリィ「ヴィクター……」


 ヴィクター「ほう……その意志の強い目、どこかで……。

 あぁ、あの時桐迦きりかを追っていた探偵」


 鷲尾「…………(目を見開いたまま顔を強張らせている)」


 ヴィクター「彼は君のお父さん…だったのかな?だとしたら本当に申し訳ない事を

 したと思っている。無駄な抵抗をせず大人しく快楽に身を委ねていれば、あんな

 に苦しまずに済んだのに。くっくっくっ……あーっはっはっはっは!いや、失礼。

 部下達も面白がって執拗にいたぶっていたようだったからね。この場を借りて

 お悔やみ申し上げるよ」

 

 片桐「キミ、いい加減に」


 鷲尾「っく…………き、さまぁっ!」


 リリィ「…………」


 ヴィクター「おや、リリアーナ。君まで怖い顔をして……まぁ良い。

 それよりどうして私の元から急に居なくなってしまったんだい?

(内腿に指を這わせながら)この古傷に訊けば良いのかな」


 リリィ「っ……」


 片桐「(手に持ったグラスを粉々にしながら)あぁ、ごめんね。ちょっと力

 込めたら割れちゃった。内腿うちももの付け根にある噛み跡みたいな傷、

 本人は気にしてないみたいだから何も言わなかったけど、つけたのキミか。

 じゃあキミを殺せば傷が消えるかも知れないね」


 ヴィクター「待ってください。私は交渉したいと思っているのですが」


 片桐「この後に及んで交渉⁉どういう状況か分かってる?」


 ヴィクター「えぇ、貴方と私はとても似ている筈……であれば提案の余地は

 残っているかと。スイートスピリットを過剰摂取した人間は生成者せいせいしゃめいを永続的に

 遂行する様になる。これによりエサだけでなく奴隷としても利用出来る。

 生かさず殺さず、飽きたら腹の中にでも収めればいい。勿論、生成方法はお伝え

 しますし、今後もクスリの改良は行っていくつもりです。

 どうです?悪い話では無いとは思いますが?」


 片桐「…………否定はしないよ。キミの言ってる事は理解出来るし、

 こんな旨い話に乘らないなんてただの馬鹿だよね。でもさ、キミとボク達には

 決定的な違いが一つだけある」


 ヴィクター「…………?」


 片桐「ボクも、そしてリリィも、誰よりも欲深い。独りよがりの欲望を

 たすだけじゃ足りないんだよ」


 リリィ「相手の望みを叶える事は正直面倒だし時間もかかる。そもそも叶えられる

 保証なんでどこにも無い、全く以て非効率――――でも気付いてしまったの。

 その手間を惜しまず、育まれたその気持ちこそがかけがえの無いだって。

(ヴィクターを見つめながら)……貴方には分からないでしょうけれど」


 ヴィクター「実に残念です。では痛みも恐怖もあまねく、なぶほふ

 すすり上げると致しましょう!」


 円香「っ……なんて禍々まがまがしい気……」

 

 鷲尾「鼎君、俺の後ろに」


 片桐「あんな偉そうな口きいてこのザマだよ、二人ともごめん。でもキミ達は

 ボクが守る、だから離れないでね。リリィ、表…頼めるかな?」


 リリィ「3秒で片付ける」


 片桐「あぁ、そんな良い顔しないで。食い殺したくなっちゃう」


 リリィ「そのセリフ……そのまま返すわ(言い終わらぬ内にフロアへと向かう)」


(フロアに居るヴィクターの部下達を塵にしていくリリィを横目に)

 片桐「見取みどりつまみ食いは美味しいけど、人の皿に勝手にあれこれ乗せる

 のって小さな親切大きなお世話って言うんだよ、知ってた?

 だからさ……俺の自我エゴでお前を殺す。来いよ、恋敵こいがたき君」


 ヴィクター「牙を抜かれた野犬がぁ!うっ……ぁ…!?

(片桐に飛びかかるも鳩尾を抉られ膝から崩れ落ちる)」

 

 片桐「その野良犬に食い散らかされる気分を味合わせてやるよ

(息の根を止めようと首元に手刀を繰り出そうとする)」


 リリィ「(手刀を受け止めながら)っ……、ルシウス…待って」


 片桐「どうした?死にたいの?」


 リリィ「二人を事務所まで送って行く……だから」


 片桐「(苦笑しながら)……血を見ると見境が無くなるの駄目だね。

 分かった、先に帰ってて」


 リリィ「……行きましょう」


 円香(M)「店を出た私達は街の賑わいとは裏腹に、誰一人言葉を交わす事なく

 事務所へ戻り、その後それぞれの帰路に着いた。別れ際のリリィさんの悲しそう

 な顔を私は忘れる事は無いだろう」


 ヴィクター「……何を考えてるんです?」


 片桐「そうだねぇ……このままキミを連れて帰ってボク達がドロドロに溶け合って

 るのを指を咥えて…って首から下はボクの腹の中だったね。ごめんごめん」


 ヴィクター「ふっ……狂ってる」


 片桐「お互い様でしょ。逆の立場だったら同じ事考えてたんじゃない?

 似た者同士なんだからさ」


 ヴィクター「そう…かも知れませんね。貴方とはもっと違った形で会いたかった」


 片桐「案外良い仲間になれたのかもね。じゃあ、そろそろ行こうかな。

 まぁ、これからはボクの血肉になって、一緒に彼女を見守っていこうよ

 ヴィクター君」


 ヴィクター「敵わないな……はははっ……(音も無く塵になって消えていく)」


 片桐「……ごちそうさま」


◇片桐の自宅


 片桐「ただいま。遅くなってごめん」


 リリィ「お帰りなさい。連絡を貰ってから随分経つから…心配してた」


 片桐「タクシーを呼ぼうかと思ったんだけど、流石にこの格好だと迷惑になる

 から歩いて帰ってきた。今日がハロウィンじゃなかったら職質されてたかも」


 リリィ「(ため息をつきながら)服だけじゃなくて髪も顔も血塗ちまみれじゃない。

 ……お風呂沸いてるわよ」


 片桐「もしかしてもう入っちゃった?」


 リリィ「まだだけど」


 片桐「じゃあ行こう(リリィの手を取りながら)…………楽しかったね」


 リリィ「……えぇ」


 片桐「どこか行きたい所とかある?」


 リリィ「どこでも構わないわ、貴方と一緒なら」


 片桐「そっか……ありがとう」


◇CAFE & BAR 欲望をたすうた


 片桐「……いらっしゃい」


 鷲尾「これ…どういう事ですか(右手に持った張り紙をカウンターに叩きつけ)」


 リリィ「そこに書いてある通り、お店を閉める事にしたの」


 円香「そんな、急に」


 片桐「ごめんね……」


 鷲尾「……俺達のせいですか」


 片桐「…………」


 鷲尾「沈黙も肯定と受け取りますよ」


 リリィ「…………」


 片桐「ボク達を見る度に今回の事を思い出して悲しい気持ちになって欲しく

 ないんだ、だから」


 鷲尾「ふ…ざけるな(片桐の胸ぐらを掴む)」


 円香「所長⁉」


 リリィ「………っ⁉」


 鷲尾「この際だからハッキリ言わせてもらう。少なくとも俺にとってこの場所は

 大切な人達と過ごせるかけがえの無い空間で……二人が人間じゃないって聞いた

 時も驚いたけど、それで関係性が壊れるほどヤワじゃない、そう勝手に思い込んで

 いたのは俺だけだったって事ですよね(手を放しカウンター席に力無く座る)」


 片桐「鷲尾君……」


 鷲尾「……もうこれで最後なら気持ちだけは伝えておきます。お店を続けて欲しい

 って俺の願望エゴ


 円香「……私も所長もお二人には感謝しかありません。残念ながら同じ悪魔だから

 と憎しみをぶつけられるほど短絡的ではないので」


 リリィ「円香ちゃん……」


 片桐「強いね、キミ達は……大切になればなるほど失う事が怖くなる、だから面と

 向かってさよならも言えない意気地いくじなしの悪魔でごめん。そんなボクでも

 ここに居ていいのかな……?」


 鷲尾「当り前……じゃないですか」


 円香「じゃあ」


 片桐「お店は続けるよ(リリィを見ながら)……それにしてもなんだろうね

 この気持ち、とりあえずボクはお腹いっぱいだよ」


 リリィ「そうね……胸やけしそう」


 片桐「よし、なんとなくリニューアルオープンみたいな気分だから、

 良いボトル開けよう!」


 鷲尾「全く……」

 

 円香「ふふふ……楽しいですね」


 リリィ「皆……グラス持った?」


 片桐「じゃあ改めて……これからもよろしく」


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【声劇台本 ♂2:♀2】―欲望を充たす詩(前編)― 平野 斎 @hiranoitsuki

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