第57話 人手不足おじさん


 今さらな話だが、テシ子ちゃん――テシウス・アドレウスは凄腕の冒険者だった。

 保有する魔力の量は、本人は「戦士職ゆえ、さほど多くはありません」と謙遜しているが、根本的なステータスや魔力の運用を含んだの精度が高い……らしい。俺にはよくわからんが。


 ともかく、なにが言いたいかというと、テシ子ちゃんなら二十時間以上動かせる『05式魔導作業鎧』も、並みの銀級冒険者さんたちは一日に四時間ほどが限度なのだとか。

 今後、装備の試運転はテシ子ちゃんだけでなく、術師職や戦士職など、たくさんの人にやってもらわないといけないな。

 魔力量の多い魔術師職なら、八時間ほど動かせるそうだが、魔力より先に鎧を動かす体力が尽きる。


 身体強化の補助があるとはいえ、重たいアーマーだからなァ。

 全力で動かすならば、稼働時間は数十分。

 戦闘にも逃走にも、じゅうぶんな時間は確保できているから、よしとしよう。

 魔力量を補うための、外付けバッテリーなんかも、いずれは開発する必要があるな。

 あと、個人差を把握するための、ステータスを見る機械なんかもあればいいのだが。

 正太郎くん曰く「そんな便利なモンない」らしいしなァ。

 こういう世界って、水晶玉とかで見れるのがテンプレートじゃないのか。


 ……待てよ?

 俺なら作れるんじゃないか?

 ありがたいことに【ソードクラフト:刀剣鍛造】のシステムは万能だ。刀剣以外のほうがたくさん作れるゲームである。

 俺の発想が追い付いていないだけで、素材さえあれば、どんな機械でも魔道具でも作れる可能性がある。

 思いついたことは、積極的に試していかねば。

 ステータス鑑定装置の作成も、やることリストに記しておく。


 ともあれ、『05式魔導作業鎧』と『05式魔導円匙』を五十ずつ作れたので、さっそく冒険者さんたちに開拓に出てもらう。

 新装備の慣らしも兼ねているから、無理しないように短時間だけ、『大鍛冶城1』の近くで……という条件付きだったが、結果は上々だった。


「ケンゾー殿、およそ一時間の稼働で、素材に使った木材を補える程度の伐採は終わりました。効率で言えば、これまでの十倍以上です」

〈そんなに進むなら、さっさと装備だけでも作っておけばよかったね、相棒〉

「う。正論言うなよォ……」

「ご領主様、着任直後はお忙しかったでしょうから」


 女僧侶さんがフォローしてくれた。

 そうなんだよな、三か月経っても、俺とラティーシャちゃんのふたりでほぼすべての業務を回している現状がおかしいだけで。


 ……マジでおかしいな?

 領地経営を、なんでトップと秘書のふたりで回しているんだ?


 ファオネムの部下だった、腐敗だらけの文官たちを大量に解雇したからなのだが……。

 うん。文官雇おう。すぐに雇おう。

 開拓のためのクラフトがひと段落したら、ザルツオムに戻って、ラティーシャちゃんと相談しよう。

 やることリストがどんどん増えていくなァ。


「では、明日からさっそく、もう少し広範囲で開拓を。優先順位はどうなさいますか? 鉱石地帯に向けて、でしょうか」

「いや、まずは街道沿いを安定させて、ザルツオムと『大鍛冶城1』間の街道を安定させたい。開拓人員以外に、商人も往来させたいんだよねェ」

「物資の補充と……直売ですか?」


 うなずく。

 ティリクの森で採れた薬草などの素材は、一旦この『大鍛冶城1』に集まるのである。


「わざわざザルツオムまで持って帰って売るより、来てもらったほうがコスト安いだろ」

「では、売買のための文官も必要ですな」

「あ」


 そうか、こっちでも文官が必要なのか。

 うわー。


「……ちなみに、テシ子ちゃんたち、そういう仕事できる?」

「私は学がございませんので、難しいかと」

「私もです。お役に立てず、申し訳ありません」


 そうだった。

 高貴な見た目をしているけど、テシ子ちゃんたちは農村出身だったな。


「あ、カノンお姉様ならできるかもしれません」

「カノン……女戦士さんか」

〈あのガッハッハ系のひとが? ホントに?〉

「商家の出ですから、一通りの算術はできるはずです」


 そうなのか。意外――と考えるのは、失礼だな。

 人を見た目で判断してはいけない。

 女山賊みたいなひとでも、だ。


「大旦那、アタシのこと呼んだか?」


 などと思っていたら、作業鎧をガションガション言わせながら女戦士さんがやってきた。

 ちょうどいいな。


「女戦士さん、ひとつ質問なんだけどさ。ひと箱あたり銀貨五十枚で売れる低級『魔石』百箱を商人に販売して、その販売額の三割を冒険者五十人に分配すると、一人あたりの儲けはいくらになる?」

「等分配なら銀貨三十枚。アタシなら一人あたり二十五枚にして、余った二百五十枚は働きぶりに応じて与える相手を決めるがね。ていうか、なんだい大旦那、いきなりそんな質問して」

〈計算はや〉

「なあ、女戦士さん。文官雇うまで、こっちで商人の相手をしてくれないかい。人手不足でさァ」


 女戦士さんはめちゃくちゃ嫌そうな顔になったが、テシ子ちゃんと女僧侶に小突かれて、溜息を吐いた。


「文官雇うまでの繋ぎ程度なら構いやしないが、文官にせよ武官にせよ、さっさと雇ったほうがいいぜ。ネオンプライムの実家から紹介してもらうなりなんなり、コネはあるだろうさ」

「借りを作りすぎると、あとが怖くないか?」

「借りもクソもあるかい、いずれラティーシャを嫁にして借金踏み倒す計画だろ?」

「そんな計画はねえよ」


 俺はそんなやくざな男ではない。

 いや、俺のほうが異質なんだろうなァ……。

 やることリストに「信頼できる部下の雇用」と書き加えておく。

 ラティーシャちゃんには悪いけど、ザルツオムに戻るのが憂鬱だ。

 どっかから部下が湧いてきたりしないもんかね。


〈……ファビに体があれば、なんでもやってあげられるのになー〉

「やっぱり体欲しいのか?」

〈いや、ぜんぜん〉


 またまた。

 ほんとは欲しいくせに。


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