第56話 パワードスーツ作成おじさん


 さて、ロングハンドのからあげを食ったあとは、鍛冶場に戻ってクラフト再開である。

 アルミを含む鉱石類は、ティリクの森で採取可能らしい。

 だが、採掘場を作るためには、まずはある程度、森を拓く必要がある。

 つまり、開拓をするための『魔除けの石灯篭』に動力を通すためのケーブルを作るためのアルミを得るために開拓をする必要があるわけだ。

 ううむ、クラフトゲームっぽくなってきた。


 森の開拓は、ざっくりと三つのフェーズに分けて進められる。

 一、安全確保。モンスターや野獣の排除。

 二、伐採。木を切り倒し、草を刈り、根を引っこ抜く。

 三、整地。起伏だらけの森の地面をならし、平らにする。

 これを繰り返して、開拓範囲を広げていくわけだが。


「この三つぜんぶをワンツールでこなせると、効率的だよなァ」

〈武器と工具を兼ねるワンツール? でも、多機能ツールって逆に使いにくくなったりしない?〉


 それはある。

 俺も、スマホとかパソコンとか、使えはしても使いこなせはしなかったもんなァ。

 そう考えると、多機能であるよりも、ひとつの機能を多岐に生かせるような、シンプルだからこそ便利な道具のほうがいいか。

 で、あれば。


「モンスターから身を守れて、最低限の身体強化が可能な全身鎧。あと、汎用性の高い道具と言えば、シャベルかねェ」


 護衛の女僧侶さんが首をかしげる。


「シャベルですか、ご領主様。でもあれ、土を掘る道具ですよね? 汎用性が高いようには思えないんですけれど」

〈ようはアレ、鉄板付きの棒だからね。刃物ほどじゃないけど切れ味はあるし、面で叩けば打撃武器としても使える。くぼみに水を溜めたり、火にかけて鍋代わりにしたり、便利なんだよ〉


 マンガで読んだ知識だが、地球にシャベルを装備していない陸軍は存在しないらしいしな。つまり、素人考えでもシャベルなら間違いないはずだ。

 というわけで、まずは木の棒と鉄板をくっつけて、『雑なシャベル』を作成。

 シャベル系統のクラフトレシピを解放し、ツリーを眺めて作れそうなものをチェック。

 ……お! コレいいな、『05式魔導円匙』にしよう。レア度は下から数えたほうが早いが、『次元刀』ほどの性能を求めているわけではないし。

 フレーバーテキストは『魔力を込めれば長さや強度が変わる可変式シャベル。最大伸長サイズは二メートル、最大強度は鋼鉄以上。』だ。

 シャベルとしてだけでなく、大剣としても、斧やその他の道具としても扱えるだろう。

 素材が『魔導合成板材』なのも、大変ありがたい。

 『魔石』と、一定量以上の木材を『魔女鍋』に入れれば作れる手軽さだ。

 ついでに、鎧も『魔導合成板材』で作れる『05式魔導作業鎧』に決定。

 全員分となると、採寸の手間がネックだったが、これは『魔力を込めればサイズや強度が変わる可変式作業着。身体強化も可能。』なので、ひとまず数を揃えるだけでいいし。

 鍛冶場の『魔女鍋』だけでなく、城郭都市の『上級建築士の工房』にある『魔女鍋』も併用して、とにかくガンガン『魔石』と木材を放り込んでいく。

 出来上がった真っ黒な板材は、一見すると木製には見えない。何かの金属のようである。

 『魔女鍋』で煮込むだけなので、テシ子ちゃんたちに『魔導合成板材』の作成をお願いして、俺は出来上がった板材を片っ端から加工していく。

 『魔導合成板材』は、クラフトエナジーで加熱すると、通常の木材のように曲げることが可能だ。

 曲線のある金属台に押し付けたり、ハンマーで叩いたりして鎧とシャベルのパーツをてきぱき作成。

 パーツを組み合わせて完成――したころに、次の『魔導合成板材』が完成し、テシ子ちゃんたちが持ってきてくれたので、ついでに試運転をお願いする。


 『05式魔導作業鎧』は全身を覆う、二メートルサイズの鎧だ。

 胸のあたりから着用者の顔が覗いていて、シルエットは首無しの大男に見える。

 SF映画で見たことあるな、こういうパワードスーツ。

 メイド服の上から着用したテシ子ちゃんは、城郭都市をガションガションと走り回り、魔力を込めて城壁より高く跳躍したり、『05式魔導円匙』を最大まで伸ばして振り回してみたり、思う存分動いてから、俺のところに戻ってきた。


「ケンゾー殿! この鎧、すさまじい性能です……! シャベルも、最大伸長だと長すぎる気がしておりましたが、鎧と併せればいいサイズかと」

「そっかそっか」

「これを着た兵を五十も用意できれば、王都を制圧できるでしょう」

「しないけどね?」


 あくまで開拓用なので。


「テシ子ちゃんたちは、作業員じゃなくて護衛だから、また別で装備を用意しようと思っていたんだが……そういうパワードスーツ系がいいかな?」

「是非に。この鎧であれば、大型モンスターの相手もたやすいと思います。ティリクの森は、奥に行けば行くほど、大型モンスターが多いですから」


 ああ、そうか。

 ラティーシャちゃんのような魔術師ならともかく、大型モンスター相手にレイピアじゃ、サイズが足りないもんな。

 ……アドレウス四姉妹(と、冒険者さんたちが呼んでいたので、俺もそう呼ぶことにした)が、そろってパワードスーツ着用で森の大型モンスターと戦う光景を想像して、こっそりとテンションが上がる俺である。

 四体合体する機構とかアリかな? ダメかな?

 「お姉様、アレをやるわ」「ええ、よくってよ」――みたいな遣り取りが発生するんじゃなかろうか。


〈相棒、なにニヤついてるのさ〉

「おっと。なんでもない」


 ともあれ、専用装備はあとだ。

 テシ子ちゃんの試運転を見て、目をキラキラさせた冒険者さんたちが待っている。

 先に『05式魔導円匙』と『05式魔導作業鎧』を量産しないとな。

 とりあえず、五十ずつでいいか。……王都を制圧はしないけど!


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