第51話 リアクターおじさん


 コルンメイドさんがいる生活にも慣れてきたころ、大発見があった。

 『大鍛冶城2』の掃除中、コルンさんが地下へ降りる隠し階段を見つけたのだ。

 厨房の脇の薄暗い通路など、俺やラティーシャちゃんが「普段使わないから放置でいいや」と触らずにいた場所に踏み込み、細かいところまで掃除するようになって、気づいたそうだ。

 ようは、俺たちは住んでいる場所の裏側を、長々と見逃していたのである。


「この壁、わかりづらいですが、押戸になっておりまして、城中に繋がる隠し通路……というより、世話人用の通路になっているようです。地下の貯蔵庫にもつながっておりますよ」


 と、先に一通り見まわったという、コルンさんが教えてくれた。

 地球で言うところの、デパートのバックヤード、従業員用の通路みたいなものなのだろう。

 さすがに、宝物庫や王様部屋のような、独立しておくべき場所にはつながっていない。

 だが、『大鍛冶城2』中に張り巡らされており、なるほど、俺がいかに宝を持ち腐れているかがよくわかる。


 ともあれ、地下への階段は、大きな成果である。

 なにせ、『大鍛冶城2』の地下深く、階段を下りること五分ほどの場所にあったものは、円柱状の『次元クラフト合金』のフレームで、青白い稲妻のような光の奔流を閉じ込めた装置で……。


「クラフトエナジーって、こうやって作ってたんだなァ……」


 それはつまり【ソードクラフト:刀剣鍛造】に登場する謎のエネルギー、クラフトエナジーを生み出す動力炉だった。

 アイアンマンな傲慢社長ヒーローの映画にも、こういう動力炉出てきた記憶がある。

 ぺたぺた触ってみると、クラフトレベル任せの鍛冶能力で、おおよその構造が把握できた。

 名前は『設備:クラフト・リアクター』……やっぱりリアクターじゃないか!

 テンション上がってきたな。


「ふむ。なにかを燃やしたりして、エナジーを生成するわけじゃないんだな。地下深くから、力の源みたいなものを吸い上げて、それをクラフトエナジーに変換してるっぽい」

「地脈に流れる魔力なのです? いえ、あるいはもっと深いところから……?」


 地脈というのは、魔力が濃いパワースポットで、地表を大河のように流れているらしい。

 俺は魔力を扱えないので、よくわからないが、都市はだいたい地脈の上に建立されるという。ザルツオムもそうだ。

 コルンさんがコテンと首をかしげる。


「もっと深いとなると、地脈の大元である女神の座、星の中央でしょうか」

〈それ、星の中心核ってこと? そんなところから吸い上げていいの? 相棒のクラフトが惑星の寿命を縮めている展開じゃない?〉

「怖いこと言うなよォ……」


 ラティーシャちゃんが「ま、大丈夫なのですよ」と言った。


「星の寿命は、計り知れないほど長いのです。ケンゾーさんといえど、ひとりが削れる星の寿命なんて、たかが知れているのですよ」

「そうならいいんだけどねェ」


 言いつつ、クラフトメニューを確認する。

 予想通り、動力炉のクラフトレシピのツリーも解放されていた。

 ゲーム内では『鍛冶場系設備』と『クラフトエナジー炉』がセットだったからレシピが存在しなかっただけか?

 細かい仕様はわからないが、炉が作れるのはありがたい。

 この世界で手軽に調達できる素材で再現する場合は、さすがに星の中央の力とやらを吸い上げることはできず、魔力をクラフトエナジーに変換する形になるようだが。

 弟子を取ったときは、『設備:魔力変換式クラフトエナジー炉・小型』あたりから作り方を指南していけばいいだろう。

 そして、同時にあることも理解する。

 クラフトエナジーはここで生み出され、『大鍛冶城』内部及び近辺であれば、地表や『メカニカル合金』製の骨組みを伝って分配されるらしいのだ。

 ということは。


「エナジーの伝播率のいい素材で電線みたいなものを作れば、ティリクの森とザルツオムを結ぶ街道に『魔除けの石灯篭』を設置できるな」

〈相棒。向こうの『大鍛冶城1』にも当然、このリアクターがあるはずだよね。街道どころか、魔石の採掘場なんかにも『魔除け』を拡大できれば……〉


 開拓の効率が、とんでもないことになる。

 ラティーシャちゃんを見ると、彼女は力強くうなずいた。


「開拓は、最優先の急務なのです。――なんせ、イザヨイ領にはお金がないので! ですから、執務は一旦ボクに任せて、『大鍛冶城1』のほうへ向かってくださいなのです。あ、コルンさんも、ケンゾーさんについていってください」

「わたくしも?」

「向こうでケンゾーさんが泊まり込みになると思うのです。だったら、『大鍛冶城2』の秘書ボクではなく、ケンゾーさん主人についていかないと、示しがつかないのですよ」


 そういうものらしい。

 というわけで、あくる日、俺とファビとコルンさんは、ティリクの森の『大鍛冶城1』目指して、ザルツオムを発ったのである。


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