第45話 コルン・ドゥオルン・モルンの自己紹介
改めまして。
わたくし、コルン・ドゥオルン・モルンと申します。
モルンの娘、ドゥオルンのそのまた娘、コルンとおぼえていただければ。
そう、そうなのです。
ダークエルフは代々、母の名前、祖母の名前を姓とする、おそらく長寿ゆえの風習がございまして。
寿命が五百年ほどありまして、特定の姓がなくとも、母や祖母の名前を言えば一千年程度は血族をさかのぼれますので、こういう風習なのだとか。
趣味はお料理で、食べることも大好きです。
年齢は、眠っていた三百年を引いてよければ、百五十歳ほどで、まだまだ若くてぴちぴちで出産適齢期な……そういう自己紹介じゃない?
氷漬けになっていた理由が知りたい?
あら、そうですよね、わたくしったら、つい。
どうも、わたくし、関係ない話をしてしまう癖があるようで。
おばあさまにも「コルンはもう少し急いで生きなさい、ダークエルフの持つ時間は長いが、無限ではないのだから」と何度も言われておりました。
デックアルヴの月祭りの日なんて、わたくしの準備がいつまでも終わらないものですから、しびれを切らして――。
――ごめんなさいね、また脱線を。
氷漬けになっていた理由ですよね。
……わたくしたちの集落は、災禍に見舞われたのです。
森の中で細々と暮らし、数十年に一度、デックアルヴの月祭りの日だけ、外部と交流を持つ。そういう、平和な集落でございました。
その集落が、ある日突然――そうそう、月祭りといえば、人間の方に大人気のお祭りだったのですよ。
純血のダークエルフは、女しか生まれないのです。
生まれる子は、女児ならば純血のダークエルフに、男児ならば混血の子となります。
デックアルヴの月祭りは、とどのつまり、よその種族の男性を幾人か招き入れて、子を為す催しでして、少々品のない言い方をいたしますと、集落をあげての大乱こ――災禍の話ですよね、ごめんなさい。
集落が、ある日突然、襲われたのです。
……恐ろしいモンスターの群れでした。
祖母曰く、すべてのモンスターは二百年前に……今から見れば、五百年前でしょうか。
突如として世界に発生した存在で――その話は知っている?
あら、そうでしたか。物知りですのね。
ともあれ、そのモンスターは鋭い牙と爪、そして、あらゆる魔術を弾く不思議な鱗を持っていました。
わたしたちも、独自の魔術を用いて対抗し、数十頭は討伐したのですが、群れは非常に大きく、ひとり、またひとりと倒れ……。
祖母たち、
モンスターが去るまで、耐え忍ぼうと……。
ですが、モンスターはあろうことか、森に居ついてしまいました。
洞窟から逃げることもできず、食料も底をつきかけて。
わたくしたちは生き残るために、ダークエルフの血を絶やさぬために、行動するしかありませんでした。
ひとりは、人間の街を目指して逃げ、子を為す。
もうひとりは、秘術を用いて己を冷凍保存し、未来へ血を残す。
……先だって申し上げた通り、わたくしたちは他種の男と交わることで、純血の女児と混血の男児を残します。
女がひとり残っていれば、血は繋がるのです。
問題は、どちらが街を目指すか――モンスターの群れを抜ける決死行を、どちらがおこなうのか。
自殺に等しい、死出の旅です。
三日三晩に渡る話し合いの末、母ドゥオルンが街へ向かうことになりました。
わたくしよりも年上で、熟練の魔術を持つ母の方が決死行に適しているのは、道理でした。
加えて言えば、祖母の言う通り、ダークエルフの持つ時間は長いけれど、無限ではありません。
冷凍保存するならば、可能な限り、長生きできるものでなくてはなりません。
目覚めたとき、モンスターがいなくなっている保障も、人間と出会える可能性も、ありませんでしたから。
ですから、母に行ってほしくはなかったですけれど、送り出すしかありませんでした。
決行日、わたくしは母と共に秘術を行使し、己を冷凍させ……最後に、母がわたくしの頬を撫でてくれたのを、おぼえています。
……母を探す、ですか?
三百年も経っているのであれば、母はすでに六百歳を超えております。
決死行を生き延びていたとしても、おそらく、寿命は尽きているかと。
けれど、母は、わたくしたちは、賭けに勝ったのです。
だって、わたくしはこのお城の中で目覚めたのですから。
生き延びて、他種族の殿方とも出会えた――これを勝利と呼ばずして、なんと呼ぶのでしょう。
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