第39話 信頼おじさん
正太郎くんの驚きの発言に、今度はラティーシャちゃんとアルスラさんだけでなく、俺とファビも絶句した。
「……は? モンスターが、いなかった?」
〈て、ことは……地球人が、この世界にモンスターを持ち込んだ……?〉
正太郎くんは深くうなずいた。
「僕がここに来た理由、もうわかるだろ? 転生者は、大なり小なり変革をもたらすけど、それがモンスターなのか寿司なのかは蓋を開けてみるまでわからない――」
「……俺がどっちか、見定めに来たんだな。寿司なのか、モンスターなのか」
「そ。あの戦争で戦った地球人として、僕には世界を守る責任がある。剣三くん、きみはこの世界でなにをしたい?」
そう問われて、おっさんなのに情けないことだが、つい、ラティーシャちゃんの顔を伺ってしまう。
彼女は柔らかく微笑んで、うなずいた。
……そうだよな。諦めないで、いいんだ。
正太郎くんを、しっかりと正面から見据える。
「俺は、この世界の人たちと、生きていきたい。……目標なんだ。今度こそ、普通で幸せな生活を送るって」
正太郎くんは「ふぅん」と呟いた。
「地球に戻りたい、とは思わないのか?」
「未練、ないしなァ。戻れるのか?」
「戻れないよ。詳細は省くけど、僕らは地球には戻れない。……家族は?」
「いない」
「恋人――は、いないか」
「おい」
実際、いなかったけども。
むすっとしていると、ラティーシャちゃんがおずおずと手を挙げた。
「あの、ギルマス。ボク、ケンゾーさんにたくさん助けてもらったのです。いいひとなのです」
アルスラさんも「そうだ」とうなずく。
「アタシもラティーシャに同意だ、ギルマス。……ちょっといいひとすぎるがね」
ふたりとも、嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
正太郎くんが笑う。
「あはは、いいひとすぎる、か。わるいひとより、ずっといいさ」
そして、真顔で俺をじっと見た。
「わかった。キミたちに免じて、剣三くんを信じよう。――ただし、さっきも言ったけれど、システムそのものが毒になることもある。だから、ギルドマスターとしてふたつ、指令を言い渡す」
白魚のような指で、順番にふたりを指さした。
「アルスラ。剣三くんの統治下で冒険者ギルドザルツオム支部を復活させ、毎月報告書を本部に提出すること。ラティーシャ、キミは剣三くんと専属契約を結んで、近くで剣三くんを見守ること」
つまり、見張りか。
「それ、ケンゾーさんと仲が良いボクで、いいのですか?」
「もちろん、キミたち込みで信じる、ってことだ。頼むぞ? あ、あとラティーシャは白金級に昇格な。手続きは本部でやっとくから、今日から名乗っていいぞ」
「えッ!?」
さらっと言われた言葉に、ラティーシャちゃんが鳩が豆鉄砲を食ったような顔になった。
「あ、あの、ボクが強くなったのは、ケンゾーさんの装備によるもので……白金級と言うには、あまりにもその、他人の力が大きいかと……」
「それでいいんだよ。白金級の条件は、あらゆる魔術と武技を操り、【ウィザーズ&ウォーリアーズ】のステータスがカンストしている僕に勝てる可能性を持つこと。そのために必要なものは、ただ一つ――別システム由来のナニカだ」
「で、では! 白金級の方々は、ひょっとして――」
「みんな、すごいの持ってるぞ。そのうち、会うこともあるだろ」
正太郎くんは立ち上がり、ぐーっと伸びをした。
「じゃ、そんな感じでよろしく。僕は本部に戻るよ。長老どもがギャーギャーうるさいだろうし、黙らせないと。アルスラ、ついて来て手伝って」
「アタシがぁ? 報酬弾めよ、クソじじい」
「おすすめの男娼のサービスチケットでいい?」
「ばか」
アルスラさんも、嘆息しながら立ち上がった。
俺も席を立ち、頭を下げる。
「ふたりとも、ありがとう。お世話になります。……お返しってわけじゃないけど、俺の作った武器とか防具とか、いるかい?」
「欲しい欲しい。予約しとくよ。珍しい素材もいっぱい持ってくる――また今度ね」
忙しい? ……ああ、そっか。
俺、これからファオネムの領地を、丸っと管理しないといけないんだもんなァ……。
ファオネムを『
今後の仕事が山積みであることに気づいた俺をよそに、正太郎くんは「じゃ、ばいばーい。『
帰還の魔術……ダンジョンRPGなら、ダンジョンから拠点に戻る魔術もあるか。
食堂にうっすらと漂っていた緊張感が薄れて、肩の力が抜ける。
いろいろ知れて、助かったけど……緊張したなァ。
でも、ギルドマスターの信頼も得られたし、緊張した甲斐があった。ほっと一息つく。
……ほっとすると、腹がぐうと鳴って、ラティーシャちゃんが笑った。
ちょっと恥ずかしくなりつつ、くすくす笑うラティーシャちゃんに、提案する。
「残りポイント、ほとんどないけど……約束通り、ラーメン食おっか」
「やった! わーいなのです!」
〈仕方ないな……。ラーメン食べ終わったら、また節約生活だからね?〉
もちろん、さっきも言ったとおり、ここからが始まりではあるのだが――。
今日くらいは、勝利の一杯を楽んでも、いいよな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます