第30話 魔女っ子超強化おじさん
ラティーシャちゃんから三角帽子とローブ、木の杖を受け取る。
「それでは、これらをケンゾーさんに提供するのです」
宣言と同時に、脳内でアナウンスが鳴り響く。
『装備:神秘の三角帽』『装備:知恵者のハイ・ローブ』『装備:古き
クラフトメニューを開いてみれば、レシピに新たな項目が増えている。
譲渡してもらうことで、クラフトレシピを解禁したわけだ。
ポイント交換で実体化できるのは、一度手に入れたことのあるものだけなので、ここからは自分の手を動かしてクラフトする必要がある。
派生表を確認し、最高レアリティの装備までに必要な素材をリストアップ。
……よし。
まずは『中間素材:終わりの魔導書』を三つ生み出す。
「あの、ケンゾーさん? その本から、ものすごい魔力を感じるのですが……」
〈フレーバーテキストは『魔術の極地に至り、魔術研究を終わらせた魔導師の記した書。』だね〉
「えッ!? 読みたいのです! 読ませてください!」
ワクワクしながら開いてみたが、日本語でも、この世界の言葉でもない言語で記されており、解読は困難だった。
せっかくなのでもう一冊生み出して、ラティーシャちゃんに預ける。
彼女なら、いつか解読してくれるだろう。
ともあれ、作業の続き。
『終わりの魔導書』と、実体化させた真っ黒な布状のアイテム『中間素材:夜のとばり』を『魔女鍋』に入れ、『中間素材:大魔女のシルク』を作成。
ラティーシャちゃんの頭のサイズにあわせて型紙を作って、ちょっとした金細工なんかであしらいながら三角帽子を縫い上げれば。
「まずは『装備:魔女の大三角』だ。『一流の魔女のとんがり帽子。かぶれば魔力がみなぎる。』らしいよォ。かぶってみて」
言うと、ラティーシャちゃんが、ずい、と頭を突き出してきた。かぶせればいいの?
おさげの頭にそっと帽子をのせると、ラティーシャちゃんは「ふぉお!」と叫んだ。
みなぎっているのだろうか。
「ぺたん子、どんな感じだい」
「みなぎっているのです!」
みなぎっているらしい。
ラティーシャちゃんは手をぐっぱぐっぱしながら、目をらんらんと輝かせた。
「おそらく、すべての魔術の使用回数が底上げされているのです! あとぺたん子って呼ぶな」
「……いやはや、恐ろしい性能だ。ケンゾーが甘チョロ……善良な人間じゃなかったらと思うと、ゾッとするよ」
甘チョロって言った? ……自覚はあるので、言い返したりはしないが。
「次はローブだねェ。ええと……」
二冊目の『終わりの魔導書』も『夜のとばり』とともに『魔女鍋』に入れ、『大魔女のシルク』を作成。
さらにその『大魔女のシルク』を『次元珪砂』『メカニカル合金インゴット』と一緒に『魔女鍋』で合成。
……魔女の装備だけあって、『魔女鍋』が大活躍である。
出来上がった『中間素材:次元魔女のファイバーシルク』を、また型紙にあわせて縫い上げ、三角帽子にあわせて華美になりすぎない程度の金細工で彩る。
「……あと、さっきから、どこから金を出しているんだい?」
〈基本素材だから、ポイント交換の中ではけっこう安いよ? ……つまり、無から生み出しています〉
「ぜんぶ見なかったことにして、家に帰りたくなってきたよ」
アルスラさんの呆れたような溜息を聞き流して、完成したローブをラティーシャちゃんに手渡す。
「『
「ふ、ふぉおお!?」
「こういう、ダンジョン最奥にだって眠ってなさそうな破格の装備を、ほんとうに無尽蔵に生み出せちまうのかい?」
〈ポイントは有限だから、無尽蔵ではないよ。あと五百万ちょっとしか、ないんじゃないかな。尽きたら、現物で確保できる素材からのクラフトしかできなって、最高レアリティ装備はほとんど作れなくなるね〉
「……あー。ポイントとやらはよくわからないんだが、つまりどういうことだ?」
〈なんやかんや、あと百個くらいは作れるよ〉
「……聖人指定が必要なわけだ」
さて、最後は武器だ。
ラスト一冊の『終わりの魔導書』を『エナジーコア』と共に『魔女鍋』に入れて、『中間素材:魔導演算コア』を作成。
別で生み出した『メカニカル合金インゴット』を炉で熱して、杖の形に加工する。色は……全身、黒と金で統一しているし、こちらも同色でシックな仕上がりにしておこう。
グリップを兼ねた飾り布を巻いて、先端のくぼみに『魔導演算コア』を嵌めこめば、完成。
「最後は『終極魔導演算杖フロンティア』――『演算補助AIが魔術の負担を劇的に改善。火力の大幅アップを実現した究極の魔導杖。』だってさ」
「ふぉおおおおおおおッ!?」
『魔女の大三角』『超越者の超越套』『終極魔導演算杖フロンティア』さらに『次元刀』で武装したラティーシャちゃんは、くるくる回転しながら全身を確認し、きらきらした目で俺を見た。
「ケンゾーさん! 試し撃ちしてきてもいいですか?」
「もちろん、いいよォ」
ラティーシャちゃんは鍛冶場の出入り口までダッシュし、ピタッと止まって、ダッシュで戻ってきて頭を下げた。
「ありがとうございます、ケンゾーさん! ボク、明日は頑張るのですよ!」
「こちらこそ、いつもありがとうね、ラティーシャちゃん」
魔女っ子は嬉しそうに俺に抱き着いて、五秒くらいぎゅーっとしてから、またダッシュで出入り口に駆けていった。
〈……見事にどさくさに紛れたね〉
「横顔、見たかい? 真っ赤だったよ、ウブだねぇ」
のほほんと話すファビとアルスラさん。
ハグされた瞬間から驚きで硬直していたおじさんだったが、しばらくしてから正気を取り戻し、オホンと咳を打つ。
「よかったら、アルスラさんにも、なにか作りましょうか」
「……そそられるけど、遠慮しておくよ。引退した身には、過度な武器になりそうだし、今回はアンタらの喧嘩だろ。必要なときが来たら、注文しに来るさ」
「わかりました。……必要なときが来ることをお待ちして……おります?」
「阿呆。武器なんか、必要なときがないほうがいいんだ。わかって言ってんだろ」
苦笑して、アルスラさんも出入り口に歩き出す。
「ちびっ子を見とくよ。テンション上がりすぎて、危なっかしい。アンタは……今度こそ、きちんと休みな」
はい、とうなずく。
俺の方の準備は『次元刀』の交換だけで済む。
トウモロコシをたっぷり食って風呂に入り、しっかり寝るとしよう。
明日は討ち入りなのだから。
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