第21話 返信おじさん
翌朝、俺たちはまたしても、食堂で茹でたトウモロコシを食っていた。
……トウモロコシ以外の食材の幅を広げたいなァ。
肉や魚やラーメンも食いたいけど、ポイント交換できないとなると、トウモロコシ一択になってしまう。
現状、自給自足可能なものは、水、回復ポーション、トウモロコシくらい。
野草もあるが、やはり動物性のたんぱく質が欲しい。
狩りや釣りにも挑戦してみるべきかもしれないが……それはおいおい。
まずは昨夜の件の振り返りが必要だ。
「雇った他人に手を出させて、テシウスくんだけ逃げた……ってのは、なんだか奇妙に思えるねェ」
〈相棒が
「様子見のつもりでもあったのでしょう。暗殺者がケンゾーさんの捕獲に成功すればそれでよし、失敗しても『闇討ちは困難だ』という結論は得られるわけですから」
ラティーシャちゃんはハムスターみたいにトウモロコシにかじりついている。
癒される絵だねェ。
「うまー。……つまりですね、『鎧を着ていないタイミングを狙っても、対応されるかどうか』の確認をしたかったのではないかと。ボクが思うに、テシウスは悪い意味で本気なのです」
「悪い意味で本気?」
「歪んではいますが、テシウスの行動原理は『敗者は勝者に従う』という、非常に冒険者らしいものなのです。強さを認めた相手には決闘を望み、それが女性であれば奴隷にして娶る――暗殺者を雇うのは、彼の行動原理から外れた行動なのです」
勝ったほうが正しいなんて、蛮族の風習かよ……と思ったが、冒険者とはそういう生き物らしい。
やっぱり、荒くれ連中みたいな感じなんだろう。
〈普段やらない行為をやるくらい、本気で相棒を狙ってるってことか。……ラティーシャ、昨日、奴隷たちがいないことを気にしていたね。領主に人質に取られている可能性って、ある?〉
「ケンゾーさんを資源扱いしようと企むような領主ですから、その程度はためらわないでしょう。……企む、というか、単なる暴走なのですが。理解しかねるのです」
「いやいや、ラティーシャちゃん。人間ってねェ、お金がなくなると理解しかねる行動しか、しなくなるものなんだよ」
借金がかさめばかさむほど、借金返済のために競馬に入れ込んだりする。
……俺にそういう経験はないが、住んでいたボロアパートで、そういう限界に達してしまった人たちを何度も見た。
借金取りに玄関から引きずり出され、どこかへ連れていかれるおじさんとかね。
ともあれ。
「テシウスくん、人質を取られて脅されているんだとしたら、かわいそうだねェ」
「かわいそうであっても、本気で襲ってくる相手に手加減はできないのです」
〈そもそも、ラティーシャをかどわかすために、ファオネムと手を組んだのはテシウス自信でしょ。自業自得だよ〉
「う、うん……そうなんだけどね……?」
ふたりとも、ドライだ。
このドライさが、俺には必要なんだろうなァ……。
しかし、要するに『領主サイドは本気で俺を奴隷にしようとしている』というわけだ。冗談であってほしかった。
「……領主と協力してティリクの森を開拓するっていうのは、もう無理かねェ」
「向こうが『奴隷にしてこき使ってやる!』という態度なのですから、協力どころじゃないのです。……冒険者ギルドに開拓依頼を仲介してもらうつもりだったのですが、必要なのは開拓の仲介ではなく、和平交渉の仲介かもしれないのですよ」
「おじさんとしては、それがいいな」
話し合いで解決できるなら、それに越したことはない。
冒険者ギルドに期待である。
食後、日課のランニングと素振りをこなし、ポーション片手に一息ついていると、城門からドンドンと大きな音がした。
「……また暗殺かな?」
〈暗殺なら、わざわざ扉叩かないでしょ〉
「ボク、見てくるのです」
ラティーシャちゃんが城門まで駆けて行き、小窓から外を確認し、すぐに城門脇のレバーで門を開けた。
ラティーシャちゃんに先導されてやってきたのは、背の高い、疲れた顔の女性だった。
……身長もすごいが、それ以上にプロポーションに目が行く。
豊満でメリハリのある女性を、ダイナマイトボディなんて言い方で表現した時代もあったが――おじさんから見ても古い言葉だ――まさにそれ。
青色の法衣っぽい服装を、内側からこれでもかと押し上げて、胸とおしりが大爆発している。すげー。
……いてっ。
「ケンゾーさん、見すぎなのです」
ラティーシャちゃんが背伸びをして、俺の頬をつまんでいた。
いや、失敬。たしかに、女性に対して失礼だった。
「ごめんなさい。申し訳ない、美人だったので思わず見とれてしまいました」
「いいさ。慣れてる。
「……ふんだ。ボクのは全然見ないくせに、大人な女性にはデレデレするのですね」
唇を尖らせて、そう言われても……ラティーシャちゃんは爆発の危険性が一切ない超安全対爆シェルターボディだし、下手すりゃ娘くらいの年齢の相手には、ねえ?
〈ファビのも全然見ないくせに〉
鎧のどこを見ればいいんだよ。
「まあ、いいのです。ボクは成長期なので。……ケンゾーさん、こちらは冒険者ギルド、グランバル領支部の支部長なのです」
「支部長のアルスラだ。よろしくな」
「あ、これはどうもご丁寧に。ケンゾー・イザヨイと申します」
しまった。こういうときに渡す名刺がない。
名刺もクラフトできるようにしておかなければなるまい。
こんな場所では悪いから、とアルスラさんを食堂へ招く。
グラスに水を入れて渡すと、彼女は勢いよく飲み乾して、一息ついた。
「さすがに、ティリクの森は緊張するねェ。これで、まだ鱗主がうろついていたらと思うと、ぞっとするよ」
「手紙のお返事なら、わざわざ支部長が来なくても良かったのでは……」
「鱗主がいないとはいえ、辺境だからね。ティリクの森を抜けられるのは、アタシくらいだ。返事を書くのもアタシだし、だったら直接話したほうが楽だろう? ケンゾー、アンタのことも見てみたかったしね」
ウインクしながら言うものだから、おじさん年甲斐もなくドキッとした。
二十代後半から三十代くらいまでの女性に弱いんだよなァ……。
ラティーシャちゃんのジト目が突き刺さったので、慌てて「ごほん」と咳を打つ。
「で、アルスラさん。お話というのは、この城の進退について、ですよね?」
「そうだ。冒険者ギルド支部長として、まずは結論を伝える」
す、とアルスラさんが居住まいを正した。
「ひとつ、ファオネム・グランバルはアタシら冒険者ギルドの仲介を断り、ケンゾーを『ティリクの森から生まれた資源』として確保する権利があると主張した」
うんうん。そこまでは、暗殺者さんに聞いた。
問題は、そこから。
おじさんの希望としては、冒険者ギルドに領主ファオネム・グランバル氏をうまくとりなしてもらって、おじさんの人権を確保しつつ、穏便に済ましてもらいたいのだが――。
「ふたつ。冒険者ギルドは、この主張に対し――一切の、介入ができなくなった。アタシらはアンタを手助けはできない。もちろん、ギルド所属の冒険者であるラティーシャも回収させてもらう」
――えっ?
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