第13話 農業おじさん
「今日から、農業を始めようと思う」
鱗主を解体した翌日の朝、俺は食堂でそう宣言した。
ちなみに、飯時だがファビを着ている。食いづらいので兜だけは外しているが。
……鎧を着けずに部屋から出ようとしたら、〈ふうん、相棒ってそういうことするんだ。へー。まあいいけど。ファビのこと道具程度にしか思ってないんだね。実際道具だもんね。都合のいいときだけ使うといいよ〉とネチネチ言われたため、着るしかなかったのだ。
重い。重量以外も、重い。
「農業? どうしたのですか、急に」
ずるずる、とラーメンをすすりながら、ラティーシャちゃんが首をかしげた。
それだよ、それ。俺やスライムくんも朝飯として食っている、それ。
「飯のたびにポイント交換するの、もったいないって思い続けてたからさァ。返事待ちの間に、せめて自給自足できる野菜くらいは作ろうかな、と思って」
〈しかも、ラーメンばっかり交換させてたでしょ。ファビ、ふたりの健康が心配〉
「いや、家系ラーメンは完全栄養食だから大丈夫」
「なのです。こんなにおいしいのに、体に悪いわけがないのです!」
ファビの呆れたようなデカい溜息はさておき。
「とはいえ、だ。【ソードクラフト】で手に入れられる農作物は、商人から毎月一定量を買い付ける、みたいな設定を組んで自動化するのが主なやり方だったから、基本的に自力じゃ増やせないんだよ」
〈交易商人自体がいないもんね〉
「ティリクの森なんて、商人が来るところじゃないのです」
そういうことだ。
ティリクの森の開拓拠点として、この城を解放することになったとしても、食料の安定供給はマストだろう。
〈それじゃ、相棒。クラフトポイント交換で、【ソードクラフト】の野菜アイテムを実体化させて、種を撒くわけだね?〉
「いや? そんな面倒なことしないが。俺に農業の知識はないし。詳しい人がいたら、おいおい試してみたいとは思うけどねェ」
〈……じゃあ、どうするのさ〉
「何事にも、例外ってのがあるのさ」
そう。【ソードクラフト】の農作物は、基本的には自力で増やせない――裏を返せば、例外的に増やせるものも、なくはない。
「コーンだ。トウモロコシなら、自力で増やせる」
「コーン……? たしか、南の方の、気温が高くて日が照っている場所で獲れる、黄色いつぶつぶの野菜なのです。西の港町で、船に積まれているのを見たことがあるのですよ」
〈コーンか。いいね。炭水化物が多いし、食物繊維も豊富だ。主食としても頼れる。……でも、なんでコーンだけは自力で増やせるの?〉
「コーンは、工業系のクラフトに必須でな。商人から買い付けると、額がえらいことになるから、自動化が許されてたんだと思うぞ」
コーンは、人間の食用、畜産の飼料用だけでなく、
城郭都市の整備にも役立つだろう。
ラーメンをすすり終わった俺は、席を立ち、兜を手に取った。
「ま、実際にやってみせるのが、いちばんわかりやすいでしょ。ラティーシャちゃんは、今日も『次元刀』の解析かい」
「……いえ。ボクも、今日はそっちを見学するのです。ちょっと詰まってて」
というわけで、朝ラーメンを終えた俺たちは、『大鍛冶城』の鍛冶場に向かった。
クラフトメニューからレシピを確認し、必要な材料を確認していく。
「クラフトポイントを節約するためにも、どうしても調達できないものだけ、交換するようにしないとな。……あとファビ、脱いでいいか? 動きづらいんだが」
〈……くすんくすん、ファビ、もう捨てられちゃうんだね……〉
「泣かしたのです! ケンゾーさんがファビさんを泣かしたのです! やーい! 泣かした!」
「わかったよォ……。着てりゃいいんでしょ」
溜息を吐きつつ、クラフトポイント交換で『中間素材:メカニカル合金インゴット』を実体化させる。工業系のクラフトに必須の合金だ。鉄や合金は採掘が必要で、現状、クラフトポイントで交換するしかないのが歯がゆいところ。
10万ポイントで『設備:なんでもプレス機』を実体化させ、壁際に設置。『なんでもプレスしちゃう機械。金属加工からせんべいまで自由自在。』という機械に『メカニカル合金インゴット』を挟み込んで、プレートを作成しておく。
次に、『魔女鍋』の近くに『設備:
30万ポイントと、小型の設備にしては値の張る一品だが、『魔女鍋』ほど使用機会が多くないんだよな……。
仕方ないが。一度、設置しておけば、以降はノーコストだしな。
「そんじゃ、コレに鱗主の肉をぶち込んでいくわけだが……ラティーシャちゃん、手伝ってくれるかい」
「いいのですよー」
昨日、解体後に歯車城の冷凍保管庫に運び込んだけど、長々と置いておくのはな……と思っていたのだ。
なんせ、冷凍とはいえ、生肉の類である。
食えるわけでもないらしいし、いつまでもしまっておくわけにもいくまい。
……冷凍庫といえば、『大鍛冶城』の動力ってどうなってるんだろうな。
ゲーム上の設備スペックでは、毎日二億エナジーを生み出せるはずだが……城の地下に、永久発電機関でも置いてあるのだろうか。
いや、そもそも、【ソードクラフト:刀剣鍛造】のエナジーって、電力なのか? それとも、魔力とかソッチ系なのか?
『鍛冶場系設備から供給される、他設備を動かすためのエネルギー。』という説明しかないから、正体がわからないんだよなァ。
……まあ、鍛冶場の炉も冷凍庫も問題なく動いてるし、別にいいか。
保管庫に備え付けてあった台車を使って鱗主の肉を運び、巨大ミキサーの中に入れる。
ひいこら言いつつ二人で十往復ほどして、ようやく、ぎゅるるる、という轟音と共に内部機構が回転し始めた。必要量に達して、加工が始まったらしい。
すぐにピーピーと電子音が鳴り、『生命価圧縮装置・極』の下部トレイに青い缶詰が転がり落ちた。パッケージにはデカデカとLIFEの文字がプリントされている。
『中間素材:圧縮ライフペースト』だ。
「あの、これは……?」
〈『圧縮ライフペースト』は『圧縮した生命力のペースト。使いやすい缶詰タイプ。』だよ。……たまに手抜きのフレーバーテキストがあるよね〉
なんの説明にもなっていないやつな。エナジーと一緒だ。
「で、この『圧縮ライフペースト』の中身と『エナジーコア』、それから交換した『万能モロコシ』を『魔女鍋』に入れて火にかけて、と……。『メカニカル合金プレート』も完成してるな。加工始めとくか」
『メカニカル合金プレート』をクラフトレベル任せでトンテンカンして、円形のフレームを作っていく。また、『中間素材:
今回作る設備は一軒家サイズなので、パーツごとに作って城郭都市まで運び出し、組み立てていくことにした。フレームを組み立て、『多次元屈折ガラス』で作った巨大フラスコを設置して……と、作業を進めていく。
最後に、『魔女鍋』内で融合させた、手のひら大の丸い球体、『中間素材:ソウル・オブ・トウモロコシ』を取り出して、フラスコの中に放り込み。
球体がみるみるうちに膨らみ、軽自動車サイズになって、自律回転を始めれば……。
「完成だ。『設備:
「ボクの知っている農業と絶対に違うのです……」
〈相棒、勢いで最高レアリティの設備作るの、やめたほうがいいと思うよ〉
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