第7話 魔除けおじさん
街の城門は、どうやら俺が「通してもいい」と思う相手に開くらしい。
城壁の外周を歩きながら、ラティーシャちゃんが教えてくれた。
「へー。そうなんだ」
「推測なのですが。スライムくんは入れて、ボクが入ろうとしたときは開かなくて、でも出るときは開いたので、基準は『ケンゾーさんが気を許した相手かどうか』かと。というか、なんで自分が出したものの仕組みを理解していないのです……?」
そう言われましても。
俺はフレーバーテキストしか知らないんだよ。
「まあでも、便利な仕組みだけど、結局……鱗主だっけ? ああいうの相手じゃ、城門なんて意味ないよな。ラティーシャちゃんも普通に乗り越えてきたし」
「適切な監視役と襲撃に対応できる人員がいれば、意味はあると思うのですが……」
「スライムくんに頼むか」
その辺をぽよぽよ跳ねているスライムくんたちに目を向ける。
うーん、癒しだ。
「……ちなみにだけど、スライムって駆除対象だったりしないよね?」
「まさか。汚れを食べて、浄化してくれる精霊種なのですよ? 街で飼う為政者も少なくないのです」
え、精霊だったのか。スライムくん、すごい。
感激の目でぷるぷるを見ている俺をよそに、ラティーシャちゃんは城壁のそばにしゃがみ込んだ。
小さな布袋に入った砂のようなものを盛って、火打石で炎を灯す。
あの砂が魔物避けのお香なのだろう。
「……わかってはいたのですが、城壁、長すぎなのです。多めに持ってきましたが、ぜんぜんカバーしきれないのですよ。燃え尽きたら効力もなくなるですし」
「仮拠点だし、別にてきとうでもいいけどねェ」
「このデカさで仮……?」
ジト目で俺を睨んでから、ラティーシャちゃんは砂の入った袋を俺に突き出した。
「なんでも生み出せるのですよね? お香も生み出してほしいのですが」
「え? いや、さすがにクラフト辞書にないもんは生み出せないんだけど……」
断りつつ、ひとまず布袋を受け取る。
うーん、どうしたものか。この世界独自のものは、どうしようもない気がする。
中の砂を指ですくってみるが、なんもわからん。
『クラフト素材:魔物避けのお香・低級を入手しました。』
……お? 脳内アナウンスが入った。
というか、素材扱いなのか、コレ。
「ラティーシャちゃん、ちなみにだけど、いまの聞こえた?」
「はい? なにがですか?」
聞こえていないらしい。
「いや、いいんだ。俺の脳内だけで響く音声の話だから」
「こわ……」
スゲェ目で見られたが、いまはさておく。
クラフトメニューを開き、素材派生を確認。
魔物避けのお香・低級からクラフトできるものは……。
「……ふむ。クラフトレベル500以上かつ薬剤師系設備設置状態で、【ソードクラフト】の『効能強化ポーション』と組み合わせれば、魔物避けのお香・中級、高級まで作れるのか。とりあえず作るか」
反射的に、クラフト辞書を埋める癖が出た。
500ポイントと交換で『設備:薬剤師簡易キット』を生み出す。
小さなトランクケースだが、中にはすり鉢や計量スプーンなど、必要な器具が詰まっているのだ。
中を覗き込んだラティーシャちゃんが、得心顔でうなずいた。
「ほほう、お香を調剤するのですね? そういう心得が?」
「心得はないけど、やり方はわかるよ」
俺はまるで熟練の職人のように、お香を細かく磨り潰し、50ポイントと交換した『中間素材:効能強化ポーション』を混ぜ合わせ、フラスコで加熱し……と、調剤していく。
なんというか、次の手順が自然とわかって、手が勝手に動く感じだ。
クラフトレベルの恩恵だろうか。レシピがあれば、体が動くらしい。
「で、それぞれ中級、高級な魔物避けのお香の完成、と」
「ボクのお香、けっこう値段したのに、低級だったのですね……。ていうか、あの、お香を強化してくれるのは嬉しいのですが……お香の量は変わらないのでは」
「いや、待って。まだ派生先があるんだ」
クラフトメニューから派生表を確認する。
『同世界由来のモンスター素材・上級』と『エナジーコア』と『魔除けのお香・上級』で、新しい設備系の派生が伸びている。
新たな要素の登場に、【ソードクラフト:刀剣鍛造】やり込み勢の血がうずきだした。
「ラティーシャちゃん、上級なモンスターの素材とか、持ってない?」
「そんなの、広場にいっぱいあるのです」
「え? ……ああ、あれか!」
早速、歯車城前の広場に戻り、鱗主の死骸から鱗を引っ張って剥が……せなかったので、次元刀で斬り落とす。
……指とか斬りそうで怖いな、この刀。切れ味良すぎなんだよな。
俺みたいな素人には、過ぎた武器かもしれない。
「で、『中間素材:エナジーコア』は、仕方ないからクラフトポイント交換で出して、と。あと『設備:上級建築士の工房』と『設備:
えい、と広場の端に設置。
空気を吹き飛ばして三角屋根の工房が実体化し、ラティーシャちゃんがしりもちをついた。
体重軽そうだもんな。もっとしっかり食わせないとな。
工房内に入って、魔女鍋もかまどの上に実体化させ、先ほどの素材を放り込んで火をつける。
さらに、備え付けの工具類と、壁際に積まれた石材をトンテンカンガキンガキンと組み合わせ、大きめの石灯篭を作る。
そうこうしていると、魔女鍋からボンッと煙が出た。
『中に入れたものを不思議な力で溶かし混ぜ合わせ結晶化させる、魔女の大鍋。カレーには不向き。』というフレーバーテキスト通りに、『中間素材:破魔結晶』が出来上がっていたようだ。
最後に『破魔結晶』を石灯篭にカチッと嵌め込めば……。
「……『設備:破魔の石灯篭』完成だ! いやァ、久々の新設備はテンション上がるな!」
フレーバーテキストは『あらゆるモンスターを寄せ付けない魔除けの石灯篭。でもいちばん怖いのはモンスターではなく人間。』と、なんだか製作者の闇をうかがわせる内容となっている。
……いや、製作者は俺だが。ともあれ。
「あとは量産して城壁に設置すれば、たとえ鱗主でも近づけなくなるはず……どうしたの、ラティーシャちゃん。お腹抱えちゃって」
「いえ、その、目の前で起こった一連の出来事と、完成した神話級のアイテムを見て、胃が痛くなってきて……」
「おなか痛いのか。早退する?」
「もうちょっと真面目な会話できないのです……?」
ラティーシャちゃんは体調不良らしいので、『破魔の石灯篭』の設置は俺ひとりでやることになった。
……せっかく作った石灯篭だが、運動不足のおっさんには重くて動かせなかったので、城壁に上がってからクラフトポイント交換で出した。
ポイントが目減りしていくなァ……。
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