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「知らない天井だ。」って一回言ってみたかったりしませんか?
ポットからティーカップに琥珀の液体をつぎながらそんなことを言われたので、なんとも反応に困ってしまう。その結果が言葉がなり損ねた曖昧な微笑みだったのだが、それがなんの気に召したのかあるいは最初から意に介してないのか満面の笑みを浮かべた女性はティーカップを1つ自分の前におき、もう1つを持ったまま向かい側に座った。ティーカップからはゆらゆらとした湯気が緩やかに空気にとけていく。添えられたティースプーンは控えめな光を溜め、手入れが行き届いているのがわかる。
「少しはおちついたかしら。」
コトン、という音と共に投げられた問いに頷きを返す。それは良かった、という返事と共に良ければ食べてねということばとお菓子が差し出される。それを脇にし、助けてもらった礼と所在と相手の事を問うた。女性は少し目を見開くが瞬きのうちに口元に三日月を招き、されど目の奥には猜疑を滲ませた。「相手に問うのならまずは自身も明かすべきだと思いますよ?」
考えてみれば当然の言葉に確かにそうだと答える。そしてだがしかしと続けた。だがしかし、自らを語るための土台が手の内にないのだと。記憶はあなたの前で目が覚めたところが始まりであり自分が何でどこの誰なのかもわからないのだと素直に打ち明ける。なにもないのなら、全てをさらけ出すのも作戦の1つだ。…早まっただろうかと不安になっていると声が降ってくる。
「…そう、なの。…あなたは私の要求通りに自らを明かしたわ。なら、私も応えなくてはね。」
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