お題「残り香」「深夜25時」

「残り香」「深夜25時」

ぽーん、という音で解けていた意識が集まってくるのを感じた。静かで心地よい闇に色がまじり、やがて像を成す。

明かりの押さえられた燭台、広げられた参考資料、乱雑に広げられたメモの用紙に、それを抑えるように置かれた硝子の小瓶の筆立てには桔梗色のリボンが結わえてある

。そして存在感を放つ書類の山。

なんてことない、いつもの風景。意識を飛ばす前と代わりのない風景に、いつも通りだなぁひとり苦笑をしつつ先ほどの音の正体である壁の時計に目をやる。

午前一時、を少し過ぎた頃。日の変わる時報の鐘は聞いた覚えがあるので、思ったほど時間はたってないようだ。

ぐぐ…と体をのばし、立ち上がろうとした。のだが、ぱさりと落ちた何かにそれを中断する。拾い上げ、それがなんなのか理解し思わず笑みをこぼしてしまう。彼がお守りとして持っている匂い袋の香りを僅かに残した銀と青の布。あぁ、彼はいつきたのだろう、眠ってしまっていて申し訳なかったな、あとでどう言葉を編めば彼は山の形に固めた額を緩めてくれるだろうかな


そんなことをつらつらと考えつつ、布を丁寧にたたみ脇に置くと、そのまま筆記用具を手に取り書類との格闘に戻ることにした

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る