第8話 揺らめく

「春になると川沿いの桜を病室から見られるんだ!」



あれから透羽とわと高台を後にして、帰り道も他愛のない話をしていたが、あたしはどこかうわの空だった。


自分の口から出たはずの言葉なのに、まったくそんな記憶はない。

テレビかなにかで病室からの景色を見たのか?夢でお散歩でもした?

もやもやはしばらく消えなかった。


家に帰ると母が晩御飯の支度をしていた。




「ねえお母さん、あたしって△△病院に入院したことある?」


中辛のカレーをつつきながら母に尋ねてみた。


「ないない、ないわよ~!あんた超健康だもん!!」


母があたしの肩をバシバシと叩きながら笑った。



「そう、だよね…」



やっぱり何かの勘違いかな。

似たような景色なんていくらでもありそうだし。



もやもやを洗い流すかのように少しきつめのシャワーを浴び、眠りについた。












また夢をみた。










あたしは病室にいた。


あの夢に出てきた、透羽の持っていた写真に映っていた、2人の少女が窓から景色を眺めている。


桜だ。


どくん、と心臓が跳ねるような感覚がした。



鼓動が速くなっていくとともに意識が遠のく。

フッと急に辺りが明るくなった。


今度はカフェにいた。


「まだ夢の中だ…」


ここはどこだろうと辺りを見渡そうとして、違和感を覚えた。


「ここ…」




「あたしが透羽と昨日来たカフェだ…」




店内には数組の客がいる。

店の一番隅にあの2人がいた。


クリームが山のようにこんもりと乗ったスフレパンケーキ。

フルーツがごろごろと乗ったパンケーキ。





「どういうこと…?」




はっとして目を覚ますと手にじんわりとした温かみを感じた。




ますます意味が分からなくなってきた。


あの2人はいったい誰?

どうしてあたしたちとリンクしてるの?

なぜあの2人の写真を透羽が持っているの?



「透羽に聞いてみる…?」



少なくともただの偶然では済まされなくなってきた。


この夢を最初に見た時は、誰かに見させられているのかもしれないなんて冗談交じりに思ったりもしたけれど。

これが何かのメッセージだとしたら?



最初に見た夢の場面をひとつひとつ思い出してみる。

教室、帰り道、病院、屋上……


1週間ほど前にみた夢にもかかわらず、割と鮮明に覚えているものだ。



思考を巡らせるなか、先ほどの夢の中で体感したような

どくん、という心臓の音が体に響いた。



フェンスを飛び越えて、はらりと舞う黒髪…。


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