第5話 欠片を集めて




あの日。

透羽とわが引っ越してきた日。


あの日見た夢に登場した仲睦まじい様子の2人の少女。



「透羽の知り合い…?」



前の学校の友達だろうか。

かといって、その写真の中に透羽が映っていないのも不自然だし、

写真の右端に印字されている文字を見てもっと衝撃が走った。



20××年×月×日



あたしが生まれるよりも前の日付。

当然透羽も生まれていない。




なんだか見てはいけないようなものを見てしまった気がして

透羽のカバンに写真をそっと戻した。





そうこうしているうちに透羽がお手洗いから帰ってきた。


「おまたせ~」

繊細なレースがあしらわれた真っ白なワンピースをなびかせながら

小走りでこちらに駆け寄ってくる。


あたしがもし男だったらとっくに落ちているだろう。



「この後どうしよっか?」


映画を観ること、カフェに行くこと、お互いの目的は果たしたものの、

時間もまだお昼過ぎだし、なによりももう少し2人で過ごしていたいという気分だった。



「あ、じゃあ…」

透羽が口を開いた。


「もう一か所、付き合ってもらってもいい?」






2学期が始まったばかりの9月、まだ暑さが残っているものの涼しげな風が通り抜ける。

あたしたちは高台から街を見下ろしていた。


「よく知ってたね。こんな場所。」

長年この街に住んでいるあたしも初めて来た場所だった。


「知り合いに教えてもらったの。人もあまり通らないし、穴場なんだって。」

ベンチに腰掛けてまったりと話す。



学校、さっき行ったモール、小さめのビル、公園…

決して都会ではないが、喧騒もなく人々がのどかに暮らしているこの街を

まるまる一望できる。



「そういえばあれ、お母さんが働いている病院だ。」



街よりも少しこちらがわに近い場所に建つ病院を指さし、透羽に説明する。



「あたしのお母さん、看護師なんだ。病院なんて何回も行ってるのに、裏にこんな素敵な場所があるなんて知らなかったや。」


透羽が少しだけベンチから身を乗り出してきょろきょろと辺りを見回す。


「病院、結構大きいんだね。あそこも他の場所に比べると高い場所にあるから眺めがよさそう。」


「そうなの!春になると川沿いの桜を病室から見られるんだ!」

ふと何気なく口にして、あれ?っと思った。









あたし、病室には入ったことないよね…?

























透羽はここ最近、ワタシに色んな景色を見せてくれている。

この街に戻ってきたのも全部ワタシのため。




ワタシもはやく○○を見つけないと…。

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