第4話 染まりゆく



「ふんふんふん…」

鼻歌を歌いながら、お気に入りの服に袖を通し、軽くメイクをする。


今日は土曜日。

実はと遊びに行く約束をしているのだ。


移動教室、昼休み、帰り道など、あれから2人で行動を共にすることが多くなった。


あたし自身、高校では誰とでも気軽に話すことはできるものの、

特定のグループとつるむといったことがなかったので、2人行動は新鮮であった。


約束の時間よりも少し早めに、とドアを開けると

隣の家のドアも同時に開いた。



「おはよう、なんだかデジャヴだね」

真っ白なワンピースを着た透羽が笑っていた。


…天使みたい。

友達にこんなことを思うのもおかしなことだが、

純粋に綺麗だと心からそう思った。



バスに数分揺られ、本日の目的地のショッピングモールへと向かう。

そこはこの辺では一番大きな商業施設で、割と昔からあるのだが、

ここ最近リニューアルしてきれいに生まれ変わったのだ。



今日の目的は大きく分けてふたつ。


まずはあたしの気になっている映画を観ること。

原作の小説を透羽は読んだことがあるらしく、

映画に付き合ってくれることになった。


次に透羽が行ってみたいというカフェに行くこと。

映画はお昼前に上映が終わるので、そのあとすぐにカフェに行くと良い時間だろう。



「おっきいモールだねえ…前に住んでいたところはちょっと田舎だったから、こんなに大きい施設は初めてかも」

透羽が大きな目をさらに見開いて、きょろきょろと辺りを見渡す。


「あたしもここより大きいところってあんまり行ったことないなあ~。はい、これチケット」

事前にネットで予約していたチケットを発券して、透羽に渡し、

指定されたスクリーンへ向かう。


あたしも透羽も、映画にポップコーンは持ち込まない派だった。

やっぱりどこか気が合うようだと2人で笑い合った。



上映が終わりシアターから出るや否や、

2人とも興奮が冷めきらず感想合戦になった。


「主人公の役者さん、原作とイメージがピッタリすぎた!」

「あそこの場面から伏線が張られてたんだね!回収見事すぎる」

「間の取り方が絶妙!息するのも忘れちゃいそうだった」


原作勢の透羽も、まったくはじめましてのあたしも楽しめた良作の映画だった。

どうやらシーズン2も今後製作が決定しているようなので、次回作も一緒に観に行くことを約束した。



一旦ショッピングモールから出て、すぐ裏のカフェまでやってきた。

透羽がSNSでおいしそうなパンケーキを見つけたらしい。


木造のあたたかみのある店内へと入ると、

初めて訪れたのにそうじゃないようなどこか懐かしい空気を感じた。


「なんか、懐かしい感じがするね」

「あ、あたしも同じこと思ってた。なんか実家みたいな安心感」


透羽も同じことを感じていたことにすこし嬉しさを憶えながら、

パンケーキを注文する。


透羽はクリームが山のようにこんもりと乗ったスフレパンケーキ、

あたしはフルーツがごろごろと乗ったパンケーキ。


「そんなにいっぱいのクリーム、しんどくならないの?」

「私、クリームならいくらでも食べられるよ?未波のフルーツパンケーキも美味しそうだね」

「あはは、食の好みはちょっと違うね」



パンケーキを食べ終わり、食後の紅茶も飲み終わって一息ついた頃、

透羽がお手洗いのために席をはずした。


すると、カバンからハンカチを出すのと同時に何かがはらりと落ちた。

「透羽、落としたよ」と声をかけようとするが、気づかずに席を離れた。


落としたものは写真だった。

戻ってきたときに渡そうと、拾ったものに目を落とすと衝撃が走った。

「あの人たち…」


その写真に写っていたのは、

いつかの夢で見た長い黒髪の子と明るい笑顔の子、2人の少女だった。

























用を済ませ、手を洗いながら鏡をちらっと見る。

「どうこのお店。やっぱり懐かしい?」

と誰かに話しかける。


「思い出のお店だもんね」

少し悲しげな眼差しの透羽が鏡に映る。

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