第3話 手と手を架ける




「体育館、購買室、図書館……と、こんな感じかな」


昼休み、あたしは透羽ちゃんに学校内を案内していた。


転校生にとってはお決まりのイベントではあるのだが、

あたしにとってはなかなかの勇気を振り絞ったイベントであった。


話は1時間弱前にさかのぼる。






午前の授業が終わって昼休み。

透羽ちゃんの机の周りは大勢が集まり質問攻めになっていた。


それどころか、美少女の転校生がいるという噂は学校中に広まり、

他学年の生徒も好奇の目で教室をのぞき込んでいた。




人ごみの隙間からふと、透羽ちゃんと目が合った。


彼女は肩をすくめてこちらに笑いかけた。

いや、あれは苦笑いかもしれない。




気が付くとガタっと立ち上がっていた。


「そういえば透羽ちゃん、先生が呼んでたから職員室まで案内するね」


わかりやすい嘘をついて、強引に彼女の細い腕を取った。




人気のない非常階段まで来てようやく、

自分がまだ透羽ちゃんの腕を握ったままであることに気が付いた。


「ごめん!強引な真似して…!」


急に恥じらいが込み上げてきた。


たった2日前に初めて会ったばかりで、

登校時に少し話しただけの人間が

出しゃばったことをしてしまった。



「ふふ…」

小さな声が聞こえて顔を上げると

彼女は口に手を当てて上品に笑っていた。


「ありがとう、未波ちゃん。実はちょっと困ってたから助かったよ」

ああ、よかった。

煙たがられてはいないようだ。

続けて透羽ちゃんが口を開く。


「未波ちゃんったら、さっきはすごい威勢が良かったのに、急に縮こまっちゃうから可笑しくて笑っちゃった。ごめんね」

華奢な首をクイッと傾げていたずらに笑う。

あざとい。

けれども不快になんて思わず、

こちらまで和んでしまうようなかわいらしさがあった。




その後食堂へ赴き、2人でお昼ご飯を食べた。

また他愛のない話に花が咲く。


「透羽ちゃんは休みの日、何をして過ごしてるの?」

「私は読書をしたり、編み物をしたりして過ごしていることが多いかな、

 未波ちゃんは?」

「あたしは映画見たり、ジョギングしたりかなあ」

「あ、映画観るの私も好きだよ。何かオススメあったら教えてほしい!」

「じゃあ、〇〇とか………」


ここでも話は尽きなかった。

いい時間になってきたので、校内を紹介しながら教室へ戻ることにした。



そして場面は冒頭に戻る。



「なんかごめんね、あたしばっかりと過ごすことになって」

透羽ちゃん自身が困っていたとはいえ、

昼休み中丸々連れまわしたことを薄々まずいと感じていた。


すると今度は真剣な顔をしてあたしに訴えた。

「ううん、未波ちゃんと話しているととても楽しいの。だから謝らないで」


美少女の真剣な顔もなかなかに美しい。

…いや、そうじゃなくて。

「あたしも、透羽ちゃんとは話が合うなって思ってたんだ」


ちょっと照れながら透羽ちゃんの方を見た。





それから、透羽と仲良くなるのに時間はかからなかった。

























スマホのカメラロールと、透羽から預かっていた写真を見比べていた。

こうやって見ると、やっぱり血がつながっているからか似ている気がする。

××と透羽の綺麗な黒い髪を撫でるように、写真にそっと触れた。

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