第24話 レニアーリス姫の華麗なる奴隷生活③
「…臭くてかなわん。」
レニアーリスは、女が投げつけてきた布切れを指で摘み上げる。最悪この布切れで体を拭こうかとも思ったが、少し顔に近づけるだけでとんでもない悪臭がするために、とてもそんなことはできそうもない。頼まれた自分の仕事をしようとしない女にも、そんな愚かな女に自分の世話を頼んだベルという男にも腹が立って、レニアーリスは隣にあるベッドに布切れを放り投げてやった。
「馬鹿な奴らめ。悪臭に包まれて寝るがいい!」
行儀悪く舌を出してやった。すると、グゥッとレニアーリスのお腹が鳴いた。結局まだ食事をしていない。城にいた時はお腹が空いたら好きな時間に好きなものを食べることができた。しかし今は生きるためになんでも食べなければならない。ルウィスに言われた通りに食事をするのは癪だが、食べておかないと体力がつかないし、何より無理やり口を開けさせられて食事を流し込まれるなど、レニアーリスのプライドが許さない。
ちらりと下に目線を落とすと、硬そうなパンに少しの肉と野菜のかけらが入ったスープが置いてある。
「食べるか…。」
レニアーリスは薄汚れたスプーンを手に取って、スープを口に運び始めた。
思った以上にスープは美味しかった。
「…あの兄弟が帰ってくる前に少しでも体力をつけておかねばならん。」
そう自分に言い訳をしながら、レニアーリスはスープを勢いよく飲み干したのだった。
しかし、数日経っても兄弟が部屋に戻ってくることはなかった。そして、そのせいでレニアーリスの生活環境は悪化の一途を辿っている。
「あんたなんかに食事は必要ないでしょ?」
「風呂?貴重な水をあんたみたいた奴隷風情に使うわけないでしょ!」
「あー、臭い。ルウィス様とベル様の部屋をこんなに臭くするなんて。あんたなんかお二人が帰ってきたらすぐに殺されるわ。」
レニアーリスの世話係の女はゲラゲラと下品に笑った後、部屋から出ていった。
「…醜い女だ。」
あの女は自分の世話もせずに、兄弟の部屋で自分の欲を満たしている。勝手にベッドに入り込んで、シーツに自分の体を擦り付けたり、ルウィスが座っていた椅子の座面にうっとりと己の顔を擦り寄せたりと頭が狂っているとしか思えない行動を繰り返している。そんな光景を数日間見せられているレニアーリスは空腹もあいまってか、吐きそうになってしまっているのだ。
「どんな拷問よりもキツイ…。」
あの女、早く死んでくれと思いながらレニアーリスは大きなため息をつく。食事をしていないせいで体に力が入らず、レニアーリスは鳥籠の中で体を横たえている。部屋には大きな窓があるものの、鳥籠からは窓の上部、青空しか見ることができず、ここがどこなのか全く分からない。
「あぁ、あのスープが食べたい。」
頭が全く回らないなかで思い出すのは、初日に食べたシンプルなスープ。空腹時に食べたからなのかもしれないが、城で食べたどんなものよりも美味しかった。あのスープを飲みたくて飲みたくてたまらない。飲ませてくれるのなら、あのいけすかない兄弟に頭を下げたっていいのだ。
「…早く帰ってこい。早くしないとお前の大事なペットは死んでしまうぞ…。」
レニアーリスは誰に言うでもなく小さく呟いて目を閉じた。
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