第23話 レニアーリス姫の華麗なる奴隷生活②

「じゃあこの子のことよろしくね。」


「かしこまりました。」


 レニアーリスは自分が入れられた鳥籠のまえで行われているやり取りを黙って眺めていた。


 茶色のふわふわの髪を1つに縛った目の大きな女。どこかあのエールカ・モキュルに似ているような気もするが、スタイルと顔の良さは断然目の前の女の方が上だった。


 副頭領の弟は、風呂に入れないことをレニアーリスに怒鳴りつけられるとなにやら思案顔で部屋から出ていき、目の前の女を連れてきた。副頭領がいる間はニコニコと笑顔を浮かべていた女だったが、男が部屋から出ていくと、レニアーリスを見て大きく舌打ちした。


「どうして私がこんな女の世話を!」


 苛立たしげに爪を噛む女。目を吊り上げてレニアーリスを睨みつけた。その様子がまるでアウラニクスに狂い、エールカを目の敵にした自分のようで、レニアーリスは自嘲気味に笑った。


 それを見た女は自分が笑われたと勘違いしたのか烈火の如く怒り出した。


「何を笑ってるの、この下賎な奴隷女!見た目だけは美しいかもしれないけど、あんたなんてただの奴隷で、男の性欲処理の道具に過ぎないんだから!図に乗るんじゃないわよ!」


「っ!」


 女が鳥籠に向かって汚い布を投げつけてくる。それはレニアーリスを閉じ込める檻に当たってベシャッと床に落ちた。ぐしょぐしょに濡れたそれは、汚れがこびりついており、異臭を放っている。


「ほら、体を拭きたいんでしょ?ならこれを使うのね。」


「こんなものでわらわの美しい体が綺麗になるとでも?」


 レニアーリスが怒りを堪えて言うと、女はケラケラと笑い出す。


「わらわ?美しい身体?あっはっはっ!何言ってんの、あんた?男に使われるだけのお人形が随分と偉そうな口をきくのね!あんたはいずれ高くで売られるのよ。今回、あの豚貴族に売られなかったのはルウィス様とベル様の気まぐれ。もっと高い額を提示してくる男がいればすぐに売られるの。」


「ルウィス?ベル?」


 聞きなれない名前にレニアーリスが困惑していると、女がニヤリと笑う。


「何?あの方々の名前も教えてもらってないの?それじゃあペットとも呼べないわね。どうせすぐにここから売られていくんだろうから、教えてあげる。ルウィス様は頭領、ベル様が副頭領よ。あのお二人を名前で呼ぶことができるのは、本当に信頼されている者だけなの。私があのお二人の名前を呼んでいる理由、賢そうなあなたなら分かると思うけど?」


 女が思わせぶりに自分の服の首元をはだける。そこにはいくつかのキスマークが散らばっていて、性的なことにあまり耐性のないレニアーリスは頬を赤く染めた。


 そんなレニアーリスを見て女は苛立たしげに舌打ちをする。


「純情なフリが随分と上手なこと。散々男を咥え込んできたんでしょうに!…まぁ、いいわ。ひとつだけ忠告してあげる。あのお二人のお名前は絶対に呼ばないことね。この前、調子に乗った踊り子の女がお二人の名前を呼んだらその場で斬り殺されてたわ。『お前ごとに俺らの名前を呼ぶ権利があると思うのか?』ってね。」


 女が言うことはあながち間違いじゃないんだろう。レニアーリスは2人が貴族の屋敷に火を放ち、皆殺しにしたことを思い出す。自分達がきにいらないことがいれば、容赦しない兄弟なのだろう。改めてそんな頭のおかしい兄弟に捕まってしまったことが悔やまれる。


 別に逃げ出して国に帰り、また姫の立場に戻れるとは思っていない。きっと国に帰っても、良くて再び国外追放になるか、悪ければ姫を騙った女として殺されるはずだ。もう自分は生きていてはいけない。死んだことにしなければ、アウラニクスが治める龍の国を敵に回すことになるのだから。


「分かったら黙ってその布切れで体でも拭いときなさい。恥知らずな奴隷女め!」


 女はレニアーリスに侮蔑の言葉を吐いた後、荒々しく部屋から出ていったのだった。


 

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