第22話 番外編 レニアーリス姫の華麗なる奴隷生活①

「はぁ、かぁーわい。」


「わらわを見るな!あっちへ行け!」


「うわぁ、子供みたいなセリフ。」


「ううっ…。」


「あ、泣いちゃった?可愛い。」


 ここ数時間、ずっと檻の外から自分のことを眺めている男。見るなと言っているのに、ずっとずっとーとひたすらに自分のことを見つめてくる。


 醜く太った貴族らしき男を殺した目の前の男は自分を攫った。貴族の屋敷には火が放たれ、おそらく屋敷の中にいたものは誰も生きてはいないだろう。そのぐらいの悲鳴が聞こえてきたのだから。


「ねーねー。どうしたら僕に懐いてくれる?貢物とかすればいいの?」


「…。」


「えー、次はダンマリ?ねぇ兄さん、どうすればいいと思う?」


「俺に聞くなよなぁ。」


 優男な弟が兄の方を振り返る。兄さんと呼ばれた数多の男たちから頭領と呼ばれる男は赤い布に金糸で豪華な刺繍が施された椅子に深く座り込んで煙草をふかしていた。


 攫われたレニアーリスが運び込まれたのは、どうやらこの兄弟の自室のようだった。部屋には黒檀の大きなテーブルがあり、上には古ぼけた地図やら本などが乱雑に置かれている。壁にはたくさんの本が並べられているほか、高価そうな調度品も飾られている。部屋の奥には大きなベッドがあって、レニアーリスを入れた大きな鳥籠はベッドの横に鎮座していた。


「うーん、女の子って何も言わなくて寄ってきてくれたからなぁ。どうすれば好かれるかなんてわかんないんだよねぇ。」


「俺も。」


 

(嫌味で憎らしい兄弟だ!)


 レニアーリスは黙ったまま、心の中で舌打ちをした。


 この部屋に連れ込まれて数日。この兄弟が何者なのかはまだイマイチ分かっていない。かわるがわる部屋に入ってくるこの兄弟の部下らしき話を聞くと、どうやら受けた依頼をこなす集団のようだが、どんな名前でどこに属するのかなど全く分からない。そう言う話になろうとすると、抜け目ない兄弟がもう一つの部屋に入って行ってしまうからだ。


「ねぇ、とにかく好かれるのはしばらく諦めるから食事だけでもしなよ。死んじゃうよ?」


 弟の副頭領がこてんと首を傾げる。見目麗しい男の可愛らしい仕草に一瞬見惚れてしまいそうになるが、レニアーリスはなんとかそれを堪えた。


「わらわに構うな!愚かな人間め!」


「お前さぁ、ほんとにそんなじゃじゃ馬の面倒見られるのか?前に見た目が気に入ったって言って囲ってた女も数日で飽きて飯もやってなかっただろ?餓死寸前になってたの風呂場で見つけたの俺だぞ?」


「今回は大丈夫だってば!ちゃんと面倒見るよ。ほら、新入りがペット飼っててさ。そいつにすごい懐いててなんか羨ましいなぁって思ってたんだよね。」


「…まぁ頑張れよ。」


 煙草を灰皿に押し当てて消した頭領は呆れ顔のままで立ち上がる。豪華な椅子に掛けてある外套を身に纏うと「ちょっと出てくる」と言って出口へと向かう。そんな男をレニアーリスがぼんやり眺めていると、部屋から出ていく寸前で男がこちらを振り返った。


「おい女。俺が帰ってくるまでに食事してなかったら無理やり口開けて流し込むからな。そんな無様なことされたくなかったなら、優しくされるうちにとっとと食え。」


「っ!」


「悔しそうだなお姫様?でももうあんたに優しくしてくれるような奴は誰もいないぜ?弟に捨てられて、部下たちの慰み者になりたくなけりゃあせいぜい弟に媚び売っとくんだな。」


「黙れ下郎め!!!」


「その勢いがいつまで続くか見ものだぜ。じゃあな。」


 後ろでにヒラヒラと手を振って男は部屋を出て行った。


「大丈夫大丈夫。捨てたりしないし、ちゃんとお世話するよ!えっとペットお風呂って週一回でいいんだっけ?」


 ヘラヘラと笑いながらとんでもないことを言う男を、レニアーリスは大声で怒鳴りつけたのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る