第21話 番外編 夢見たお買い物②


「可愛いわ、エールカ!」


「そ、そうかなぁ。」


 えへへと笑うエールカは、ミシュレオンに借りたドレスを身にまとっていた。外出用のものなので、豪勢な作りではないが、使われている生地などはとても質が良いものだ。胸元はクリーム色のシフォン生地に小さな花の刺繍があしらわれ、胸から切り替えられたスカート部分は汚れてもいいように木綿生地でできている。足元は編み上げの革靴、ふわふわの髪はサイドを編み込んで花の髪飾りで止めてある。


 そして、ミシュレオンもまたエールカと同じ装いをしていた。はじめてのお買い物、2人でお揃いの服を着て出かけたいというミシュレオンの願いから実現したものだった。


「さぁ、行きましょう!見るものがいっぱいあるわ!」


「うん!」


 2人がニコニコと上機嫌で屋敷の扉を開けて外に出る。


「エールカ、可愛いなぁ。ミシュレオンはやはり貴族だな、センスがある。」


「やぁ、ミシュレオン。そんな可憐な格好もとても似合っているな。エールカ、久しぶりだな。今日はよろしく頼む。」


 エールカとミシュレオンは思わず2人で扉を閉めた。


「…アウラはまぁ来るって聞いてたからいいとして、ロベルト様も来る予定だったの?」


「いえ、聞いていないわ。それに、エールカと会うことも話していないのに…。」


「おーい、せっかく迎えに来たのに逃げるんじゃねーよ。」


「きゃあ!」


 後ろから抱きつかれて、エールカが悲鳴を上げる。どうやって入ってきたのか、アウラがエールカの身体に絡みついていた。


「髪型もいいな。でも可愛すぎて他の奴らに見せたくない。今日は屋敷で過ごすってのはどうだ?」


「嫌です!今日はミシュレオンと買い物に行くの!もう、邪魔するんだったら帰って!」


「冗談だよ。ほら、行くぞお姫様抱っこ?」


「きゃあ!!こら、やめてよー!」


 アウラがエールカを横抱きにして、スタスタと歩き始める。


「ミシュレオン?どうかしたのか?」


「い、いえ!ロベルト様、どうしてここに?」


 扉を開けてロベルトがこちらを覗き込んできた。美青年がキョトンとした顔でこちらを伺ってくるという光景に、心がギュンと掴まれたミシュレオンが心臓を抑える。それを見たロベルトが慌ててミシュレオンに駆け寄ってきた。


「大丈夫か、ミシュレオン?まだ体調が戻ってないんじゃないか?今日はやめた方がいいんじゃないのか?」


「だ、大丈夫ですわ!ちょっとグッときただけです!買い物には絶対にいきますわよ!」


「そうか。では行こうか。」


「きゃあ!ちょ、ちょっとお待ちになって!何でこんな!」


「あまり喋ると舌を噛むぞ?」


 ミシュレオンもまたロベルトに横抱きにされて馬車に乗り込まれてしまった。


「よーし、揃ったな。じゃあ行くぞ。」


 先に馬車に乗り込み、可愛い可愛いとエールカをこねくり回していたアウラが外の従者に合図する。すると馬車がゆっくりと動き出した。


「ロベルト様、公務はいかがされたのですか?」


「ん?そんなものはとっくに終わらせている。ミシュレオンを一人で買い物になど行かせたらどんな危険があるか分からないからな。アウラニクス様が事前に教えてくださったおかげで今日来ることができた。」


「俺はエールカの護衛で忙しいからな。そいつのことまで守ってやる筋合いはない。」


「そういう言い方しない!」


 エールカがアウラの頬を思いっきり引っ張るが、本人は痛がるどころか嬉しそうにしている。


「とにかく買い物に行くんだろ?俺たちから離れるなよ?」


「ミシュレオン、君もだ。私のそばにいるように。」


「「はい…。」」


 どちらも至近距離から懇願され、エールカとミシュレオンは顔を赤くして頷いたのだった。






「エールカ!このお店は焼き菓子がとっても美味しいのよ!お土産に買って帰りましょう!あとあっちの衣装店は、繊細なレースとフリルが売りなのよ。採寸して色違いのドレスを作りましょう!そろそろお腹が空いてきたのではなくて?おすすめの喫茶店があるからそこでランチをとりましょう?」


「うんうん!分かったわ、ミシュレオン!」


「とっても楽しいわね、エールカ!」


「うん!!!」






「可愛いなぁ、俺のエールカは。」


「…。」


 アウラがはしゃぐ2人を見ながら呟く。隣を歩くロベルトは何も言わなかったが、ひたすらにミシュレオンを凝視している。


「なぁ、若き王太子よ。お前がこの国を継ぐのか?」


 きゃっきゃっと焼き菓子を選んでいるエールカを店の外から見守りながら、アウラが尋ねてきた。


「えぇ、私が継ぎます。腐った部分も私の代で一新できればと思っています。」


「そうか。お前はまだまだ未熟だが、魂の輝きは悪くない。そのまま努力を続けるなら、古龍の王としてお前を助けよう。」


「っ!ほ、本当ですか!?」


 古龍国との同盟を組むことができれば、国としてどれだけ心強いか。ロベルトがミシュレオンから視線を外し、アウラを見る。


「今すぐじゃないさ。国を安定させるために知恵を絞れ。努力しろ。民を愛せ。それができるようになったらまたお前に会いに来よう。」


「精一杯努めます。」


 アウラはニヤッと笑ってロベルトの頭をクシャクシャと撫でる。


「素直なのはいいことだ。まぁ、俺が来るより先にお前が古龍国に来ることになるかもだけどな。」


「それは?」


「俺とエールカの結婚式さ。」




「ちょっと、アウラ!勝手なこと言わないで!まだ番いになるなんて言ってないでしょ!」


 それを聞いていたらしいエールカが顔を真っ赤にして店から出てくる。それを見たアウラがにっこりと笑った。


「エールカ、愛してる。早く諦めてくれよ。」


「っ!!アウラの馬鹿ぁ!」


 アウラがエールカの腕をとって引き寄せると、その頬にキスをする。それを見たミシュレオンが顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。


 エールカはジタバタと暴れてアウラの腕を外し、全速力で逃げ出す。アウラは楽しそうに笑いながらそれを追いかけていった。



「…ミシュレオン。こんなことで顔を赤くしていたら耐えられないぞ?」


「っ、ロベルト様!!!」


 ハハッと笑ってロベルトもミシュレオンを優しく抱き寄せたのだった。


 

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