釣り師の後悔 〜晩秋の海であいつと出会わなければ良かったんだ〜
山村久幸
あいつと出会ってなければ……
ここはとある漁港のある街の酒場……。
ロマリオは
「お客さん? そんなきつい酒を瓶でとは
「ああ、良いんだ。それより聞いてくれよ?」
「まあ、愚痴を聞くのも仕事だから聞くさ」
酒場のマスターがロマリオの注文を
「俺はな? ここから西に歩いて半月ほど離れた所のひなびた漁村の出身だ。俺はな? 釣りで稼いでたんだ」
「ほう? となるとブロゲアの村か……」
マスターはロマリオの出身の村を推測する。
「そうだ。ブロゲアの村で生まれ育った。俺はな? ガキの頃からの幼馴染で、その流れで結婚した妻、メリアがいたんだ。子どもが生まれる前は美人でな? でも子どもを生んでからはブクブクと太ってな? それでも気立てもよくってな? 俺はそんなメリアを愛していた。そして、8歳になるジュリアと5歳のニック。いつも俺に
「ふむ。いい家庭だな?」
これまでの幸せな日々を語ったロマリオが
「そんな日は長く続くと思った……」
「続かなかったんかい?」
「ああ。半月前、俺は
「何があったんだい?」
マスターは質問を挟むことで話を続けるように促す。ロマリオの表情は苦しげだ。
「その前日の天気は知ってるだろう?」
「ああ、
「ああ、そういった日の次の晩は魚が大量に釣れるんだ。だがな?」
「うん? そんなに釣れなかったのか?」
「いや、釣れたさ。大量に……。でも、釣れてはいけないのも釣れてしまった」
「何が釣れたってんだい?」
ロマリオの話に深い興味を示したマスター。これは只事ではないんだろうなと思いながらも話を促す。ロマリオは今まではちびちび飲んでいた酒を一気に
「なあ? マーメイドって知ってるか?」
「ああ、下半身が魚なやつか?」
「ああ。それだ。それが釣れた。それはそれは美人でな? 若かりし頃のメリアなんて目じゃないくらいの。マーメイドだから胸は露出してるだろう? その胸はたわわでな?」
「するってえと何だい? マーメイドと何かあったのかい?」
「ははは。あったなんてもんじゃないさ……。俺は余りの美貌に相手が下半身が魚だと言うことも忘れてな……、つい欲情した」
「お客さんも若いねぇ。俺じゃあ、そんな気力もないさ」
「マーメイドは俺に微笑みかけて誘惑してきたんだ……。そのたわわな胸を手で揺らしてな……。俺はそれを見て全部脱いで襲いかかった」
「まあ、そんなことされたら襲いかかりたくなるのは仕方ないのか?」
マスターは自身も元気になるのを感じて「俺もまだ若いのか?」と思いながら話を促す。ロマリオは思い出しながらも下半身を熱くしていた。
「まあ、マーメイドとの交わりは夜が明ける直前まで続いたさ……。そして、夜明けの別れ際、俺と熱い口づけを交わして海へと消えていった……」
「それで、それとここに来た時のお前さんの
「ははは。あのマーメイド、俺の下半身にとんでもないものを残していきやがった」
ロマリオは乾いた笑いをこぼす。そして、グラスの中身をまた一気に
「何を残してったんだい?」
「髪の毛だよ。深緑色の長い髪の毛をだ……」
「するってえと……バレちまったんかい?」
「ああ。帰ってきた後にな……。ホロリとズボンの下から落ちてな……」
「それは
「ああ、物凄い
我が身に降り掛かった災難を語るロマリオ。マスターはロマリオに同情する姿勢を見せる。
「これはまた……、何でそんなに怒ったんだい?」
「村を出る前に話を聞きつけた村長から言われたよ。『二度と会うことはないから言うが、マーメイドと
「ははは。
「ああ、もう悔いても遅いんだ。馬鹿なことをしたものだ」
ロマリオは酒を
Fin
釣り師の後悔 〜晩秋の海であいつと出会わなければ良かったんだ〜 山村久幸 @sunmoonlav
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