第42話:内戦3


 一時小康状態だったが、再び内戦は激化した。

 単純に戦の規模が大きくなったのだろうとのこと。

 小康状態だったのは兵士も人の子だからだ。

 小休止の一つ位はあるようだ、内戦中なので完全な戦闘状態解除とはならないみたいだけど。


 一度はすっからかんになったテント内の傷病者は急増中だ。ということもあって、第四救護テントに合流して活動していた同僚達も第五救護テントに持ち場を戻している。


「—―《再生》」


 目の前には眼球破裂、頭蓋骨折、胸部に裂傷、右腕は消失。

 —―うん、良く生きてるな。


 意識は失っているようだが、これでも生きているって流石異世界。夥しい出血量もあったのか、顔色も悪い。真っ青だ。

 わたしの方まで真っ青になりそうだわ。

 

 応急処置済みの患者ばかり相手にしていた3日間のせいで、グロ耐性値でも下がってしまったか。

 

 少し気分が悪くなりながらも【回復魔法】でささっと治していく。考えるな、わたしシルフィアは【回復魔法】を使えばいいのよ。

 自分に言い聞かせるように、黙々と患者の治療に取り掛かる。


「—―次、こっちね!」

「はい!」


 赤札を回収し、シシリアの下へ馳せ参じる。

 

「—――《再生》」

 

 全く、キリがない。再び重傷者の治療に取り掛かり始めた時。



 ドォ―――ン!!!!


 外では物凄い音が聴こえてきた。

 何かが爆発でもしたのか、そして再び。

 テントの入り口を破って、何かが吹っ飛んできた。

 

「ぐぅ――。」


 護衛騎士が吹き飛ばされてきたようだ。

 テントの入り口に目を向けると、そこには見覚えのある緑髪赤眼の筋骨隆々長身男がいた。わたしの肌は粟立った。

 

「お、アタリか?」

「—―バルバス……?!」


 向こうも気づいたみたいで、薄笑いを浮かべてくる。ということはバルバスで確定だ。全然見かけないと思ってたけど、バルバスのクソ野郎は敵陣営の密偵スパイだったようだ。

 バルバスがテント内に一歩踏み込んできた。


「侵入者よ、魔法防御展開!!」

「させるかよ!」


 散っていた回復魔法師達の二組—―四人はテントの入り口近くにおり、襲撃者バルバスに捕捉され、剣で刺し貫かれてしまった。

 

 それを見て、わたしは瞬時に

「(《自動照準》)—―(《再生》)」


 心臓を刺し貫かれた程度だ。即死は仮死状態と同じだ。

 回復魔法師として仕事をしてきて、そう理解している。

 瞬間的な死など瞬間的に治療してしまえば良いのだ。

 恐らく即死は一定期間戦闘不能状態みたいな間があるんだろうね。《蘇生》を発動するまでもない。殺したと思い込んでいる襲撃者バルバスは倒れ伏している彼女等には目もくれないのが証左だ。

 だから斬られた四人は、もう大丈夫だろう。


 問題は、この男だ。元凶を絶たねば被害者は増えていく一方である。幸い、後方ではシシリア達が合流している。

 人数が減った分、魔法の発動は遅くなるだろう。わたしは集団魔法を使ったことがないから時間稼ぎをしなくてはならない。


「《三重雷トリプルライトニング》」

「ふんっ!」 


 ライトニングの三重重ねをいとも容易く切り裂いてしまう。雷って剣で斬れるのかよ。

 異世界技術ファンタジーっておっかねえ……。

 でも斬撃を何故飛ばしてこないのか。

 そこまでする価値のない者として見られているのか。

 舐めプか?ええ?でも今回は歓迎だ。

 

 バルバスは未だテントの出入り口付近。

 シシリア達はテント中央。

 僕はバルバスとシシリア達の間。

 後退は許されない。


 何か手駒は――と辺りをちらとだけ見て遅ればせながら、護衛騎士にも《再生》を掛けておくがこいつが肉壁になる前にわたしがズタボロにされる未来が見える。


「《三重炎雷トリプルファイアボルト》」


 二属性ならどうだ。

 刀身がブレる程の速さで魔法を切っている。

 こちらも残っているリソースを最大限割いて攻撃を加える。

 確実に襲撃者は前進してくる。魔獣バルバスめ!

 レベル差もあるわ、【回復魔法】に魔力供給源リソースの一部が割かれるわで、思うように有効打を決めきれない。

 

「—―ふん!!!!」

「—―――ぎっ!!!!」


 魔法を放つ格好—―両腕をバルバスに向けて突き出して魔法を放ち続けた。  

 一直線に僕の方へと向かっていたバルバスに――両腕を斬り落とされ、真横に蹴り飛ばされた。

 

 何度斬られようと痛いものは痛い。激痛だ。蹴り飛ばされてテントを突き破ってしまった。肺の中の空気が強制的に出され、一瞬呼吸困難に陥る。涙で視界が滲んでいたが、破れたテントの隙間からバルバスがシシリア達に突っ込んでいくのが見えた。

 間に合わなかったか。

 効かないと分かっていても肉壁として時間は稼いだ。


 スキル効果再生により両腕は治り始めている。

 ただ少しいつもより回復が遅い。

 敵の持っている呪武器のせいだろう。


『—――《物理障壁》』

「—――ガキィ―――ン」 

 

 押し戻されるバルバス。

 やったか。寸での所で間に合ったか。

 盛大に舌打ちをしているものの、あっさりと引き返していく。


 そして目が合った。

 視界が滲んではいるが分かる。此方を見ている。

 わたしはシシリア達の魔法範囲外。

 守りがない。

 

「(《幻惑》)、(《不可視インビジブル》)、(《隠蔽ハイド》)」

 

 咄嗟に隠れたが、意味はあっただろうか。

 —―なかった。


「—―ぐふ。」


 お腹に剣が刺さった。

 とてもじゃないが動けるだけの余力がなかった。

 

 わたしは掛けていた魔法が全て解けた。

 バルバスに意識を刈り取られたわたしの視界は暗転した。


 


―――――――――――――――――――――――――


 目が覚めると、どこかは不明だが室内にいた。

 近くには誰もいない。辺りは滅茶苦茶暗い。

 松明の一本もない。魔石灯の一つもない。

 意識を失ってどれほど時間が経ったのかも不明だ。

 魔力回路が刻まれた――ぼんやり発光している手枷・足枷がご丁寧に取り付けられている。よく分からないが魔力が吸われているのは分かる。差し詰め魔法師専用の拘束具だろう。だが、吸い取っている魔力は微々たるものだ。

 そして五体は満足だ。

 両腕は生え揃っている。神様には感謝しかない。

 わたしはこの世界の神スキルに何度助けられたかもう数えきれない。いや数えたくないだけだけど。ぶっちゃけ神兵になっても良いレベルだ。こんなことなら攻撃…は欲張りかもだけど回避スキルの一つでも強請ねだれば良かったわ。


「さ、どこかな。」


 連れ攫われてしまったが、言うてランバルト海洋国内だろう。

 転移門的な魔道具や、長距離移動の魔法でもない限り。

 あるのかなぁ、その手の魔法。

 無くても開発出来たら、ひとっとびじゃん。

 あれ、そしたら脱出どころか家まで速攻帰れるじゃんね。

 ぐふふふ。

 

(ま、現実逃避もここまでにしないとなぁ。)


 魔法を発動しようとすると、枷が吸収してしまうことに気づいて現実逃避してしまったのだ。

 普段は全然吸収しないのは、自然回復分より少しだけ低く吸収されているのかもしれない。

 じんわりと全快はするので、魔力枯渇にはならないけど魔法を無理に使うと減ってしまう。

 

 奪われたものはないかと探ると、腰に付けていた偽用魔法鞄フェイクが奪われていた。

 実際、普段から魔法鞄はアマンダに持たせていたし、今はロレーネと一緒に行動しているので、本物の海洋王国産の魔法鞄はロレーネが回収していると思われる。

 

 シルフィアが腰に提げていたのはただの布袋である。

 ではなぜただの布袋を腰に提げていたのか。

 それは彼女が使える【収納魔法インベントリ】の隠蔽のためだ。

 袋に手を突っ込むことで魔法鞄を使っているように見せかけるための物なのだ。


 奪われても痛くも痒くもないが、気を失っている間に身体をまさぐられたのかと思うと反吐が出そうではあった。

 これが身体的に成長していたらと思うと、ぞっとする。


 とりあえず、壁まで下がることにした。

 ごつごつとした床を這いずり回って探索する趣味はない。

 造りは石材だ。ステータスのちからまでは封印されてない筈だからと、壁をぶっ叩いてみる。

 結果は、びくともしない。効かないか。

 ぴょんぴょんと壁伝いに探索するも結構大き目な部屋で、出入り口は良くみる牢屋の鉄格子で塞がれていた。

 鉄格子で完全に塞がれているので、どうやってここに放り込めたのかは謎だ。

 そしてこの格子も引っ張ったりしてどうにかなるようなものではないことが分かった。

 これは……どうしようもないか。


 待つこと1刻……は経ったのではなかろうか。

 時計がないし、陽の光も入らないのでね?

 感覚でしかない。


 ぐぅ~……。

 お腹減ったなぁ。

 水も御飯もないか。


「あのー、だれかー?」


 呼びかけてみた。

 ………。

 ………。

 ………。

 ふむ、応答なし。

  

 放置プレイってか。

 勘弁してほしいわ。

 その手の趣味はないんだけどなぁ。


 取り敢えず、もう一周部屋を隅々まで探索することにした。

 壁伝いにしか探索していなかったので内部については知らない。ベッドもなければトイレもない。

 留置所ってこんな感じなのかな……。


 ぴょんぴょんと飛び回っていると中央?に丸テーブルとベルが一つ置かれていた。

 目が慣れても暗くて一寸先は闇だというのに。

 こんなのに気付けるわけないだろう?

 でもこれを鳴らせばいいのかな?

 枷が邪魔で仕方なかったけど両手でベルの取っ手を持って、勢いよく振る。


『ガチャ……キィィィ………』


 何処からか扉が開くような音がした。

 油が差されていないのかキィィと音が鳴っている。

 足音が鮮明に聴こえるようになり此方に近づいてくるのが分かる。

 

「起きたか。」


「……。」


「……。」


 鉄格子の向こう側で佇む男は緑髪赤眼のバルバスだ。

 ただ奴も隻腕になっている。

 どうやらわたしを拉致しようとして手傷を負ったようだ。

 ざまあないな。

 こちとら合計三本も腕チョンパされてるんだ。

 一本で済んでマシだと思えよ。

 睨み続けてもどうしようもないので、だんまりもやめることにする。


「わたしに何をしてほしいんです?」


「してほしいことなどないが?」


「つまらない嘘ですね。」


「……どうして嘘だと?」


「救護班の同僚魔法師達は簡単に斬って捨てていたのにわたしは両腕を斬られはしましたが、トドメの一撃はせず、蹴り飛ばしましたよね?そしてわざわざ腕一本と引き換えにしてでも連れ去りたかったのを見れば、してほしいことがないわけないですよ。」


「お前、本当に子どもか?」


「ええ、れっきとした四歳児ですよ。今年の春過ぎには五歳になりますが。生きていたらね?」

 

「……はぁ。では、単刀直入に行こう。お前は他者の手足を治せるそのチカラで治癒してほしい人間がいる。そいつを癒せ。」


 そんなこと?とは思ったけど、普通に頼めばいいじゃんとは口が裂けても言わない。

 軽口叩いて治せませんでしたじゃ殺されるだろうしね。


「患者の容体は?手足の欠損ですか?それは怪我によるものですか?呪いですか?はたまた病気?」


「俺は医者ではない。」


「知らないと?」


「……呪いか病気だ。」


 曖昧な返答に意味が分からなくなる。

 まあ、百聞は一見に如かずともいうしな。


「治せるかどうかは善処するとしか言えませんが、治した後は命を保証してくれるので?」


「治せるならな。」


 うむ。約束を守るかどうかは分からないが取り付ける事には成功した。

 もう用済みだって斬り殺されたら諦めるか。

 短い生だったよ。


「取り敢えず、手枷足枷取って貰えます?それと飲み水を出しますが、攻撃の意図はないので悪しからず。」 


「ああ。それでいい。どのみち片腕でもお前のことなど斬り伏せることは出来る。加減は出来ないかもしれないがな。」


 反抗するつもりはないけど、したら殺すってか。


「勝てないのは分かってますので大丈夫ですよ。」


 全力でも掠り傷だろうな。ってのは分かってるんだよ。

 レベル5以上に違いないのは明白だ。


 魔力があるだけで使いこなせないとステータスを上げても意味ないよね。ってよーくわかったし。


「—――ふぅ。」

 

 手枷足枷を外してもらい浴びるように飲んでやった。お腹も水膨れした。

 お腹ぽんぽん状態だ。

 こいつがいなければオーク肉で焼き肉したってのに。

 因みに鉄格子は鍵みたいなモノに魔力を込めて鉄格子に翳すと―――上下の天井と床の窪みにすっぽりと埋まり、出入り口となった。妙にハイテクノロジーである。


 わたしはバルバスの後をついて歩く。

 牢屋を出て、左の通路をひたすら真っ直ぐ歩くと突き当りの右壁に扉があってキィィっと音を立てながら開いた。

 開いた先にはすぐ螺旋階段があって登ることになった。

 どうやら地下牢だったみたい。

 螺旋階段を上り切った先にも扉があり、そこを開けると普通に家の中だった。

 ただ、地下空間より家の方は小さかった。

 カーペットが敷いてあるので我が家より圧倒的に上質ではある。魔術師塔でもカーペットは敷いていない。

 なんとなくこの上を土足で歩くのは躊躇われた。

 敷物の上を、ましてや家の中を土足で歩く習慣はないからしょうがない。

 マリア達の家は地面が地面と一部木材だったから靴は標準装備だし。魔術師塔も石材だけど靴は標準装備だった。

 

 まあ、前を歩くバルバスも靴を履いてるし、気にするだけ無駄か。地下空間程の大きさはないにしても広い家に違いないのに使用人などはみかけない。

 一人くらいみかけてもいいのに、と思わなくもない。


 二階に上がり、左右に広がる通路を右へ突き進む。

 最奥まで行くとドデカい二枚扉がある。取っ手は金細工で加工されたライオンが輪を加えていて、その部分だけで幾らしたんだよって感じの豪奢な造りで感嘆した。


 バルバスは相当な成金趣味なのだろうか。裕福な人はお金の掛け方が違うわ……。

 根っからの庶民派シルフィアにとっては前世ですら実物を見た事のない富に度肝を抜かれてしまっていると。


「着いたぞ。この先だ。」


「あ、はい。」


 そりゃそうか。

 立ち止まった先—―扉の奥に患者がいるのか。

 相当ふくよかか美姫か。

 展開的には美姫であれ微姫であっても許す!でぶぅはやめてくれぃ!!


 扉が開かれると、最初に思ったのは――暗い。

 そして、鼻をつんと刺激する異臭が漂ってきた。

 

「はいるぞ。」

「はい。」


 一歩、一歩と踏み出すと刺激臭はより強まっていく。

 スメルハラスメントですよ。

 異世界にはないか。

 てか、魔物という人類共通の敵がいるのに国家同士でも争ってるんだもんなぁ。

 次の世界があるなら、せめて種族間での争い諍い程度で国レベルの喧嘩っていうか戦争はない所にいきたいですはい。

 

 くぅ――――!!!現実逃避もままならぬ臭さの元凶に近づいていく。

 ベッドに案内されているんだろうけど、未だ誰が寝ているのかは不明だ。

 ベッドの主は寝ていると判断したのは部屋に入っても、誰?の一言もないから勝手にそう判断しただけだ。


「このこだ。」


 近くでよーくみると、ぬめぬめしているようにみえる。

 何の体液だろうか。ジェルでも吐いたのか?

 よーく目を凝らす。するとぬめぬめの中に少女?のような緑髪長髪の人がぬめぬめに浸かっていた。手足はなかった。四肢を捥がれた達磨人形、いや愛玩人形にも見えた。

 

「あの、このぬめぬめは?何かの薬剤ですか?」

「いや、この体液は元は彼女の一部だったものだ。」

 

 バルバスの言った事を反芻して、脳に理解を促す。

 言葉の意味が解って、ぞっとした。

 呪いなのか病気なのか。

 確かに分からなかった。

 いや、呪いだと信じたい。病気ならお手上げだもの。

 


「—―《再生》、《解呪ディスペル》」


 《再生》効果は間違いなく発揮された。なかった手足は復元されつつある。だが、顔色は悪いままだ。

 

「《浮遊フライ》、《清浄クリーン》、《消臭デオドラント》《温水球》」


 身体を浮かせ、衣服はずるっとぬめぬめに持ってかれたので思わぬ全裸展開になってしまったけどそれはご愛嬌ってことで。

 身体をとにかく綺麗にする。温水は何となく魔法で綺麗にするのも大事だけど、実際にお湯で綺麗にしたいんじゃないかなって思ってのこと。

 

「ガウンの一つでも用意してください。妙齢の女性ですよ。」

「あ、ああ。」


 クローゼットがあるらしく、そこから白のガウンを被せてあげている。


「暗すぎて、ちゃんと顔色の変化とか分からないので明るい場所へ移しましょう。」


 わたしがそう提案すると、バルバスは黙って、浮いていた彼女をお姫様抱っこする。

 

「一応、呪いなら《解呪》をしておいたので効くと思います。ですが、解呪不可の呪いもしくは病気なら病状の進行が初期段階に戻っただけです。因みに【回復魔法】では病気までは治せません。」

 

「………。」


 部屋から出ると、終始彼女に釘付けのバルバスの器用な片腕お姫様抱っこがなんていうか、言葉にはしにくいがもやもやしたのでバルバスの腕も治してやることにした。


 別室で様子を見ていると、やはり彼女の容態は良くなっていないようにみえる。

 身体が治った分、痛いのか身体を掻き抱くように苦しんでいる。


 解呪不可系の呪いか病気だった場合の対処法は一つだ。


「これはどうやら、わたしでは解呪出来ない系の呪いか病気の類のようですね。」

「おまえの【回復魔法】では治せないのだろう?」


 落胆の色が見えるが、殺すつもりはないらしい。

 まあ、わたしがいれば延命できるからだろうけどね。


「ええ、なので殺しましょう。」

「は?」


 ぶわっと嫌な汗が噴き出る。殺気だ。殺すぞてめえってやつだわこれ。ああ気を抜くと漏らしちゃうわ。


「殺して蘇生します。大抵の病は患者が死ねば、死にます。もしこれが呪いでも同じです。死ねば対象に掛けられた呪いは自然に消えるはずです。だから一度殺しましょう。」


「おまえ、蘇生まで出来るのか?」


「ええ、出来ますとも。心配なら何か動物でも用意してください。」


「………。」


 無言で立ち去るバルバス。

 五分もしないうちに鹿みたいなのを縊り殺して持ってきた。

 首があらぬ方へ向いて亡くなっているのである程度、元の位置に戻してやり、《再生》からの《蘇生》を発動させた。


「—―?、!!」


 鹿みたいなのは、ぽけっと起き上がって、仰天し逃げようとするところをバルバスに首根っこを締められ、気絶した。

 

「どうですか?」

「……。よし、やれ。」


「—―《冷凍フリーズ》—――――《蘇生リヴァイヴ》」


 凍死させてから、自然解凍後に《蘇生》させた。

 肉体的には仮死状態で半刻さんじゅっぷんほど放置して、病も呪いも恐らく消えてなくなったであろう時機に。

 《蘇生》させた彼女は安らかな寝顔を晒している。

 でも用心するに越したことはない。まだ様子見だ。


「まだ安心してはいけません。確実に治った事を本人にも聞いて確認しましょう。」


「当たり前だ。」


 あたりまえだって、アンタだいぶ安心し切った顔してましたが?スマホあったらこれが証拠ですけど、って見せてやったよ。



「それじゃ、なんかあったら呼んでください。余ってそうな、隣の部屋でも借りますから。」


「ああ。」


 いや、いいんかい。

 まあ、良いというなら部屋を借りるがな?

 隣の部屋もそれはもう豪華ですけど、本当に貸すんか?

 わたし、一時は地下牢にいた女よ?

 あ、腕直したから余裕って訳かね?

 まったくよぉ。

 感謝なんてしないんだから!!


 ベッドに罪はない。

 わたしもわたしだが、余りの寝心地の良さに秒で寝落ちるのであった。

 

 

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