第40話:内戦2

 忌々しい事に、ゲヘナシュタイン率いる北都勢力とフィリア率いる東都勢力の力は拮抗しているようだ。

 幸いな事に、領境に転がる屍は、ほぼ北都軍のものらしい。東都軍勢力は即死に限り、捨て置いているようで回復魔法師が救助活動兼、護送している為、負傷者の割合は同程度の被害が出ているものの死傷者の割合は比較的少ない。


 戦闘が長引けば長引く程、数的有利になる此方が有利になるはずなのだが、戦場というものはそう簡単には上手くいかないようだ。敵の士気は至って高い上に、武器が《カース》という厄介な特性を持っているのだ。


 《呪》とは一重に言っても様々な効果があるが、今回敵の使用武器には負傷者の治癒阻害という厄介な特性を持っていた。

 そのため、軽傷者でも時間経過で出血状態が続くことで戦闘不能状態に陥ったりしてしまうのだ。

 この《呪》という特性は《解呪》出来る。今回の場合であれば、純粋な回復量そのものが、《呪》が阻害許容出来る効果範囲を逸脱した【回復魔法】で治癒すれば治すことが出来る。シルフィアの場合は、《解呪ディスペル》という魔法を編み出しているので、無駄に効果の高い――魔法消費量の高い魔法を使う必要性がなく解呪でき、治療が出来る。

 

 

 敵の質もさることながら、武器性能も高い為、思うように東都軍は押し切れないでいる。

 それでも長期戦では勝ち筋が見えているので、武器性能が負けていても敵同様此方の士気も、高いままだ。

 そうなってくると不可解なのは敵の士気の高さだ。

 此方は長期戦になればなるほど有利だと木っ端の兵士ですら理解しているから分かる。

 敵の士気が依然高いままなのは、何かしらの策があるから。と思うべきだろう。

 ただ、それが何か、までは考えても分からないのだけれど。


 そんな事を考えながら、赤札の重傷者の手当に励みつつ、隣の黒札を回収して—―仮死者に《蘇生リヴァイヴ》と《中回復ハイヒール》で無理やり傷口等塞いだ昏睡状態の生者にしておく。

 呼吸が安定している事を横目で確認して、意識を目の前の赤札患者に全力集中する。何かしら不都合があれば、他の回復魔法師が何とかするだろう。知らんけど。


 こういった事をしているので、第五救護班のテントに運ばれる死者は異様に少ない。

 全員助けてないのか?!って思ったそこのあなた。それは無理だ。何故なら気づかれないように処置しなければならないからだ。気づかれないように《蘇生》しなくてはならなくなった原因は遡ること内戦直後の話にまで戻る。

 



『ビビビビ――――――――!!!!!!』

「これって――?!」

「どこかしらに攻め込まれてるみたいね?」


 急報が東都全土に鳴り響く。

 それは戦争の知らせに他ならない。

 シルの疑問はミレーネによって語られた解に困惑の色を深めることになる。

 幾重にも張り巡らされた見張り台から鳴る緊急事態警報音によって領土侵攻されている合図だと判明した。


「攻めてきたってどういうこと……?」


「北都にいるゲヘナシュタインが攻めてきたってことよ?」


「いやいやいや、だって正当性ないですよね?やるなら東都こっちじゃなくて西都あっちやらなきゃでしょう?汚職に塗れた王の肩持っちゃう辺りぶっ飛びすぎでしょう……。」


「そうよねえ。いくら同派閥で多少の懇意があったにせよねぇ。」


 南都はジルバレン殿下が統治していたので、仮想敵領は北都と西都。隣接している敵領は北都であるため、二人は疑う事をしない。そしてその前提ともいえる読みは至極尤もで且つ正しかった。

 シルフィアが何故これ程迄に困惑を極めているのかと言うと、喫緊の情勢でいうと、西都で違法奴隷問題が発覚し、民と王が険悪になっており、三都では西都のような事が起きていないか徹底調査を行う程、民に寄り添った融和政策を打ち出していた。

 勿論東都と南都は隅々まで虱潰し、湧き出た害虫を一匹残らず駆除した。その強制催眠と《自白剤》どちらも使われた公開尋問にも応じたことで、ジルバレンとフィリアは潔白であると証明されている。

 それがたった一週間前のことである。

 西都のような腐敗政治が行われていない事を確認できた民達は、漸く落ち着きを見せた生活に戻った所だというのに。


 

「申し上げます。北都よりゲヘナシュタイン殿下が挙兵!我が東都に攻め入る為、軍を派兵した模様!フィリア殿下が戦線への配置について相談があるとのことで、至急お二人への呼び出しには応えて頂きたく―――。」 

「分かったわ。すぐに行きましょう。」

「はい。」


 魔術師塔の中庭にいた僕達に走り寄ってきた衛兵から言伝を聞き入れると、すぐに中央の王城へ向かった。


 女中メイドにフィリアの執務室に案内を受けると、そこには既に戦闘衣装に身を包んだフィリア・ランバルトの姿があった。


「戦線の配置について、話があるそうで――。」

 ミレーネが話を切り出す。


「そうだ。とはいっても、既に配属は決まっている。お前達には救護班に回ってもらう予定なのだが異論はあるか?」


『いえ。』


 あるわけない。安全第一よ。


「さしあたって、シルには死者の復活も頼みたい。シル自身、隠したいだろうし、余りにも強すぎるチカラを見せつければ、間違いなく後方にすり抜けた敵兵はシルを狙う事だろう。」

「それは嫌ですね…。」


 流石に嫌な顔が出てしまったので、取り繕う事をせず、素直に胸の内を語ることにした。


「はは。そうだろう?だから上手く隠せよ?全てを救おうなど考えなくていい。第一救護班の指揮をミレーネ、第五救護班の班員としてシル、お前を配属する。」


「殿下、それではわたくしの指揮下にシルを置いた方が、何かと都合がいいのでは?」


 ミレーネの提案にフィリアは即頭を振って否定して答えた。


「それは無理だ。流石に過剰すぎる。ミレーネ自身が優秀なのだぞ。第一救護班に強力な回復魔法師がいると知られれば、それはそれで狙い撃ちにされかねん。敢えて、第一と第五に離して振り分けたのは、集中して敵が集まらんようにするためでもある。理解してくれ。」


「……フィリア殿下の命、承りました。」

「承りました。」


「そういうことだ。では、いくぞ。」

『はっ。』


 納得のいく説明を受けた僕達はこうして後方支援に組み込まれたのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――


 というわけで、しれっと死者を復活させながら、重傷者の対応をしているシルフィアです。

 

 敵を欺くならまずは味方から。

 シルの魔法については、知らない方が身の為である。

 知ってしまえば、情報目的に誘拐され、拷問、尋問、手段など問われることなく吐かされてしまうだろう。

 この世界には倫理観はある程度あるものの、犯罪者や敵対者に対しては何でもアリなのだから。

 

 

 運び込まれてくる新しい負傷者や、休息を経て再び戦場へ赴く者が入れ違う。

 本気で魔法を掛ける余力はないが、再び戦場へ挑む兵には【雷属性魔法】の《身体強化ストレングス》を掛ける。

 長時間—―以て二、三日程度の限りなく弱い強化魔法だが、その少しの差が命運を分けるかもしれないので、お守り代わりにだ。シル自身が前線に出て戦わないことへの罪悪に駆られてという側面もある。

 レベル2というこの世界では――というよりこの内戦で出張ってくるような猛者へいし相手だとカスミソみたく弱いと自負しているのでしょうがないのだが。

 

「(弱くってもアマンダもケルンもロレーネ先生と一緒に何かしてるんだよね。)」


 別口だが、一緒にランバルト海洋王国に保護された彼等もレベル2にも関わらず、危険な任務に出ているらしい。

 それを鑑みると、少しばかり胸がズキっと痛むのであった。


「(無事に帰ってきてね。)」


 シルフィアはそう願わずにはいられなかった。

 


 ―――――――――――――――――――――――――――



 街道から逸れれば木々に囲まれ、足場は悪い獣道に早代わりする。

 東都と北都を繋ぐ森林地帯—―その樹上を軽妙に音を立てずに進む魔法師集団がいる。

 彼等の目的は敵を側面から叩くこと。

 木々には白い葉が生い茂っている。それに隠れるように薄緑の小さな新芽も実はぽつぽつと見受けられる。真っ白な衣装に身を包めば、スキルや魔法なしで隠蔽型擬態カモフラージュも可能となる。冬の季節もピークを越え、春に向けて季節が移り替わろうとする様が木々の葉々から感じ取れる。

 

「(こんな事しなきゃ、もう新芽の赤ちゃんが出てるなんて知りもしなかったよ)」


 都市街サース出身で、木の実や薪集めのお手伝いをしていた彼女アマンダも流石に春の兆しを目の当たりにしたことはなかったようだ。

 弟のように可愛がっているケルンに目を向けると、真剣な面持ちでじっと見返してくるので、そっと頭を撫でてあげる。

 ケルンは少しだけ頬が弛むが、すぐさまキリっと表情を引き締め直して前方に視線を移す。弟分であるケルンは《敵情視察》という魔法を特訓期間に叩き込まれ、今ではこの通りしっかり使いこなしている。そのケルンが前方に注視しているので、お次は私の出番だ。


「……《雪風》」


 ぼそりと呟き、魔法を唱える。

 微々たる量ではあるが、視界不良感が多少増す程度の雪と風を広範囲に生み出した。敵からしたら雪が逆風に乘っての行軍となる。

 アマンダがやったのは地味な嫌がらせだ。

 嫌がらせを確認した我らが先生、ロレーネが視認出来た敵に向かって―――


氷獄の眠り籠コキュートス

 

 ふぅっとロレーネから吐息が漏れる。

 視認することは出来ないが息が拡散されているのだろう。

 敵の足取りが覚束なくなり斃れ、倒れ、伏す頃には辺りの雪となってしまって見えなくなった。

 跡形もないというのはまさにこのような魔法を言う。

 私が視認出来ただけで、三十やそこらの敵兵士が寝落ち寸前の稚児のような足取りになって、倒れたと思ったらそこには雪しかなく――消えてしまったように見えた。

 ※眠り籠とはこの世界の揺り籠のようなもの。


 役割としてはケルンが索敵、アマンダわたしが撹乱、ロレーネ先生が撃滅する。

 鮮やかな御手並みに、少々気が弛む。

 敵が打ち倒されるまでの間、張り詰めた緊張感が漂っているので致し方ない。

 

「そろそろ交代の時間ね。私達も休憩しましょ」


 どうやらこれで一旦休めるらしい。

 ロレーネ先生から休憩の指示が出たので、配置場所からそう遠くない人工崖へと引き返す。崖下まで下ると、そこはわたし達三人が崖内部に掘った空間—―【土属性魔法】によるものだが、三人が寝泊まり出来る程度の広さがあって中々に快適な野営地となっていた。

 天井には穴が三つ程開いており、その上には木が載っているが、中が空洞で外と繋がっているのでそこから換気が出来る。

 自然と調和が取れており、崖から何から即席で作られたものだとは到底分からないようになっている。

 

 余りにも魔法規模が違うので、目の前の光景を未だに信じられないでいる。

 

「んふふ。そんなに何度も顔引っ張っても現実よ?」

「あ、ごめんなさい。」

「謝る事はないわ。さ、入るわよ。」


 羞恥に顔を染めながら、崖の中の野営地に入る。

 中は至って簡素で、魔石灯と呼ばれる灯りが一つ、魔石燃料型暖房機が一つ、入り口からは到底入らない――、縦幅2.5メートル横幅3メートルのワイドキングサイズのベッドが一つ、小棚タンスが二つ、簡易シャワー室が一つ、簡易トイレは別室にして区切られている。

 これらはロレーネが持っている魔法鞄マジックバッグに常携行しているものらしい。内戦が近いということもあって、準備は入念にしていた模様。

 簡易シャワー室は大たらい、給水樽が接続されているシャワーヘッドが一本付いているだけのものだ。水は自給自足だし、シャワーヘッドに風と火の魔石を入れて活用するので、並みの冒険者達には扱えないものだ。

 予め大量の浄水用水を持ち運ぶなら、可能である。

 本来は欠陥品だが、ロレーネが使うとなると話は変わってくる。


「—―《大水ウォーター》」


 樽その物が直系2メートル、高さ1.8メートルもあるのだが、少し零れる位の量が一瞬で注ぎこまれた。


「さ、シャワーに入りましょう?」

『え…?!』

「?…ほら、早く脱ぎなさい?」


 気づけばロレーネ先生は豊満かつ一切の妥協を許さない引き締まった身体が露わとなっている。それを一切を隠そうとせず、わたし達の方を振り向いて呼びかける。

 とっくに衣服の全てを脱ぎ捨てていた事にも驚愕を隠せない。

 そして、自分の身体と見比べる。


「(……うぅ、わたしはまだ6歳だもん…。)」


 同じ女として、ロレーネここを目指したいとは思うものの自分の貧相な寸胴体型に嫌気が差す。

 

 (シャワー、気持ち良かったなぁ。)


 入ってしまえば身体はすっきり爽やか。爽快である。

 湯冷めしないようにちゃんと髪の水分を【生活魔法】で吹き飛ばしてもらい、新品の服に着替えた。

 汚れた下着等の服は洗濯籠に纏めて入れ、ロレーネ先生が魔法鞄に回収していた。

 因みにロレーネもガウンだけは羽織って貰っている。

 一応戦場なので、何があるか分からないからガウンだけは羽織ってください!って懇願して勝ち得た結果だ。

 本人も神妙な面持ちでしっかりと検討に検討を重ねた上での判断なので、決して渋々受け入れてくれた訳ではない。

 そう渋々ではなかった筈だ。苦慮の結果だ。


「それじゃ寝るわよ。」

『はい。』


 夜の時間――12時間が僕らが与えられた休息時間だ。

 子どもというのもあって、睡眠時間を配慮して貰っている。

 まあ、それだけではないのだが。一つの要因ではある。

 宮廷魔術師長ロレーネは味方前線を押し上げ、後方の退路を確保するために従軍している。

 ロレーネが幾ら強かろうと戦場の全てを押さえることは出来ない。退路の一つ、敵軍の侵攻の防波堤の一つにしかなり得ない。

 よって最も効率よく敵を倒し、味方を送り出し、また退路の確保を行うため、一番危険な進軍の要所を彼女は率先して守っていた。

 ということもあって、睡眠時すいみんどきを優遇しているのだ。

 

 如何せん侵攻をかける予定が、逆侵攻にあってしまったので此方は必要以上に守りを厚くせざる負えない。

 彼女の討伐数は凡そ六百を優に越える。

 初手で不意を食らったものの、領境で戦闘が行われているのは、ロレーネ達の奮闘のお陰であった。



「おはようございます…」

「あら、早いのね。まだ後2刻は寝てていいのに。」


 だいぶぐっすりと寝れた。二度寝できなくもないけど、そうすると身体が怠くなる。わたしはそれが嫌いで起きることにした。  すると、わたしが起きた事に気づいたようで、隣で上半身を起こした態勢のロレーネが時計を見て告げてきた。

 この時計は針が長いのと短いのがあって、それが指し示す十二個の数字の内どれを指しているかで今の時間が分かるというものらしい。

 何でもシルちゃんがフィリア大公……あ、夏には女王様になるんだっけ?女王様に教えて、女王様がロレーネ先生に教えて、それを鍛冶職人に持ち運びしやすいように作らせたのが、懐中時計らしい。この時計とやらのお陰で、わたし達は、十二じかん分、しっかり休むことが出来ている。

 短い針が一周するまでは休めるみたいで今は9の数字を少しだけ過ぎた辺りだ。

 うちにあった時計は砂時計。全部の砂が落ちると5分経ったことが分かるモノしかない。数字から数字までの移動に砂時計なら12回も測らないといけないのだけれど、これは見ているだけでいいんだって。魔石製で、動いているらしく、とても高価なのだとか。剣なんかに使う金属で出来ているっぽくわたしでもこれが高価な物だと分かる。

 ランバルト海洋王国は技術がすごいのかもしれない。でも、それを知ってたシルちゃんもすごい。シルちゃんって……本当に田舎者かな?都会っ子だと思ってた、わたしよりも詳しいし、魔法も上手なんだよね……。

 二歳もわたしのほうが年上なのに自信なくしちゃうよ。

 


「どうしたの?……ご飯食べる?」

「あ、はい。いただきます。」


 ロレーネが魔法鞄マジックバッグから、干し肉と黒パン、革水筒を手渡してくれる。わたしは先生と同じように、上半身を起こして、朝食たちを一旦膝の上にのせた。


 先ずは干し肉を少し齧る。これは少しだけ齧るのがポイント。お腹が空いたからって、丸かじりすると硬くてとてもじゃないけど嚙み切れない。でもほんの少し齧って引くと、糸みたいに細いお肉になる。そうすると、柔らかくなって食べやすい。噛めば噛むほど、塩っ気も出てきて、涎がたくさん出てくる。お口の中が、良い具合に湿ってきたらパンをちぎって、一口サイズにして食べる。この黒パンも中々に硬いし、口の中の水分を吸ってしまう。その対策……っていうか食べ方をロレーネ先生が特訓期間の時に教えてくれたんだよね。

 

「ふぁ~。おはよう。」

「あら、ケルンもおはよう。」

「んぐん…。おはようケルン。」


 熟睡中だったケルンも起き出した。

 まだ寝ぼけまなこなのか瞼を擦って、半覚醒状態みたいなぽけーっとした顔をしている。

 最前線の戦場でこれほどゆったりしているのも中々珍しい光景だろう。

 

 準備を着々と進め、今日も言われた通りに働くのみ。

 ケルンも早速敵情視察を使って気配を探っている。この《敵情視察》という魔法は、味方以外の生物反応を正確に把握することが出来るらしい。確か味方の人達の事を知っておくとかなんとか言ってたきがする。この魔法で何か異常がないかの確認だ。もしかしたら前線が後退ないしは崩壊しているかもしれないしね。わたしは、朝一番のこの時間が最初の緊張する時間でどきどきするから嫌いだ。


「……大丈夫みたいです。」

「そう、良かったわ。それじゃちょっと早いけど持ち場に付きましょうか。」

『はい。』


 気配を探ることを欠かさないケルンの側で補佐サポートするのが持ち場に付くまでのわたしの仕事。

 要は何かあった時に守れってことらしい。

 そのための魔法—―《濃霧フォグ》というのも習って習得済みだ。

 視覚阻害と魔法探知阻害が出来るらしい。

 第六感が優れた一部の化け物にはバレてしまうみたいだけど、基本的には逃げたりする分の時間稼ぎには有用な魔法らしい。

 

 わたしは戦うより逃げて逃げて逃げまくって安全を確保したいタイプなので、この魔法を教えられた時、一生お世話になる魔法だと確信した。自然現象に干渉するような魔法は難しいらしい。

 けどわたしはすんなり覚えられた。何故かはロレーネ先生もよく分からなかったみたい。

 わたしはただ船旅中、お風呂場で湯気塗れになってる時にシルちゃんが、『これは霧だね。』なんてことを言ってたのを思い出しただけ。


 濃霧が発生するには、その付近の空気中の水蒸気(気体となっている水)が 水蒸気としていられない程に湿った状態になることが必要となる。 それには気温が下がるか(冷却)、結露し始める温度(露点温度)が上がるか、 またはこの二つが同時に起きること。 空気中に含みきれる水蒸気の量は、気温の低下とともに減少する。 そのため、空気が水蒸気を含みきれる温度以下まで下がると空気は完全に湿って 「飽和状態(湿度が100%)」となり、余分な水蒸気は小さな水滴となる。 また、露点温度が上がるということは、湿った空気が供給されることで、空気は飽和状態になる。 この小さな水滴が光を散らばらし(散乱)たり、 反射や吸収して見通せる距離が1km未満になった場合が「濃霧」となるわけだ。


 図らずしもアマンダはシルの言っていたことをちゃんと覚えていた事で、知識と現象が《既知》判断されたお陰で――十分条件を満たしたアマンダは《濃霧》という魔法の習熟速度がシルフィア並みに劇的に上がっていたのだった。


 

 というわけで、アマンダの《濃霧》は既に一線級の人物でさえ看破するのは困難なものとなっている。


「—―《雪風》」

氷獄の眠り籠コキュートス


 アマンダは一帯を追い風と雪のカーテンで味方を覆い隠す。

 ロレーネの攻撃から逃れる術は敵にはなかった。

 此方の奇襲防衛戦は見事にハマり続けた。


 ―――――――――――――――――――――――――――――


「ゲヘナシュタイン殿下、報告です。奇襲部隊、敵後衛部隊と討ち合い全滅した模様です。」


「諸君達、この結果をどう捉える。」

 

 伝令兵の報告を受け青筋を浮かべた北都現当主ゲヘナシュタインは軍議の場で自らに仕える将軍達に投げ掛ける。


「後衛部隊に攻撃自体届いているのであれば、向こうも少なくない犠牲が出ているのでは?」

「それなら敵の守備位置が変わらないのは可笑しいのでは?」

「確かに。後衛を一時的にでも下げるべきであろう。回復魔法師が貴重なのは向こうも同じだろう。」

「然り。」

「ただそうなると、我ら北都軍の奇襲攻撃は然程効いていないということになりますが……。」 


「それだけフィリアの軍は後衛の守りが手厚いという事か?突破され、痛手を被った我が軍の守りは脆弱であったと?」


 ゲヘナシュタインが最後に口を挟み、話を一旦まとめた。

 ここで一旦、場が静まり返る。空気は最悪だ。将軍達の顔色は良くない。

 敵奇襲部隊は任務の性質上情報を持ち帰る事より、特攻して打撃を与えるというのが本懐であったのもある。

 情報が足りないので、憶測で現状を量るしかない。


「東都は虚勢で戦線を維持している可能性は?」

「ゲヘナシュタイン殿下の出撃時間に比べ、フィリア様の方が長く戦線においでですよ。それを踏まえた上で戦況は互角—―。」

「武器の質は間違いなく此方が上、フィリア様が出張っているせいで、互角に見えているだけやもしれません。」

「敵総大将であるフィリア様も王族ですし、領境での戦闘は終始防衛戦—―消極的な動きとも言えます。此方に攻める余裕がないしろ、その位は可能かと。」

「仮に虚勢なら後衛の支援なくして戦線は保てませぬ。そのうち戦線の後退か、士気は……なら低下しても可笑しくないですな。」

「虚勢であるならば特攻部隊を更に組んで、より苛烈に攻め上げるべきでは?」

「虚勢でなく十全な対策を以て対処されていたなら無駄死にぞ?」

「そのような事を言い出しては、攻めるのも攻められんぞ。」

「報告では敵後衛部隊まで此方の手は届いているのであろう?届かずして殲滅されたならまだしも相手の陣地にまで潜り込めているのなら、やはり一定数の効果はあったとみて良いのでは?」


「ふむ。—―では作戦は効いているものと仮定する。ただし、東都戦線の後退が見られない以上、敵後方支援の守りは固いと看做す。既に耳にしている者もいると思うが、国王陛下が西都を血の海にしてしまわれた。制圧…ではないな。民を虐殺した分、南都軍の怒りは凄まじいと聞く。我々は西都への応援もせねばならない。」


「でしたら、ここは強硬な姿勢で果敢に攻め立てましょうぞ。当戦力の投入人数を倍にしましょう!」

「然り!」

「然り!」

「然り!」

「然り!」

「然り!」


 軍議に参加した六将軍全ての意見が纏まる。

 東都軍の防御網にはわざと作っている穴—―手薄な箇所がある為、北都軍の狙い通り防御網を突破し、少なからず後衛に奇襲が出来ていた。その結果が、戦況に反映されていないように見えることから、北都軍上層部は東都軍が虚勢を張っているか、後衛部隊の守衛が手厚いものだと予想した。

 強ち間違ってはいないものの、それ以前に大方迎撃されてしまっているのだとは思わなかったようだ。



 ――――――――――――――――――――――――――――


 東都は領境に急造とはいえ築砦ちくさいに成功していた。

 これにより前線への兵の導入は思っていたよりも見込めず、フィリアが奔走して前線維持に取り組む羽目になっていたが、本人は書類仕事より体を動かしているほうが性に合っているらしく、日々充実した戦場生活を送ることが出来たようだ。


 急造とはいえ、使った材料は一級品だ。

 玄煉瓦クロレンガには物理・魔法衝撃耐性が一つ一つ付与されており、《軍用建設物資》らしい。

 これは軍用となっているが、一般市民にも出回っているというか購入することが出来る。

 ただし国が第一購入権を持っているので、余りや備蓄に余裕があった時にしか出回らない。元々が優秀な建材なのに、大量発注するとなると時間とお金が掛かる。

 お金持ちの間では、玄煉瓦クロレンガで建てた施設等は一種のステータスになるほどだ。

 因みにこの玄煉瓦は黒くない、寧ろ白い。


「砦が建ったことで後方支援部隊との中継地点がより強固な防備となった。それと兵士の休息も格段に向上する筈だ。後方から戦線復帰組がある程度やってきたら、此方は攻勢に出る。準備が出来るまで、無駄に負傷してくれるなよ?」


『はっ!』


 砦内部。軍議の場では、フィリアが指示する。

 特に意見もないようで、それに将兵が相槌を打って命令を聞き従おうとする。

 それで解散のような空気になっていると―――、


「失礼します、報告があります。」

「なんだ。」

「忍ばせている密偵の話では、北都軍の攻勢規模が拡大、動員数が倍に膨れ上がる模様です。尚、街道沿いの脇、森林を突き抜けて我が後方支援部隊を叩こうとする敵部隊も増員される模様。現段階ではロレーネ魔術師長らが防衛しており作戦が機能しています。が、現状の作戦のままですと、それなりに後方支援部隊にも被害が出ると思われますが、どうなさいますか、とのことです。」


 伝令兵が一室に入ってきて、報告内容を読み上げる。

 現状後方支援部隊班も攻撃に曝されている状態ではあるが、それは作戦上許容できる範囲。攻められたと言っても、此方の被害は0に等しい。


「ふむ。そうなると、ゲヘナシュタインが出張ってくる時間が伸びるか?」


「そう捉えるのが妥当かと。先の戦いで負傷して以来、時間短縮と本格的なフィリア様との戦闘は避けておいででしたが、彼の御仁ゲヘナシュタインも本格的に動くのではないでしょうか。」


「であれば、此方も人数をそれなりに増員すべきかと。攻勢にでるより防衛戦で敵の数をすり潰した方が良いのでは?」


「そうですな。街道前線の支えの要を担っていたフィリア様の穴を埋める人員増員は必須かと愚考いたしますぞ。」


 伝令兵の伝えた情報を基に作戦の再検討が行われる。

 将兵らもみな考えを述べると、フィリアに視線が集まった。

 ああした方が良い、こうした方がいいと進言したとてフィリアの鶴の一声で全てが決まるのだ。


「そうだな。私とて彼奴きゃつとそこらのレベル5以下なら二、三十人同時でも平気だがなぁ…。相手取った上で前線の全てに目を配ることは出来なくなるな。」


 フィリアは帰還時暗殺戦闘戦を思い返す。技巧派のいない一対一サシの勝負なら同ランクといえど、ゲヘナシュタインなど取るに足らないと踏んでいた。

 レベル5以下かくしたになれば純粋なフィリアの敏捷あしについてこれない。

 どれだけの技巧派も付いてこれないのでは意味がない。立ち回りの上手いフィリアはレベル6の二人を相手取っても上手く立ち回り一矢報いるだけの強さがあるからだ。

 もはやその器用さと敏捷が彼女の優位性アドバンテージと言っていい。

 

「そう言えるフィリア様の強さは確かなモノがありますが、過信してはなりません。」


「然り。フィリア様は総大将であられます故。」


「北都の将軍達は我等にお任せあれ。フィリア様はゲヘナシュタインめを討ち取って下さいませ。」

 

「ここでゲヘナシュタインを我こそが討つ!と言ってくれる部下は居ないのか?」


「腐っても王族…我らの手には余ります。」


 最年少の女性将軍、テロリネ・ギュスターヴが言う。青色のベリーショート、どちらかというと可愛い系の顔をした睫毛が長い女性士官が言う。身体も150㎝くらいと小柄だ。

 ギュスターヴ家は代替わりして間もないというのも、彼女が若年で将軍位に就いている理由だ。


「御命令とあらば、このジョルダーノが討ちましょう。と言っても、三個師団が一丸となって相打ちに持ち込めれば御の字でしょうな。」


 ジョルダーノ・レバネチオは貴族家当主としても将軍位を賜って十年が経っている。経験も実績もそれなりに蓄えた脂の乗っている中堅層だ。優男然とした風貌にも関わらず、切れ長の眼には野心が垣間見える。情熱と冷静の狭間のような男である。


「ゲヘナシュタインを討ったとてゲヘナレインも討ち取らればならないのですぞ?散るのなら彼の王の討伐がいいですな。さすればこの老獪ギャッテス、安心して天へ旅立てるというものです。」


 ギャッテス・ガロレゼフは御年百五歳になる老将軍である。顎髭が真白でたっぷりと蓄えられている。もふもふだ。智謀・武勇の両方に優れ、外交等の権謀術数戦にも長ける話術の持ち主である。そのレベルはフィリアと同じ6。小市民だった彼は只管に研鑽を積んできた叩き上げの極致。彼の御仁は実年齢に反して見た目が六十歳ほどだ。

 


「まったく、冗談の分からん部下だ。其方たちには私が王座に就いた後も、馬車馬のように働いてもらわねばならないからな。ゲヘナレイン王も私かジルバレン兄上が討たねば、民の溜飲は下がらんだろうよ。王族の始末は王族がせねばなるまい。」


 即戦力—―手足となるような部下は早々に手に入るものではない。部下の犠牲を払って、敵を討ち滅ぼしたところで、残ったのが無能な部下なら、それを重宝して従えては組織は簡単に腐る。

 それが分かっているからこそ、フィリアは前線に立つ。


「ゲヘナシュタインが出てきたら、私が彼奴を討つ。前線の守りは任せたぞ。テロリネ、ジョルダーノ、ギャッテス。」


『はっ!』


 軍議は終わり、敵が小競り合いから本格的な動きを見せるまでの間、暫しの休息を取るのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――


「ふう、重篤な患者はいなくなったわね。シルちゃん、一旦休みましょう。」


「はい、のんびりしましょうか。」

 

 内戦から早十日。

 戦いも小休止といったようで、運ばれてくる負傷者の数は圧倒的に少なくなっている。

 千人収容可能なこの第五救護班の負傷者は一時九百人を超えたが今は二百人もいないのではないか。


 欠損患者くらいだ。その誰もが、応急処置で傷口を閉じているので命に別状はない。


「では、我々は第四救護班の下へ応援に行きますので。」

「ええ、向こうの班長さんの言う事を聞きなさい。」


 第五救護班テントにいても仕方がないので、救護班の班長シシリア・ローレンスの部下達は第四班のテントに送るようだ。


 シシリアが行かない理由は、班長の指揮系統に乱れが生じる可能性を避けるため、万が一此処に運ばれてくる負傷者が居た場合の備え、指示を的確にシルフィアに与えるため、応援に行かせた班員を速やかに回収するためだ。

 

 どちらが上の指揮権を持つ持たないなど、不毛な争いを避ける必要があるのは分かるけど、シシリアは絶対応援に回った方が有効活用できるよね。


「あとはシルちゃんの《再生》待ちの人達だけど魔力残量は平気?」

「はい、まだまだいけます。お昼食べたら直ぐにでもやれます。」

「若いなぁ。あたしはもう一区切りついたしサボりたいよ。」

「班長がそんなこと言ったら不味いですよ?」

「お固いこと言わないで?直接の部下はみんな出払ってるからね。」

 

 彼女は少しばかりふくれっ面をしてみせて抗議してくる。

 年上だけど年下みたいなものだからその表情も可愛いと思えるけどそういうのは社会人してた僕からっていうかお仕事モードな僕は許しませんよ。というわけでささやかながら抗議する。


「一応、私にとっても直接の上司にあたりますよ?」

「臨時のね?普段の話よ。シルちゃんは元魔術師会理事のミレーネ様と師弟関係を結んでて、ロレーネ魔術師長からも学んでるそうじゃない?」

「肩書付で名前を呼ぶと凄みが出てきますね。」

「あの方たちは、肩書付でなくても凄いのよ。」


 立場のある人間の下にいる直属の人間は部下として扱い難いって良く話だしな。シシリアが僕の事を部下として扱いたくない気持ちも分からないわけではないけど、僕は融通の利く事なかれ主義の穏健平和思想の持ち主だぞ。

 ただし、善人相手に限るっていう注釈はいるけどな。

 寧ろ悪人は積極的に〇したひ……。 なんてね?


「ミレーネ師匠は魔法の技量が半端ないのを知ってるんですけど、ロレーネ先生もやっぱり強いんです?」

「私も直接見たことはないけど、宮廷魔術師は完全実力主義社会だから。そのトップに君臨してて、今回も重要な作戦を担っているみたいだから、相当な手練れな筈よ。」

「そう聞くと、安心できますね。」

「ふふ、何を心配してたの?」

「ロレーネ先生の傍にアマンダとケルンっていう同郷の子達がいるので、大丈夫かなと。」

「へえ、それは確かに心配になるわね。でもそれで言うなら私なんかの下にいるシルちゃんの方が危険かもよ?後方だからって安心できないし。実力じゃ数段劣るしね。」


 宮廷魔術師は完全実力主義かー。国に仕官してるシシリアも宮廷魔術師じゃないの?いや、そうなら序列争い的な部分、知らないわけがないか。

 僕は素朴に思った疑問を投げかけた。


「そうなると、シシリアさんは宮廷魔術師じゃないと?」

「そうよ。」

「シシリアさんの大枠の所属って何になるんです?差し支えなければ教えて頂いても?」

「ふふ、4歳の子が差し支えなければって…くふふ。《宮廷魔術師会》も大枠では魔術師会っていう全ての派閥を纏める会があるんだけどね、私はその中の一派閥—―《治癒魔術師会》に所属してるの。治療行為を主に、何も無いような時は【回復魔法】の向上を図る研究なんかにも従事するような団体ね。」


 おお。名前だけですぐわかる団体だな。活動内容も概ね名前から推測できるし。


「《宮廷魔術師会》は?それと他にも会は存在するんですか?」


「《宮廷魔術師会》は王直属って感じだね。王の剣であり盾であり、《戦略級魔法》の考案研究なんかは彼等の仕事よ。他の会は勿論あるわよ?《付与魔術師会》、《しゅ魔術師会》、《錬金魔術師会》ね。この三つの派閥と宮廷と治癒の五つの派閥とそれを纏める魔術師会という中立役員のトップ達、六人で結成されているのが《魔術師会》よ。」


「詳しい補足説明もありがとうございます。」


「ほら、そう考えると――、シルちゃんは宮廷魔術師会のトップが先生なわけでしょう?そして元御意見番の魔術師会理事を務めてたミレーネ様も師事してるし。もしあたしが本格的にシルちゃんを部下扱いしたら治癒魔術師会と宮廷魔術師会の間に軋轢が生まれそうなの分かる?」


「な、なるほど。」


 これもしかしたらもしかするけど、僕って結構面倒くさい立場の人間だったりするんじゃないか?

 《拉致被害者》→《捕虜・虜囚》→《実は庇護者》→《有能そうだから期間限定?雇用》くらいの流れっていうか地位だと思ってたんだけどね。


「ぶっちゃけ最初に割り当て見て、どんな子なのか話聞かされた時は貧乏くじ引いちゃったなぁって思ったよ。」


「うぐ、顔に出てましたか?」


「そりゃもう。でもシルちゃんのお陰で皆相当稼いだからね。他所のテントに応援まで行けるんだから、相当な報酬が期待できるってものよ。」


「ん?報酬はどういった決まりで貰えるんですか?」


「あら、知らない?先ず、私達は各テント内の怪我人を救助することで報酬が頭割されるんだよね。これが第一報酬。もう一つはどれだけの人数を捌いたのか、治療したのかってことね。」


「ほうほう。あ、もしかして重傷者も軽傷者も一律同額の報酬なわけですか?」


「ふふ、鋭いわね。まあ、同額ではないんだけど割に合わないのよ。重傷者は治療に時間が掛かるからね。それなら軽傷者をぱぱっと治して点数を稼いだ方がお得なの。」


「ああ、それで…。」


「早い話お荷物で美味しい部分だけ搔っ攫われるんじゃないかって思ったら、重傷者の治療を積極的にやっちゃうんだもの。邪推してごめんなさい。って感じよね。それに水洗いしなくても身体も服も綺麗にして貰っちゃってさ。みんな最初ツンケンしてたでしょう?それが手の平くるくるカザグルマなんだもの。態度が軟化し過ぎてあたし引いちゃったわ。」


「え、つんけんしてましたかね?戦争だし、生き死にを扱う職場なので、皆さん真剣そのものなのかと。」


「あはは、それはもちろんあるわよ?仮に美味しい部分だけ掻っ攫われても表立って邪険にするような子達じゃないし、あたしがそれを許さないわ。でも部下だから分かるのよ。そういう隠してるけど隠し切れてなかった不満みたいなのがね。」


 ふむ、そうだったのか。綺麗にしてあげたらみな喜んでくれてたし、仕事に一所懸命な姿しか印象にない真面目な人達ってイメージだったんだけどなぁ。

 なんなら仕事が一区切りついたのに、まださせるのかって内心不憫に思ってたくらいだぞ。

 まあ、何はともあれ第五救護班の同僚達に悪印象を持たれなくて良かったよ。もしかしたらこの先お世話になることがあるかもしれないしね。


「とにかく一度ちゃんとお詫びとお礼を言わなきゃと思ってたから。うちの子達、現金でごめんなさいね、それとありがとうね。」


「いえいえ、真剣に仕事に従事している同僚としか思ってなかったので大丈夫ですよ。それと重傷者の積極的受け入れに関しては自己判断でやってたことなので。」


「いや、大部分……ほぼほぼ最初からあたしが斡旋してたけど?」


「斡旋されなくてもしてましたよ。寧ろ、次に治療するべき人の優先順位決めをシシリアさんがやってくれたお陰で、だいぶスムーズに事が進みましたしね。此方の方が助かったくらいですよ。」


「そういってくれると助かるわ。」


 そういってくれると、って本当にそうなんだよな。何なら、死者をちょこちょこ生き返らせてはいたけど、彼女の見事な手腕のお陰で殆ど《蘇生リヴァイヴ》を使ってないんだよね。

 魔法節約にもなったし、仕事のできる助手が付きっ切りでサポートしてくれて大助かりだったよ、本当に。











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