第38話:戦後

 死亡人数17名。

 五十名程いた僕達の内、17名が死んだ。

 遺体は思ったより綺麗だ。それもその筈。

 僕の《自動照準オートエイム》は死後も作用し続けていた。よって回復魔法は継続されて付与されていたのだ。《自動照準オートエイム》の魔法そのものの欠陥が浮き彫りになったが、死体が綺麗というのは悪くはない。パッと見た限りでは負傷した生々しい傷がないというのは回収する側にとって精神面で良いよね。とにかく《自動照準オートエイム》に魔法的欠陥があったから綺麗だったとうわけだ。

 僕が持っている事になっている魔法鞄アイテムバッグ—―――――【収納魔法インベントリ】の中に遺体は入っている。

 死んだ者の中には、アゴキとキンギも含まれていた。

 悲しみに暮れ、泣き腫らすリオン女史の姿もあった。


 騎士、13名、回復魔法師4名の命が失われた。

 

 正直復活させようか死ぬほど迷った。

 生死に関わる任務を共にした仲間を復活させたい!と思う程度には彼等に愛着があったから。仲間意識が芽生えたから。

 動物実験、即座の復活という条件付きではあるが人体実験で成功している…《蘇生リヴァイヴ》の使用を。

 考えに考えて―――――――、僕は結論を出せなかった。

 故に今ここにいる。


 くたくたに疲れた僕達は強行軍さながら、北都を一瞬で抜け――――留まるなんてするわけない。憎悪を抱いて、今にも斬り殺さんとばかりに門衛に睨みを利かせていた騎士団や回復魔法師の面々達の心情を思えば。

 留まることで、敵に次なる策を与えかねないというのも理由の一つであった。

 

 そして、僕達は東都へ入場した。

 皆の顔には安堵と疲れが色濃く残っている。

 直ちに休んで欲しい所だが、僕は引き留めた。

 これは、みんなに決めて欲しかったからだ。


「皆さん、お疲れだと思うので話は簡潔に済ませたいと思います。今回亡くなった17名と行きで亡くなった2名の合計19名を生き返らせて欲しい方、挙手してください。」


 僕の突拍子のない発言に、みな何を言われたのか分からないとばかりにポカンとしている。

 一早く反応したのはこの二人、

「シル、お死者蘇生が可能なのか?」

「シルちゃん?それが出来るのだわ?」

 フィリアとミレーネだ。

「一応、出来ます。ただ、魔法鞄に入っていたとはいえ、死後長時間……一般的な蘇生法の枠ですが、それを大幅に超過した彼等に効くのかどうかは分かりかねます。」

 流石のフィリアとミレーネも絶句した。

「そ、それじゃアゴキさんは!!!生き返らせれるってこと?!殺された時に直ぐにシルちゃんが魔法を使ってたら確実だったんじゃないの?!どうしてすぐに使ってくれなかったの?!」


 半狂乱気味に三番目に再起動したのはリオン女史だ。

 大切な人が命を落としたのだ。許容できる範囲の責めであったので受け入れた。


「先ず、あの時はその余裕がありませんでした。狐一匹生き返らせるのに……ですが、魔力の半分近くが無くなってしまったと記憶しています。ボロボロな状態で生き返らせたとして、戦力になり得たでしょうか?生き返らせた瞬間殺された可能性もあり得ましたよね?死者にかまけて生者のみなさんの治癒を疎かにして、果たして耐えられたでしょうか?魔力回復薬ポーションも数限りがありましたし。あの時、あの場では死者を救う事で、瀕死だった人の治療が遅れて死んでいた可能性だってあります。それと、この魔法は記憶の欠如など人格に影響のある副作用が起こるかもしれません。魔法そのものが欠陥を抱えていると少なくとも私は考えています。曖昧な表現になってしまったのは実験対象数が圧倒的に不足しているせいです。倫理観的な抵抗から動物実験一匹—――、一回だけしかしていませんから。」


 僕はアマンダの事は秘匿した。彼女は今回のケースとは条件が違うから。アレは、ほぼ地球でも行う蘇生行為の範疇だと思っているからだ。時間的にも、心停止した肉体を地球でに魔法が使えて、肉体的損傷を即座に治せて、意識不明状態に持ち込めた場合、そこから覚醒すればそれは立派な蘇生に入るのではないか?即死しようが、、それはただの治療の範疇なのではなかろうか。

 アマンダに行ったことは、僕はだと思ってる。だから、狐―――ニビに起きた野生として、人間を警戒したりする―――危機感や忌避感の消失についてだったりを話した。

 これが生き返った人間にも起こりうる可能性があると話した。


「—――それでもいい!!支えるから!お願い!もう一度生き返らせて!!!」

「妹の大切な人を生き返らせてくれませんか?」

「アタシもお願いしていいかい?キンギはコボルト掃討戦でも、今回の戦いでも、アイツは多いに活躍してくれたんだ…。だから、キンギも頼むよ。」

 

 リオン女史にミオン女史、そして女性騎士のアイーダが続く。

 アイーダに関しては、いつもの元気さがナリを潜めているので、別人かと思ったほどだ。


 それに続けとばかりに、「ラオンは…」、「ディックは…」、「レイラは……」など、続々と声が挙がる。

 全員の《蘇生》を望む声しか挙がらなかった。

 騎士、魔法師からは。

 僕は、意見を述べていない人に視線を向ける。

 残るは――――――フィリアとミレーネだ。


「これだけ命を賭して戦った部下が望むのに、私がとやかく言う事はない。」

「ワタシも皆の総意が大事だと思うのだわ。どういう形で結果を迎えたとしても。」


「では、成功しても失敗しても、この件は皆さんだけの胸に秘めて下さい。生き返らせたことを本人には伝えないでください。ショックを受けるかもしれませんので。」


「わかった。—―――みな、それでいいな?」

 

『はい。』


 最終確認とばかりにを取り付けて、僕は死体の全てを取り出す。

 そして、【回復魔法】の極致ともいえる《蘇生》を試みた。


「—―――――――《全体蘇生エリアリヴァイヴ》」


 膨大な量の魔力が吸われる。魔力には自身があった。だが、アマンダの時とは別次元に魔力がなくなっていく。

 これは時間経過によるものか。僕は立っていられなくなる。

 東都城の広間にて、地べたに尻もちをついて崩れ落ちる。

 余計なことを考えている余裕などない。思考を止め、速攻魔力回復薬を飲み干す、ガバガバと飲み干す。持っていた自身作の魔力回復薬にも手を付ける。鼻血が止まらない。顔面は蒼白になる程、魔力枯渇に近い症状に、身体に負荷が掛かっているのが分かる。一斉に蘇生しようと試みたのは間違いだった。

 魔力という魔力を吸い尽くされる。それでも何とか意地で耐え続けた――――――――すると、ぴたっと魔力消費が止まった。


「—――――息してる……呼吸してる!!!心臓も動いてる!!!」

 声を荒げて、喜んだのは回復魔法師のリオン女史。

 続々と声が挙がり、その後は歓喜の涙が溢れ出す。

 こればかりは僕も涙する。もらい泣きみたいなものだ。

 多大な魔力消費で疲れ切った僕は床に寝転がった。


「お疲れ様ね。一旦、休むのだわ。」


 寝転がっていた僕をお姫様抱っこして、抱き上げたのはミレーネ姐さんだ。


「ちょっと寝たいかもです。何か、問題があったら教えてください。すぐに意識が戻って起きるとは思えませんけど……。」


 

 シルフィアは返答を聞かずにミレーネに身を委ねると、意識を手放した。



「ええ、まったく―――。恐ろしく凄い事なのだわ。」

「なあ、ミレーネ。《死者蘇生》……お前にも出来るか?」

 シルを抱いたミレーネは魔術師塔に向かって歩き出す。

 それに追従し、話し掛けるのはフィリア・ランバルト。

「殿下、ワタシには出来かねますわ。」

「ふむ…。それはシルの魔法理論を聞いた上での判断か?」

 蘇生の仕組みについて、特にシルからは語られていない。

 今、視ただけ。

 だから、どうやって《蘇生》が生み出されたのか、魔法として成立したのかを識ることで、ミレーネに再現の可否は変わるかどうかを問うたのだ。


「恐らく、出来かねますわ。《再生》ですら、シルちゃんの域には達せないのですから。恐らく魔法に対する知識や想像力、何もかもが彼女とワタシでは次元が違うと思いますの。」

「そうか…。一体どうすればこのような傑物が生まれるのだろうな?」


 出来ないと言われ、直ぐに気持ちを切り替えたのだろう。

 もう違う話を始める。何処か冗談めいた口調で。


「さあ?世の中には《死神》なんて呼び名のもいる事だし、《聖女》、《天使》なんて呼ばれるが産まれても不思議じゃないのだわ。」


 フィリアから真剣さがなくなったので、ミレーネも雑談モードに入る。丁寧な口調は消え、だわだわ口調に変わった。


「シルちゃんは、籠の中の鳥にしちゃダメなのだわ。」

「ああ、わかってるよ。そんな事したら逃げられそうだしな。」

「流石、話の分かる女王様だこと。」

「だから、シルにとって居心地の良い―――第二の故郷のような国にしなくてはな?」

 フィリアは少しだけ悪い顔をしている。

 隠そうともしない次期女王陛下の透けた企みに、そのくらいはしょうがないか。と諦めたミレーネは魔術師塔に向かうのだった。



 ―――――――――――――――――


 翌々日。

 僕は疲れすぎて、丸一日は寝ていたらしい。

 寝間着を替えられたり、歯磨きしてくれたり、至れりつくせりな介抱サービスを受けたらしい。


「おはようございます。」

「おはよう。」

 寝起き早々、一緒のベッドに横になっているミレーネが視界に入った。

 ミレーネは条件反射で朝の挨拶を済ませた僕の髪を手櫛で梳く。

「ちょっと伸びたのだわ。髪、切るのだわ?」

「確かに……切りましょっか。」

 ショートボブだった僕の髪は、今では肩に掛かる程伸びていた。全然お洒落に気を遣わない……というか髪型に拘りがなかった僕は、マリアが切り揃えなければ、伸び放題の女子おなごだったに違いない。

 ただ、そのマリアは今は居ない。

 だから、ほぼ一年伸ばしっぱなしにした髪は肩まで伸びてしまった。起きたら修行の毎日だったからね。

 寝起きで身だしなみを整えるついでに、ミレーネが髪もカットしてくれる。長年生きてるだけあって、手際が良い。

 地球ならプロ美容師として生きていけるぞ。

 軽くなった髪を鏡で眺める。これだけゆったりした朝を過ごしているのは何時ぶりだろうか。タルク村にいた頃かな?

 そんな事を考えていると――――、


「きゅるるるるるるる。」


 どうやら僕のお腹は食べ物を所望しているらしい。

 そういや、丸一日寝てたんだもんね。お腹も減るか。


「あら、お腹減ったわよね。朝ごはんを食べに行くのだわ。」

「はーい。」


 断る理由もないので僕達は食堂へ赴く。


「おはようございます。御飯、ひとつお願いします。」

「はいよ!」


 食堂のおばちゃんに注文した。

 人は割と空いているほうだ。並ぶこともなく注文出来たし。

 ミートローフみたいな挽き肉の塊に卵の入った、うん、これはもうミートローフと名付ける。ミートローフと丸パン、野菜たっぷりトマチスープが配膳される。

 

「おいし~。」

「おいしいのだわ。」  

 御飯が進む進む。食欲を刺激され、無我夢中で食べた。

 完食し満腹になって、ようやく一息つく。

 そして、訊かなければならないことを訊くために僕は口を開いた。

「あの、例の件ですけど……皆さんの容態は?」

 濁したのは、あの場にいた西都帰りのメンバーのみしか知り得ないことだったから。

「フィリア様に会いに行けば分かるわよ。ワタシもあの後どうなったかは聞いてないから一緒に行きましょう。」


 そのまま広間に行く。

 二階に続く階段を見張っている衛兵にミレーネがフィリアとの面会伺いアポイントメントをたてている。


「一旦、魔術師塔に戻りましょうか。」

 戻ってきたミレーネがそういった。

 すぐには会えないという事だろう。

「魔術師塔に居れば、お呼びが掛かるシステムですね。」

「ふふ、そうなのだわ。シルちゃん、魔力回復薬の補充とか修行とかやる事あるでしょう?」

 すっかり忘れてた。補充しないと魔力回復薬はもうお手製のものしか残ってない。

「そうですね。内乱前の、前哨戦みたいな戦いで使い切ってしまいましたし、見通しが甘かったです。補充と調合もしつつ、本格的に争いが起きた時に備えないとですね。」

 実際には、《蘇生》しなければロレーネ先生お手製ポーションは2本余ってたけど、それだけしか余らなかったともいう。

 内戦になれば規模はより大きくなるだろう。今の物資では足りないのは明白だ。

 

 魔術師塔に帰り、ロレーネ先生お手製の魔力回復薬を補充した。500本程度瓶に詰め替えると、壺の中の魔力回復薬はなくなってしまった。

 そういえばロレーネ先生とアマンダ、ケルンは今何してるのだろうか。

 どのみち内戦が始まったら、別行動らしいので気にしてもしょうがないが気になるものは気になる。


「壺の中の薬はなくなっちゃったのね。それじゃワタシが作っておいてあげるのだわ。」

 実に気が利く。

「ありがとうございます。」

 僕は一言礼を言い、自力での作成も怠らない。

 せっかく習ったのだから当たり前だ。

 

 材料を採りに行ったり(スライム等との戦闘含む)、魔法薬作製をしたり、鍛錬を積むことも忘れない。ステータス強化は必須。

 この世界だと僕はチート級に強いわけではない。

 チート級に成長率が与えられたレベル2にしては有能な雑魚なのだ。


 ステータス


 シルフィア

 

 Lv.2


力:G 226→289 耐久:E→D 480→550 器用:G→F 238→368 敏捷:G 203→273 魔力:E→C 471→615 幸運:F→E 387→422


《魔法》

【水属性魔法】【風魔法魔法】【土属性魔法】【火属性魔法】【雷属性魔法】【光属性魔法】【闇属性魔法】【回復魔法】【生活魔法】【収納魔法インベントリ


《スキル》

【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】【遠見】【魔道具製作】

【魔力回復(微)】【魔力制御】


《呪い》

【男性に話し掛けることができない】




 戦いを経て、やはり魔力の伸びが良い。耐久もたっぷり斬られたので伸びは良い……と思う事にした。割に合わないというのが本音だ。痛いモノは痛い。確かに慣れはあるけど。慣れたくないけど慣れる。悲しいかな。

 

 ステータス強化も大切だが、薬の大切さが身に染みたので自力作製分だけでも1000本は用意した。

 勿論、足りない瓶は自作した。

 思いの外、手先が器用みたいで銀のインゴットを極薄にして容器瓶を作った。銀製品の食器があるしね。それになぞらえて。鉄では作らなかった、鉄臭くなりそうだし?【収納魔法インベントリ】内は時間経過による経年劣化はないけど、気持ち的に?再利用する際も、銀の方が衛生的に綺麗そう的なイメージというか毒とかに反応するとかしないとかのざっくりとした、うろ覚え情報もあって銀にした。

 ※手先が器用に感じる程、上手く加工が出来るのは【魔道具製作】のパッシブスキル効果によるもの。

 

 そうこうしている内にあっという間に一週間が経った頃、フィリアに呼ばれた。


 

『失礼します』


 僕とミレーネはフィリアの待つ執務室に案内される。

 僕は初の本殿の二階に足を踏み入れた。

 そして扉の前で、入室の挨拶を済ませる。


「ああ、入れ。」

「失礼します。」

 執務室にいるのは僕を含め、三人だけ。

 フィリア、ミレーネ、僕だ。

 執事などの世話役は居ない模様。

 事が内密にするよう約束している事なので、人払いでもしてくれているのかもしれない。

 

「ま、そこに座れ。」

 

 執務室には客席—―横長のソファも用意されていて、言われるがままそこに腰掛けた。


「それで、魔法はどうでした?」

 僕が効果は如何ほどか、成果を質す。


「端的に言うと、一部成功だ。初期段階では、記憶の混濁—――直近の記憶障害に、発語にも難が診られた。加えて上手く体が動かせない――麻痺症状に犯されているようだと、意識を取り戻した本人も困惑していたそうだ。検査結果で、自我—―自分の名前や過去の記憶、常識は保持していた。行きで亡くなった二人の意識は戻っていない。意識を取り戻すかは不明だ。」

「なるほど?生き返っても完全復活とはいかなかったわけね。それじゃ厳しいことを言う様で悪いけど、大量の障碍者を抱えても意味はないわよ?」

 報告に対して、ミレーネはズバッと斬って捨てるように評価を下した。

 僕は今回の結果は、かなり興味深いなと思った。

 (死後1~2時間は経過した後に回収した死体(時が止まった空間による保存)を強行軍とはいえ、一日以上経過したのち、蘇生させて成功したとは……。魂が輪廻に還るまで時間があるのかな。

 予測ではニビみたく、いやニビよりも―――正直記憶の全てが無くなってても……って思ってたけど。今回の結果は、想像以上に良い実験結果な事は間違いない。行きで亡くなった人はもっと時間が経っている。此方はもう見込みなしか?無理だったならしょうがないが、最終的にどうなるかは知りたいな。)

 

「いや、初期段階では、だ。1週間経過観察をして、直実に身体機能を取り戻しつつある。回復の兆候が診られるようになったと報告を受けたから、こうして呼んだのだ。」

「それじゃ、即時戦力として使えるか――という点でみるとアレだけど、長期的に見て人材の損失がなくなるのはプラスね。」

「万能ではないが、有用であることは違いない。結果として、と、当人から感謝の声も届いているぞ。」


 僕は二人の会話を黙って聞いていると、どうやらそう言う事せっていになっているから合わせろって事らしい。死んだ事は秘匿するにあたって、情報に齟齬があるといけないからだ。自分で出した条件のせいで面倒な事になったもんで申し訳ないな。

 でもそうなると先に死んだ二人はどうするのだろう。

 多少記憶が混濁していようが、流石に行きの段階で死んだ仲間の事まで誤魔化せるだろうか?


「昏睡状態から目が覚めて良かったです、とお伝えください。思ったんですけど、行きで死んでしまった人はどうするんですか?帰りに死んだ人は重傷だとして、流石に行きで死んだ人達は死んでるって彼等の中には覚えてる人もきっといますよね?」 

「サディンとヘックか。あの二人はまだ意識が戻っていないが、隔離している。私が相談したかったのはそこだ。二人に限っては自分達が事を伝え、秘密を共有し、死んだままでいてもらいたい。まあ、意識が戻ればの話だがね?」

「その方が混乱は少なくて済むわね。瀕死の重傷ではなく、実は生き返ったのでは?って疑問に思う者が現れないようにするためにもね。」


 なるほど?対応はしていたみたいだ。

 じゃあ、気にしなくてもいいか?上手くまとまりそうだし。


「私としましては、蘇生魔法で色々記憶をなくしてしまうものだと思っていたので、そんな欠陥魔法を使うなんて!とか実験台にしたのか!って言われなければいいです。まだ意識が戻っていないサディンさんとヘックさんは覚醒したとしても、何も記憶が残っていない可能性が極めて高いと思います。なので、本人に死んだ云々言っても言葉すら通じるか、です。」

「そうか。—――ふむ。それならその旨、伝えた上で、臨機応変に対応させるとしよう。」

 

 僕は本音を吐露する。気にしていたのは其処だから。

 だから、秘密にしてほしかっただけだしね。

 でも僕の心配事はフィリアに任せておけば大丈夫だろう。

 


 

「それと《人身売買組織》の件だが、組織はジルバレン兄上が壊滅させた。壊滅後、衆人環視の下、現政権と組織の繋がりを組織の人間が暴露した結果—――、西都では軽く暴動が起きたようだ。鎮静化するために現国王自ら首謀者を捕らえるとのことで―――、追い詰めはしたが、推定レベル6の人身売買組織の覆面リーダーは逃走。船で逃げたと思われる。捕縛失敗のせいで市民vs国王軍の様を呈しているらしく、今も一触即発の雰囲気らしい。私が戦ったゲヘナシュタインだが…、重傷を負わせたが死んではいない筈だ。内戦で交える時が本番だろうな。敵の勢力を削ぐことには成功したから幸先は良い結果となった筈だ。」


 西都は荒れに荒れているらしい。現国王の信頼は地に堕ちたようで、政権が交代する日が近いというのもあって、国民は怒りを何とか抑えている状態なんだとか。

 ゲヘナシュタイン次兄殿下は失敗するだけでなく、逆襲にあったのだから激昂してそうだな、と僕は思った。


「それは頑張った甲斐があったのだわ。」

「ええ、良かったです。気を抜かずに内戦が始まるまで、精進します。私レベル低いですし。」

「ああ、二人とも長々と悪かったな。シル、励めよ。」


 僕達は情報共有を一通りし終えたので、長居は無用と、執務室を退出した。

 ゲヘナシュタインに重傷を負わせたって事は耐久上がったんじゃないか?この世界だと無駄に慈悲をかけて生かしてしまうと危険だ。そこら辺、フィリアが考えてないわけではないだろうけど……絶対敵には容赦しない方が良い、と心に刻むのであった。


 

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