第37話:命懸けの戦い。
厳冬—―――――――分かり易く言うと引くくらい寒い。
真冬のランバルト海洋王国はシア王国タルク村よりどうやら寒いらしい。顔が凍えて、軽い凍傷になるレベルだ。髪も自身の水分だけでカチコチに凍ってしまう。息は白くなるどころか口内を凍てつかせるので口元を覆わずに喋ると痛い目に遭うだろう。
本日は、大雪。天候が荒れに荒れているが、僕達は西都を出発した。
馬車がこの上なく、ぬくい。……そう思っていたら大間違いです。風がないので大分軽減はされるが、普通に寒い。
暖房機能はないが、有難く思わなければ。
「ランバルト海洋王国ってこんなに寒い日があるんですか?」
「いや、通常より少し冷える。」
「そこそこなのだわ?」
「例年より…多少?ですね。」
僕の質問に、フィリア、ミレーネ、ミオンが順に答えてくれる。
この寒さは、誤差レベルだったか。
「二年前はもっと寒かった気がするのだわ。」
「ああ。寒波が酷すぎて〈トレントの薪〉を市民に配りに行かせたな。」
「凍傷患者も後を絶たなくて、私達も動員されましたね。」
大雪に見舞われ、視界は大して確保できない。
奇襲されれば、地獄絵図待ったなし。
天候は現王達に味方したらしい。
「天気が良くなってからの出発でも良かったのでは?」
恐らく誰もが思っていることを口にする。これは言わずにはいられないだろう。さ、す、が、に。
「いや、大雪なのは不利でもあり有利でもある。だから今日で良い。」
フィリアには策があるのか?
『………。』
この決定に対して、ミレーネもミオンも何も言う事はないらしい。前線で戦うのは彼女なので、勝てるなら別に構わないけど。
「—――、騎士達には徹底して伝えたな?」
「勿論です。」
「それじゃ、シル。お前に掛かってるからな?」
フィリアに肩をポンポンと叩かれた。
物凄く嫌な汗が出た。
口元が隠れているとはいえ、僕は思わず、渋面を作ってしまう。
「なんだか、嫌な気がするんですけど。」
「諦めるのだわ。」
ミレーネも不愉快そうな顔をしつつも諦めているみたいだ。
北都と西都の境界に差し掛かった頃—――。
その時は、訪れた。
『敵影—―――――数百以上。距離数十メートルから一キロ。進路を塞ぐ形で陣取ってる。各隊防衛陣展開!』
ミレーネが《伝音》で伝える。
視界不良でも索敵能力は魔法に掛かれば関係なかった。
敵は少なくとも一キロ先まで配備されているという事か。
奥が本隊なのかもしれない。
フィリアが出ていき、戦闘が始まる。
真っ白な世界を赤が染める。
死体から湯気が―――風にのって血生臭さも漂ってくる。
僕は隠密三セットをして、上空から眺める。
「—―――《
スキルで視力を強化する。真昼なので光源はある。
だから使える。敵味方を見分けるために。
剣戟の音が風に乗って、聴こえる。
魔法による攻防で障壁やら、火球やらが飛び交っている。どうやら敵は魔法師も導入してきているらしい。
レベル3、4、5、6の戦いに巻き込まれたら命がいくつあっても足りない。
「—――《
味方を一人残らず……(回復魔法師達も含めて)僕の魔法領域下に置く。新しく作った魔法だ。
最初に手動作業が要するので、手間がかかる。
だが、そこからは簡単だ。
「—―――《
《身体強化》は直接の肉体に作用する魔法。
《持続治癒》は傷を回復し続ける魔法。
《耐久強化》は新魔法。ステータスそのものに働きかける魔法だ。前線で身体を張ってきた者ほど効果が出る。
魔法師全般には効果が薄いだろう。
これで、確実に限界突破状態—――レベル差が埋まる筈。
此方は49名。騎士が36名……いたが、来る際に討死した人がいるので34名。回復魔法師が15名。フィリアとミレーネはプラスα枠なので数に入れてない。
後方に当たる4番と8番を二人一組にしてあり、3と5、7と9の番隊がサポートに徹する。
これが今の防御陣形だ。
視界不良なのは敵も同じ。
でも先制攻撃できる敵の方がやはり有利。
「—――《暖気》」
ただの温風だ。
これを纏わりつかせて体の熱を逃がさないようにする。
魔法で生み出した風なので、雀の涙程の防御力は一応ある。
魔力だけはトータル5000オーバー。レベル1の時の
だから、成せる技だ。でも無限って訳でもない。
魔術師と呼ばれる僕より一段高みにいるミレーネは恐らく僕よりも魔力を持っている。
コマメに魔力回復薬を飲む。
出なければ、流石に持たない。
50人分ともなれば流石にね。
「—―――――――ドゴォォン!!!!」
物凄い衝撃波だ。
それと同時に、敵の攻勢が増した。
恐らく、フィリアに匹敵する敵が現れたのだろう。
雑魚狩りしていた最前線—―11番隊、12番隊、1番隊が圧されている。
『—―――7番隊、6番隊、5番隊—――敵増援確認!迎撃準備!』
ミレーネの《伝音》が聴こえる。
挟み撃ちか。
西都からも刺客が送り込まれたということか。
―――――――――――――――――――
「ッッッッッフン!!!」
フィリアの拳骨が敵の兜に掠る。それだけで防具が砕け散るには十二分だ。
「ッちぃ!!!」
「バケモンが。」
敵はまだ口元を覆っているが、黒髪—―――これで分かった。
敵は王族だ。ゲヘナシュタインだろう。もう一人は素肌の一切が見えない黒を基調にし、赤いラインが入った外套に覆われている―――髑髏に蛇のマークが彫ってある仮面野郎だ。
「クック、兄上ではないか。それと隣にいるのは西都に居た《人身売買組織》のリーダーか?可愛い妹を暗殺しに来たか?」
フィリアは聞いていた情報を基に仮面野郎の正体も暴く。
「—――おいおい、なんで漏れちゃってんのぉ?」
殺気が一瞬、ゲヘナシュタインの方へ向く。
「知った事か。お前らの支部にスパイでも紛れ込んでんだろ?」
ゲヘナシュタインは一切漏らしてない事を、動揺せず相手にしない事で速やかに対処する。
「ふーん?後で調べさせてもらうからね?」
それでも《人身売買組織》のリーダーの疑念は完全には晴れなかったようだ。
「しね!」
ゲヘナシュタインの槍撃がフィリアを襲う。バフを受けているフィリアは流麗に躱す。そして懐に入って反撃とばかりに、殴りつける。
何とか防いだゲヘナシュタインだが、威力を殺し切れず、後方へ飛ぶ。追撃は、叶わなかった。
仮面野郎が参戦してきたからだ。
片手剣の使い手のようだ。
攻守に優れ、ゲヘナシュタインのように安易に攻めては来ない。
「どうやら見くびっていたようだ。」
「っち!」
横槍がフィリアの右腕を切り裂く。
辛うじて、避けれたため腕が捥げることはなかったが、皮膚は大きく裂かれてしまった為、血が滴っている。
フィリアは一端守勢に回るも、回復の治りが遅い。
シルの【回復魔法】の実力を知っているので、槍に何かしらの効果があったのだとすぐに判断できた。
「……。」
ゲヘナシュタインも首を捻っている。
どうやら、槍に何か仕込まれているらしい。
「魔槍なんじゃないの?まがい物なんそれぇ?」
二人でフィリアを苛烈に攻め続けているので、会話する余裕があるらしい。
これは一種の煽りなのだが、フィリアにその手の精神攻撃は効かない。
「てかさぁ、じみーに回復してね?おい、回復魔法師を皆殺しにしろ。」
『はっ!』
まだまだ戦力を温存している――――というより戦闘に参加できる人数など限られている。寧ろ、大人数で殴り込めば味方の邪魔になるので控えているわけだ。
現在、サスケス率いる第一剣騎士団が応戦しているのはゲヘナシュタインの子飼い部隊。
邪魔になるから、と《人身売買組織》の手練れ達は後方待機していたのだ。
《人身売買組織》からは、レベル5の猛者達が投入される。
―――――――――――――――――――
「ぐっ!?」
明らかに戦線に投入される敵の質が変わった。
四方八方から格上の攻撃が飛んでくる。
全体の戦線が圧され始めた。
「—―――《守護》、《韋駄天》」
ミレーネが全体に魔法を掛ける。
防御と敏捷に作用する強化系魔法だ。
それでも足りないらしい。
此方の騎士は殆どがレベル3。
強くてもレベル4だ。
レベル5が出てきた以上、押されるのも無理はない。
4番隊と8番隊を明らかに狙ってきている。
人材が手薄なので仕方ない。
案の定、片方が致命傷を負ってしまう。
「—―《炎獄》」
敵の隙を突いたミレーネの【火属性魔法】により、炎の壁が敵と味方の間に出現する。これにより、敵の攻撃を一旦退ける。
「4番隊と8番隊を解体!負傷者を馬車近くへ!陣を縮小し、より連携を以て防陣せよ!」
続くミレーネの指揮で陣形は縮小し、更に守りを固める。
苦肉の策だが、最善手でもあった。
「—――くっ。《魔法障壁》」
ミレーネは飛んできた火球や氷球の対処を迫られる。
―――様々な魔法攻撃をミレーネが防いでいるのだ。
ミレーネが気軽に攻撃魔法を使えないのは敵魔法師団の攻撃を一手に引き受け、防いでいるからである。
決して手を抜いているわけではない。
回復魔法師達も、格上相手に戦ってくれている騎士団—――前線を支えるために【回復魔法】を飛ばしまくっている。
彼女等に敵魔法師団の攻撃まで防ぐ余力はないのだ。
「—―――《再生》」
後方へ引き摺られてきた仲間を僕が回復する。
本来はきちんと患部の状況を診なければならないが、そんな余裕はない。燃費が悪かろうと使うしかなかった。
戦線を維持するために、常に魔法を使っているので余力はない。それでも回復しなければ、ジリ貧で押し負ける。
なので、無理くり《再生》スキルを完全模倣した燃費の悪い【回復魔法】で癒す。
そして、前線復帰させる。
「ミレーネさん4番隊と8番隊の4人完治させました。」
《伝音》みたく、風にのせて声を届ける。
『—――!!3番隊、9番隊、5番隊、7番隊に一人ずつサポートとして入れ!!』
治癒した剣騎士団の面々はミレーネの指示に従う。
ゾンビアタック戦法だ。
死ななければ回復できる。
格上だろうと騎士団の指揮が高い一因だ。
だが、そこにも穴はある。
「防陣!反撃の手を緩めるな!」
敵の攻撃に対して、二人が盾で攻撃を受け止め、一人が反攻を仕掛ける。
敵は死を顧みないのか、特攻してくる者が多い。
常に全力の一撃に曝され続けると、防具も傷んでくる。
守りを数で確実に崩されつつあるのだった。
―――――――――――――――――――――
魔槍の攻撃を全て躱すことは出来ない。
各所に傷を負いながらも、反撃の手を緩めない。
《持続治癒》の効果を以てしても、未だ初手に受けた右腕の傷は完治しない。回復薬を飲んでも効果はなかった。
(呪いか?回復魔法の効果が全くないわけではないのが救いか)
致命傷を避けているので、戦闘自体に影響はまだない。
2対1…そして、厄介な武器。
魔法によるバフで凌いではいるものの、フィリアもこのままではジリ貧だ。
「このままなら勝てそうだねぇ。」
「……。」
余裕綽々といった笑みを浮かべてる仮面野郎。
器用というか機能というか仮面の表情が変わる。
(舐め腐ってる。だが、だから良い。)
「2対1でイキられてもね。」
フィリアはうんざりそうにして溜息を吐く。
漏れ出る息は煙のように白い。
「ま、私が殺されても王位には就くのはゲヘナシュタイン……お前じゃない。」
フィリアは清々しそうに屈託なく笑む。
「……。」
「戯言を。お前の次はジルバレンよ。」
攻撃の手は緩めない。だが、先ほどより少し警戒しているようだ。特に仮面野郎の方は。
「それはどうかな?西都の《人身売買組織》は壊滅してるだろうしなぁ。」
ゲヘナシュタインの攻撃に合わせて、拳を突き出し三叉の槍の一部を破壊する。仮面野郎の片手剣が突き出した左腕目掛けて斬りかかる。伸びた腕を内に曲げ、前腕の外肉を削がれる程度に被害を抑える。即座に肘を基点にタックルを決め込む。
フィリアの突進は剣で容易に防がれるが、そのまま敢えて突っ込む事で距離を取る事に成功する。
「……。」
「ブラフだな。」
「ジルバレン兄上が《組織潰し》をするのを知らなかったのかい?それとも、知らされてなかったのかい?わざわざ海に囲まれた場所で、やっとの事で建てた拠点が主力抜きでどれだけ持つ?現王が兵を出して助ける―――なんてあり得んしなぁ?」
防御、往なし、左手で剣と槍に反撃。正面と左側面からの攻撃を体勢を最大限低くして、槍の突きと片手剣による横薙ぎを後方へ飛び退いて回避。
フィリアは立ち回りに気を付けながら、堅実な戦いを続ける。
「……。」
「だとしても、現王政権下にある西都に新たな拠点を建てることなど協力してやればすぐ元通りになる。」
仮面野郎は相変わらず、だんまりを続けている。
ゲヘナシュタインは問題ないと言い張るが、フィリアは心底面白可笑しいと言わんばかりに、にやにやと笑う。
「お前の部下—―――確か、現国王と《人身売買組織》が繋がってるって知ってるんじゃないか?確か、獣人に漏らしてたよなぁ?」
『—―――?!』
ここで漸く、ゲヘナシュタインの顔も強張る。
「この国は犯罪者に容赦がない。《洗脳》して、洗いざらい情報を吐かせることは当たり前。民衆の前で、悪事バラされた現王派閥は中立である西都治安維持隊、ジルバレン兄上の部隊に民衆の反乱。これら全て抑えきれるかな?」
「あとは一人でやってよねぇ?それと《
「—――な?!俺は関係ない!父上からそのような事聞いてすらないのだぞ!!」
「嵌められた—―――そう此方が感じるかどうかだ。お前達とは対等且つ公正な取引の下、成り立っている関係だと
背後に控えていた部下を数人引き連れ、仮面野郎は戦場から離脱する。悪人同士が公正な取引とは、と思わなくもないフィリアだったが、口にはしない。
「出鱈目ばかり言いおって!!!お前達、手を貸せ!!」
『はっ!!』
憤激するゲヘナシュタイン。
穴埋め代わりに兵士も投入する。
レベル6同士の戦いにレベル4、5程度では悪くて一撃、耐えれて三、四撃ほどだろう。
ましてや
「邪魔だ――――。」
ゲヘナシュタインの槍を往なし、躱すフィリアは格下の攻撃は避けない。そのまま攻撃に合わせてカウンター攻撃を仕掛ける。
同時攻撃が仕掛けられれば、まだ違っただろうけどフィリアはゲヘナシュタインと兵士の攻撃範囲一名分という立ち位置を常に己の敏捷を使って計算し立ち回っている。
その結果—―――、拳と剣、拳と斧、長槍、短槍、武器毎ゲヘナシュタインの兵士を破壊・殺戮する。
雑魚の攻撃は、フィリアには有効打にはなり得ない。
ましてや、
肝心のゲヘナシュタインの攻撃は、徹底的に守りの一手。
これでは部下は無駄死・犬死である。
ゲヘナシュタインは四人いた兵士が一人一分程度で死に絶えた。
「次だ!しっかり働けぇ!!!」
頭に血が上っている。全身手傷を負っているのはフィリアの方だが、倒されるのはゲヘナシュタインの兵士ばかり。
「同じレベルの筈だが?どうして手負いの私すら抑えきれんのだ?」
馬鹿にするように、ゲヘナシュタインに問う。
「死にかけの分際で偉そうに!!こうしている間にも出血しているお前は、どのみち死ぬ!」
ゲヘナシュタインの言う通り。あちこちに負った傷は、治りが遅い。止血が余りにも遅すぎる。
そのせいで、細かい出血のせいで血が足りなくなってきている。手先などの末端は冷えを感じる。
バフ込みで本領発揮状態なら秒殺だった格下相手に一分も時間が掛かっているのが、その証拠だ。
「言っただろ?お前が王位に就けなければそれでいい。兵士を一人でも多く屠り戦力を削がせてもらうよ。」
フィリアの行動は宣言通り徹底している。
狙われる兵士達。攻撃すれば逆に殲滅される兵士達。
有効打となるゲヘナシュタインの攻撃は徹底的に守られる。
今となっては掠りもしない。
追い詰めている筈が、追い詰められている。
兵士の士気は駄々下がりだ。
死体が40……、50を越えると――――。
怖気を抱いた奴は、攻撃する間もなく、即殺されてしまった。
それが決定打になった。
「うぅ、殿下!これでは我々は犬死だ!!」
「—―――?!な?!ぐふっ」
引き連れていた兵の一人が、離反して戦線離脱する。
その一瞬の動揺をフィリアが見逃すはずがない。
ゲヘナシュタインの右わき腹を左拳が撃ち抜く。
「—――《経》」
ゲヘナシュタインの右脇腹に穴が開き、臓物が―――肝臓や副腎、腎臓、大腸の一部が、木っ端みじんとなる。
フィリアと同格であるにも関わらず、
スキルによる攻撃が致命的だからだ。
「—――――!!!!」
「殿下をお守りしろぉ―――――!!」
ゲヘナシュタインは脇腹を抑えながら――――、これ以上臓物が零さないようにして、後方から魔法を撃ち込んでいる魔法師団の部隊迄引き下がる。
その間、ゲヘナシュタインを守るように、まだ戦意の残っている兵が命を散らす覚悟で、特攻する。
フィリアは深入りはしない。
だが、上級兵がわざわざ突っ込んできてくれるなら――――その命は丁寧に確実に刈り取っていく。
この戦い――――勝利条件が違うのだ。
ゲヘナシュタイン達は攻めるよりも、守らなくてはならなかった。単純な話だ。《人身売買組織》拠点の破壊を妨害工作などして、援助し、ジルバレンを闇討ちすれば良かったのだ。
長兄一族の力を削いだ後は、次期女王フィリアに反旗を翻し、現王派閥と《人身売買組織》の三勢力が協力して打倒してしまえば各個撃破出来た。
国民の心象は悪くなるだろうが、次兄一族は既に一度そうやって政権を握ることに成功しているし、王が弱くては国民は守れない――――誰しも強い王に付いていきたいと思うものだ。
その不満も時が解決してくれただろう。
だが、彼等は自身らが優位に立っていることを疑いもしなかった傲慢さ故に、
それが彼等の敗因だったかもしれない。
いや、シルフィアに《人身売買組織》の場所を特定された時点だったのかもしれない。
―――――――――――――――――――――――――
敵の攻勢は一段と強くなる。
それだけでない。
(くっ――――!!!)
隠密しているシルフィアを的確に攻撃してくる曲者が現れた。
恐らくレベル5。
動き回り、回避すると―――――――居場所が他の奴にもバレたのか至る所から攻撃が飛んでくる。
弓矢に斬撃波、小刀……致命の一撃だけは喰らわないように避けるので精いっぱいだ。
被弾した箇所—―――――肩肉が削がれたり、脹脛断裂は洒落にならないくらい痛い―――だが、自分の事は神様に頂いた《再生》スキルに任せ、放置。
それ程に戦況は逼迫している。
攻勢に出てきた奴—―――レベル5の数が増えてきたのだ。
幾ら防御陣形を組んでいても、格上が物量で襲ってくるなど、ただの地獄である。
一撃、二撃と耐えれば隙が出来、瓦解一歩寸前まで瞬時に陥ってしまう。
12部隊に分けられた部隊は6部隊にまで数を減らしてしまっている。瓦解した部隊の人間の中には回収しきれず、恐らく亡くなってしまった人もいる。そこには回復魔法師も含まれる。
この寒さなら仮死状態って所だからまだ舞えそうではあるけど。今復活させるのは得策ではない。
それよりも―――――、
「――――《再生》!!」
後方に何とか自力で逃れて来れた生き残りを前線に復帰させるために、相も変わらずスキルの完全模倣による魔法による《再生》で多大な魔力を消費し続ける。
「ぐぅぅ……!!!!」
遠距離攻撃に魔法行使をし続けて、脳は焼き切れそうだ。
お陰で鼻血まで出てきた。
敵の攻撃でボロボロになった身体は再生を繰り返して治る無限ループ中。
「あいつに攻撃は被弾している筈なんだがなぁ。」
「ちまちま削って、
「致命傷を与えろ!!首か頭、心臓を狙え!!」
脇の林から狙撃している――—―こいつらの狙いはシルフィアだ。
シルフィアを補足できるだけの実力を備えた猛者が、致命打になる一撃に切り替える。
シルフィアも死ぬわけにはいかないので、全力で急停止—――投げナイフを、急旋回—――察知の難しい斬撃波を躱し切る。
狙う場所が分かれば、避けられるものだ。
無理な軌道で身体を酷使しながら致命の一撃を避け続ける。
先ほどよりも攻撃が当たらなくなった敵は、嫌がらせのように再び四肢も含め攻撃し始めた。
「あいつら……!!—――《
シルフィアは突如、ミレーネが展開している魔法障壁の外へ上昇浮遊して出る。そして攻撃魔法を展開した。
殆どの負傷していた騎士達に割いていたリソースを――――【回復魔法】の《再生》を一旦止め……陣外に潜伏している、又は待機している敵の群れにぶっ放した。勿論林から精密射撃してくるクソ野郎含めて。
眩い閃光が駆け抜ける。最速且つ最高火力による無差別攻撃。
魔法単体の威力を高めるための《魔力の増幅》スキルは身に付いていない。持ってないスキルのせいで火力が足りないなら、どうすればいいのか。シルフィアはカードゲーム作りをしながら考えた。そして、閃いた。だったら、魔法効果そのものを二倍……いや二重……三重にしてやればいいのでは?と。
恐らく近くにいた炭素系生物全てが攻撃対象となった。雷よりも早く動けない限り、この魔法を避ける術はない。届いたとて魔法耐性の何かしらの防具やら障壁を展開されていればたかが知れてるダメージにしかならないだろうが。
攻撃を当てたという事実が、そして一瞬でも敵の動きを阻害に成功した事が大切だ。
突如、襲ったシルフィアの攻撃魔法は敵を蹂躙した。
レベル4辺りは死んではいないだろうが、見るからに焦げている―――重傷を与えた。……そしてレベル5も軽く湯気が出る程度には――――多分火傷は負わせられたのではないだろうか。
どうやらレベル4とレベル5では明らかに次元が違うようだ。
速やかに下降し、ミレーネの魔法障壁内に入り込む。
そして本来の役割である【回復魔法】に専念し、負傷者の治療に励む。
――――――――明らかに敵の攻勢に勢いがなくなった。
(好機なのだわ)—―――、
「《
魔法障壁が解かれ、龍爪で切り裂かれるような―――――暴風の雷爪が、敵兵を襲う。切り裂き、感電させる。
未だ突っ込んできているのはレベル5の敵兵士。上弓兵士の存在相手なので、ミレーネの攻撃も全力だ。
致命的な程に動きの鈍くなった敵は、悉く第一剣騎士団にトドメを刺されていった。
『
ミレーネの《伝音》に鼓舞された兵士の動きは数時間の戦闘を続けて尚、衰える事を知らない。
格上との戦闘……暴雪と言っても過言ではない天候。
それでも誰も諦めない。
第一騎士団の面々は必ず敵の息の根を止める。
だから、やってくるのは新規の兵。
本来は向こうの方が体力もある筈なのだが、味方の屍を見て、此方の戦意の高さに、後れを取っているのだ。
だから張り合えている。
致命傷程度では此方は死なないから。倒しても倒しても兵士が無限湧きして見えるのかもしれない。そこも不気味に思えてしまうのかもしれない。
そして、転機は訪れた。
―――――――――――――ズガガアアアアアアアアアアン!!!
電光石火の如く何者かが、敵内部に喰らい付いた。
爆裂音と共に敵兵が吹き飛ぶ。
潰され、へし折れた首。
ぐしゃっと圧潰した下顎。
この殺し方をする味方なんて一人しか知らない。
血塗れではあるが、その強さは健在。
我等が、姫。いや、女王—――フィリア・ランバルトだった。
「私を癒せええええええええええええええ!!!!!!」
誰に言った?そんなの決まってる。
この盤面を簡単に覆してしまえる程の化け物の願い、全力で応えて見せようじゃん?
「《
【回復魔法】の過剰ともいえる程の魔力を注いだのに、治癒が遅かった。段違いの回復速度を想定していたので、思い当たったのは呪い。シルフィアなりに瞬時に機転を利かせた結果の魔法だった。それは、見事的中。瞬き、一つ。
手負いの獅子は、傷一つない姿に。
完全復活。見目麗しいフィリアの姿がそこにあったから。
失った血も代謝を促進させ、造血速度を促した。
『ウォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
第一騎士団達の雄叫びが響き渡る。
—――――――――シュン。
—―――――――パァン。ドゴォ――――――――――!!
一方的な蹂躙が始まった。
「《
「《
フィリアが此方に来て以降、敵の魔法が此方に飛んで来なくなった。それはつまり、本陣は撤退したという事。
掃討戦—――――つまり防衛していた僕達が攻撃側になれるということ。
「《
「《
撤退など許さない。
ミレーネは全体魔法にしていた《
僕の魔法で一瞬動きが遅れた敵騎士・魔法師達をフィリアが簡単に捕捉し、焦げではなく炭に変える。割いていた魔力の全てを攻撃に全振りしているのだろう。
僕の攻撃はまあうん。
レベル2だし、装備ガッチガチの敵だし。
レベル差が1ならまだしも2とか3離れたらね?
フィリアによる確実な死。
炭化した彼等は風に流され、霧散する。
跡形も残さない。
掃討戦を終えた僕らは、勝鬨を上げた。
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