第36話:世の中上手くいって欲しい事って中々上手くいかないモノである。

 世の中上手くいって欲しい事って中々上手くいかないモノである。僕はそれを痛感している。


「ほう?これは中々面白いじゃないか?」

 休日最終日だった筈。

 どうしてこうなった。

 僕は何故か、何故だか!フィリア・ランバルトの部屋に招かれている。

 そして、彼女は僕が作ったカードゲームで遊んでいる。おかしい、これはミレーネ姐さん達のために作った娯楽だった筈。

 フィリアは特にランバルト海洋王国派閥のデッキが大変お気に召したようで。それもその筈。なんてったって、次代の女王陛下がリーダーでそのスキルが問答無用の指定型破壊スキルなんだから。


 戦場の一つを自身の力で完膚なきまでに殲滅する。

 それだけで一つのグループ争いの趨勢を喫するだけの能力だ。

 僕は別に忖度した訳ではない。

 現実でもそれだけの力があるし。

 カードゲームにおいてもそのチカラは過分ではないはず。

 これが全ての盤上を引っ繰り返すとなると強すぎるけど。

 

 

「このゲームはシル、お前が開発したそうだな?」

「はい。お気に召しましたか?」

「ああ、これは最高だ。この国で流行らそう。もちろん、私が女王となった暁には……だが。演算が出来、娯楽性もあり、戦略性がある。なにより短時間で遊べる。ちょっとした息抜きに流行ること間違いない。」

 側仕えの護衛騎士サスケスもカードをプレイする様をみて、少しばかり羨ましそうにしている。

 因みに、サスケスも前衛カードとして、存在している。騎士団カードの攻撃力を2倍にするバフを持っている。これは統率力のある人物だから……という理由でそういう特殊効果を付与しておいた。

「では、そちらの方は贈与プレゼントしますね。他の方も欲しがっているみたいなので、私は製作するために、魔術師塔に戻ろうかと思います。」

「まあ、まて。遊戯を作ることがシルの趣味なのか?」

 帰ろうとしたシルフィアをフィリアは引き留める。

 何を聞くかと思えば――――、

「いえ、折角の休暇なのでミレーネ姐さんやミオンさんに楽しんでもらおうかと――――。」

「たったそれだけのことで?」

「ええ。師匠であるミレーネ姐さんには恩もありますし、ミオンさんは約一月ほど、一緒にコボルト狩りをした仲でもありますから。二人が喜んでくれるなら。」

 これは本心だ。スキル習得が難航している気晴らしから生み出された産物だが、彼女達の休日を有意義にするためという動機もまた間違っていない。

「優れた【回復魔法】に、病魔の見識の深さ―――ひいては治療法の確立、遊戯にまで造詣が深いか。—――どこぞのお姫様なのだろうな?」

 ふむ。前は貴族の隠し子的な藩士だったけど、お姫様に格上げか?貴方とは違いますよ、僕はれっきとした庶民の娘です。

「何のことでしょう。私の父はルイ、母はマリアです。誰が何と言おうと開拓民の娘です。」

「少々……いやもうだいぶ無理があるがな、まだそういうことにしておくか?」

 この場にいる者—―――フィリアをはじめとしたサスケス、ミオン、ミレーネはそんなウソつかなくていいのに。みたいな顔しているが、本当なんです。

「あの、本当なんです。」

「では、ルイ殿やマリア殿は何処か滅亡した国—―――そうだな、それこそ小国の王と王妃だったのか?そうとしか考えられんほどにシル嬢、貴様は聡明で才覚に恵まれている。」

 そうなのか?

 僕がフィリアから視線を外し周囲を一瞥する。

 その誰もが、フィリアの意見を肯定しているようで、深く、深く、深く頷いている。もう何度もこのやり取り―――いや、攻防を繰り広げているせいで、周りの肯定具合も大袈裟になっている。


「あのですね、百万歩譲ってそうだったのだとしてもですよ?本当に私は知らされてません。開拓民の中には幼馴染の女の子と共に育てられてきましたし、他家の開拓民家を見ても家はごくごく普通の家でした。キッチンとリビング、両親の寝室は繋がっていましたし。トイレとお風呂は別でしたが、他には、塩漬け樽の保管場所に家畜小屋と農場があるだけです。これが王家の人間育ちの住処だと思いますか?」

「そうなのだ。そこが変で仕方がない。百万歩譲って、医療知識や遊戯に対しての知識がだとして、大抵は逃れた王達に側近や民も一緒に流浪の身となったはず。となるとタルク村はルイ殿とマリア殿の臣下や民で形成されていた事だろう。全てを失ったとて、そういう場合、多少は優遇される筈なのだ。それこそルイ殿は村長などの地位に就いていても可笑しくないんだがなぁ?」

 フィリアの語った話は概ね、一般的な事なのだろう。

 やはり、どこも再興を目指す為、敬う人間は出来得る限りの優遇措置を施すべきと考えるらしい。

 没落、滅亡しても尚、付き従う家臣の忠誠があるなら猶更。

 みな、一様に僕の話に納得できないらしい。


「それは、つまり私のパパママは平民であることの証左では?」

「いや、敢えて隠したのかもしれんぞ?滅亡や没落などの経験を経て、助かったのだとしたら行動が慎重になっても不思議ではない。命の危険があるような、何か面倒な事に巻き込まれないように配慮するためにも偽装工作の一環と考えれば……。」

 そんな陰謀論みたいな話あるわけ。僕が優秀に見えるのは前世のお陰なのに。

 ただ言えない、というか言いたくないから拗れてしまってるんだけどね。

「そのような事、言い出したらキリがありませんよ。」

「まあな。だが、もしも貴族やどこぞの小国の姫であると白状したくなったら私に言うのだぞ?送り返すのもそれ相応の対応をせねば、シア王国……もしくは属国となるか滅びるかは分からんが、そうなった場合、ガルガンティア帝国との交渉の際に其方の存在は少々厄介毎の種になりかねんからな。」

 なるほどね。でもその心配は杞憂に終わる。

 本当にただの村娘Sシルフィアだから。

「本当にだいじょうぶです。先ずは東都に帰れるかどうか、なんですから。致命傷なら治します。即死だけは避けて下さいね。死んだら流石に治せませんからね?」

「分かっている。だから、こうして英気を養っておるのだ。」

 帰郷するために、第一線で活路を見出さなければならないのが、王族とは。こういうのって大抵部下が身を粉にする筈なんだけどね。

 私は前線に立つ王の背中に格好良さよりも畏怖を覚えるわ。

 王なのに、どんな修羅場を潜ってきたのか、と。


 海洋国家だから、海産資源を採るためにきっと水中生物やら魔物と戦わないといけないんだろうけど。

 いや、陸にもいるか。コボルトみたいのを倒してきたのか。

 それにしてもこの世界の王候補は勤勉だ。

 ステータスという経験値がしっかりと反映—―裏打ちされた確かな強さがそこにあるからだ。

 

 フィリアが強いのは分かる。王族の中でも前線に出て戦う猛者だって証明してるから。でも敵対してるゲヘナシュタインとかも同列で強いってなんだ?

 こういうのって普通、悪い奴は努力を怠って部下にやらせたりするもんじゃないの?

 

「あの、お訊きしておきたいんですけど。」

「なんだ?」

 フィリアは珍しいな。と僕の質問を待ってくれている。

「本当に、フィリア様と同様にゲヘナシュタイン殿下も、その強いんでしょうか。虚実ではなくて?部下の手柄を自身の手柄のように振舞う方もいらっしゃるとかいないとか。」

「それはないな。」

「ないですね。」

「ないわね。」

「残念ですが。」

 僕の疑念をフィリア、サスケス、ミレーネ、ミオンが完全否定する。

「人は特殊なスキル――――固有スキル・先天性スキルともいうが、それは持って生まれた才能を何かしら持っていたりする。技術獲得を経て、後発的に獲得した努力による才能の開花などが軽視されることはないが、我々王族は圧倒的な強さを引き継げるのだよ。勿論全てではないがね。庶民だって、努力した者同士の婚姻—――出産を経て、強い子が生まれることもある。」

「ええ?!」

「なんだ?其方の魔法も親譲りの才能だろう?」


 完全に初耳だ。

 そしてフィリアは僕の才能が親譲りによるものだと確信している。それ故に心底不思議そうな顔をしている。


「まあ、シルちゃんはまだ四歳なのだわ。その辺りの知識は後回しされていても可笑しくないのだわ。」

「確かに。庶民の生活水準……内政関係はある程度の年齢を経て学んだしな。何かを優先して、何かを疎かにすることは身をもって知っている。」


 ミレーネのフォローに得心がいったようでフィリアが同意を示す。王族らしい教育を受けてきた彼女の持論とは少々齟齬があるけど。


「そうですね。子どもというのは知識に偏りがみられるものですし。仲の良かった子と才能云々で優劣をつけさせないようにって考えを御両親がもっていらしたのならそういったこともあり得ますね。」

「殿下の出生秘匿説もミオンさんの教育論も色々と納得がいきますね。シルちゃんの似つかわしくない知識―――頭の良さはなるべくしてなったんでしょうね。」

 

 勝手にうちの親の教育方針について考察し出したミオン。その結論を聞いて、まとめに入ったサスケス。

 何故だか、皆の中ではそういう結論に至ったようだ。

 それが考えれる限りで――――、常識に照らし合わせると、最も無難な着地点ということか。


 (これもう僕もどこぞの王族って嘘ついても良いんじゃね?そしたら王族レベルの生活に変わるとかあるかもしれんぞ?豪遊に身の安全を確保して貰えるかもしれない)って心の中の悪魔が囁いてくる。

 (だめよ!嘘だとバレたら王族騙り罪みたいな法で打ち首になるかもしれないよ?)

 僕の心の中の天使が下手に嘘を付く危険性を説く。

 ………………………………………………………………。

 (勝手に勘違いされる分には良いけど、嘘を付くのはリスクでしかないか。)

 僕は葛藤したが、嘘までつくのは止めることにした。


「私が何者であれ、やることに変わりはありません。今はミレーネ姐さんの為にも早々にカードを作りますね。では、フィリア様。私はこれで失礼しますね。」

「ああ、新カードを作ったならばその時は、私にももってくるのだぞ?」

「はい、もちろんです。」

 僕はそう言うと、魔術師塔に帰った。

 ここで作るのは少々危険だ。

 【収納魔法】は秘匿していることの一つだ。

 もしかしたら、自分ですら分かっていない何かでボロが出て魔法がバレてしまう可能性もある。

 貴重らしい魔法鞄アイテムバッグを作れるとバレれば逃がしてくれない可能性もあるからね。

 

「ふぅ、疲れた。」

 ダミーの魔法鞄に手を突っ込み、そこから鉄塊を取り出す。

 鉄塊を千切っては、捏ね、丸める。

 一つ分のカードを作るために先ずは均等に分ける作業だ。

 粘土とスライムの中間みたいな質感で、延々触っていられる。

 それもこれも魔法のお陰なのだが。

 (地球で鉄の塊を捏ね繰り回してたらバケモンだよね。)

 自分の魔力を材質に浸透させる必要があるが、これを応用したら……?

 もしかしたら敵の飛び道具を無効化することが出来るかもしれない。

 手の平サイズまで小さくなった鉄球の一つを鏃に変形させる。

 【風属性魔法】で自分の体に撃ち込んでみる。

 勿論致命傷にならないように太腿に向けてね。

 太めの血管あるから危険じゃねって言うのは言わない約束だぜ?

 鏃が身体に触れた瞬間に魔力を瞬時に込めてみる。

 ……結論。

 盛大に、鏃が皮膚を突き破った。

 完全にめり込む事はなかったけど、大体半分くらいだろうか。

 しっかり刺さった。

 瞬間的には【土属性魔法】の支配下に置くことが出来ない。

 でも刺さった鏃を無理に引き抜く必要は今後無くなった。

 自在に変形させ、ぽろっと抜くことが出来るようになった。

 案外、使える?大して使えない?

 まあでも剣を突き刺されたら、魔力を流し込んで、なまくらに変えることも出来るから。

 傷を負う前提だけど、使えないことはない。

 覚えておくとこにする。


 傷は【回復魔法】でさくっと治す。

 一人で良かった。

 カードは各陣営二セットずつしかないけど、6デッキ作ることが出来る。それは同時に6人までなら遊べるということだ。

 プレイヤーが違えば、カードを切るタイミング――――戦術やデッキにも差が出てくる。

 ミレーネ姐さん達は新たなプレイヤー――――サスケスとフィリアとの戦いに燃えているので、本殿に置いてきた。

 元々、楽しんでもらうために作ったのでカードゲームは成功っちゃ成功だけど……少しだけ寂しく思う。

 ……いかん、いかんぞ!かまちょみたいじゃないか!

 ゲームとわたしどっちが大切なのよ!みたいな女になるところだった。呪いのせいで恋愛のれの字もしてこなかったからか、反動で厄介な女になりつつある?それとも元から厄介な女だった?

 (いやいやいや、これは恋愛じゃないだろ。)

 一人でいるせいで、馬鹿なことを考え出して、一人羞恥に悶えて赤面するシルフィアだった。

 

 

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