第35話:かーどげーむ

 呼び出された僕達とうじしゃは、残り二日の休日は魔術師塔への残留がフィリアに厳命された。

 のんびり修行が出来るので、万々歳であった。とは言っても、なかなか取得出来ない――――《魔力の増幅》の、一筋の光明すら見えない現段階が煮詰まり状態。闇雲に修行して意味はあるのか、と疑問に思ってもいた。

 

 ミオン女史とミレーネは魔術師塔に帰るなり、がっくりと肩を落としていたけど。

 せっかくの庶民派コーデがどうたらとミレーネはたのしみを奪われた憎しみを敵対組織にぶつけていた。

 僕は商品として拉致されている人達の安否が気がかりではあったが、一権力フィリアの決定に異を唱えるほど子供ではない。だって前世の社畜経験もしっかりと身に染みて…はないけど、記憶しているんだから。

 上の決定に対して、勝手な事をする勇気は僕にはない。

 


「部屋の中でも休息は出来るでしょう?遊びも。」

 僕が意味深な言葉でミレーネを慰める。


「あ、そういえばそうね!」

 僕の言葉ですぐに察しがついたようだ。

 その会話を不思議そうにミオンが聞いていた。

「あの、それって何のことでしょう?」

 待ってましたとばかりに、ミレーネの口角が上がる。

「それじゃ、お披露目しましょうか。部屋の中でも遊べる玩具を!!」

 

 ミレーネがテーブルの上に出したのは盤上と白と黒の面を持つ駒。

 

「これは?」

「先ずは中央対角線上に黒と白を配置して―――挟む!」

 遊戯をやりながら説明していくつもりのようだ。

「一方が白の軍、一方が黒の軍で戦うのよ。」

「わあ、挟まれた縦横斜めの敵の駒がひっくり返りましたね。」

 ミオンは興味津々の様子だ。

「これで、私と勝負よ!」

「お、お手柔らかにお願いします?」

 

 ミオンとミレーネのオセロが始まった。


 シルフィアは己の弱さを自覚しているので、危機意識からも修行を止めるつもりはない。ただ、息抜きも時には必要—―――。


 何か、新作のゲームでも作ろうか。

 これだけ熱中して貰えてるわけだし。

 僕は、彼女達の様子を見て、ふとそう思った。


 でも囲碁もチェスも将棋もうろ覚えなんだよなぁ。


 ここは、カードゲームでも作ろうか。

 まずはシンプルかつ、為になる要素を加えようか。

 数字をトランプのように記載して……と。

 1から10までの数字をかいて……。

 それに特殊効果を書いて……。

 ちょっと人気が出るように、絵柄は可愛く、カッコよく、……シア王国、ランバルト王国、魔物の3種類の派閥を作ってと……取り敢えずね?

 後は、魔法カード罠カードみたいに弱体系カードと強化系カードを書いて……。

 デッキは最低20枚、多くても30枚とかにして……。

 ふむふむ……。我ながら良く出来ている。

 

 

 ①最初に10枚の手札を取る。カードは事前に最大二枚まで山札から交換することが出来る。

 ②ターンで出せるカードは1枚のみ。パスしたら、その後プレイヤーはカードは出せない。

 ③交互に出して前衛、中衛、後衛の3つのグループ毎の数字が大きい方の勝ち。


 例えばA君とB君が戦って前衛でAvsB=10-0、中衛で0-6、後衛で0-1の場合、A君は前衛で勝ち。でも中衛、後衛でA君負けてるからラウンドで勝つのはB君となる。


 ④ラウンド毎に勝ったプレイヤーが、山札からカードを1枚ドロー。

 ⑤それを最高3ラウンド繰り返す。先に2ラウンド取った人の勝ちとする。

 ⑥デッキは20枚以上30枚以下。同名カードは三枚までとする。

 ⑦派閥デッキにおけるリーダー効果は3ラウンドでたったの一度しか使えない。


 計算は各場所ごとに行うから、子どもでも遊びやすいはずだ。


 

 弱体カードはグループのカードを一律数字を1に換える系と純粋に破壊でいいかな?

 強化は1グループの合計数字を2倍にしよう。


 これだけだと計算力と少しの絵しか楽しみがなくて単調か。

 深みを出す為に、特殊能力が肝になるよなぁ。

 弱体無効系の数字カードとか、デッキ及び手札から同名のカードを出すとかにするか。

 後は、相手の出したカードの破壊とか、一番高い数字カードを奪うとか……戦いには裏切りもあるしね。

 

 計算力と自分の手札をどう切って、2ラウンド勝っていくか……これが大切だ。

 

 さくさくお手軽に遊べるようにしたつもりだ。


 よし、大元のルールは完成したから、後は絵でも描くか。


 シルは今まで、出会ってきた人達を主にモチーフにして描いた。紙は持ち合わせていなかったので、タルク村時代の金属資源……を使ってカードを作成した。


 1から10までで三枚ずつ、派閥毎に作り……、それを相手の分も……金属を弄繰り回すのは地味に初めてだった。

 故に、滅茶苦茶重労働となった。


 カードをちらっと紹介しよう。

 シア王国派閥のリーダーカードは私。

 リーダー効果は、癒し……そのターンに破壊された味方数字カードの全てを復活。ただし、復活したカードの戦闘力は半減する。小数点は切り上げとする。

 数字カードには現在のシルフィアをモチーフにしている。

 一応、ダルフ三兄弟は前衛グループで数字を5に設定。場に一枚出したら、手札及びデッキから同名の○○ダルフを特殊召喚というカード効果を。

 父、ルイは前衛で数字を5に。母、マリアは後衛で数字を5に。この二枚のカードが場にある時、相乗効果で自身の数字が二倍になるようにしておいた。


 ランバルト海洋王国派閥のリーダーはフィリア・ランバルトに。

 リーダー効果は、蹂躙……敵1グループを全て破壊。デッキからカードを一枚引く。

 ゼレス隊長は前衛で数字こうげきりょくを7に。ゼレスってのはチータの上司だった人ね。僕に付いてくるのか迫った人だよ。そして今は何してんのか知らない人よ。

 彼は、特殊効果に自分より弱いカードを自身の味方に無理やり引き込む特殊効果を付けてあげた。


 バルバスは斬撃飛ばして腕チョンパしてきたから中衛で6に。

 自分より弱い敵カードを指定した場合、破壊。自分より数字が大きい敵カードを指定した場合、自分の数字を倍にする特殊効果を授けた。


 説明書も同封してと………。


 

 何セットも組んだりする必要があるのって大変だな。

 カード自体は発案者である僕がこれから増やしていけばいいけど。

 うーん、ゲーム自体は面白いって言って貰えるかに掛かってくるけど売れるなら人を雇うか。

 

 この時は、思い付きで作ったカードゲームが爆発的ヒットをするなんて思いもしなかったシルフィアであった。


 

「ナニコレええええええええ?!シルちゃんが絵に!!これはわたしぃ?!なのだわ!!!」

ミオンわたくしもリオンもいるのです!!第一剣騎士団のみなさんんんんんも!!!」

 僕が一日掛けたカードゲームはミレーネとミオンにはぶっ刺さったようだ。

 まず、絵を可愛く、綺麗に、カッコ良く、ってな感じでそれぞれに合ったコンセプトで絵柄を分かり易く表現したのが正解だった。

 魔法は想像なので、頭の中にある今までやってきていたカードゲームのデザインもなんとなく頭に入っている。

 だから、この世界では絵師になるのは容易だった。


 ※本人は魔法でカード作りを行うのが想像力=知識。のお陰だと思っているが、本人が長期に渡って覚えた【収納魔法インベントリ】を元に作り上げた《魔法鞄》—―――これを作成時に取得出来た《魔道具製作》のパッシブスキルが物凄く活躍していることを記載しておく。


 能力が同じでもカードゲーマーは絵柄が違うとかに興奮を覚えたりするし……いや僕がしたし、だから二枚は同じデザインでもう一枚はどことなく変化させたりがらっと変えてみたりした。

 魔核や自身の魔力を込めると絵柄が変わる隠しカードも作ったりした。


「一応、説明書があるから。その大事にしてもらって……コレクター的な遊び方もいいけどちゃんとゲームとして面白いのか判断してね。」

「分かったのだわ!任せるのだわ!!」

「ええ、取り敢えず遊んでみます!!!」


 遊びは彼等に任せ、《魔力の増幅》をモノにしようと修行に励むのであった。

 

 魔力を込める。

 編み物でも編むかのように。

 絡みつけるのではなく。

 ただ丸めるのでなく。

 丁寧に練り込む。

 すり身のように。

 ハンバーグを捏ねるように。

 卵かけごはんの素を作る時みたいに。

 卵の白身も黄身も醤油も全部が満遍なく混ぜ合わせるように。

 八宝菜の仕上げで片栗水を鍋の中央に入れ、素早く混ぜ合わせるように。

 《属性球》を見る。

 変化はない。

 うー、何が違うんだ。

 どう頑張っても魔力濃度が高まった《球》は出来ない。

 コツが分からんのじゃ。

 ヒントは?って訊きたくなる。

 イメージが難しい。目を瞑る。

 よりイメージしやすくなるように。

 バケツ一杯に並々と水を灌ぐ。

 バケツには入りきらないけど水を灌ぐのは止めない。

 溢れてもやめない。

 

「シルちゃん!!それだめなのだわ!」

「え?」

 急に声を掛けられて、驚いた僕は魔力を手放しそうになる。

 魔力爆発が起きる前兆が見て取れる。爆発寸前の……ゲームとかで爆弾が膨張と収縮を繰り返しているソレみたいに不定形で歪な球形になっているのだ。顔から血の気が引く。まずい、と思ったその時—――。

「《掌握》」

 ミレーネが僕の手を離れた魔力塊を手懐けた。

 暴れん坊に一喝するように。

 赤ん坊をあやすように。

 そして魔力塊は霧散した。

 危うく塔で大規模爆発が起きる所だった。

 普通にテロ疑惑で罰せられても可笑しくない程度の。

 

「危なかったのだわ……。」

わたくしも死ぬかと思いましたわ。」 

「ごめんなさい……。」

 ミレーネとミオンは安堵している。

 条件反射で謝った。

 無我夢中で修行していたせいで、何がどうなったのかよく分かってないまま、爆発させるところだった。

 

「《魔力の増幅》のスキルはなかなか難しいですから。スキルの取得だけなら、【回復魔法】がおすすめですよ。」

 ミオンがアドバイスをくれる。彼女は《魔力の増幅》スキルを持ってるという事か?レベル3なので全然あり得る。

 一段高みにいる彼女も通ってきた道程の辛さは身に染みているようで、しみじみと「あの時は……」なんて語り出した。

 

「【回復魔法】って因みにどうなるんですか?」

「そうですね。純粋に効果が向上します。デメリットとしては魔力の消費は大きくなります。ですが、集中力的にも精神衛生上、短時間の治療で済むならそれに越したことはないですし。」

 確かに。

 ぶっちゃけイメージし続けるのって割と集中力を使う。

 要治療箇所をじっくり診たいものなどそうはいない。

 僕は別に見たくない。治ってる所すら正直気持ち悪いなって思うくらいだし。

 

「じゃあ、やってみますか。」

 何の躊躇いもなく腕を《風刃》で切り付けた。

 切断までは行かない程度だ。

『え?!』

 それに対して素っ頓狂な声を出して、驚いたのは二人。

「じゃ、治してみます。《治癒ヒール》」

 じゅわぁっと傷口から漏れ出る鮮血が泡立って、傷口が治り始める。

 これは……?

 大体大怪我を負った時は《再生》スキルが発動しちゃうから、自分の傷の治りについてはイマイチ……他人を治す時とは比べ物にならないくらい早いのは分かるけど……。

「え、シルちゃん《魔力の増幅》を修得したのだわ?!」

「いえ。修得してないです。自分の体については熟知し過ぎて、そもそも治りが異常な速度になってますね。」

「それはそれですごいです……。」

 あっという間に治した傷痕らしい痕は何処にも残っていない。

 興味深げにミレーネとミオンが僕の腕の観察をしている。


「シルちゃんは【回復魔法】が使えたらいいのよ。それだけでどこでも通用するし。《魔力の増幅》はレベル3とかになってからでもいいのだわ。」

「ミレーネ様の仰る通りです。既に重宝されるだけの実力がありますからね。」

 魔力だけは高いから普通のレベル2よりかは役に立つ筈。

 本気出して枯渇寸前まで【回復魔法】を使い続けた事がないし、ミオン女史達もへばってる所を見た事がないから比較は出来ないけど。

 実力的にはレベル1相手なら無双、レベル2も勝てる。3はまあまあ状況次第。4は死ぬ。

 これが今の実力だけど、この世界レベル4……結構いるんだよねえ。

 

「自衛出来る力も欲しいし、魔法師が魔術師と呼ばれるには《魔力の増幅》スキルは必須なんですよね?」

「それは、まあ、そうなのだわ。」

「必須なのです。」

「じゃあ、早く魔術師なるためにも頑張らないとですね。」

 喝を入れ直して再度魔法磨きに励む。

 それをみて、二人も諦めたみたいだ。

「そんなに急いで覚えなくても大丈夫だけど……まあやる気がある内は頑張るのだわ。応援してる。」

「わたくしも《具象の明確化》スキル、頑張って覚えましょうかね?」

「ふふ、魔法スキルの前に今はカードゲーム中なのだわ!!油断したらだめよ?シルちゃんのパパ…ルイ召喚!!!」

「な、ななな!?」

「これでワタシの前衛ルイと後衛マリアのカードの強さは5から10に!!!中衛は負けてるけど前衛と後衛の合計値は勝ったのだわ!!!」

「くふふふ!!詰めが甘いのです!!!フィリア様、やってお終い!!!!」

「きゃあああああ!!!!……なんて言うと思ったか!!!シルちゃん!!!回復するのよ!!!!」

「ずるいです!!!!!」

「さきにずるみたいな破壊攻撃してきたのはそっちなのだわ!これでミオンの手札はゼロ!!リーダー効果も使えない!パスを宣言し合って終了なのだわ!!!」

「くー!!パスです!」

「もちろん、ワタシもパスなのだわ!ってことで勝ちぃ!!!」

「負けましたー!!!」


 どうやら初戦は、シア王国デッキを使ったミレーネ姐さんが勝ったみたいだ。

 その後も、中々白熱した戦いが繰り広げられていた。

 スキルの使い所を吟味して、戦うと各派閥デッキちゃんと勝率5割くらいになるっぽい。

 どこかのデッキが突出して強くなってるわけではないっぽいので、バランス調整はしなくても大丈夫かな?

 

 魔法スキルの習得は失敗したけど、カードゲームは上手く行ったようである。

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