第29話:次なる任務は王都護衛

 何故だろう。

 全員の意見を聞いた後、僕らは再度大広間に突撃した。


「壱刀流剣術—――《斬》」

 一撃一殺に特化した、剣術で確実に仕留めるアゴキ。

 返り血を浴びながら、次々と斬って斬って斬りまくる。

 アゴキの動きは一対一に特化した剣術。

 その隙を突いてくるコボルト。

「参刀流剣術—―――《流》」

 カバーするようにキンギが返し技カウンターを繰り出す。

 アゴキが好き勝手に動く。それをカバーするのがキンギ。

「弐刀流剣術—――《裂破乱舞》」

 流れるように遊撃して敵を多閃—―切り刻んで相手の連携を奪う。

 三者三様。違う剣術を学んでいるらしい。

 戦闘スタイルが全く異なる彼等の相性はすこぶる良い。

 それを活かす様に―――

「—――《身体強化》」

 僕がバフを付与する。

 彼等の動きに敵も付いてこれてない。

 罠があると踏んでいたのだが――――


――――――――――!!!!


「な、なんだこの強烈な咆哮は――!?」


 咆哮の先、一同が視線を向ける。


 そこにいたのは、—――――キングコボルトとクイーンコボルト。

 どうやら、王の出陣らしい。

 見た目は手負いには見えない。

 とうに回復したという事か。


「—―――ぐっ!!!」

 アゴキがキングコボルトの攻撃を何とか受け止めている。

 まさに瞬足。

 

「参刀流剣術—―――《制》—―――な」

 キングコボルトを迎撃するキンギの攻撃を受け止めたのはクイーンコボルト。

「せいやあああああああああ!!!」

 アイーダは近衛のコボルト達を吹っ飛ばしているが、助太刀するには敵が多く、阻まれてしまっている。

 確かに、これは誘われたな―――魔物に。

 罠と呼べる程の不意打ちだ。


「《連鎖雷》」


 魔法を感知した彼等は即座に一旦、退く。

 

「《風雷刃》」

 

 アイーダが相手にしていた敵含め、雑魚処理を僕が一手に担う。


 因みに、隊長達は、相変わらず出入り口の確保に動けないでいる。彼等も彼等で猛攻を凌いでいるところなのだ。


 《浮遊》で全体が見える僕は戦況が厳しくなったのを肌で感じている。

 元は、騎士長がキングを、三人でクイーンを相手取るのが理想であったので。

 雑魚処理を僕が一手に引き受けているとはいえ、三対二。

 

「壱刀流剣術—――《薙》」

 バフられ済みのアゴキが横一閃—――キング&クイーンに一太刀入れる。キングとクイーンを分断する。

「弐刀流剣術—―《裂破乱舞》」

 ―――狙いはキング。

 攻撃の手数をガンガンに増やし、手傷を負わせる。

 流石、レベル3。

「参刀流剣術—―《流》」

 上手い事、キンギがクイーンを阻む。

 ただ、—―力負け。純粋な地の強さに押され気味である。

「《再生》」

 キンギに回復を。

 これで、傷めた筋肉の再修復が速やかに行われ、ダメージの蓄積をなかったことにする。


「《連鎖鎖》、《風雷刃》」

 王&女王に助太刀せんとばかりに寄ってくる、雑魚は僕が近寄らせない。

 強行しようものなら、速やかに討ち取る。

 

「壱刀流剣術—―――《破》」

 あらん限りの力を込め、王の首を狙う。

 —――――。

「討ち取ったり!!!!」

「ばか!相手は人間じゃないんだよ!!—―――弐刀流剣術—――—《千閃万華》」

 アゴキが首級を挙げたことで、敵の統率は乱れた。

 綻びは、瞬く間に広がる。

「《連鎖雷》、《風雷刃》」

 出入口に猛攻を仕掛けていた敵まで、此方に来る始末。

 ほぼ全方位に魔法攻撃を放ち、僕は魔力回復薬を一本丸々呷った。それだけ、魔力を使ったのだ。

 

「—――――《烈火》」

 炎の剣が、クイーンを貫く。

 瞬く間に現れた女王を討ち取ったのは―――騎士長サスケスだった。因みに死体を魔法鞄で回収したのも彼。

 荒れ狂う敵に統率された――攻撃はない。だが、数が多い。

 苛烈に攻め立ててくるジャイアントコボルトはレッドコボルトやハイコボルトを気にせず、剣騎士達を襲う。


「—―――撤収!!!!」

 サスケスの号令により、通路に逃げ込む。

 ハイコボルトやレッドコボルトは群れて、攻撃してきたが、数の利は活かせてない。

 それこそ最初の頃の僕達みたいに。


 第一広間まで、撤退しつつ確実に処理して――――

 敵が襲ってこなくなったのを確認する。


「ふぅ、まさかの初日討伐とは―――。」 

 サスケスがしみじみといった感じで―――。

 王と女王を倒すことに成功した。

 ちょっと様子見するだけだったのだが、目当ての敵がわざわざ出て来てくれたのだ。

 

 

「ああ、疲れた。—―――ふう、水うめえ……。」

 アゴキがリオンの【水属性魔法】で作られた飲用水を、これでもかってくらいに飲んでいる。

「みなさま、お疲れ様です。シル様も大魔法の連発—――流石ですね。本当にレベル2なのか疑ってしまう程でしたよ。」

 回復魔法の使い手、ミオンが労い半分、詮索……興味半分といった感じで話し掛けてきた。

「僕への回復支援をしてくれたシル様のお陰で、クイーンを相手取る事ができました。終始、防戦一方でしたが―――。」

 割って入るように、キンギが興奮して僕に話し掛けてくる。

 彼も彼で、首級討ち取り祝いに高揚しているのだろう。

 

「ああっと、取り敢えず戻って、一旦休みましょう。後日、コボルト討伐の報告をフィリア王太子にしましょ?」

 僕の一言で、彼等は我に返り、速やかにコボルト採石場から引き上げた。



 あれから、二週間。 

 なんだかんだ、コボルトの殲滅に従事して―――。


 フィリア団長に会える場所—――、それは東都城、一階大広間。

「ほぉ?—――お前達、時間が掛かると言っていたのにもう討ち取ったか。」

 フィリア団長自ら、死体を確認する。


「首級がのこのことやってきたというのもありますが―――。我々、騎士団が首級を討ち取れたのはシル様の魔法による、バフと雑魚処理のお陰です。」

 サスケスは淡々と報告をする。

 先ほどまでの、少しばかり浮ついた様子はない。

「第七小隊より、シル様の御活躍は、しかとこの目で。第一騎士団の精鋭達が王討伐に臨めるように、周囲の敵を魔法で倒していたのはシル様です。縁の下の力持ちとは彼女のような振る舞いを言うのですね。」 

「第一騎士に第七小隊もそこまで言うか。シルよ、大いに活躍したみたいだな。」

 フィリアの視線が、僕に転ずる。

 何か言わないとなぁ。

「いえ、私は皆さんの助力になっただけです。過分な評価です。倒したのは第一騎士団の皆さま方ですし。唯一の出入り口を死守していたのは第七小隊の皆様の魔法あってのこと。みなさまの御力あっての今回の結果です。」

 現に首級の死体には、魔法痕はない。

 トドメを刺したサスケスの攻撃が火属性を纏っていたくらいで。それは、フィリア自身が、傷をみて、確認している。


「ふ、謙虚な事よ。では、そなたらには褒美を与えねばな。そうだな。私は所要で王都に出向かねばならん。お前たちに、護衛の任を授けよう。」

 それは、褒美なのか?!!!

 新しい、仕事なだけじゃ?!


『謹んで、お受けいたします。』

 第一剣騎士団、第七小隊の面々が頭を垂れているのを――流れで倣う。

 はあ、御次の仕事は、王都までの護衛か――――。


 ステータス


 シルフィア

 

 Lv.2


力:I→H 89→156 耐久:E 457→466 器用:H→G 117→218 敏捷:H 102→173 魔力:H→G 180→299 幸運:H→F 154→379


《魔法》

【水属性魔法】【風魔法魔法】【土属性魔法】【火属性魔法】【雷属性魔法】【光属性魔法】【闇属性魔法】【回復魔法】【生活魔法】【収納魔法インベントリ


《スキル》

【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】【遠見】【魔道具製作】

【魔力回復(微)】【魔力制御】


《呪い》

【男性に話し掛けることができない】



 なかなかである。自傷行為でしか、傷ついていないので耐久の上りは悪いけど、上がるんだなこれが。

 ありがたい限りだ。

 因みに、二週間の狩りの殆どの手柄は、剣騎士と第七小隊だ。

 僕が、頑張ったので雑魚狩りは彼等が獅子奮迅の如く頑張ってくれた。



「ただいまぁ……。」

「おかえり!シルちゃん!!」

 魔術師塔で出迎えてくれたのは、ミレーネ姐さんである。

 ロレーネ、アマンダ、ケルンは相変わらず別行動だ。


「御飯にする?お風呂にする?にする?」

 この遊戯は別にえっちな奴ではない。

 言い方がアレなだけで、オセロである。

 どうしてか言い方がアレなだけで。


「御飯にしようと思います。その後、ミレーネ姐さんとお風呂にします。」

「ふんふん!!!!おっけえええいい!!」

 テンション高いなぁ。

 ミレーネ姐さんお手製の御飯は実に美味しい。

 それこそシェフを呼んで頂戴。といいたくなるくらいに。


「今日は、フィリア様の所にコボルト殲滅報告に行ってきたんですけど……もぐもぐ。そこで王都までの護衛という栄誉を与ってきました。」 

「栄誉っていうか、仕事じゃない……もぐもぐ。この時期に王都ってことは、海軍病の件かしら?それとも、長兄一族と最後の打ち合わせかしら?」

「内戦……になるんですよね?」

 僕がステーキを食べながら、話す。 

「ワタシも長らく関わってこなかったからなぁ。シルちゃんは王都の造りから王の顔、王派閥、次兄一族、次兄派閥、この辺りの顔やら名前やら覚えないといけないし、大変よぉ……。」

 スムージーをかき混ぜ、飲んで、を繰り返しながら話すミレーネ姐さん。姐さんも億劫?憂鬱?そんな負のオーラを撒き散らしている。

「なんで覚える必要が?」

「そりゃ、敵対するんだから。敵が誰なのか、何処に敵の刺客が潜んでるのか分からないのよ?のこのこ付いていったら死んじゃうわ。」

「うわぁ。物騒な…」

「そうよぉ。物騒な世の中になるわ。この平穏もあと少しだなんて……内戦が始まれば、ワタシ達のとこも大量の兵が傷つくことになるわ。後方支援、大変よ……。」

「ミレーネ姐さんも後方支援なんですか?レベル6なのに?」

「一応、肩書は王宮裁縫師なんだから。そもそも戦いに参加する事すらない職業だってのに。支援するだけ有難いと思って貰わなきゃ。」

 肩書……って大事なんだな。王宮魔術師してた頃とかは戦いに出てたのかな?

「それを言ったら、本当はシルちゃんはロレーネと一緒に前線送りよ。でも、【回復魔法】が優れてるから後方支援に回れたってだけよ。」

 なんやて?!くど……ミレーネ姐さん!!

「そんな……それじゃ、アマンダとケルンは前線なんですか?」

「そうよ。だから、別行動なわけ。ロレーネがいるから、そこらの所より圧倒的に安全だけどね。」

 別行動にそんな意図があったとは。

 所用って言うから、研究の何かでも手伝いに行ってるのかと思ってたよ。

「寧ろ、後方支援に向けてくる刺客のほうがよっぽど危険よ。シルちゃんは自分の心配をしたほうがいいわ。レベル4とか5の……ワタシだって油断したら寝首かかれちゃうくらいの猛者がきちゃうんだからね~?」

 悪い顔して、脅してくるなよ。でも、後方支援だからって危険じゃないわけじゃないのかー。

「それなら内戦なんてしないで、暗殺する方で…」

「それが出来たら苦労しないわ」

 ですよねー。フィリア団長も刺客差し向けられてるみたいな話だけど今もピンピンしてるし。似たようなバケモンなのかもなぁ。

 食事も済ませ、お風呂も済ませ、寝るまでの間はオセロ片手に修練に励んだ。



 フィリア団長が――内政等、不在時の手配を済ませるまで一週間。大量の魔力回復薬を瓶詰し、【収納魔法インベントリ】にぶち込んでおいた。

 勿論、《魔力の増幅》とやらは未だに、習得出来ていない。未だにっていうとまるで、無能を晒してるみたいだけど《魔力制御》をスキルとしてモノに出来たのだって、ステータスでみたら、5倍だか6倍だかくらい頑張って頑張って頑張ってそれでも無理ゲーだから《ランクアップ》までしてやっと手に入れたのよ?

 こんなの増幅習得できたらレベル3に《ランクアップ》出来ちゃうよ。多分それだけで。知らんけど。流石に言い過ぎかもしれないけど。


 話がだいぶ脱線しちゃったわ。

 本日、雪!!雪が吹き荒れてますが快晴!天を覆い尽くす雲雲雲!曇天という晴天!実に遠出日和となったこの日に、満を持して王都に出向しております。

 

「………。」

 なんで、僕が意味不明な事をナレーション風に、現状説明しているのか分かる?

 分からないだろうなぁ。だんまり決め込んでるか分かる?

 分からないだろうなぁ。だから教えてあげるわ。

 フィリア団長を真向かいに、隣にミレーネ姐さんと斜め向かいに回復魔法の使い手ミオン女史という布陣で馬車に詰め込まれたからだよ!

 話す事なんてない。この沈黙に誰が耐えられようか、否、耐えられるわけがない!

 だから、現実逃避ついでに気合入れて説明してた訳よ。

 地味にお尻も痛いし、早くご飯休憩したいなぁ。

「フィリア様、そろそろ食事休憩にしましょう。」

 御者から声が掛かる。

 因みに外は吹雪いているので、火打石なんて軟なもんじゃ、無理。【生活魔法】の《着火イグニッション》も火力が足りない―――ので、【火属性魔法】でがっつりと火を付ける、というか燃やす。

 プチキャンプファイヤーの出来上がりだ。

 これで、肉を、野菜を、包んだホイル焼きの作る。

 蒸し焼きみたいな焼き芋みたいな美味しさがある。

 特にニンニンとかいう人参もどきとかタマラネギとかいう玉ねぎとか妙に甘くておいしい。

 芋みたい。根菜最高!

 

 馬車に戻って食べることも出来るけど、それは無理。

 焚火ぷちきゃんぷふぁいやーで暖まりながら、昼食を済ませる。憩いの時間は一瞬である。

 因みにこんなのが、あと二日も続くらしい。

 都市間を繋ぐ道が、舗装整備された道路になっていてもだ。

 長兄一族が治める南都を通り、西都を目指す。

 西都が今の王族直轄領となっているから。

 

「あと一刻程で、南都に到着します。」

 御者が報告する。

「なら、警戒を最大限に引き上げるように伝えろ。」

 フィリア団長はナックルガードを装着している。

 指がコキコキと鳴ってるんだけど……?

「シル、ミオンお前らじゃ足手纏いだ。回復と防御に専念しておけ。死ぬなよ?ミレーネ、指揮は任せた。」

『は、はい!』

「分かりましたわ。」

 緊張感が一気に高まる。まだ襲撃にも遭って無いのに。

 待って何が始まるの?!誰か教えて!

 僕は説明を、求めるようにミレーネ姐さんを見やる。

「……ッ—―――――――!!!!襲撃ッ!!!!正面左右、敵……推定50!!!」

 ミレーネ姐さんの馬車外にも聴こえるような脳に直接伝えてくる《伝音》に僕はビビった。


 扉を開け放ち、早々に出ていくフィリア団長。

 こういう時って普通守られる側では?なんて思いより頼りになる~!の気持ちの方が大きい。

 だって、明らかに外に向けられる殺気が小便漏らしちゃう程の圧なんだもの。

 味方にいると、なんて心強いことか。


「狙いは―――フィリアだ!!あそこだ―――ころぇ?」

 開け放たれた扉越に見てたんだけど、襲ってきた盗賊風と暗殺者風を足して2で割ったような敵の顎と首が意味分からん食らいぐちゃっと陥没してる死体になった。

 せっかく喋ってたのにね。唯一の台詞と言ってもいいだろうに、可哀想に。


 此方の剣騎士達も馬から降りて、防御戦術を展開しているっぽい。折角の戦いなので―――、

「《隠蔽ハイド》、《不可視インビジブル》、《浮遊フライ》」

 良く見える位置にまで飛んだ。

 ミレーネ姐さんが指揮をしている。

「防御陣形—――《サークル》維持!」

 背後を取られないように三人一組で十個にパーティーを作って円陣を組んでいる。押され気味ではあるが、陣形はそう簡単に崩れない。

「オラァアアアアアアアアアアアアア!!!」

 黒い髪の女が―――円陣の外で暴れ回ってるのが、フィリア団長みたい。一騎当千の如く、電光石火で一撃で沈めて回っている。顎下から喉首にかけて、ぐしゃぐしゃなんだけどそこの部位破壊しないと気が済まないのかな?

「《身体強化》—――――!!!」

 全体にバフをかけまくる。優先順位は押されているところから。バフを掛ければ、簡単に盛り返す。

 襲撃者も何が何だか分からないようで、急激に強くなった第一剣騎士団の逆襲に合い始めている。

「シル!!!ワタシにもよこせぇ―――――!!!」

 一瞬だが、殺気を向けられる。

 フィリア団長お気づきのようで。

「《身体強化ストレングス》」

 最強が最恐に最狂に最凶のようで。

 災厄とはこういう人のことを言うんだろうな。

 圧壊というか圧潰というか………。

 あっという間の蹂躙劇で―――、


「敵殲滅完了しました。72名討死確認。2名を捕虜にしたものの《洗脳》済みだったようで、戦闘不能状態になると自我が破壊されるようになっていました。既に廃人になってしまったので情報は得られませんでした。」

 第一剣騎士団の金髪碧眼優男然とした—――サスケスが兜を取って報告を済ませる。

 声も男性にしては聞き取りやすい高めの声で特徴的だから、兜を取らなくても分かるくらいには仲良くなった。でもこういう時、見知った顔を見ると安心する。

 無事生き残ってくれて良かったよ。

「被害は――?どのくらいで出発できる?」

 フィリア団長だ。

「被害は軽微—―死傷者はゼロです。既に第七魔法師団の治癒が始まっているので、半刻程で出発可能かと。」

「そうか。では、それまでに警戒を怠らず、回復と出発準備を済ませるように。」

「—―はっ!!」

 サスケスが持ち場に戻っていく。


「—――して、シル。姿を隠してるつもりだ?」

 すっかり忘れてました。

 慌てて、《不可視》と《隠蔽》を解く。

「お疲れさまでした。凄まじい武勇を―――」

「よい。誉め言葉など。」

「……失礼いたしました。」

「それよりも――だ。【付与魔法】まで使えたのか?」

 またか。そんなの手に入れてないんだけど?

 1.正直に話す。

 2.話を合わせる。

 ……面倒だしそう言う事にしちゃうか?

「どうなんでしょうね。」

 はぐらかしてみた。

 第三の選択肢を取ってみる。

 これが吉と出るか凶と出るか

「ククッ―――話したくなければそれでも良い。ただ前線送りも視野に入れるべきか―――――?」


 僕の運用法についてか―――なるようになれ、の精神でいくわ。帰郷するには、この人を王にしなければいけないし。そのために出来る事なら何でもするべきだからね。


「フィリア王太子殿下、シルちゃんは後方支援でいいですよ。下手に前線に送って激化する可能性もないわけではないですし、ヒト一人分の目の届く範囲など限られますから。それよりも傷病者を一人でも多く迅速に治癒し、ゾンビアタックさせた方が良いです。死ななきゃ兵が損失することのない軍がどれほど素晴らしいか分かりますよね?」


 ミレーネが珍しく話に割って入ってきた。

 それもやたら有用性を語ってくれるではないか。


「分かっておる――前線に送るだけなら大して意味がないことくらい。特攻なら―――話は別だな、と思っただけだ。」

 

 うんざりしたようにミレーネの案の有用性についてフィリアは認める。

 特攻かー。

 フィリア様みたいな猛者がいる所に後方支援で部隊に編入されるとか堪ったもんじゃないね。

 シルフィアは改めてフィリア団長は怖いなって思うのだった。



「はぁ―――。やっと着きましたね。」

「そうねえ。長かったわ。」

 城然り、城下町然り、見た感じ、東都城と大差ない。

 あれから、戦闘もなくただ座ってただけなのだが――――僕とミレーネ姐さんは同じような気持ちで感想を漏らす。


「ようこそ、おいで下さいました。本日はジルバレン王太子殿下が南都城—―二階大広間にて皆様のためにお食事を用意してあります。それでは―――こちらに。」


 城門前で執事らしき、使いの者がやってきて案内を始めた。


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