第28話:コボルト鉱石場に殴り込んで、?

「それで、帰ってきたと?情けない……。」

「面目次第もございません。」


 どうも、ランバルト海洋王国でフィリア団長を女王に押し上げるため、色々と助けになれるよう日々精進しているシルフィアです。

 一時撤退してきた第一騎士団と第七小隊と僕達助っ人軍団は、報告しにフィリア団長に会いに来たところです。



「まあまあ、死者ゼロだよ?良質な経験値が積めたって考えたらいいじゃないの。」

 ロレーネが助け舟を出してあげる。

 攻撃役の全てを一任されていた第一騎士団の叱責は控えめに言って、面子が潰れる程度にはキツめのお灸となっていたからだ。

「突破口くらい、ロレーネ達が開いてやればよかったんじゃないか?」

「そんなことしても無駄よ。連携を見る限りじゃ、大広間も相当数いたと思うし。アレを突破できないなら、大広間に辿り着いた途端に、第一騎士団は全滅してたでしょうね。アタシの見立てではね。」

「ワタクシも概ね、ロレーネと同意見ですわ。相違点をあげるなら、第一騎士団だけでなく、第七小隊壊滅したんじゃないかしら―――?」


「僭越ながら申し上げます。我々、第七小隊だけでは治癒が間に合っておりませんでした。なので、回復要員は増やしても良いかもしれません。ですが、剣騎士を導入しても戦うスペースが現時点でございません。もし再編されるなら量よりも質が重要かと愚考いたします。」

「なっ。…どれ程の猛者でもあの数と徹底した防備を崩せる剣士は一握りかと……。」

 レベル3とレベル4の混成騎士団をも越える――ともなるとレベル5以上。それこそ将軍クラスの人間になってくる。


「そうねえ。たった一日で要塞を陥落できる程の手練れは一騎当千だとか天下無双って言われるような超人くらいよ。それを騎士団員に求めるのは酷だわ。連携を封じられている以上、一騎当千を求めるのは間違ってないけど。—――だから、時間を掛けて攻める方針でいいんじゃないかしら。幾ら、魔物の繁殖力が素晴らしくても所詮は採石場内にいるだけだし。」


「その採石場が中級迷宮と同等の脅威を秘めてるから、軍が出動してるんだけどね?やりたくはないけど、ワタクシとロレーネが攻撃に回れば一瞬で解決しなくもないわ。ただ、それだと第一騎士団と第七小隊は要らない子達になっちゃうけどね。」


「ううむ。お前たちが殲滅してもなぁ…。よい、時間を掛けてやれ。ただし、回復要員は増員出来ん!攻撃役は変わらず……いや第一騎士小隊に規模を縮小し、続投!この際、とことん苦しみ抜いて成長してくれたまえ。」

 いや鬼畜ぅうううう!!!!

 そういや、この人達レベル6とかなんだよなぁ…。団長に関しては、6で済むのか分からんくらい強いだろコイツって感じがひしひしと伝わってくるし……。

 報告当初の感じだと4程度って感じが透けてたしなぁ。

 王族なのに一体どんな死線を潜り抜けてきたんだか。

 そういや現地で指揮取っちゃうくらいアクティブなんだったわ。頑張らないとなぁ。


『お、仰せのままに。』



 片手剣に小盾バックラー、鎧を身に纏った剣騎士が4名、回復魔法の使い手が4名+僕。

 師匠と先生はこれからは付いてこないらしい。

 フィリア団長の意向を汲み取り、とことん苦しみ抜いて成長するにはアタシ達は不要ね。貴方達なら出来るって信じてるわ!—―――って、嘯いて魔術師塔に引き籠—――りはせず、何処かに行くらしい。因みにアマンダ、ケルンはロレーネ先生に付いていく。まさかの別行動である。

 

 東都城から、コボルト採石場に向かう道中—―。


「小規模になったので、自己紹介でもしましょう。命を預け合う仲間ですから。これから親玉討伐までの間、苦楽をともにするでしょうし。」

「それもそうですね。」

 剣騎士さんの一人が全兜フルフェイスメットを取って、話し掛けてきた。同調したのは第七小隊を率いている女性だ。


「では、早速言い出しっぺの僕から。剣騎士小隊長のサスケス。レベル4です。得意武器は片手剣—――。」

 実に男前だ。金髪碧眼、男くさいというよりは柔和な雰囲気。

 甘めの二枚目優男に見える。

「レベル3のアイーダです!」

 こちらは女性だ。茶髪に切れ長の眼。逞しい。髪を三つ編みにして、一本ぎゅっと綺麗に整髪している騎士。ポニーテールならぬポニーブレイズみたいになっている。

「レベル3のアゴキだ。」

 男性だ。高身長。顔は平凡なのだが、ケツ顎のせいで、モテなさそうな騎士。

「レベル3のキンギです。」

 サラサラヘアの低身長。シジミ目のたらこ唇。実に個性的なお顔だことで好きな人は好きそう。アゴキさんよりコアなファンがいそうな感じの騎士だ。

 剣騎士勢はこれで自己紹介が終わり――。


「では、第七小隊隊長を務めています、レベル3のミオンと申します。【回復魔法】の他に、【雷属性魔法】と【火属性魔法】を得意としています。火魔法は今回場所が場所ですので使えませんが、応戦背ざる負えない時は雷魔法で対処する所存です。」

「同じくレベル3のリオンです。ミオンとは双子なので、顔も名前も似てるかもしれません。長髪はミオン、短髪がリオンと覚えて下されば幸いです。【回復魔法】の他は、【水属性魔法】を得意としています。」

 確かに似てる。

 ハムスターみたいな小動物感のある双子ちゃんだ。

「ニキータ。レベルは3よ。土魔法を得意としてるから戦闘にはあまり貢献できないわ。崩落させても良いなら攻撃するわ。」

 いや、やめてくれ…。愛想がないクール系の茶髪短髪少女って感じだ。

「エンジェです。レベルは2です…。頑張ります……。」

 暗い子だ。前髪で顔が見えない。

 同じレベル2か。いやレベル2上位かもしれないし、失礼よ。

 ただ気後れしているのは間違いない。

「私はミレーネ姐さんの弟子兼ロレーネ先生の下、魔法の修行をしているシルです。レベルは2です。回復だけでなく、攻撃魔法は全て扱えます。見て分かる通り、接近戦全般は不得意です。」

 何処にも属してない事をアピールしつつ、ミレーネとロレーネの二枚の後盾があることを伝える。


「お聞きしたいのですが、シル様は何歳なのです?」

「四歳ですが、何か?それと何故に様付けなのでしょう?」

「ミレーネ様をさんと呼んでいる方に敬称を付けない国民はいませんよ。年齢確認に深い意図はありません。幼さと発言が見合って無くて驚いてしまっただけです。」

 訊いてきた第一騎士小隊長よ。フィリア団長は王族だから除外してんのか?王族だって国民だろう?特権階級持ちは別枠ですか?そうですか。


「俺が四歳の時は、鼻くそを深追いしすぎて鼻血吹き咲かせてたけどな。良く母ちゃんに鼻摘ままれて怒られてたっけか……はははは!」

 アゴキの発言ネタに、みんな笑っている。

 無愛想なニキータもククっと肩を震わしながら顔を背けて笑ってるくらいだ。

 

「では、我々が前衛を務めます。後衛から援護出来る方はお願いしますね。分かっているとは思いますが、魔力に余力は残して下さいね。」

 騎士(小隊)長がコボルト採石場の前で最後の確認を取る。

「ご安心してください。本分は忘れてませんから」


 ミオンさんが、ああは言ってるけどこっちは、攻撃する気満々である。

 一匹でも多く駆逐してやるのだ。レベル3と4の騎士をぶつけて、キングコボルト達を倒す。

 新調して貰った瓶に詰められた魔力回復薬は4本もあるしね。

 

 緊張感が高まって、みな真剣な顔つきに変わった。


 

「《身体強化ストレングス》」

 

 僕は剣騎士4人にバフを撒く。【雷属性魔法】の肉体強化だ。

 

「《連鎖雷チェインライトニング》」

 

 より厳しく、人数制限されてしまったので、僕が編み出した新魔法である。一匹に当たると連鎖するように近くの敵全てに雷撃を与える。これは込められた魔力が消費され尽くされるまで、敵を電撃の鎖で動きを封じ込め、雷撃を与える仕様にしてある。対象は魔核だ。そうしないと味方にフレンドリーファイアーしかねない。対魔物用向けの魔法だ。

 人間を対象にすると、無差別に攻撃してしまう。敵味方入り乱れる乱戦では……使用できない魔法になるので、欠陥魔法だ。

 だが、此処では―――、敵が魔物なら容赦なくその威力を発揮する。


『グゲギャ―――――?!』


 身体能力の上がった味方騎士が倒すまでには至らない、僕の魔法を受けたコボルトをバッタバッタと薙ぎ払う。



「最序盤の坑道は押さえましたね。まさかこれ程に簡単にいくとは。シル様は【付与魔法】も使えるので?」

「【付与魔法】?が分からないです。」

「剣騎士達に使われてた魔法ですよ。」

 ここまでは前回も押さえている。この先の通路が人が二人分しかない狭い通路になっていて難所だ。

 座って休んでいる僕の隣にきてミオンが話し掛けてきた。【付与魔法】という新魔法ジャンルについて言及してきたけど、生憎そんなジャンルの魔法は手に入れてない。

「これは【雷属性魔法】を応用した《身体強化》なので、【付与魔法】ではないです。」

「【雷属性魔法】で《身体強化》を?そんな魔法は聞いた事が在りません……。」

 ふむ、じゃあこの世界にはキ〇アみたいな人間は居ないのかな?それか秘術的な秘匿されている技術か?

 アーシャとニビにはこの使い方を最初に伝授しちゃったんだけど……?ま、いっか!

「《身体強化—――》……あぅ!?」

 一戦闘終えたので、【雷属性魔法】が得意だと言っていたミオンが見よう見まねでやってみる―――と、見事に失敗した。


「威力を間違えると、味方の強化バフどころか行動阻害系の弱化デバフになってしまうので気を付けなければいけませんけどね。今みたいに……。あはは……。」

「あぅ……(そう言う事は)は、はやくおしえれくらさい。」

 恨めしそうに尻もちをついてへたり込んでいるミオン氏には悪いことをした。


「まるで羽が生えたみたいな体の軽さだよ!シル様最高!!」

 唯一の女騎士、アイーダが信じられない、とばかりに驚嘆して演舞まで披露している。

 実に楽しそうだ。

「そうですね。これはまるで疑似ランクアップを経験しているかのような錯覚を覚えますね。もっとちゃんとした表現だと……力に振り回されない、この感じは……調子がいい?そんな魔法ですね。」

 キンギが冷静に分析している。

 それにアゴキとサスケスも頷いている。



 狭い通路で密集している敵に―――

「《連鎖雷》」


 見事に決まる。嵌めまくって攻撃が通る。

 前衛、中衛、後衛を綺麗に揃えた結果、連鎖する雷撃。

 前衛、中衛が崩壊した後に、矢が飛んでこない。

 なぜなら、強烈な麻痺状態だから。

 筋肉が上手く動かせないのは生物として体を持っている魔物でも同じこと。致命的な隙を晒してくれる魔物が纏まっているのだから――――。


「でやああああああああああああ!!!」

 アゴキが大振りに剣で横薙ぎして、コボルト達を打ち倒す。


 大広間にはびっしりと、盾を構えたり、石柱の影に隠れて、弓を番えていたりと―――迎撃準備は万端と言った所だ。


『グルォオオオオオオーーーーーーン!!!』

 咆哮が合図となってコボルト弓兵は一斉射撃をしてくる。


「《フォースシールド》!!」

 サスケスの小盾が大盾に肥大化し―――空中に4枚ほど展開する。まるでバリアのようになって弓矢を弾いた。

 これが剣術のスキルなのかな。

 入り口を死守するように隊長が守衛として後衛の守り兼、脱出用の退路の確保に専念している。

 唯一の出入り口に強襲してくる攻撃は騎士長のサスケスと他の回復要員が迎撃して徹底して守っている。


 戦う場が広くなったので騎士達も動きやすくなった。アゴキ、キンギ、アイーダは3人一組になって突貫して敵部隊と交戦している。

 機動力を得て、回避も余裕を持って行うことが出来てはいるが、数が数だ。

 遊撃部隊としては当然だが、危うい場面がある。

 

「《浮遊フライ》」

 僕は飛んだ。

 三人の剣騎士達のフォローを上から行うためだ。

「《連鎖雷チェインライトニング》」

 敵の数が多すぎて、鈍くなる程度の魔法威力が下がっているが、そのお陰で1テンポ、攻撃のタイミングがズレる。

 戦場において、それは致命的だ。

 剣騎士達は、ハイコボルトやレッドコボルトの群れを蹴散らしている。ハイコボルト達では相手にならないと見るや、ジャイアントコボルトの部隊を投入してきた。—――交戦が始まる。

 

「弐刀流剣術—――《裂破乱舞》!」

 アイーダは荒れ狂うように、ジャイアントコボルトを切り裂いている。騎士というより、狂戦士の戦いを見ているようだ。

 

 剣騎士達はしぶといジャイアントコボルトを倒す。

 死体は邪魔になるので、逐次僕が回収している。

 破竹の勢いで攻めてはいるものの、逐次投入される敵の数は衰えを知らない。唯一の出入り口を守って戦わないといけないので、如何せん攻撃の数が足りない。

 

 実に厄介だ。

「こいつら、何体いるんだろうね。倒しても一向に減ってる気がしないんだけど。」

「気合いだ!いずれ終わりはやってくる!はははは!!」

「体力を逆算してますが、キビしいですよ。余裕を持って撤退する方が良いかと。」

 アイーダ、アゴキ、キンギの会話だ。

 アゴキの脳筋っぷりには呆れる。

 キンギの言う通り、撤退したほうが良いだろうな。

 大広間に入ってかれこれ、2じかん以上は暴れ回ってるし。

 時間が分かるのは【生活魔法】の《時刻》を使い、太陽や月?の位置から何となく割り出しているだけ。正確ではなく、多少の誤差はある。

「私が殿を務めます。撤退してください!!」

 僕は上空から撤退勧告をする。


『ありがとう(な)!』

 信頼してくれてるお陰で、三人共騎士長の下へと速やかに撤退する。

「《連鎖雷》、《嵐雷刃》」


 撤退に対して追撃しようとしてくるコボルト達を一掃する。

 ふう、疲れる。流石に広範囲に魔法をぶちかまし続けるのは堪えるな。

 まだ《魔力の増幅》訓練が上手くいってないせいで、火力を高めようとすると無駄に魔力を消費するのだ。


「はあ、疲れました。」

「シル様、殿お疲れ様です。敵は追ってこないみたいですね……?今日の所は一旦帰還しましょうか。各々私見を述べて下さい。」  

 サスケスが僕を労って、全体に帰還を提案する。

「まだ、陽は高そうですよ?休息レストしてから再度、戦闘もアリだと思います!」

 女剣騎士・アイーダの進言は真反対のもの。

「魔力回復薬を二本残しているので、第七小隊は戦闘可能です。」    

 回復魔法師のミオン女史も戦闘継続に一票か。

 それとも総意と捉えるべきか?

「シル様がバフを掛けてくれたお陰で負担が減ったとはいえ、僕は反対です。相手からしたら不測の事態で大ダメージを受けた後ですから。」

 これはキンギ。

「大ダメージを与えたのに何で反対なんだ?防御が崩れた今、果敢に攻め落とすべきじゃないか?好機だと思うがなぁ?」

 攻めるべきだと主張するアゴキ。

「好機な筈が崩せませんでしたよね。大広間の制圧は叶わず、一時撤退。フィリア王太子様より時間を頂いたんですから、無茶をするよりじっくりと叩くべきだと思います。」

 これはミオンの双子の片割れ――リオン女史。—―ふむ、双子でも意見が割れるか。というか、戦闘は出来るよって言っただけか。ミオン女史の意見は第七小隊の総意ってわけじゃないのね。

「私は疲れたから、出来たら休みたい。多分守りはより強固になってるだろうし、警戒が強くなった時に攻めるのは愚策。有効な攻撃手段のない私の心労は他の人より大きい。」

 これはニキータ女史の意見。

「エンジェはどう思います?」

 ミオンがエンジェに振る。

「あ、えっと………撤退したのに、逆襲とばかりに襲ってこないのは何故でしょう…。」

 エンジェ女史が質問を全体に投げかける。

「向こうが怖気づいたから?」

「守りを固めるのに必死になってんじゃねえか?」

 アイーダ&アゴキの脳筋組が答える。

「わ、わたしは……こうして話せるだけの余裕があるのは、疲れを押してでも攻めるべきだと思わせてるんだと思います。」

「つまり、エンジェはだと言いたい訳ですね?」

「…はい。」

 ミオン女史がエンジェ女史の意見を総括する。

 ふぬ。一理ある。

 トレントのちょっとした擬態とか、ゴブリンの集団行動や武器の使用とは訳が違う―――魔物のくせにやたら知恵があるし、戦術・戦法がちゃんとしている。

 烏合の衆みたいな攻撃じゃなくて、扉を開けた時の――――、あの統率の取れた戦い方をしてきてるからね。これが、罠だとしたらばアイテムの補充くらいするべきか。将又、警戒の高まっている今日はこのまま撤退するべきか。

 まあでも帰還多数なら決まりかな?そんなことを考えていると―――、


「シル様はどうお考えですか?」

 サスケスが最後に、と。一応聞いてくれるみたいだ。

「私は魔力回復薬は一本しか使ってないので、戦ってもいいですよ。もし罠ならそれはそれで、どんなことをしてくるのか知りたいですし。《深追いしないで、相手の出方を窺う程度》のっていう条件付きですけどね。帰還多数なので撤収でもいいですよ。」


 何となく思ったままに《戦闘続投》に一票入れる。

 どうせ多数決じゃ、僕の一票にもう意味はないしね。


 第一広間から、敵が来ないか警戒しながら話は続いた。



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