第26話:報告

 ズタボロになって帰ってきた弟子達をみて、ロレーネとミレーネの顔が驚愕と焦燥に染まる。

 

「《中回復ハイヒール》」


 ミレーネ姐さんが魔法で癒してくれるが、別に傷ついちゃいないぜ?

「何があったの?」

「キングコボルトとかが居て、激戦でした。」

『はぁああああ?!』

 僕が報告すると、ロレーネとミレーネは声を揃えて驚愕する。

「あのね、キングコボルトってレベル4よ?貴方達の実力じゃ、逆立ちしたって勝てやしないのよ?遭ったら訳も分からず死んでたと思うんだけど。」

「説明が端折れて助かります。訳も分からず、死にかけたので、自爆魔法みたいなのでクイーンコボルト諸共、多分消し炭にしてやりました。」

 そういや、死体の確認とかしてないんだったわ。

 生きてたらあの時襲われてただろうって勝手な憶測で話してて、自分の粗さに気づく。

『……。』

 絶句とはこのことか。

 僕の返しを聞いて、師匠と先生は顔を引きつらせる。

 

「それなら、どうしてシルちゃんは耐えれたの?」

「いや耐えてないですよ。顔面の皮とか眼球とか体中の皮膚とか諸々、擂り鉢ですり潰されたみたいな感覚で本当に死にかけましたし。自分でもよく【回復魔法】が間に合ったなと、褒めたいくらいです。」


『………。』

 師匠達はドン引きしている。

「それと、斬られて、吹っ飛んだアマンダなんですけど、回復した時には、心臓が止まってたんで、心肺蘇生はしておきました。自発呼吸し始めたので、多分大丈夫だと思うんですけど、要観察して下さい。」 


 《浮遊》させていたアマンダをミレーネ姐さんに渡す。

 抱きかかえたミレーネ姐さんに代わり、ロレーネ先生が脈を取って、呼吸もちゃんとしている事を確認しだす。

 二人とも、顔から血の気が引いているが手際は良い。


「ああ、それと魔力回復薬の瓶が破損したり、紛失してしまったので、代わりの瓶を下さい。」

「……ああ、ええ。お安い御用よ。みんなの分、また用意するわね。」

 ロレーネ先生は気前がいいな。

 流石、予算を分捕っただけの事はある。


 ローブ然り、インナー服もびりびりに破れている……。

 もう疲れた……。


 僕は魔術師塔に着くと、貸し与えられている3人部屋の自分のベッドに倒れた。


 報告が報告だけにアマンダは起きるまで、師匠達の所で様子見をするみたいな、うんたらかんたら言ってるのを聞いたような聞いてないような……。

 僕は、風呂とかにも入らず、眠りに落ちた。



 起きると―――。

 身体が綺麗になって、服も緑の寝間着に替わっていた。

 隣をみたら、ケルンも青色の寝間着になっていた。

 これは、ミレーネ姐さんが替えてくれたのかな?

 疲れが酷い。すぐに分かった。

 だって身体が鉛のように重いんだもん。

 あり得ん、これが重力何十倍みたいな修行?

 ※ただの疲労状態です。


「ぐぬぬぬ……!!」

 

 起き上がるのも怠いので、一先ずステータスをチェックする。


 ステータス


 シルフィア

 

 Lv.2


力:I 0→89 耐久:I→E 0→457 器用:I→H 0→117 敏捷:I→H 0→102 魔力:I→H 0→180 幸運:I→H 0→154


《魔法》

【水属性魔法】【風魔法魔法】【土属性魔法】【火属性魔法】【雷属性魔法】【光属性魔法】【闇属性魔法】【回復魔法】【生活魔法】【収納魔法インベントリ


《スキル》

【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】【遠見】【魔道具製作】

【魔力回復(微)】【魔力制御】


《呪い》

【男性に話し掛けることができない】


 馬鹿みたいに耐久が上がってる。

 400超えはチートかな?でもこれ5倍入ってなかったら80か。あれだけの辛い思いして……うーん。それにちょっと上がり悪くなってる?お腹も刺され、手足も失い……色々と地獄だったんだけど……。

 最初は腕一本に胸からずぱっと斬られるだけで300とか上がってたのに……。あの頃が懐かしいよ。80(本来の伸び)÷6か所(四肢+腹+自爆)=13……1回辺り13ですか。ま、自爆と四肢切断がどういう配分で入ったかなんて分からんし、検証とか絶対しないけど。あーん、イヤになっちゃうわ。


 経験値取得量増えてなかったら、まじの地獄だったなぁ。

 割にあって無さ過ぎて、気狂いしてたよ。

 神様、とんでもないチートスキルありがとうございます。

 感謝しないとね。

 

「あ、シルちゃん!起きたのね。」

 声のする方に顔を向けると――ミレーネ姐さんがタオルとお湯の入った洗面器を持って立っている。


「おはようございます。ミレーネ姐さん、身体が重いんですけど。」

「そりゃ、ね?たくさん血を流しただろうし。話を聞く限りじゃ、無理やりが過ぎるような事をした反動じゃないかしら?」

 確かに、血は足りてないだろうな。

 御飯も食べずに寝たし。

 ぐぎゅるるるるるる。

 ご飯食べてないって自覚したらお腹減ってきた。


「御飯も持ってくるわね。」

「ありがとうございます。」

 ミレーネ姐さんが、身体拭き用一式を小机に置いて、一旦部屋を出ていく。

 

 再び、扉が開く音がした。

「御飯の用意まで、すみま――—――アマンダ!!!」

「シルちゃん!!」

 感動の再開というか、復帰だ!僕が起き上がれないので、アマンダがダイビングハグをしてくれた。

 熱い抱擁をされるがまま。うむ、悪くない。

 ――アマンダは、ぴんぴんしていた。

 記憶の抜け落ちなんかはないっぽい?本人曰く。

 身体も正常らしい。

 対処が早かったか。

 不確定要素が多いけど、良い事例のうちの一つになったのは間違いない。


「じゃあ、私が食べさせてあげるね!あーん」

 アマンダが妙に張り切って僕に御飯をアーンしてくる。

「あーん、ん、もぐもぐ。」 

 美味しい。スープの中に千切ったパンが入っている。

 浸してふやふやにしてくれたんだろう。する必要性はないけど優しさ&気遣いだろうから何も言うまい。

 ミレーネ姐さんが何故か羨ましそうに此方を見ている様な気もしなくもないけど、僕はご飯を堪能した。

「今日のお肉はボロボロ鳥なんだよ?美味しいでしょう?」

「うん、美味しい。」

 ボロボロ鳥が何か知らないけど、美味しいよ。

 トロっとしてて噛まなくてもいいしね。

 ボロボロ鳥じゃなくてトロトロ鳥だね。

 

「いただきました。」

 取り敢えず、スープは二杯、いただきました。

 美味かったね。

 五臓六腑に染みわたる感じ。

 まるで居酒屋の生ビール一杯目のような美味しさだった。


 たらふく食べたら元気が出てきた。

 食後する事なんて決まってる。

 ベッドの上で座りながら、魔力を練る。

 いつもの《ミレーネ式》で修行だ。


「こんな時にまで直ぐ修行?」

「身体が癖になってて…?」

 ミレーネ姐さんが困惑と咎め半々といったような声音で。

 習慣化した身体のせいにする。

 ただ、僕が修行することで二人にまで強制させたりする流れになるのは流石に可哀想だな。でも他にやる事もないし。

 の娯楽という娯楽もないんだから、しょうがないだろう?

 あ、娯楽か!

 僕は思い立ったが吉日。土遊びをし始める。

 先ずは、盤—―8×8の64マスに区切った一枚の板を作る。

「シルちゃん、なにそれ?」

 アマンダが興味津々といった様子。

「まあまあ、みてて。今から玩具を作ってあげる。」

 白と黒をどう再現するか。

 土塊を生成し、魔力を込める。マスを見て、大きさを調整して――滑らかな石灰岩を想像する。

 もう一度、土塊を生成し、魔力を込める。次は黒曜石を思い浮かべる。黒い石ってそれ位しか思いつかなかった。

 後は二つを魔力で引っ付ける。というか融合?

 元は僕の魔力で生み出した産物なので、滅茶苦茶相性が良かった。それを64枚。これが地味に大変だった。待たせるわけにもいかないので、超特急で次から次、と生み出す。

 

 目の前の光景をミレーネ姐さんとアマンダが黙ってみている。


「よーし、完成!!アマンダ、先ずは私と勝負よ!!」

「え?!何をどうやって遊ぶの?!ルール教えてよ!」

 そりゃそうだ。

「まずは黒と白を二枚ずつ中央に置きます。」


 —―――2人のプレイヤーが交互に盤面へ石を打ちながら、相手の石を自分の石で挟むことによって自分の石へと換えていき、最終的な盤上の石の個数を競うボードゲームである。という事を実践しながら説明していく。

 

 ミレーネ姐さんも終始頷きながら、説明を聞いていた。

「—――で、私の黒が38枚、アマンダの白が26枚。つまり今回は私の勝ちぃ~!!」

 初心者相手に本気を出してぼろ勝ちするのもどうかと思ったので、手加減したのだ。


「もう一回!!もう一回!!」

 アマンダはハマったらしい。

「ワタシもやりたいわ。」

 ミレーネ姐さんも僕達の対局をみて、やりたいと声をあげる。

「じゃあ、お二人でどうぞ。」

 勿論譲るよ。

「ミレーネお姉ちゃん!負けないからね!」

「ふふ、ワタシ、これが初めてよ?お手柔らかにね。」

 二人とも楽しそうで何より。

 僕が教えた通りに、二人はルールを守って楽しく遊び始めていると―――


「んぅ、あれ。アマンダねえ?シル?ミレねえも。なにしてるの?」

 ベッドで寝ていた少年、ケルンだ。ミレーネ姐さんをミレねえと呼ぶか。一応僕の師匠でもあるんだけど。ケルンには師匠の偉大さが分からないか?裁縫お姉ちゃんの印象しかないか。


 此方の部屋が騒がしかったのか、ロレーネ先生も合流する。

 ご飯を食べながら、ケルンもオセロを見ている。

 アマンダとミレーネ姐さんの対局を見て、ルールの把握を済ませる頃には、二人とも、やりたい症候群を発症してしまう。

 だから、もう一セット面倒だけど作った。

 要領を掴んだので、さっきより手際良く作れた。

 もうこの手の職人にでもなろうかしら?

 一儲けして、のんびり過ごすのも悪くない。

 もちろん冗談だけどね。

 家族がどんな状況に曝されてるのか分からないのに、一人玩具職人で悠々自適に過ごしましたとさ。なんてありえないだろう?

 

 どんな惨状になっていたとしても、攻め込んできた帝国とやらは滅ぼしてやらなねば気が済まないし……。

 僕は元より不殺を信条に、とか、絶対的な正義の英雄・守護者みたいな存在になろう、なんて思っちゃいない。

 だから、僕にとっての故郷—―シア王国の民として、その庇護下にあった父さん母さん、村のみんなを苦しめる存在を討つ。

 仮にガルガンティア帝国とやらが善政を敷いてたとしてもね。


 前世で思いのままに出来なかった事を今世ではする。

 理不尽は理不尽で解決する。

 少し前の情報では、シア王国は徹底抗戦しているって聞き及んでいるけど……。

 もし親を殺されたら、姉妹みたいに仲良くして育ってきた幼馴染が酷い目に遭ってたら……仇は誰であろうと討たないわけにはいくまい。嫌な妄想だが、この黒い感情が肥しとなって、甘えを許さない。だから修行を止めるわけにはいかない。

 

 ま、目下の目標としては内戦どうにかせんと帰れないんだけどさ。そのための力を蓄える段階とか……無力過ぎて泣ける。


「シルちゃん。気を悪くしないで聞いてね。貴方が報告してくれた事を疑ってたわけじゃないけど、コボルト鉱石場の現場は確認がてら、人を送っておいたわ。」

「確認は大事ですから、気にしないで下さい。もしかしたらコボルトキング辺りを仕留め損なってる可能性もありますしね。」

「そうね。シルちゃんの攻撃で一時的に気を失ってたか、重傷を負って追撃出来なかったか、確認はしてないんだもんね?」

 僕はロレーネ先生の確認に首肯する。

 彼女達にとっては真新しい?遊戯をしつつ、ロレーネ先生は大人の話もする。真面目な人だわ。


「それと、コボルトが80匹だったわ。20匹足りなかったけど、報告の内容を鑑みて、差し引き0にしておくわね。」

 あ、完全に忘れてたわ。

 倒して、死体回収……するだけの頭がもう残ってなかった。

 これには、アマンダとケルンもハッとしていた。

 御咎めなしとは言え、バツが悪そうに遊戯をしていた手が鈍る。

「まあまあ。生きて帰って来れた奇跡に感謝して、コボルトの任務についてはもう忘れなさいな。それよりミレーネお姉さんと遊びましょ?息抜きも大切よ。」

 お師匠さまが、空気を和ませてくれたおかげで、その後、暫くは楽しくオセロを満喫するのであった。




「いやぁ、すごいですね。これを魔術師ロレーネの弟子達が?」

「ああ、この惨憺たるありさまを新兵がみたらゲロっちまってたろうな。戦々恐々で使い道にならねえだろうに。あまつさえ、戦い抜いて生きて帰るとかまじでやべえ。」

 死臭漂う中、顔色一つ変えずに状況把握に努めるは練達の兵士達。

 魔法鞄でコボルトの死体を回収しつつ、敵の気配がないか――残存敵—―伏兵にも注意を払っている。


「あ、やばそうなのいますね。」 

「あーあれがキングだかクイーンだかのコボルト?負傷してるっぽいな?」

「どうします?」

「どうするってったって、俺達は確認しにきたのであって、倒しに来たわけじゃねえから。」

「えー、手負いなんですし倒しません?先輩はレベル4じゃないっすか。俺、経験値稼ぎたいっす!」


 壮年の兵士が、相棒兼後輩らしき若輩者の言に溜息を吐く。


「はぁ……。おめえはレベル3だろ?幾ら手負いだからってレベル3がレベル4相当の魔物に敵うか?手負いの魔物程、恐ろしいもんはねえぞ。下手したら俺達、餌食よ。」

 

「先輩の力を借りて、《ランクアップ》の糧にしたかったのになぁ。」

「報告任務を終えたら、他の連中と一緒に嫌でも狩り出されるだろうよ。」

「それじゃあ、大して伸びないじゃないっすかー。」

 ぶーたれやがって―――と、未練がましそうにする若人に拳骨をお見舞いして撤収作業に入った。


 

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