第25話:採石場の悪魔
がんがん倒しては突き進む。
集めていた鉱石も漁夫の利—―コボルトから収奪する。
まるでやってることは簒奪者。
邪知暴虐の限りを尽くしているような気分になる。
コボルト側したら、まさにそうだろう。
仲間は殺され、死体一つまともに帰って来ず。
採石していた鉱石は奪われるのだから―――。
悪夢には悪魔を。
鉱石場の奥地に潜むコボルト達が、武器を取った。
「ここ物凄く天井が――おっきな空洞だね。」
僕達は追撃戦をしているとやけに広い空間に出た。
コボルト達の広間だろうか。
ハイコボルトや、レッドコボルトの数が増え始めている。
通常はコボルト3から4にハイコボルト1とかの割合だ。
それが、半々くらいに比率が変わっている。
ぶっちゃけ、ハイコボルトもレッドコボルトレベル1の上位程度。レッドコボルトは膂力のみレベル2って感じだろうか。
斬り合いをするわけでもないから関係ない。
近寄らせず、がんがん倒していく。
「アォーン!」
犬の遠吠えみたいな、コボルトの雄叫びが鉱石場に響き渡る。
奥からドスンドスンっと大きな足音と共に現れたのはジャイアントコボルト。
馬鹿でかい、ジャイアントってだけはある。
全長5メートルはありそうだ。
威圧感的にレベル2は超えてる。
「あれ、勝てそう?」
「負けられないな!」
少し不安になるアマンダと戦う気満々で燃えているケルン。
対照的だが、二人とも敵から視線は外さない。
『《身体強化》』
【雷属性魔法】で身体強化を済ませる。
【
固めて盾を形成する。
それを大量に浮かべて、防御陣と足場作りをする。
空中でも移動して戦えるようにだ。
「くるよ!!!」
ジャイアントコボルトの大振りの横薙ぎが炸裂する。
鋭い爪と丸太より太い腕に散りばめた盾が悉く破壊される。
足場を利用し、二人は上に逃げた。
「《浮遊》」
僕は飛んで回避する。
二人はまだ、《浮遊》が得意ではない。
実践投入出来ないレベルの回避しか出来ないから使わない。
「《雷撃》」
「《風刃》」
「《雷撃》」
防御されたが、攻撃は通る。
でも僕のだけ。斬りつける事には成功した。
腕は斬り落とすつもりで風刃を放ったが斬りつけるに留まった。加減したけど、思いの外頑丈みたい。
ジャイアントコボルトはすぐに、反撃してくる。
斜めからの振り下ろし。
僕達はこれも避ける。
広い空間で戦える分、此方はちょこまかと動ける。
雷撃が効かないのか?効いている様子がない。
『《風刃》』
アマンダとケルンが風刃を使う。
僕のより浅い。
でも通るみたい。
筋肉も皮も分厚いから通りにくいだけか。
「効いてるよ。全方位から攻撃開始!!」
大量に土塊を取り出し、随時足場を補充。
盾のおかげで、ジャイアントコボルトの攻撃は減速している。
コボルトやハイコボルト達も僕の作った足場を利用しようと試みる。
もちろん、位置をずらして、アマンダとケルンには近寄らせない。
「《嵐弾》」
頭を狙っても避けられるか、防御されるのがオチだから貫通力を高めた風×風魔法で関節を撃ち抜いた。
―――ブシュ!!!
『アォーン!!』
手足の関節を撃ち抜いたので、動きが鈍い。
僕なら一人でも楽だけど、アマンダとケルンにも実践を積ませないといけない。
『《風刃》!!』
アマンダとケルンが最大火力の風刃を首根っこに叩き込みジャイアントコボルトを制圧。
残ったコボルト達は空中から狙撃しまくる。
虐殺だ。
血でむせ返るような臭いが漂う。
ドスン……ドスン……。
ゾロゾロ……ザッザ……。
新たな、敵のおでましだ。
ジャイアントコボルトが3体。
それにハイコボルト達の群れだ。
「私がジャイアントコボルト2体倒すよ。二人で一体やれそう?」
「頑張る!」
「シルより先に倒す!」
低空飛行をしている僕にハイコボルトは襲ってくる。
これは足場の移動をするのが面倒なので、ハイコボルト達のヘイトを一身に浴びようってわけ。
アマンダ達は空中に足場を作っていなかったら、地獄だったろうな。
せっかく《魔力制御》が出来るようになったし……。
レベル1の時に編み出した魔法でも通用したけど――ここはやっぱり倣った事を実践に活かしてみないとね。
「《風雷刃》」
【風属性魔法】と【雷属性魔法】を混ぜた、新魔法を試す。
—―――バジュゥウウウ!!!!!
切れた音に被さって肉が焼ける音が聴こえた。
ジャイアントコボルト達はとっさに防御した―――が、貫通した。
両腕を貫通し、胸を切り裂いて焼いた。
断面が、焼け爛れている。
柔軟性を失った肉は断ちやすいらしい。
因みに消費魔力量は最初の風刃と同じ。
属性を混ぜるだけでこんなにも上手くいくとは。
特に威力を変えることなく、風雷刃、2発ずつ――計四発でジャイアントコボルトを倒してしまった。
《魔力制御》を覚えてなかったら、無駄に魔力を消費して苦労してたんだろうな。
同程度の魔物なら相手にならない程強くなったかもしれない。
恐れをなして、ハイコボルト達は統率を失っている。
僕は見逃すほど甘くない。
逃げようとする奴から、脳天を撃ち抜いていく。
辺りのハイコボルト達の死骸を【
これは修行の五属性同時維持を単属性で量産しただけなので、マスターした僕には簡単だ。ミレーネ式魔力鍛錬法は実に、実践向きということが分かる。
『《風刃》!!!』
足場を利用して、高速移動しながら風刃で敵を攻撃しまくっている。
ジャイアントコボルトは無数の傷を負っている。
闇雲に腕を振るって攻撃してくるジャイアントコボルトをアマンダ達は幾度も攻撃してやっと倒した。
「ふぇ~、ぎりぎり。」
「やったね、アマンダねえ!」
「お疲れ様。」
アマンダ達の戦闘時間は割と長かった。
5分くらいだろうか。集中すると短いけど、見てると長い。
僕は戦闘を終えて死体を一か所に集めておいた。
魔法鞄を持っているのはアマンダなので、回収はアマンダにさせる。
「どう、百匹討伐出来てた?」
「ううん、あと20匹足りない。」
「結構足りないなぁ。」
ごめん!一部ちょろまかして【収納魔法】に入れてある、なんて言えない。
コボルトとハイコボルトの死体は一体ずつ確保してある。
死体を丸々持っておいてもいいでしょう?
何かに使える時が来るかもしれないし。
どの道足りないなら、引っ張り出さなくてもいいよね。
「鉱石の回収とコボルト狩りを再開しましょっか!」
『お~!!!』
ジャイアントコボルトが通れるような大きな坑道と、ハイコボルト達が通れる程度の通路……どちらに進むべきか。
「おっきい奴が通れる場所の方が危険じゃない?」
「オイラはデカいコボルトとまた戦いたい!」
「小さい方は一本道だし、一人ずつしか進めないから挟み撃ちにされる方が危険じゃない?」
多数決で、大きな坑道に決定!
民主主義万歳!
暢気に僕らは奥へ進む。
キングコボルトとクイーンコボルトがいるとも知らずに。
通路は一定の大きさを保っている。
敵もレベル2に匹敵するジャイアントコボルトを肉壁に、コボルトウォリアやコボルトウィッチと呼ばれる弓や投槍、魔法攻撃を放つ魔物まで出てき始めた。
明らかに強くなってきている。
「敵の本拠地に近づいてるって感じがするね。」
『うん…』
二人も肉体強化を欠かさない。
魔力回復薬の本数を心配している位だ。
単調にひたすら真っ直ぐ進んできただけ。
何かを守るように、敵も抗戦の姿勢を強めている。
このまま、帰るって手もあった。
でも、どうしても気になってしまった。
奥に何があるのか、何がいるのか。
冒険心。探検心。興味本位。関心。好奇心。
それらが、僕らを突き動かした。
そして辿り着く。
明らかな人工物。坑道にあるまじき立派な扉だ。
見た所、押し扉だ。
この中に何かがあるのは間違いないだろう。
若しくは、何かがいるのは。
「……いく?帰るって言うのも手だよ。」
「……オイラはいきたい!」
「……私は……。」
アマンダは慎重に、悩んでいる。
「アマンダねえは此処で待っててもいいぜ?オイラとシルがみてくるし!」
「……!それなら私もいく!」
半ば、挑発気味に発破を掛けられ、アマンダも決心した。
「ふぅ、じゃいくよ!」
『うん!』
僕が扉を押して、開けると―――ぶすっ!!!
油断していたわけではないけど、敵の突きのほうが早かった。
ただそれだけ。
僕は胸を穿たれた。
「ごほっ……!!?」
『……?!』
右肺に完全に刺さった槍が引き抜かれる。
二人に後ろへ下がって、と手で制して合図を送る。
扉は開き掛け――、僕達は全力で後退した。
「《回復》」
僕は肺に溜まった血を吐き出し、肉体の損傷を治す。
『だいじょうぶ?!』
「へーき。それより気を付けて。あいつ等、早いかも。」
向こうからは、出てこないみたい。
一気呵成に攻められてたら拙かった。
籠城作戦か?
「あいつ等、許せねえ!!」
僕が攻撃されて、ケルンは激昂気味だ。
引くことを知らない。
敵だってやられてばかりじゃない。
反撃だってしてくるさ。
「落ち着いて。じゃなきゃ、勝てるもんも勝てなくなっちゃうよ。」
「うー、わかってるよ。」
「《嵐弾》」
僕は、お返しとばかりに扉ごと、撃ち抜いた。
それが、開幕の合図となった。
穴だらけになった扉を破壊し、向こうから突撃してきたのだ。
「《風雷刃》」
「《雷撃》」
「《風刃》」
突っ込んできた相手を迎撃する。
【鑑定】では、エリートコボルトだの、コボルトナイトだの、守護騎士みたいな、親衛隊みたいなやつらが突っ込んでくる。
僕の攻撃に耐えられる奴はいないものの、アマンダとケルンの攻撃は耐え、容赦なく突き進んでくる。
後方からは、弓矢が飛んできたり、土魔法まで放ってくる。
此方も土塊で大量の盾を量産する。
遠距離攻撃は盾で防ぎ、距離を詰めてくるコボルト達を始末していく。
「っく。《風刃》—――ぐっ!!」
相手の間合い迄詰め寄られた結果、肩を突かれた。
レベル2上位かおそらくレベル3に迫るくらいの強さを感じる。
敏捷では張り合えない。
そして数も不利だ。
相手は待ってましたとばかりに、精鋭が集結していたようで、倒しても倒してもキリがない。
「《
直線の貫通力を高めた魔法だ。
使ったのは、ケルン。
エリートコボルトが足を止めてケルンの放った魔法を耐える。
「《風雷刃》×10」
ドドドド―――――!!!!
今撃てる最大数を前方に撃ち放った。
敵の中には必死に避けようと試みる者、味方を盾にしてでも月つ進んでくる者、様々だが、魔法の攻撃速度の方が早い。
その後も―――接近を許す前に、兎に角、ありったけの攻撃をし続けた。
「ふぅ……。いたた。《回復》」
アマンダとケルンを庇う様に攻撃の手を緩めなかった僕は、結構な生傷を負った。肩や、太腿に鏃がぶっ刺さってるけど。
致命傷になるような攻撃は受けてないのが幸いである。
ズボっと思い切り、刺さったものを引き抜く。
一気に行かないと反りが痛いのなんの。
粗方やっつけたので、3人で部屋に入る。
残っていたのは壁を削りだして作った椅子—――にふんぞり返った、キングコボルトとクイーンコボルトのみ。体格は普通のコボルトと変わらない。1.5mくらい。
名前が分かったのは【鑑定】の結果だ。
「あと2体だけか!オイラの攻撃を食らえ!!《風槍》、《風刃》!!」
壁面に魔法が爆散する。
砂煙が立って、奥が見えない。
やったか?
—―――!!!
「にげ、て!!!」
左手でケルンを後方に突き飛ばした――が少し遅かった。
間合いを一気に食い破って、キングコボルトの剣がブレた。
—―――――!!!!
キングコボルトは装備しているサーベルで僕の腕ごとケルンを斬った。
そして、間髪入れずに、回し蹴りをケルンに放った。
鋭い痛みが走りながらも魔法を放つ。
簡単な風魔法だ。
ぎりぎりの所で後ろにケルンを飛ばすことで、恐らく直撃は避けたが、ケルンは後方の死体の山まで吹っ飛んだ。
舐め過ぎた。不味い―――助けてる場合ではなかった。
次なる標的は僕だ。
—――ズバ。
剣撃は早すぎて見えない。
目で追おうとするのが間違いかもしれないって、レベルだ。
そして、気づけば達磨にされ、腹に剣が突き刺さる。
容赦のない引き抜き、—―大量の血が僕の手足、腹から垂れ流れる。
その光景に、アマンダは絶句する。
そして、敵は待ってくれやしない。
一振り、二振り――そして中段回し蹴り。
アマンダも当たり前のように吹き飛んで死体の山に突っ込んだ。
主にコボルトを殺して回ったのは僕だ。
だからか、吹き飛んだ二人より、死にかけの僕に注視している。
痛みと、血を流しすぎて寒気がする。
《再生》スキルでなんとか、止血が始まっているものの――だ。
生きているのが不思議なようだ。自分でも失血死してても可笑しくないって思ってるし。それくらい夥しい量の血が抜け出ていた。
クイーンコボルトが僕の首を掴み、持ち上げる。
正直苦しい。
「……はっ……はっ。」
なんとか短い呼吸で意識を保つ。
魔力を練って、練って、
「《光灯》」
『—――キャン?!』
僕が唱えたのは強烈な光。
一瞬のうちに、強力な光で目を潰されたクイーンコボルトとキングコボルトが悲鳴を上げる。
そして、クイーンコボルトは僕の首から手を放した。
――出来得る限り、全力の魔法を撃ち込む。一撃で終わらせるために。
「《
魔力塊—―風×風×雷の純粋な属性魔法を爆発させただけの魔法と呼んでいいのかも分からない攻撃を僕自身をも巻き込み、放った。自爆だ。
全身が切り裂かれ、焼け爛れ、痺れ―――。
辺りで、動く気配はなくなった。
「どうしてこうなった……。」
死屍累々……。
僕は手足が生え変わり、ようやく立ち上がることが出来た。
アマンダとケルンは……?
見渡す限り、魔物の血—―青色の池溜まりが広がっている。
魔力爆弾が風と雷で良かった。これが火とか土とかでやってたら崩壊待ったなしだったろう。
「アマンダ……!ケルン……!」
僕は死骸を踏みつけながら、二人を懸命に探す。
後方に吹っ飛んだのは覚えてた。だから、一直線に後方へ歩みを進める。
「ああ……!!そんな……。」
二人は内臓が飛び出て、手足が千切れかかっている。
「《
肉体を完全に癒し復元する。
ケルンは脈がある。でもアマンダは――ない。
心肺蘇生の代わりに【雷属性魔法】で、心臓を動かす。
だめだ、こんなんじゃ……。
「…………、《
えげつない魔力を消費する。
ぎゅるんぎゅるんと奪われているという事は魔法がちゃんと発動しているという何よりの証左。
「……けぽっ、ごほごほ……!!」
アマンダは血を吐き出し、自発呼吸を始める。
後は、目を覚まして、どうなるか……。
死んでどのくらいか――魔法を使って生き返らせるような事をして良かったのか。色々考えるのを止めていた。
心肺蘇生くらい地球でだって行ってたんだから許したまえよ。
生命維持活動を始めたが、果たして良かったのか。
脳に障害等は絶対残ってない筈だ。
でも、死んで時間が経ちすぎてたら、記憶やら人格が消去されてる可能性は否定できない。
そもそも、吹っ飛んでから何秒のやり取りがあって、とか《再生》スキルが何秒で身体を治したかなんて、覚えてないし。
あああ、3分以内は生存確率めっちゃ高いのは知ってる。麻痺とかの後遺症がある人でも意思の疎通は取れたりするんだっけ?
その場合は、人格障害はどの位になると出るんだ?いや、脳が傷ついた代償で起きる人格障害は【回復魔法】で治してるから起きないよな?うう、どうなんだ、
気がかりなのはそこ。
ああ、前世でもっと医療知識蓄えとくんだった……。
「うぅ、お、オイラは……生きてる?」
「ケルン!!!」
やっと目を覚ましたか。
涙が溢れる。
「変なとこない?動かしにくいとか、ここ痛いとか。」
僕はテンパって具体的な事は何も思いつかないけど心配する。心配してることが伝わればいいのだ。だって心配だし。一気に魔法で治したら……みたいな何かしらの不都合があってもね?
「大丈夫、みたい?オイラ、確か斬られたのに治ってる……てことはシルが治してくれたの?」
僕は、首を激しく縦に振る。
もう喋る元気もない。
涙が止まらない。鼻水も出てるよ。
受け答えがまともで安心した。
ケルンは、ぎりぎり生きてたってのもあるけど体も異常がなさそうで何より。
「アマンダねえは……?」
「一応、生きてはいる。でもまだ起きない。」
ケルンがアマンダの胸に耳を当てる。
とくん、とくんと音が聴こえるらしい。
ケルンも安心したみたいだ。
「《浮遊》で運ぶから……。魔法鞄の確認だけして。」
「分かった。……あったよ。大丈夫。」
魔力回復薬の瓶は砕けてしまっていたり、紛失していたりで諦めた。また買って貰えばいいのだ。
僕達は想像を絶する程の激戦を味わって、命からがら逃げ帰った。
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