第24話:ランクアップ

「あら、もう《ランクアップ》出来るようになったの?」

 ロレーネ先生は驚いて、珍しく聞き返した。


『はい!』

 アマンダとケルンは元気よく肯定した。


 連れ去られたのは夏。船内で修行を始め――

 秋が終わりを告げ、冬の寒さが厳しさを増してきた頃。

 アマンダとケルンは《ランクアップ》するに足る力を身に付けた。

 毎日最低二十回は魔法回復薬を飲んでいる。

 一瓶で一日分の修行と考えるといい。

 つまり二十倍の密度で鍛えているのだ。

 魔力を通して身体強化もしている。

 そのお陰で、魔力馬鹿って訳でもない。

 魔力の伸びが突出している事には変わりないけど。

 そういったチート生活をし続ける事—―5カ月目だ。

 150日×20修練=3000日分の修練だ。

 (※その日一日分の自然回復している魔力分は勘定に含まないものとする。)

 一年は30日×12カ月=360日。

 3000÷360=8年オーバーだ。

 8年の修練を終えた事になる。

 そう考えると、アマンダとケルンが《ランクアップ》するのも妥当な期間といえる。


ステータス


シルフィア


Lv.1 【ランクアップ可能】


力:B→SSS 750→1370 耐久:A→SS 896→1098 器用:SSS 1300→3000 敏捷:C→SS 760→1008 魔力:SSS 2000→4952 幸運:C→SSS 700→2060


《魔法》


【水属性魔法】【風魔法魔法】【土属性魔法】【火属性魔法】【雷属性魔法】【光属性魔法】【闇属性魔法】【回復魔法】【生活魔法】【収納魔法インベントリ


《スキル》


【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】【遠見】【魔道具製作】


《呪い》


【男性に話し掛けることができない】


 これが今の成果。


 時刻は朝7時。

 外は降り積もる雪が芝生を覆い隠している。

 流石の先生も下着姿で……いるんですよねえ。

 この人は、暑い寒いの概念で下着姿になっているのではないんだろうな。

 これは、もう一種の主義!か、癖!なのかもしれない。



「えげつないスピードで修練してたのは知ってたけど……まさかもうランクアップ可能だなんてねえ…どうしようかしら?」

 ロレーネ先生の視線の先――ミレーネ姐さんに尋ねた。

「そうねえ、アタシはまだまだ修行させても良いと思うわよ?ランクアップ出来るからって、ランクアップしなきゃいけないって訳じゃないし。」

 ミレーネ姐さんは、冬服を編んでいる。

 僕達は既にマフラーを貰っている。

 僕が緑、アマンダが赤、ケルンは青。

 普段来ている服の色と合わせて作ってくれたのだ。


はどうしたい?」

 みんなには、恐らく僕も含まれている。

 僕自身は出来ます、なんて言ってないけどね。

 アマンダとケルンが出来るなら……ってやつだね。


「オイラは、レベル1を卒業したい。」

「私は、迷ってます。」 

 ケルンはレベル2になりたいらしい。

 一方、アマンダは慎重だ。そして僕をチラチラみている。

 ああ。僕がどうするかで、ランクアップするかどうか決めようって腹ね。


「私はケルンと同じく、そろそろレベル2になりたいです。」


 僕は、ケルンに賛同する。

 ぶっちゃけ渋いSSSになってくると渋い。

 今が4歳…来年の春過ぎくらいには5歳を迎える。

 8年オーバーの修練期間とは倍の歳の期間だ。

 —―12歳まで修練してたことになる。

 ステータスで言えば、3倍になってても可笑しくない。

 でも二倍くらいなんだよなぁ。耐久に関しては、魔物の攻撃をわざと受けたり、隠れて自傷行為までしたのに……。

 マゾヒズムの毛があるって訳じゃないよ。

 ステータスのためなんだから!!!!

 信じて!!!!


 えーと、僕がランクアップしたいのはステータスの伸びに限界を感じているからです。

 だから、迷う事とかありません。

 なんなら、待ってました。


「それじゃ、アマンダだけ《ランクアップ》はやめとく?」

「えっと、二人が《ランクアップ》するなら、私も!やっぱりします!」

 アマンダは僕が《ランクアップ》に踏み切ると聞いて迷いを振り切ったようだ。


「んふふ。じゃあ、みんなで仲良く教会ね。」


 ロレーネ先生が下着姿からフードと帽子を装備する。

 余所行きの恰好は年中?変わらないみたい。


「それじゃ、アタシも付いてこっと!」


 ミレーネ姐さんも編み物を止めて、付いてくるそうだ。

 仕事はいいのか?!

 裁縫師ってそもそもあってないような職なのかな。

 そういや、チータ先輩は?

 暗躍でもしてるのかな?

 全然見ないけど、仕事してるのかな?

 船上では、あれだけ一緒にいた仕事熱心の先輩も実は遊び惚けてるのかな?

 

 



「よっ!久しぶり!」

「久しぶり……。」

 ………。

 何故貴方が此処にいるのだ。

 牧師の恰好をした見覚えのある男が出迎えてくれた。

 見かけるなり抱っこしてきたチータと挨拶を交わす。


 アマンダとケルンは教会の中で、興奮している。

 教会くるの初めてなのかな。

 それとも神秘的だからかな?

 至って普通の石造りの外観に比べ、内装は妙な清潔感?豪奢ではないんだけど、美麗?特筆して何が凄いのか分からないけど、何故か凄い……こう、空気感が違う。神聖な感じだ。

 アマンダとケルンの気持ちは分からないでもない。


「あら、チータ。牧師の真似事でも始めたのかしら?」

「ば、……ミレーネ様、ロレーネ様ようこそおいでくださいました。本日は何用でいらっしゃったんでしょう?」

 牧師姿のチータだ。軽さが優男感に。

 地味に似合っている。牧師の真似事にしては似合っている。

 本当に真似事なのか。

「今日は、ワタシの……私達の弟子の《ランクアップ》を済ませにね。はい、これ寄付金よ。」

 ロレーネ、ミレーネ、最後に僕をみて合点がいったとばかりに鷹揚に頷く。言い直したのはミレーネ姐さんも絡んでいるからだろうね。

「そうでしたか。では、此方に。」

 チータに案内されるがまま、付いていく。

 左側通路の先、扉を開けると大人一人分が中央に座して埋まる位の魔法陣が、床に描かれている。

 

「ここが、《祈りの間》です。《ランクアップ》させてください。って心の中で祈ればいいですよ。」

 チータが説明してくれる。

 最初は、ケルンだ。

 少し緊張気味に、おずおずと部屋に入る。

 膝を折って座り、祈りを捧げて。

 

 ……………。

 ピカーン!!!みたいなのはないの?

 魔法陣が薄ら光ってるだけ。

「ケルン、ステータスを確認してみて。」

 ロレーヌが声を掛けた。

 ステータスウィンドウは他人には見えない。

「ああ!先生!レベル2になれました!!」

「そう、よかったわね。此方にいらっしゃい。」


 ケルンに代わり、アマンダが―――、そして僕の順にぱっぱと終わらせる。

 一人当たり10秒くらいで終わった。

 特に見どころはないっ!!!

 見てても地味、やっててもこれかな?みたいな《ランクアップ》した感じはしないんだもん。

 

 


ステータス


シルフィア


Lv.2


力:I 0 耐久:I 0 器用:I 0 敏捷:I 0 魔力:I 0 幸運:I 0


《魔法》


【水属性魔法】【風魔法魔法】【土属性魔法】【火属性魔法】【雷属性魔法】【光属性魔法】【闇属性魔法】【回復魔法】【生活魔法】【収納魔法インベントリ


《スキル》


【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】【遠見】【魔道具製作】

【魔力回復(微)】

《呪い》


【男性に話し掛けることができない】


 【魔力回復(微)】が追加されてる。

 (微)ってなんだよ。小とかだろ。ま、大して期待は出来ないスキルだね。てゆか、パッシブスキルかな。

 ないよりかはあった方がいいけど、これだけ魔力育てて、この《ランクアップ》の恩恵ってどうなのよ。

 切ねえ。


「ねえ、ケルン、アマンダ。スキルって何か追加されてた?」

「オイラは【魔力回復(微)】が追加されたよ。」

「わたしも~!」

「訊いた私も~!!お揃いだね!」

 三人とも同じ《スキル》が手に入ったか。

 練習内容に差は殆どないしね。

 

「あら、貴方達三人共?すごいわね。魔師にとって物凄く大切な――必須スキルが手に入ったのよ。」


 え?そうなん?でも(微)っすよ?

 それと魔法師と魔術師の違いってなんなん。

 気になってたけど地味にスルーしてきた奴なんだが。

「あの、ロレーネ先生。魔法師って言ったり、魔術師って言ったり、何がどう違うんですか?」


 僕が訊く前にアマンダに先を越された。

 ありがたいよ、質問するの面倒だし。

 

「魔法師と魔術師の違い――それはみんなが手に入れた【魔力回復】のスキル持ちかどうか、なのよ。魔法師は【魔力回復】のパッシブスキルがないものだから、使ったらアイテムなりで魔力を回復するしかない――魔力が回復するまで無能に成り下がるのが、《魔法師》。【魔力回復】を持ってると、使った分を即時回復出来るようになるわ。【魔力回復】の他にも、【魔力回路】、【魔力還元】なんてスキルもあって、同じ魔術師でも回復速度差があったりするんだけどね。」


 ロレーネ先生のご高説を聴いていると、


「ここ教会っすよ。そういったのは魔術師塔に帰ってからにしてほしいっす。俺っちも牧師として、やることあるんすから。」


 ああ、忘れてたわ。


「チータって牧師が職業なの?ミレーネ姐さんの言う通り、臨時とか、お手伝い要員なの?」

「……心外っすね。この服めっちゃくちゃ似合ってんでしょ?!俺っちは本業は牧師だ。あれこそ、臨時作戦に組み込まれただけ……寧ろああいう任務が副業っすよ。ミレーネ様に毒され過ぎ……。」

「毒?なんの事かしら?」


 えええ、チータって牧師だったん。

 最初見た時は猟奇殺人鬼シリアルキラー—―、みたいな悪党サイコパスだと思ってたよ。まさかの牧師かよ。

 人は見かけによらないね。

 てか第一印象強すぎて違和感しかないわ。

 

「ええ、そうだったんだ。因みに、牧師ってどのくらいの役職なの?」

「見習い<牧師<司祭<司教<大司教<教皇の順に偉いから、一人前ってレベルだな。」

 

 チータは若いからなー、見た目は。

 実年齢知らんけど、一人前ならいいね。


「俺っちは、率先してシル嬢を保護したんで、来週には《司祭》に格上げして貰えますけどね。」

 

 出世かよ、やるやん。

「そうなの?おめでとう。」

 チータ居なかったら、バルバスに普通に殺されたしな。てか、バルバスと最初に遭遇してたら死んでたけど。

 僕を保護した功績はデカいか。そうかそうか。

 それはなにより。


「シル嬢達もレベル2おめでとうな!じゃ、仕事戻るわ!またなー!」

 チータは教会の外まで送ってくれた。

 僕達は来た道を戻り、魔術師塔に帰り着く。


「じゃ、今日も修練頑張ってね~。」

『はーい!』


 見た目的な変化はないけど、魔力を練ると分かる。

 今までが、きったない排水管を使ってたみたいな感覚。

 詰まってた汚れが綺麗に掃除されて、スムーズに魔力が全身を巡る。

 レベル1と2の差ってやばいな。同じ修練が同じではない。

 ミレーネ式に苦戦していたけど、昨日までの大変さが嘘のようなんだもの。

 僕はレベル2にして、漸く《魔力制御》をモノにした。

―――スキル【魔力制御】を習得しました。

 久しぶりのアナウンスだ。


「シルちゃんがやってるの滅茶苦茶難しい~!!!」

 アマンダが僕と同じ修行を始めて、苦しんでいた。

 分かる……分かるぞ……。

 維持するだけで根をあげたくなるその気持ち!!!!

 鬼畜の修行よな。

 一朝一夕で出来る奴がいたら気が狂いそうになるよ。

「頑張れー!私はやっとコツ掴めたから、一歩先を行くけどね!」

 《魔力制御》が出来るようになったら、次は《増幅》なのだ。

「頑張って追いつくんだから!!」

「………。」


 アマンダは自分に喝を入れて、ぐびっと魔力回復薬を飲む。

 ケルンは本気で打ち込んでいる。

 ずっと集中モードだ。

 なんだかんだ全員5属性+2属性をマスターしている。

 こうなると知ってたら、最初から全属性船内生活中教えといたんだけどなー。

 教育を間違えたシルフィアです。

 やっぱり我流は良くないわ。

 

「みんな~、ごはんよー。」

 ミレーネ姐さんが3人を呼び付ける。

 もう12時を回ったらしい。

 ロレーネも自室から出てきて、此方を見ている。

 僕達は、修行を切り上げロレーネ達と合流した。


 食卓はみんなで囲む。

 ここに来てからの暗黙の了解ルールみたいなものだ。


 豚肉の角煮、丸パン、サラサラダ、ミルク。

 今日のお昼御飯だ。

 スープがない。代わりにミルクが出てきた。

 丸パンとの相性がいいから、オッケー。

 ミルクは濃くもなく、薄くもない。

 幸い、この身体は乳製品摂取による腹壊し――乳糖不耐症を患っていない。なので、ゴクゴク飲みます。

 前世は、お腹ゴロゴロで苦しめられたけど、今世はいくら飲んでもちっとも気にならない。最高だぜ。


「みんな。御飯食べたら、スライム狩りとコボルトがいる採掘場に行きなさい。コボルト100匹と、あいつ等が採取して集めてる鉱石を奪ってちょうだい。今日はたくさん回収する物があるから、これ渡しておくわね。」


 ロレーネ先生が、そういってアマンダに渡したのは魔法鞄マジックバッグであった。

 ロレーネ先生がいつも腰に付けているものとは別物。

 これは僕達が、狩りや採集する際にいつも貸し与えられているやつだ。

 流石、王族直属の魔術師。

 貸してくれるものが高級品である。

 僕は作れるんだけどね。

 魔法鞄マジックバッグを借り受ける時、アマンダはいつも緊張している。

 そんなもの失くしても、作ればいいだけよ。

 魔法鞄は全体が青色で赤のラインが入ってる。

 特に高級品には見えないけどね。

 

「じゃ、夜までには帰ってくるのよ?」

『はーい!』


 僕達は狩りは基本的に【雷属性魔法】で済ませる。

 一番使い勝手がいいのだ。

 強めに使っても洞窟が壊れるとかないしね。

 

 簡単な仕事よ。

 まずは、バッドバットの群れを電撃で麻痺させて、地面にたたきつける。そしたら【風属性魔法】の風刃で身体を斬りつける。

 バッドバットの血が地面に垂れ流れると、スライムほいほいの完成だ。

 寄ってきたスライムを片っ端からやっつけては、《スライムの体液》を集めまくる。


 アマンダもケルンも慣れたものだ。

 3股に分かれている――最初の洞窟の分岐点で狩りを済ませるので、移動時間も短縮できる。

 因みに、僕はここで自傷行為をしている。

 暗闇と担当を決めているので、見られる心配がない。

 それに、バッドバットだけよりも、遙かに寄ってくるしね。


 スライム狩りをさっさと終わらせる。


 お次は、コボルト採石場だ。

 ここは地味に面倒くさい。

 コボルトと言っても、コボルト、ハイコボルト、レッドコボルト、ジャイアントコボルト……って種類が多いし、アリの巣穴みたいになってて、戦闘が始まると、結構な数が襲ってきたり、勝たないとみるや、撤退しちゃうし。

 《コボルトの犬歯》は砕いてすり潰した粉末パウダーは錬金アイテムにもなるし、犬歯そのものを売ってもお小遣いになって良い。

 加工したほうが、高値で売れる。

 作れる薬は耐久薬だ。

 これが、近接職のタンク役には売れるらしい。

 《コボルトの目》は夜目薬になる。

 コボルトから取れる、犬肉はビーフジャーキーみたいでそこそこの味。

 

 レベル1では深く探索することはなかった。

 やられそうで、やられないギリギリを演出して、敵を引っ張り出して戦ってた。これも面倒な要因の一つだった。

 今日は、力を試したくて、3人ともうずうずしていた。

 それがよくなかった。

「レベル2になって……コボルトが、ものすっごく弱くなったね!」

「だね!でもオイラ、こんなんじゃ修行になってるのか心配だよ。」

「分かる。全員レベル2になったし、ちょっとだけ、ちょーっとだけ奥に行ってみる?」

『賛成!』

 レベル2になって強くなった僕達は―――自分達の力を…過信して、心配して、腕試ししてみたくて――――調子に乗って奥へ奥へと進んでいった。

 

 

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