第23話:騒ぎ
店を出ると、騒ぎが聞こえてきた。
騒ぎの方を見ると、子どもが首根っこを掴まれ、暴れているようにみえる。
「はなせ!この!」
小汚い格好の子だ。
あちこち擦れて、怪我しているみたい。
「あの。孤児?浮浪児?がいるのに、私達を攫うって正直意味分からないです。この子達を保護して育てた方が効率良さそうなのに。」
僕は思わず、言ってしまう。
「才能のある子を奪うのはゆくゆくは、相手の国の弱体化も狙えるからね。」
そうだろうけど。
「それだけじゃないけど。国の方針上、東都で使える予算は決まってるの。フィリア様が孤児達を擁護支援した所で任期が過ぎれば、北都、南都、西都に就くことになる。そしたら、勝手に孤児達に割いていた予算は当然打ち切られるでしょうね。治める場所が定期的に変わってしまうから、フィリア様だけ方針を変えて、ああいう孤児全てに救いを差し伸べることって難しいのよ。それを解決するには王様へ打診するしかないのよね。」
そういえば、そんな事言ってたような気もしないような。
「今はしょうがないの。それらの改革を進めたいならフィリア様が王に就くしかないわ。」
ふむ。
じゃ、フィリア団長を女王陛下に即位させることが最終目標かな?
僕が孤児達にしてやれることはない。
だから、今はごめん。
衛兵に連れて行かれる孤児がどうなるのかは分からない。
知った所でやれることはない。それなら分からないままで、いようと思う。
「じゃ、帰りましょう。」
『はーい!』
東都城。
魔術師塔に着くと、兵士が一人。
此方に気づくと、足早に近寄ってきた。
「伝令です。フィリア様が、シルお嬢様をお待ちです。」
要は、ついてこい系ね。
「分かりました。」
どうせ行くのだ。
何用か訊いてもどうせ、知らんとかそんなやり取りでしょう?
知ってんだ。
「じゃ、ワタシもついてくわー。」
ロレーネ先生も名乗り出た。
「はい。ロレーネ殿も構わない。と仰せつかっていますので。」
読んでいたか。
流石、フィリア団長だ。
東都中央殿。
一階中央広場。
「シル、よく来たな!」
第一声から、御機嫌なのが分かる。
一体全体どうしたんだ。
そして、傍にはミレーネ姐さんもいる。
船で別れて以来だ。
「フィリア様、お待たせしました。御呼びと言う事でしたが、どうかされましたか。」
僕は軽く挨拶をし、用件を切り出す。
「シルちゃん、アタシのこと忘れちゃった?挨拶もないなんて……!!」
ミレーネ姐さんがシルに抱き着いてきた。
いや、呼ばれたんだよ。隣のおっかない女に。
優先順位を考えてくれ、フィリア団長の機嫌>ミレーネ姐さんに決まってるだろう?
「えっと、お久しぶりです。ミレーネ姐さんを忘れた事なんてありませんよ。シーダ号で別れて以来ですね。何されてたんです?」
これは不可抗力だからな。怒ってくれるなよ。
「それは、私から話そう。」
フィリア団長が?
ミレーネ姐さんも絡んでるってことかな。
「それじゃ、お願いします。」
僕は一応頭を下げておいた。
「船の上で、ミレーネが作った薬の件だ。」
はて、なんか製薬したか?
「海軍病のヴァイタミンだぞ?忘れたのか?」
ああ、すっかり忘れてた。
フィリア団長が呆れて、溜息を吐いた。
「それで、効果があったぞって報告ですか?」
フィリア団長は実につまらなさそうな顔をしている。
ああ、美味しい部分を言ってしまったわ。
ごめんね。
「そうだ、効果覿面だ。王には私の功績として認められた。まだ東都でしか試験治療は行われていなかったが、今後は海洋王国全土で投薬治療が始まる。」
おお。てことは、地味に王に一歩近づいたんじゃね。
あ、いい事思いついた。
「一々、薬にしなくても良い方法がありますよ。」
「ほう?」
フィリア団長は、少し楽しそうだ。
こういう展開が、お好きなのかな?
「海軍病は、栄養素のビタミンが不足するから起きるんです。だから、生野菜—―サラダと果物を振舞って下さい。食料に余裕があるなら、それで解決しますよ。ついでに炊き出しなんてしたら国民も喜んでくれるんじゃないかなー?」
わざわざミレーネ姐さんみたいに薬にすると、手間だし。
そういうのは、それこそ船旅用に貯蔵するべき。と進言した。
それで治るんだから、製薬費用が浮いた分、腹を満たしてやって、とお願いした。
「くっくっく。そうか。なら試してみよう。これより、海軍病患者にはサラダに果物を与えよ!重病者には、薬の投与も構わん!それと、炊き出しをしてやれ!」
『はっ。』
数人の伝令が、走って何処かへ。
大変だなぁ。
「本当は、人手が足りぬ故、ミレーネと共に、シルにも製薬させようと思っていたのだが、どうにかなりそうだな。」
あ、そうだったの。
ミレーネ姐さんは少しばかり、いや大いにがっかりしている。
「因みになんですけど、この功績でフィリア様は王になれますか?」
僕は訊いてみた。
「ああ、なれるぞ。ぶっちぎったな!後は、暗殺、毒殺、心身を喪失するような何かが私に起きなければな!後は、内戦に国家間戦争にどう耐えるか……か?」
いや、恐ろしいな。
仲が悪くなってから姑息な手段が主流になったんだったわ。
てか、戦争?
もう、頭が痛いよ。
情報が多すぎる。
「戦争って何の話です?」
フィリア団長は、少し黙った後話始める。
「今、ガルガンティア帝国とシア王国が戦争をしているのは知っているな?」
「ええ、一方的に攻め込んできた卑劣な帝国のせいで、私は此処にいるんですから。」
やや苦笑いと言った所か。
別に皮肉ってないぞ。
「そうだ。今はシア王国も耐えているが、戦争の動向を見るに、5年くらいか。私達はガルガンティア帝国が勝つと見込んでいる。」
ふむ。案外、時間的猶予があるな。
「私が長年の悩みの種であった病気の克服を達成したことで、他の王族達は手柄を立てねば王位には就けぬ。」
なんで急にアンタ達の王位継承事情について話し始めたんだよ。
「功を焦った長兄一族が、ガルガンティア帝国に反旗を翻した。簡単に言うと、裏取引を無視して宣戦布告をしたのだ。裏取引は次兄一族が主動していたし、現王は次兄一族の出。長兄一族からしたら、姑息な事をしている次兄一族も王も、この際、ガルガンティア帝国共々打倒してやろうって訳だ。」
え、まだ此処にきて一月も経たないんですけど。
我の安息は何処へ。
「今は、名目上ガルガンティア帝国の卑劣な侵略を許さない!って話で落ち着いている。が、恐らく病を治った兵の再教育が済んだ暁には――世論を扇動し、裏取引の事実の公表、正式な王政打倒……準備は色々とあるだろうけど、春か夏には内戦が始まるんじゃないか?」
フィリア団長はとんでもないシナリオを語った。
「それは、決まってるんですか?てか、王政打倒は、長兄一族だけじゃ無理じゃ…?」
「そこは私も手伝おうと思ってるからな!」
ななな?!
「今の王が次兄一族から輩出されていても、ぶっちぎりの功績を立てたフィリア団長…様が王位継承に一番近いならわざわざ叛逆するような事に手を貸さなくてもいいじゃありませんか。」
え?間違ってる?
フィリア団長は実に愉快そうに笑む。
「そうだぞ。だからじゃないか!次兄一族じゃない者が王位に就くことを今の王は快く思ってない。邪魔者はどうなるか。」
暗殺、毒殺、心身うんたらとかの話を思い出す。
家族でそこまでやるか?
鳥肌が立った。
「私達三家が三竦みとして存在しているからこそ、均衡が取れている。内戦が起きぬよう抑止力にもなっている。今回は必ず均衡を崩すことになる。そして今回の一件で叛逆者を討ち取った功績は必ず、次兄一族に行くはずだ。私が討ち取ったとしてもな。長兄一族もタダでやられてくれるとは思えんしな。傷を負った隙を突かれて、闇討ちされかねん。そうなれば、次兄一族一強時代の始まりだな。」
まじでドロドロじゃん。
「でも、それなら長兄一族も同じでは?王と次兄一族を打倒した後、寝首を掻かれる可能性は十分ありますよね。」
僕はどちらに付いても泥沼の戦いは避けられなさそうだと指摘する。
「いや、それはない。」
何故言い切れるのだろうか。
「歴史上、長兄一族は次兄一族に対して――次代の王を殺された怨恨から汚い手を使ってきたのは見てきた。だが、末弟一族である我々にはソレらの卑劣な手段を用いてきたことはない。今回も我々と張り合う際は、正しく功を立てようとするだけの誠実さがある。今回の件もそうだ。元はと言えば、私が功績を立てた事が発端なのだぞ?王、次兄一族と共に結託して暗殺すればいいだけだ。流石の私も王、次兄一族の刺客を相手取るので手一杯だ。つまり長兄一族が手を貸せば、私は無事では済まない。しかし、長兄一族はそれをしないだけの分別はあるのだ。だから、私は長兄一族に付く。」
なるほど。
そう言う事なら、長兄一族に手を貸す方が、正々堂々王の座を奪い合う健全な状態に戻りそうだ。
…そうなると、次兄一族はどれだけ腐ってんだって話だけど……。
「そもそも、シア王国とガルガンティア帝国の戦いが国境での諍いに収まらず、易々と侵略できたのはランバルト海洋王国・現国王と次兄一族の裏取引があってこそだ。どのような取引をしたのかは知らんがな。」
え?聞き捨てならない話だ。
それが、事実ならまじで許せないんだけど。
僕は故郷がどのような事態に陥ってるのか分からない。
家族が……村がどうなったのか、知る由もない。
「私と現・長兄一族の長—―レーゲンはシア王国の方が好きだしな。国交も開いているし、帝国みたいに高い関税に悩まされず商人が交易を出来ている。まともな友好国だと認識しているからこそ、子どもの保護を断行したのだ。」
拉致じゃなくて、ガチの保護だと?!
僕はほぼ強制だったけど、将来有望そうだったから?
帝国に目を付けられると踏んでか…。
「ま、人攫いには変わりないがな!だが、ガルガンティア帝国に攫われるより、ランバルト海洋王国の方が1000倍マシだと思うぞ?」
確かに。
衣食住全て揃ってるしなぁ。
やけに待遇いいしなぁ。
色々と辻褄が合うんだよなぁ。
少なくとも、フィリア団長は嘘を言ってない。
長兄一族さんはまだ分からんよ。
対立する次兄は打倒すべき敵だ。
フィリア団長を女王にのし上げるのに邪魔な存在だもの。
「内戦になったら、兵の部分欠損とかは私が治しますよ。その時は呼んでください。兵士達にも伝えてくださいね。腕とか足がなくなったら生きて戻ってきなさいって。命があれば、私が何とかします。」
僕は腹を括った。
フィリア団長に付いたのだし。
戦争は嫌だけど、全力でやらせてもらうわ。
「そうかそうか!未来の聖女殿には大いに期待しているよ。」
わっるい顔してるわ。
フィリア団長って良くも悪くも感情を隠さないんだよな。
「お話は以上で?」
「ああ、そうだな。もう帰っていいぞ。ロレーネもな。」
ああ、そういえば付いてきてたわ。
「ワタシ、空気過ぎたわ~。」
僕が御呼ばれしてたからね。気にしないでよ。
「あら、ロレーネ。久しぶりね。」
ミレーネ姐さんがロレーネ先生に話し掛けた。
本当に気付いてなかったような口ぶりだ。
「ミレーネもひどいなぁ。」
ロレーネ先生とミレーネ姐さんは軽口を叩ける程度には仲が良いみたい?
東都中央殿を出て、魔術師塔へ向かう最中の会話。
「ロレーネからみて、シルちゃんはどう?」
「うーん。レベル1でこのコより強い子はいないんじゃない?レベル2とも張り合えると思う。育て甲斐のある子ね。」
「ふふん。さっすがアタシのシルちゃんね。」
ミレーネ姐さんとロレーネ先生は何処となく似てる。
対極の美が話してるのって華があっていいわぁ。
しかも褒めてくれてるし。
僕は二人の会話を聞きながら、魔術師塔へ帰った。
「ミレーネ姐さんはどうしているんですか。」
「え?居ちゃダメ?」
うるうるした瞳で見つめられても困る。
「勿論、嬉しいですけどぉおお?!」
「ホント!?じゃ、当分此処にいるわ!」
それでいいんか。
仕事はないんか。
「ミレーネは言っても利かないわよ。」
ロレーネ先生は気にしないみたい。
てか、脱ぐの早いわ。
パって振り向いたら、もう下着姿になって優雅にお茶してるよこの人。
「それじゃ、私はアマンダとケルンと修行してきますから。」
ミレーネ姐さんの抱擁から脱し、修行をしに部屋を後にした。
「頑張ってね!シルちゃん!」
「ふぁいとぉ~!」
ミレーネ姐さんとロレーネ先生はどういう関係か気になるけどね。個人の詮索はしないに限る。
僕はアマンダとケルンの魔法の補助をしなくても良くなった。
魔力回復薬のお陰で、ぐびぐびっと飲めば回復するからね。
そのおかげで、僕が不在中も鍛錬には支障はない。
魔力切れを起こさないで、修行しまくっている。
二人のドーピング具合は凄まじい。
爆伸びしているのは主に魔力のステータスだろうけどね。
アーシャにも魔力回復薬プレゼントしたいわ。
二人の頑張りを見て、僕も良い刺激を受ける。
光闇の混合球と、5属性を操る。
修行難易度を上げた。—―いや、元に戻した。
繊細な魔力操作が求められる。
バチバチに相反する力の制御に苦戦するも、やり抜いた。
ミレーネ式で、僕は、魔術王になる!!なんちって。
「うわぁ~、疲れたぁ。」
ケルンが綺麗に刈り揃えられた芝生の上に寝っ転がる。
魔力回復薬を使っても、疲労は蓄積される。
そこで、活躍するのが――体力回復薬だ。
「ケルン、寝っ転がって休憩も良いけど、体力回復薬も飲んで早めに回復しなきゃだよ。私達はシルちゃんに頑張って追いつかないといけないのよ。」
最年長のアマンダは修行中、割と厳しい。
「分かってるけど……アマンダねえ、きびしー!」
ケルンはなんだかんだ言っても、アマンダの言う事をちゃんと聞く。体力回復薬を飲み干した。
僕は消耗した魔力は魔力回復薬を飲んで、回復する。
「くふー。慣れない……。」
せめて自分で作ったのが飲みたいよ。
かれこれ、魔力回復薬を一刻に一本飲んでいる。
単純にミレーネ式修行だけじゃ、一時間で魔力は使い切れない。
なので、【
これはアマンダとケルンが大体一刻毎に一本飲んでいるのに合わせているから。
魔力を使い切る寸前で、全回復—―を繰り返している。
これが、朝、昼、夜毎に、凡そ5-10時間。
一日一本がノルマだけどそんな悠長なことはしてられない。
飲むペースが早くなれば、魔力回復薬の壺も空に出来るんじゃないかなって、そしたら美味しい魔力回復薬が飲めるんじゃないかって
なくなる気配はあるのかって?
……ノーコメントで。
毎日の修練に加えて、スライム狩り――薬草集め。
実戦練習にワイルドボアに、ブルボアの群れとの戦闘。
ワイルドボアもブルボアもどちらも猪だ。
茶色がワイルドボア、青がブルボア。
強さはブルボアの方が強いらしいけど、よく分からない。
戦闘スタイルが3人共魔法なので、近距離で戦う事がないのだ。
盾を持って――往なして――とか受け止めて――みたいな戦闘の仕方じゃないから。
雷で相手の動きを
そうして修行する日々を送って力を目一杯付けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます