第21話:剣士?魔法師?
東都城。
一階、中央広間。
剣士か魔法師か。
どちらの適性を調べるのかで、どうやらトップが揉めているぽい。
はっきり言おう。
魔法しか使えんぞ。
ぎりぎり護身術にも達してない壱刀流剣術を学び始めたレベルの僕は、問答無用で魔法師になりたいのだが?
「あの、魔法適性は三人ともあると思います。お見せしますね。アマンダ、ケルン。練習見せてあげて。」
『うん。』
アマンダは【水属性魔法】で水球を、ケルンは【風属性魔法】で風球を作り出す。
今はまだ同時に三つまで。
集中して作り出している。
因みに、私は全属性を作り出した。
「アマンダとケルンの最初は【生活魔法】がほんの少し出来る程度だったんです。船上生活中、身に付けたと考えれば、成長速度は目を瞠るものがあります。」
女魔法師は僕達の魔法を一瞥する。
「そうね。充分、魔術師学校に通えるクラスね。シルちゃんに限ってはレベル2…?かしら。その歳で凄いわね。」
はて。レベルってあのレベルか?
それならずっと1なんだが?ランクアップは出来るらしいけどね。
「あの、レベルは1ですよ。」
ぽかーんて間抜けな顔してるぞ。
「…え?それでレベル1?」
女魔法師よ。何度聞いても変わらんぞ。
「そもそもどうやったらレベルって上がるんです?」
おいおい、まじかよ……。みたいな感じ辞めてもらえます?
常識ないみたいじゃん。
「まだ4歳なんで、色々常識はないかもしれません。」
「はっ!?そうだったわね……。ごめんなさいね。受け答えがはっきりしてるものだから、4歳……そう…4歳……。」
色々と呑み込めてないぞ。
大丈夫か?
それと結局教えて貰えてないんだが?
「もしかして、誰も剣術に興味がない……?」
剣術の達人—―騎士は全員魔法師としてやっていけそうな雰囲気を感じ取った。
「クハハ!男児すら剣より魔法か!面白い。」
愉快そうに笑っているのはフィリア団長だ。
「ケルン、貴方は剣術をしてみたい?」
確認はしておかないと。
「アマンダもシルも魔法するんでしょ?オイラも魔法がいい!」
ケルンは一緒がいいのかもしれないね。
「アマンダは?」
「わたしは剣術なんて考えた事もないよ。魔法を学ぶの。」
そかそか。
じゃあ、もう決まりだ。
「騎士さんごめんなさい。誰も剣の道には進まないそうです。あ、私も。」
ダメ押しかもしれんかったな。
「分かった。本人の意思が何よりも大切だ。勧誘は諦めよう。」
女魔法師にとやかく言われない、ってだけで素直だ。
こりゃ、本格的に犬猿の仲だったのか。
「それじゃ、三人ともワタシが引き受けますわよ。」
女魔法師が言う。
「ああ。ロレーネ。頼むぞ。」
フィリア団長が女魔法師に僕達の全権を任せた。
大公が一人、フィリア・ランバルトの押しが強すぎて、選択とかなかったわ。
他の王族がどんな待遇を用意してるとか、そういう展開はありませんでした。
ええ、まあ、いいんですけどね?いいんですよ?納得してますけどね?たぶんね?
女魔法師に連れられて、三人はとある一室に案内される。
研究の途中なのか、フラスコの中身がぐつぐつしていたり、得体の知れない緑の液体が入った大きな壺がある。
巻物も散乱している。片付けが出来ないタイプのようだ。
「それじゃ、簡単に自己紹介をしておくわね。ワタシは宮廷魔術師会の長…ロレーネよ。そして此処はワタシの研究室よ。」
ローブを脱ぎ捨てながら、彼女は自己紹介を始めた。
ローブの中は下着一丁みたいな恰好だ。大胆だな!
ケルンはゆでだこだぞ。プチトマト超えて、ゆでだこだぞ。
それにしてもミレーネ姐さんみたいな名前だな。
瞳は麗青色。宝石かな?髪は原色の青よりかは淡青色。
「あの、ふ、ふくは着ないんですか?」
アマンダは視線を泳がせながらロレーネに尋ねた。
「ん?服なら着てるじゃない。」
それは下着だろ。
ブラジャーにパンツが貴様の中の服だというのか。
それは最早痴女だぞ!
「細かいことは気にしないの。慣れよ、慣れ。」
アマンダは肩から腰にかけて撫でられ、かぁっと頬を染める。
女子ですらドキドキさせるだと。
ケルンは、もう目を瞑っている。
ケルンの周りにはこの手の痴女はいなかったんだな。
健全な反応だ。
僕は有難いので、指摘はしない。
それにどうせ言っても聞かないでしょうし。
「あの、私達は魔法学校か何かに通う事になるんでしょうか。」
僕が建設的な話題を振る。
なぜなら、最年長のアマンダもゆでだこになってしまったから。
「ああ、三人とも、まだ学校に行く歳じゃないから。ワタシの助手をしてもらおうかなって。具体的には薬草の素材集めとか、魔法薬の製作とか、魔物退治……も結局素材集めかしら?とにかくワタシが行くところに行くって感じ。」
なるほど。
「あ、もし魔力が枯渇してもロレーネ自家製魔力回復薬があるから。幾らでも飲んで回復して修行していいからね?」
なんですと!!!!!!
『す、すごい!!!』
魔力回復して魔法の腕を磨く事がどれだけ強くなることへの近道になるのか身をもって知っている者達からすると、食いつかずにはいられない話題だ。
「あら、三人とも魔力回復して修行することの大切さが分かるコ達だったのね。流石よ。うふふ。ほら、そこの大きな壺にたーっぷり入ってるから。好きなだけ飲んでね♡」
なに……。
あのゴブリンの体液みたいな緑の液体が……?
僕達は、壺を凝視する。
あの、得体の知れない液体が魔力回復薬だったなんて。
「はい、三人とも。水筒にいれなさい。」
『…はい。』
意外に味は美味しいかもしれないじゃない?
この世界にきて、しょっぱかった事はあるけど、基本的に美味しかったし?
僕は、ロレーネから貰った魔法瓶みたいな水筒の中身を杓を使って満たす。
そして、思い切って、一口。
衝撃だ。まずは臭み。
そして痺れんばかりの苦味。
打ち消そうとほんのり甘味がやってくる。
そして後味が謎の酸味。トドメの刺激臭。
くー、激マズであった。
思わず涙が出た。
「毎日朝、昼、夜で三回は飲み干すのよ。」
おうおう。
スパルタだったわ。
頑張るか。
「うぅ…シルちゃん。」
アマンダよ、諦めろ。
「旨!!!こりゃ最高だね!ね、アマンダねえ、シル!」
ケルンにはドンピシャリだったようで。
美味しく飲めるケルンが羨ましいよ。
「それじゃ、先ずは助手のために魔力回復薬の作り方を教えなきゃね。支度して頂戴。東都城の裏にあるバルト山脈へ薬草を取りに行くわ。あ、それとこの本、渡しておくわね。」
手渡された教本は薬草大全だ。
発見されている薬草の知識が載っているらしい。
「それを頭に入れる事ね。じゃなきゃ戦闘魔法師として、お国に使い潰されるわよ。」
魔法師の未来の分岐点か。
正義のヒーローみたいな事はしたい。
悪には天誅を。みたいな?
もう人殺してるし、悪人殺しても何も思わんし。
だから、強さには貪欲な訳だし。
でも、戦争は嫌だ。
漫画でも案外、良いキャラが敵だったりするし。
現実じゃ、モブ扱いで描かれない人の良さに触れたりする機会もあるだろう。そういった人があっさり死ぬ様とか見たくない。
嫌々参加している敵を見逃したくても、上官命令で殺すこととかもあるだろうし。
とにかく戦争での生き死には無理。
避けれるなら避けさせていただく。
という訳で、当面はロレーネ先生の助手でもしながら、腕を磨いていこうか。
「それじゃ、31、32ページね。そこに書かれてるアミダキノコ、マンネリ草、アクの実の三つ。それが、魔力回復薬に必要な素材よ。見た目も大事だけど、どうやって採取するのかちゃんと覚えておくように。」
ロレーネ先生は淡々と説明していく。
『はーい。』
僕達は薬草大全の内容に目を通す。
アマンダとケルンは一応読めてはいるのかな?
流石、都会っ子である。
どれどれ。
アミダキノコはエノキのような見た目だ。
採取方法:赤と白のエノキの混合状態で存在する一株丸々、分けずに、土を掘り返す。
保管方法:土ごと持ち帰る。
使用する際の注意事項:赤と白どちらでも構わないが一本ずつ引っこ抜く事。二本以上取ると、効能成分が3分の1まで減少する。
採れる場所;全国の山。
使用用途:魔力回復薬、自白剤、解毒剤
なるほど。保管方法から注意事項まで書いてあるのか。
魔力回復薬と解毒剤はいいけど、自白剤とかこわ。
誰だよ、開発した奴。
マンネリ草は三つ葉のクローバーそっくりだ。
採取方法;茎から手折る。
保管方法;圧縮する。押し花みたいにしとけってことかな。
使用する際の注意事項:単体使用の禁止。他の薬材と混ぜて使う事。
採れる場所:全国の山
使用用途;鬱促進剤、魔力回復薬、幻覚剤
魔力回復薬以外、碌な使い道ないな。
鬱促進してどうすんだよ。幻覚剤とかもやばすぎ。
アクの実。
ちっちゃな赤い実。サクランボが米とか麦のサイズにまで極小化したようなものらしい。
採取方法;蔓の先に出来る赤い実だけでなく、蔓毎刈り取る。
保管方法:出来るだけ鮮度の高い内に実をすり潰す。
使用する際の注意事項:蔓から分離した実が赤から黒に代わる前に薬剤にすること。
採れる場所:全国の山
使用用途:魔力回復薬、錯乱剤、人格悪化剤
これも魔力回復薬以外、名前からして良くないです。
全部見てから言おうと、思ってたんだけど…採れる場所いるか?全国の山って。どこでも採れるよ。ってことでしょ?
雑過ぎないか?きっと気候とかの影響を受けないんだろうね。
他の薬材の採れる場所にはきっと特殊な環境でしか育たなかったりするものがあるに違いない。
今回はたまたまってことにしとこ。
魔力回復薬は山に行けば材料が揃うって分かっただけでも儲けもんだな。
「それじゃ、この辺にあるから。背中に
ロレーネ先生はローブにとんがり帽子を装備している。
下着姿で山には来ないだけの分別はあるらしい。
辺りにあるって、ほんとだ。
草木の隅に一株纏まって自生しているアミダキノコを発見。
土堀りだから【土属性魔法】を駆使して――地面を盛り上げて 採取っと。
他には~?スキル【鑑定】を使ってもいいが、それだと名前と形状を覚えた意味がない気がするので封印している。
てか、まじで名前だけでいいってなるしね。
それはアマンダとケルンが【鑑定】使えなかったら無理じゃん?チートじゃん?ずるって思われたくないじゃん。
あ、マンネリ草の群生みっけ。茎を手折るってことは、【風属性魔法】を駆使して――
およ、蔓が木に巻き付いておるぞ。
これはもしかして、もしかすると?アクの実発見。
手で、ぷちっと蔓を切れないので、
半刻程もすると、籠がずっしりとしてきた。
ので、ロレーネ先生の所に帰った。
「あら、早かったのね。一番乗りよ。【鑑定】でも使ったの?」
使うかボケ。
「わざわざ本読んだ意味なくなります。【鑑定】なんて使う訳ないでしょう。」
「てことは、【鑑定】は使えるんだ。ふーん?」
ふむ。嵌められたか。
ま、隠すような事でもないけど。
「あれ、3歳までにちゃんとした知識を覚えさせないと取得出来ないスキルなのよ?さぞかしお母様とお父様の教育が良かったのね?」
これは、アレか。貴族出身云々を疑われてるpartいくつだかの展開のやつか?
「貴族じゃないですよ。隠し子でもないと思います。開拓民の父母の子ですから。」
弁明しておく。
「ふふ。あら、そうなの?別にワタシは気にしてないわよ?でも、フィリア様が気にしてらしたから。この事は報告してもいいのかしら?」
「疚しい事は何もないので、遠慮なくご報告してください。」
ロレーネ先生は「ふふふ」と笑って、それからティーカップに入ったお茶を飲んだ。
『遅れました!』
アマンダとケルンは同時か。
無事に帰って来てくれて良かったよ。
魔物も獣も不自然なほど居なかったから心配してなかったけどね。無事に帰って来てくれて良かったよ。って思ってるウチ優しいじゃろ?ぐへへ。
多分ロレーネ先生がなにかしてたんだろうね。
優雅に椅子取り出して座ってるだけかと思ってたけど良い先生だよ。
「言う程、待ってないわよ。山からの採取はこれで終わり。薬草は預かるわね。後は溶液がいるわ。次はイワヤマ洞窟へ行くわよ。」
『はい!』
溶液は水じゃなかったのか。
専用の液体がいるって怠いな。
しかも洞窟って。
東都の外れにある森林地帯を進んでいくと、岩肌が露出した洞窟があった。
「ここは魔物の住処になってるの。スライム、バッドバットがいるわ。欲しいのはスライムのほうね。さ、行ってきてね。」
おおう。
戦闘訓練も兼ねているのか、手伝ってはくれないみたいだ。
スライムって何が効くんだろ。
ゲームだと雑魚キャラか厄介キャラの二択なんだよな。
バッドバットとか聞く限り、飛ぶんだろうな。
まさかの、知らん魔物との戦闘か。
いやねえ。
「私が先頭を歩くから、アマンダは天井、ケルンは壁と後ろに注意を払って。」
「うん。わかったわ。」
「オイラもがんばる!」
大いに頑張ってくれ。
「
光源の確保をする。
これで突撃が出来るぜ。
十分くらい進むと、分岐点になっている。
それも三択かよ。
ここは二択じゃないのか。
「どうする?右、左、真ん中。どこ行きたい?」
二人は頭を悩ませる。
「オイラは真ん中!」
ほう、その心は?
「この先、くねくね曲がったりしまくったら迷子になるでしょ?オイラは迷子だけはイヤだ。」
ふむ。
「アタシは何でもいいよ。でもケルンの言う通り、迷子になるのは嫌だから、目印を置くか、ずっと同じ方向を選んで進みたいかな。」
ふむ。
「じゃあ、小石を三つ、こうやって三角になるように道の端に置きましょ。それと、出来るだけ真っ直ぐ進んでみようか。」
『うん!』
僕達は進む。
魔物は思いの外早く見つけることが出来た。
スライムがわらわらといる。
青色のゲル状のもちもちしてそうな、水饅頭だ。
「ケルン、【風属性魔法】で風刃を放ってみて。」
どうせなら、戦闘を任せてみようと思った。
「風刃!」
スパっと切れた。良い攻撃だ。
でも活動している。
活動を止めるにはどうしたらいいのやら。
襲い掛かってきたので、
「
僕は、風の壁を作って、突撃してくるスライムを弾き返す。
「どうしようね。」
「【水属性魔法】は効かなさそうだよね。」
アマンダはやる前から、戦力外かも。って思ってるようだ。
分からんではない。
切って、ダメなのに、水を与えてもなって感じだよね。
火は酸素を使うし、土は洞窟が崩れるかもしれない。
やるなら一から土塊を作るとか気をつけないといけないよね。
じゃあ、雷でいってみるか。
「
バチィ!!!!!
凄い音ともにスライム達がぐにゃぐにゃになった。
効いたみたい。
「二人とも、帰ったら【雷属性魔法】覚えようね。」
『はーい!』
取り敢えず、スライムの体液を集めた。
支給されていた、瓶に詰める。
瓶に入りきらなかったのは、【
もったいないからね。
因みに魔石も貰っておいた。
『ただいま、帰りました!』
僕達は腰にぶら下げた瓶を先生に見せる。
「上々ね。それじゃ、研究室に帰りましょうか。」
僕達は、研究室に戻った。
ロレーネ先生はローブと帽子を脱ぎ捨てる。
下着姿だ。
これが先生のデフォルトなのだろう。
「じゃ、それぞれの籠から《アクの実》を取り出して頂戴。それをすり鉢にいれて、すりこぎで潰すの。」
『はーい』
言われた通り、小さな赤い実をぶちゅっとすり潰していく。
「そこに《スライムの体液》を入れて頂戴。ちょっとだけでいいわよ。」
ちょっとってどんなもんよ。
ま、何となくねちゃねちゃしそうな位、入れた。
「それじゃ、アミダキノコとマンネリ草を一緒にナイフで刻んでね。アミダキノコは一本ずつ引っこ抜くのよ。」
『はーい』
アミダキノコとマンネリ草をみじん切りにしてやった。
「それじゃ、さっきのすり鉢に全部入れてみてごらん。」
『はーい』
じゅわっと変な音がなって、紫っぽい色だったのが、緑っぽい液体に早変わりした。
化学の実験みたいだ。
「それを舐めてみて。」
言われた通り、飲んでみる。
少し苦い。でもこれの方が飲みやすい。
「どう?美味しくないでしょう?効果はワタシが作ったのと同じだけど、それが一般的に知られてる魔力回復薬よ。」
「………。」
いや、こっちのほうが飲めるんですが。
緑茶を濃くしたような味だもん。
「たしかに!ロレーネ先生の作ったほうが美味しいです!」
ケルンくん?君は本気で言ってるのかね。
「あ、アタシは自分で作る事を覚えたので、これからは自作していきます!」
アマンダは自作の道を選んだか。
「あら、遠慮しなくていいのに。でも作るのも大切な事だから、アマンダは頑張って作るのよ?ケルンとシルはワタシが作ったのを飲むって事かしらね?先生、頑張って作るからね。」
こ、断るチャンスを逃したアアアアア!!!!
アマンダとケルンはお互い良い選択をした。
僕は《魔力回復薬の製作技術》だけでなく、《言葉にすることの大切さ》という学びを得たのであった。
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