第20話:ランバルト海洋王国編
此処は島国。
隣接している国はない。
海に囲まれた、天然の地形を活かした要塞都市。
港市場は世界一。
大規模な港湾を四方に持ち、大型海軍船は百船を超える。
覇権国家として、名高い――ガルガンティア帝国、マゼス魔公国、ブリトリッヒ協商連合国、シア王国ですら三十船持ち合わせているかどうか。
海上戦では、規模も戦術もあらゆる大国はランバルト海洋王国には勝てない、と言われている。
故にあらゆる大国に国土で劣る、島国にも関わらず、覇権国家—―大国としてランバルト海洋王国も名を連ねられている。
「—――さ、着いたぞ。我らが故郷に―――!!!」
フィリア団長が声を張り上げた。
『ウォオオオオオオオオオオ!!!!!!!』
甲板に出ている船頭達の雄叫びが、食堂にいる僕達の耳にも入ってくる。
「いやぁ、すごいね。みんなうれしそう。」
「そりゃ、そうだ!女や家族を残してきてる奴等は特にな!」
チータもその口か?滅茶苦茶嬉しそうだ。
「チータくんは、女もいなけりゃ、所帯も持ってないけどね?」
ミレーネ姐さんがズバリ。
「かかかんけいないだろ!俺っちにだっているかもしれないだろ?!テキトーなことシル嬢に吹き込むんじゃねえよッ!」
いや、めっちゃ動揺してるし。
いや、いるかもしれないだろ、は居ないだろ。
いや、シル嬢関係ないし。いつもだろ。
あらゆる方向から的確なツッコミが飛ぶ。
「ぐっ、おまえら、おぼえとけよぉ!!!」
なんか、かわいそうですわ。
ま、チータは若いからね。
若さと親しみやすさも相まって、こうやっていつも弄られているらしい。
フィリア団長率いるシーダ号、無事寄港!
港市場を甲板から一望する。
余りにも広い。
どこも大体、平屋二階建てとなっていて、店店店店店店…店!
道は簡単で三股に分かれての一本道だ。
迷子になることはないな。って感じ。
左大通りから見える店は—―魚屋、焼き、煮込み、串焼き、串揚げ、本格的なジョッキの看板が遠目にも視認できるほどの酒場。左大通りは食堂ならぬ食道である。
中央大通りは服飾—―主にタオル系を販売している。上服を置いている。飾り物店—―真珠系だ。冒険者や商人らしきギルド、生活雑貨なんかのお店が立ち並んでいる。
右大通りは、取引所って感じだ。
武器鍛冶屋、防具鍛冶屋、奴隷市場—―そういった大人向けの取引が行える通りだ。
特色があって、分かり易い。
東港町—―ラング港というらしい。
海軍船の船員の帰りを待っていたであろう家族との抱擁シーンがちらほらと見える。
甲板からその光景を眺めていると、
「シル嬢、降りないのか?」
チータがそわそわしながら、尋ねてきた。
彼の視線の先を見ると……フィリア団長がこっちみてる?!
そういえば、僕、臨時でフィリア団長の下にいたんだったわ。
あーやだやだ。
ついてこいよって奴じゃん。
よく見たら、アマンダとケルンもいるじゃん。
いっそげー!
怒らせてはいけない人っているんすよ。
「随分と、悠長に景色を見ていたな。」
フィリア団長の言葉には棘があるな。
「えっと、すみません。田舎暮らしだったもので。港もみたことなかったんですよね。」
謝罪と可愛らしい言い訳を添えて。
食らえ!
「ふむ。此処からは東都城へ馬車だ。二、三日は掛かる。子ども達の分も含めて、我々の野営食料等、チータと買い出ししてこい。」
港に着いて初任務か。
『はっ!』
チータと任務を承る。
僕とチータは左大通りへ。
「じゃ、まずは食料からな。食べ物は日持ち出来るもん……干し肉とスープ用粉末ダシ、乾燥パンだな。初日用に野菜も買っていくぞ。」
先ずは、干し肉から。
干し肉と言っても色々、種類が豊富だ。
カニや、貝柱系みたいな身を天日干しした干物—―1キロ1000メル。
ウルフの干し肉—―1キロ1500メル
オークの干し肉。—―1キロ3000メル
ワイルドホークの干し肉—―1キロ3000メル
ワイルドボアの干し肉—―1キロ2500メル
全然、違うよね。
てか、オークから下たけぇ……。
ウルフの倍じゃん。
「貰った金貨は三枚だから……。」
チータは頭を悩ませている。
「金貨三枚なら3万ね。海産系の干物なら10キロで金貨一枚だよ。」
僕がサポートするようだ。
「おお、でも肉は5キロくらいで良かったはずだ。」
必要な分量は知ってんのか。
「一旦、商品全部見て回る?物価が分からないと使い方もね?」
「おお、わかった。シル嬢に任せるわ!十人分頼むな!」
丸投げする気か。
フィリア団長に、子ども3人、チータと護衛5人か?
「スープ用の粉末ダシと乾燥パンは九食分でいいんだよね?」
「そうだな!」
「初日用の野菜は朝、昼、夜の三食分で…。」
必要な量はお店の人に聞けばいいよな。
海産物の粉末ダシ――1キロ1000メル
動物骨の粉末ダシ――1キロ1500メル
「おばちゃん、1キロの粉末ダシで何人前のスープが作れるの?」
「そうだねぇ、10人前くらいだよ。」
「じゃあ、海産物の粉末と動物骨の粉末ダシはどう味が違うの?」
「そうだねぇ。海産物の粉末はあっさりしてる代わりに癖もない。動物骨の粉末ダシは味がしっかりしてるけど少し癖が強いかもね。」
大体同じか。昆布と豚骨みたいなもんだろな。
「じゃあ、海産物の粉末ダシを9キロ下さい。」
「まいどあり。9000メルね。」
「はい、金貨一枚!御釣りの銀貨1枚もちゃんと頂戴ね!」
僕が御釣りの催促まですると、おばちゃんは、少しばかり驚く。
「おや、お嬢ちゃん。お金の計算ができるのかい?えらいね。はい、銀貨一枚。1000メルの御釣りね。」
嫌な顔せず、おばちゃんはなでてくれた。
この人は良い人だろう。
御釣りをちょろまかしたり、騙し取らないのだから。
続いて、乾燥パン。
乾燥パンは一食100メルだ。
一日三食×十人前×三日。
「おじさん、乾燥パンを90食頂戴!」
「はいよ、金貨一枚ね。」
ノータイムで騙そうとしてきたな。
こりゃ、常習犯だわ。
「え、おじさん。90食だから9000メルだよ。金貨一枚払ったら御釣りに1000メル…銀貨一枚くれないと無理。」
パン屋のおじさんは渋い顔をした。
計算の出来る子どもだと思わなかったのだろうね。
「あーわかったわかった。釣りの銀貨一枚な。それで満足か?」
なんでこんな扱いを受けねばならんのだ。
他にパン屋は?あるな。……値段も同じか。
「あ、ここでは買いません。取引はなしで。」
「はあ?釣りはやるって言ってんじゃねえか。」
いや、ちょろまかそうとしてきたのにキレてくるとか。
「他でも売ってるみたいですから。では。」
ガミガミ煩い事を言ってるけどムシムシ。
「あの、乾燥パン90食頂戴!」
「はいよ。9000メルな!」
ここはまともだ。
「金貨一枚ね!銀貨一枚頂戴よ?」
「はーっははは!ったりめーよ!ほら、銀貨一枚な!」
ダシとパンはチータの持っている
残金、1万2000メル。
野菜売り場。
人参—―1キロ800メル
玉ねぎ――1キロ800メル
ジャガイモ――1キロ1000メル
キャベツ――1玉500メル
なるほど。
「おばちゃん。にんじんと玉ねぎが1キロずつ、キャベツ3玉で。」
「えっと、合計3000メルね。」
あら、計算が苦手なのかな。
「合計は1600メルと1500メルの3100メルだよ。分からなかったら、一つずつお金を受け取ると良いよ。」
損をさせるのも良心が痛むから訂正してあげた。
「その手があったか。お嬢ちゃんありがとうね。」
おばちゃんは恥ずかしそうに笑う。
「金貨一枚で払ったから御釣りは銀貨6枚に銅貨9枚ね。」
「計算までありがとうね。」
御釣りをもらって、荷物はチータに。
余ったお金は、8900メル。
これでお肉を5キロ買えばいいのだ。
僕達は肉屋に戻った。
「チータはオークとワイルドホークとワイルドボアならどれ食べたい?」
「圧倒的、オークとワイルドホーク!」
じゃ、決定だ。
「オークとワイルドホークを一キロずつ。貝柱の干物を2.9キロ下さい。」
「はいよ。合計、8900メルね。」
「丁度、どうぞ。」
「まいどあり。」
100グラム足りてないけどいいよね。
肉詰めの樽をチータが魔法鞄にほいほい入れていく。
「買い物は終わりだな!」
「そだね!じゃ、もどろっか!」
任務を終える。
きっちり全額使ったぜ。
「ふむ。上手く買えているな。」
魔法鞄のリストを閲覧したフィリア団長がそう言った。
「まあ、俺っちとシル嬢の力を合わせれば造作もないっすね。」
チータはすぐ調子に乗る。
「いや、お前が買うとパンが足りなかったり、スープが作れんことはザラだからな。シルのお陰だろ?」
そして見抜かれてるわ。
チータは肩を落としている。
「くっくっく。算術も出来るとは。本当に田舎の小娘か、ますます怪しいな。」
やべえ、すっかり忘れてたわ。
謎の貴族の隠し子みたいな疑惑あったんだった。
馬車に乗り込んで、丁度三日。
野営では、護衛の人が料理してくれた。
ワイルドホークとオークの肉が振舞われた時は、みな驚いていた。チータに任せていたら出てこなかったに違いない。
僕も市場調査してなかったら、肉は貝柱の干物で済ませてたし。
「一家に一台、シル嬢がいれば美味しい御飯にありつけますね。」
護衛役の一人、三つ編みのリヨルさんだ。
他の護衛役は知らない人だけど、頷いている。
何故か、チータが誇らしそうにしている。
アマンダとケルンも僕が褒められるのは鼻が高いらしい。
少し誇らしげにご飯を食べている。
二人は大人連中に警戒しているから基本的に喋らないけどね。
僕達は、東都城に辿り着いた。
城下町は実に賑わっている。
美しい街並みだ。街行く人も笑顔が絶えない。
民が笑っていられるという事は統治自体は良いらしい。
ここで、東都城の主に謁見するらしい。
王族の直系—―大公殿か、王自身がいるそうだ。
あーやだやだ。
ま、フィリア団長が大体の話を付けてくれるはずだ。
それに一先ず従っておけばいいよな。
『入場!!』
門衛がフィリア団長一行を視認すると、城に続く跳ね橋が降ろされる。
通行許可が顔パスか。
さすが、フィリア団長。
迷いなくフィリア団長が先行していく。
そんなにずかずかといくかね。
城の材質は石と木かな。
豪奢な造りというよりかは、堅牢な造りだ。
守りやすい。
攻め側は大変だろうな。って感じだ。
門を破ってからが地獄の始まりかもしれん。
そう思わせるくらいの迷路。
大人数で仕掛けるのに不向きだ。
数の利を活かしにくい造りだ。
熟知していても、落としにくい城だろう。
四階建てだ。
僕達は一階の中央広間で待つのだとか。
広間で待機命令を下した、フィリア団長は一旦離席している。
相変わらず、アマンダとケルンはだんまりだ。
チータもリヨルも護衛の人も何も話さない。
待つこと数分—―数十分—―一刻。
お、遅すぎないか?
「待たせたな。」
広間に現れたのは、着飾ったフィリア団長である。
金のティアラ。
真黒の長髪に良く映えている。
Fカップという双丘にスタイルの良さが際立たせるような蒼色のドレスに金の紋様が入ったドレスを着たフィリア団長は、船長から女王に変身していた。
「フィリア・ランバルト。ランバルト海洋王国、王族直系、末弟の長だ。フィリア大公とも呼ばれている。」
驚きの余り、声が出ない。
そもそも偉い人が前線に出てるってどういうことだよ。
周りが片膝をついているので、礼に倣って、僕も膝をついておく。アマンダとケルンは――ひれ伏している。僕よりも危機察知能力もとい順応性は高いようだ。
「フィリア団長が王族だったんですか……。」
「そうだな。」
僕が驚いている事にしめしめ、と言った所か。
フィリア団長の声を聴くに、だが。
「シル、アマンダ、ケルンはワタシが庇護した。そうだな?」
いや、選択はあってなかった。
強制連行だったような。
『はい、女王様!』
アマンダ、ケルンは判断が早いな。
もう言いなりだ。
「シル、お前は違うのか?」
「選択はあってないようなものでしたから。」
「ほう。」
少し場の空気が凍り付いた気もしなくもない。
「ですが、恩は感じております。待遇は想定していた範疇を大きく超える程に良いモノでしたし。」
前方からの圧は少しばかり弛んだような気もする。
「では、どうする。」
「フィリア団長に仕え、恩には働きで報いたいと思っております。アマンダ、ケルンと共に
「クハハ。そうか、分かった。三人で、出来る事はないな。今はそうだな、騎士か魔術師として、力をつけて貰おうか。」
まだ4、5、6歳だもの。
「では、私達が適正を見極めましょう。」
転移してきた。
フィリア女王を中央に騎士、魔術師然とした格好の男女が現れた。
如何にもな、銀騎士。ただ、少しばかり軽装かな?
関節部は革?かな。
強度と動きやすさを活かせるような鎧だ。
魔術師は魔術師で、全身を覆い隠す様なローブ。
つばの広いとんがり帽子、それ要るか?
紫外線対策にはなりそう。でも夏は暑そう。
中は魔法陣でも織り込んであって涼しいとかなんだろうけど。
僕は半袖半ズボン、この格好でも暑いのに………目の前の女性魔法師は全身が見えないレベルで隠されている。が、汗一つかいてない。
これは、魔法師は季節感ない人多そうだわ。
「とりあえず、三人とも魔法適性から見てあげるわね。」
『はーい。』
女魔法師の人が仕切ったので、そのまま返事をして付いていこうとした。すると制止が入った。
「おい、剣術からだ。
ふむ。男騎士の言う事も一理あるな。
「はあ?先だとか後だとか、男の癖にうっさいわね。じゃ、このコ達の剣術適性検査は後日にでも試したら?」
ふむ。譲る気はないと来たか。
「剣術を学ぶのは早ければ早い方がいい!先に剣術適性検査を受けてもらう!!」
うむ。バッチバチじゃんよ。
これが水と油の関係か。
いやぁ、巻き込まれたくないなぁ。
もう巻きまれてるって?
言うんじゃないよ!!
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