第19話:ツいてない、いや憑いてるのか
緑髪赤眼の魔獣バルバスが船内に潜んでいて
ステータス
シルフィア
Lv.1 【ランクアップ可能】
力:B→B 720→730 耐久:A 802→896 器用:SSS 1233→1286 敏捷:C 666→688 魔力:SSS 1893→1936 幸運:C 601→687
《魔法》
【水属性魔法】【風魔法魔法】【土属性魔法】【火属性魔法】【雷属性魔法】【光属性魔法】【闇属性魔法】【回復魔法】【生活魔法】【
《スキル》
【再生】【獲得経験値五倍】【鑑定】【遠見】【魔道具製作】
《呪い》
【男性に話し掛けることができない】
成長は大分緩やかになっている。耐久と
「さ、今日もバリバリ行くぞー!」
ベッドから跳ね起きて、先ずは魔法で自室の掃除を済ませる。
掃除札が掛かっている所はノックをしてから扉を開けて、【生活魔法】の出番だ。
お、珍しい。掃除札が外套勢が来てから全然立てかけられない部屋についていた。ノックをしようとして、中から気配がするのが分かった。何故だか、動悸がする。念には念を――ということで魔法で石を作り、手でノックする位置に固定して浮かせる。身体を
扉が開かれると同時—―獰猛な野獣の浅黒い腕が石を掴んで握り潰した。そして中から勢いよく人が出てきた。浅黒い肌に緑髪赤眼—―野獣バルバス君は待ち伏せしていたようだ。怖すぎぃ!!ホラーですか?え?ホラーなんですか?!もう一回言わせて、怖すぎぃ!!
「ちっ!」
盛大な舌打ちにビビらされながらも、緊急回避に成功した。扉の取っ手に手を掛け、閉めて部屋に戻ろうとしたバルバスの室内に【生活魔法】の三種—―
トラウマになりそうな位、恐怖で汗びっしょりだ。勿論、【生活魔法】で綺麗さっぱりにしておく。奴は人ではない、獣である。匂いで追ってくるかもしれない。落ち着け、バルバスは人間だろ……考えすぎか。清掃も終わり、三人分の食事を持って、アマンダとケルンに会いに行く。
「シルちゃん、今日顔色悪い?」
「シル、体調悪いの?」
アマンダとケルンが心配してくれる程度には顔に出ているらしい。おっかしいなー。
「いやー、ちょっと変なのに目を付けられたかもしれなくてね。」
「変なの?」
「変な生き物でも船に乗ってるの?」
ケルンは発想が豊かだ。強ち間違ってないしね。
「そう、変な生き物が乗ってたのよ。」
僕が悪ノリして言う。
「それって、魔物じゃない?」
マジレスしてくれるのは最年長のアマンダ氏である。
「魔物かもしれないね。」
僕は腕組して神妙な顔で頷いておく。
「ふ、ふねの中に魔物がいるの?!」
ケルンがアマンダに身を寄せて、訊いてきた。これはビビらせてしまったか。
「大丈夫よ、首輪は付いてるだろうし。」
権力と言う名の首輪がな。
「そっか、安心した。」
「オイラも安心した。」
二人は胸をなでおろしている。可愛いのう。
「じゃ、今日も魔法の鍛錬、バリバリ頑張ろうね。」
『はい!』
二人との会話に癒された僕は、アマンダ達の
秘宝です。いや悲報です。
僕は
清掃員暴行未遂事件以降、事ある毎にバルバスが視界の端にいるのです。ホラーですよね。ストーカー規制法まだですか。早めに新法令として施行して貰わないと困りますよ。被害者出ちゃいますよ!取り返しつかないですよ!取り敢えず、怖かったので、チータとミレーネ姐さんと交代で行動しております。
「全く、気持ち悪いわね。」
「幸い、ミレーネ姐さんとチータがいる時は寄ってくる素振りすら見せないので安心ですけどね。」
僕達は今日は、最初の患者黒肌のスキンヘッド男ことスキンさんの所に無くなった右腕を生やしに行った。
「どうも、スキンさん。腕を治しにきました。」
「ああ、どうも…?…スキンって俺のこと?」
僕の殴り込みにスキンさんは困惑した様子で迎えてくれる。ミレーネ姐さんをちらちら見過ぎじゃないか?
「確かにスキンね!!」
ミレーネ姐さんは頭髪をみて、きっぱり言い切った。
「お、俺にもキンズって名前が一応あるんだが…まあ、好きに呼んでくれ。腕は義手じゃなくて…?本当に生えるのか?」
ほうほう。キンズさんだったか。
「まず、お聞きしたいんですが、本来四肢を失った場合、どういった処置が定番なんでしょうか。」
これに答えてくれたのはミレーネ姐さんだ。
「回復魔法師として【回復魔法】を専門としている魔法師でも四肢喪失後は治せないわ。
キンズさんも同意して頷いている。
「そうですな…俺の場合、義手購入も出来なくはないが、一般市民――薄給者は買うことも出来ない奴がいる。」
ふむふむ。それじゃ腕を生やせたら奇跡とか革命って言われるレベルってことかな。
「それじゃ、失った右腕を治す代わりに、ある条件を吞んでください。」
僕もタダで治すつもりはない。
「……分かった。お嬢ちゃんの要求、いや条件だったか。全て呑もう。」
多少の沈黙の後、キンズさんは条件を呑むことを快諾した。
「そうね。」
その返答に、当たり前ね。と、ミレーネ姐さんも頷いている。条件を開示する前に呑むって言い切っちゃうのはどうかと思う、僕からしたら少しばかり困惑してしまう。
「えっと、条件は…シア王国と、その民に対して敵対しない。間接的、直接的問わずです。大丈夫ですか?」
「ハハハ。」
「んふふ。」
キンズさんもミレーネ姐さんも笑っている。何が可笑しいのだろう。
「それだけか?」
キンズさんが僕に問う。
「ええ、任務で攻撃しろって言われても放棄しなきゃいけませんよ?命令違反になりかねないような条件を突き付けられて…笑ってますけど、大丈夫なんですか?」
軍人が命令に背く事になりかねない条件だというのに。本当に分かっているのか心配になって再度確認してしまう。
「
「じゃ、契約書ね。」
契約書?なにそれ。ミレーネ姐さんが腰にぶら下げている巾着袋――恐らく
「できたわ。シルちゃんの血を一滴、キンズの血も一滴羊皮紙に垂らして頂戴。」
言われるがまま、指先を【風魔法】で切って、契約書に血を垂らす。羊皮紙がお互いの血を吸い上げるように染み込んでいく。
「契約が破られた場合、どうなるんですか?」
「知らずに契約したのか?」
キンズが吃驚している。
「あら、契約を破れば死ぬわよ?」
ミレーネ姐さんは「当たり前」、と言わんばかりに《死》が訪れると宣う。
「それって私が治せなかったらどうなるんですか?」
「え?シルちゃんが死んじゃうわ……ね。治せないの?」
みるみるミレーネ姐さんの顔色が青くなっていく。
「いや、治せます。」
僕は即座に否定する。それにしても恐ろしいな、契約書……。
「それじゃ、お嬢ちゃんの番だぜ。任せたよ。」
「任されました。……
【再生】スキルによる経験や前世の記憶を頼りに【回復魔法】を使う。塞がっていた生傷特有のぶよぶよと盛り上がった肉は落ち、メキメキと音を立てながら再生が進んでいく。
「うおぉ、な、なんかやべえ。」
キンズ本人も変な感覚なのだろうか。十分もせずに、腕が生えた。個人的には手の平が復元されて五つの突起が出来てからの、にょきにょき生えてくる指が、まー気持ち悪かった。じっくり見るもんじゃないわ。
「ほ、本当に治った…。う、動く…ぞ。」
キンズは、確かめるようにゆっくり動かして左手で右腕を擦ったり、握り合わせたりしている。
「全ての回復魔法師が出来たら、革命ね…。」
義手要らず。
治癒の理想系魔法。
失われた四肢が再生していく実体験に、前世の人体の構造知識、【再生】スキルの存在、これらがあってシルは【回復魔法】の
「これは、アタシには無理そうだわ。」
ミレーネ姐さんは完全に復元された腕をみて、そう呟いた。
「《奇跡の魔女》と呼ばれるミレーネ殿でも、ですか。」
キンズの生唾を飲む音が聞こえた。
どうやらミレーネの過去や実績を知っているらしい。
キンズは知っているからこそ、理解し、戦慄した。
気になる二つ名だ。
何をしたんだろうね。
「じゃ、もう一人いたからミレーネ姐さん行きましょ。」
「魔力の方は大丈夫そう……ね。いきましょう。」
ミレーネ姐さんと手を繋いでキンズの部屋を出た。
第二
茶色の長髪を三つ編みで一本に纏められた女性だ。
左足、太腿から下を全損している。
特徴を伝えると、直ぐに見つかった。
今は自室にて安静に過ごしているらしい。
引き籠り勢だったようだ。
扉をノックする。
「たのもー!」
「きたわよ。」
ちょっとふざけたテンションで上がり込んだ。
「あの、どういった御用で?」
「あなたの脚を生やしに来ました。」
「そう。」
僕が説明する。
だって治療が僕がするからね。
ミレーネ姐さんは僕に同調するのが仕事だ。
「ミレーネさまが、ですか?」
三つ編み女性は目を輝かせている。
少々勘違いしているな。
「んん、アタシはみてるだけ。」
ミレーネ姐さんは期待をぶった切る。
「私がします。安心してください。すぐやりますから。」
僕は布団をめくる。
ショートパンツのようだ。
お陰で、左太腿は丸見えだ。
「
もぞもぞにょきにょき。
ぐずぐずと生える様は少々気持ち悪い。
こう、ズボっと一気に生えればいいんですけどね。
無茶を言うもんじゃないよな。
普通は生えないんだから。
足指までちゃんと元通りになった。
生え変わった細胞はぴかぴかのつるつる。
右脚が何だか汚く見えた。
「細胞活性化」
これはおまけだ。
右脚もぴかぴかのつるつる足にしてあげた。
古い細胞と角質が自然除去されたお陰だ。
「こんなにあっさり……。」
唖然としている。
生えた足を見て、驚きを隠せないようだ。
「言い忘れてたけど、シア王国と敵対しないって契約結んでもらうわよ。」
事後承諾も良いところだったが、快諾だった。
茶色の三つ編み少女の名前はリヨルさんという。
15歳なんだとか。
発育が良すぎて、成人女性だと思ってた。
前世じゃ、15歳は少女だよな。
でもこっちは12歳から成人らしい。
成人扱いで3年も軍勤めしてると立派に見えるもんですね。
「うあーおわおわり。」
「ふふ、ごはん食べにいきましょ。」
ミレーネ姐さんに仕事終わりに御飯に誘われた。
「それじゃ、アマンダとケルンにも御飯持って行ってあげなくちゃ。」
ミレーネ姐さんは僕が子どもの世話を任せられている事を知っているので。
「それじゃ、一緒に食べて、ついでにお風呂も入っちゃいましょう。」
な、なな。いいんですか。
少しばかり鼻息が荒くなりかける。
いかんいかん。
「アマンダ、ケルン。御飯だよ。一緒に食べよ?」
僕が二人を呼ぶ。
「あ、シルちゃん!……あ、こんにちは。」
「あ、シルだ!……こんにちは。」
二人は僕をみるなり、元気に話し掛けてくれる。が、今日はミレーネ姐さんが同席しているので、少しばかり緊張している。
二人は大人に対しての警戒心が高い。
「はじめまして。ミレーネよ。シルちゃんのお姉ちゃんなの。仲良くしてね。」
「え、シルちゃんのお姉さん?!」
「シルのお姉ちゃんだったの?!」
二人は急に警戒心を解いた。
「そうよ~!うちの妹がお世話してるっていうコを見に来たの。アタシとも仲良くしてね!」
『うん!』
せっかく、心を開いてくれているのだ。
ま、大人になれば違うって気づくよな。
敢えて訂正しないことにした。
「あー美味しかった。」
ケルンが大の字に寝転がる。
子どもには少し多いくらいの量だ。
それを残さず食べるので、ケルンは食べ終わるとお腹を擦っている。
「いただきました。三人はこの後、魔法のお勉強かしら?」
これはミレーネ姐さん。
三人とは僕達の事。
「うん。一応、そのつもり。」
僕が代表で答える。
「それじゃ、食膳プレートは私が食堂に持って行ってあげる。」
「ミレーネ姐さん、ありがとう。」
『ミレーネお姉ちゃんありがとうございます!』
僕に続いて、アマンダとケルンもちゃんと感謝を言葉にする。
「それじゃ、頑張ってね。」
『はーい!』
僕達は修練を始めた。
成長が良い。
とにかく、貪欲だ。
魔力の殆どを使い果たす。
夕ご飯を食べたらすぐ寝てしまう。
順調快調絶好調である。
ただ、そんな日も終わりはやってくる。
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