第10話:ユベントス視点別

 僕には幼馴染の赤髪赤眼のディジーと黄髪黄眼のフォムがいる。因みにユベントスボクは青色青眼さ。

 ガルガンティア帝国出身で当時、村で農業に勤しんでいた僕らは農作物を税に払っていた。

 帝国と言っても、帝都より外れたバイセルという田舎地区の中にある農村だ。名前はリテク村。

 当時は戦時下という事もあり、五割増しの重税を課せられ食糧難に陥った。

 少ない蓄えを根こそぎ役人達が持って行ったため、人減らしを行う事になった。

 本来は幼子を奴隷に落としたり、老人達を村から追い出したりして何とか凌ぐのだが、ユベントス含めディジーもフォムもソレを良しとしなかった。

 解決策として十歳になった僕達が、出稼ぎ労働者――帝都ガルガに赴き冒険者になって村にお金を仕送りする、という事で何とか凌ごうとしたのだ。

 農民だった僕らは冒険者となり依頼を受け、命懸けの死闘の連続で魔物を倒した。

 自分達の装備の新調も満足に出来ない中、それでも仕送りするためのお金を少しでも捻出するために。

 仕送りのみならず配達便は郵政国営化――お役所の仕事である。

 まどろっこしい手続きを済ませ、バイセル地区のリテク村に仕送りしていた筈なのだが、実態は中抜きされていた。

 そして役所の人間から発せられた無感情な言葉に衝撃を受けることになる。

「バイセル地区のリテク村は、もう存在しません。仕送り先はどうされますか?」


 常に依頼達成料の八割を送っていたにも関わらず、半年でリテク村は消滅したことを知る。

 冒険者稼業をしながら、家族を、村人を捜索するも結果的に一人しか見つからなかった。幸か不幸か馬鹿みたいに食料の値が上がったことにより、奴隷落ちしていたマーサを二束三文の値で買うことほごが出来た。村長の娘で、二つ上の女性だ。胸まで伸びた髪と目の色は焦げ茶色。鼻筋が綺麗に通った細身の顔立ちで身長は百四十センチほど。当時、身長が百三十センチほどの僕達より十センチほど高く、年齢も二つ上でお姉さん的存在だった人だ。

 マーサさんを買い戻し、拠点にしていた仮宿に連れ込んで、一息つかせた彼女――生存者に訳を聞いた。

 一言目に。

「先ずは、助けてくれてありがとうね。……あれっぽっちじゃ…物価が上がった状態じゃ……二千メルじゃ、一人一日一食分のお金にもなりやしないよ。村の男が狩りに出ても、木の実を採集しても、農作物だってすぐには……。でもあんた達を責めちゃいないよ。感謝してる。仕送りだって…あんた達が生きるためならしなくていいのに頑張って捻出してくれたんだろうしさ。依頼だって難しかったんだろう?」

「何言ってんだ?俺達は毎週一万メルは仕送りしてたぞ。」

 そう反論したのはディジーだ。

「本当だ。」

「……。」

 ディジーの発言を肯定する形で、フォムがマーサさんに語り掛ける。

 マーサさんは困惑している。それが本当なら月に四万メルクも支払われていたことになる。税金に回せば村は存続できたはずだから。そもそも食糧難に陥った原因は税のせいなのだから。

「そうですね、一応今までの仕送り代の明細書ですね。御役所発行印りょうしゅうしょもあるので、見て下さい。」

 成果として、貢献した証みたいに取って置いた領収書をマーサが目を通すと絶句した。

 ここで役人に中抜きされていたことを知る。

 怒り狂うよりも先に、保護していたマーサ含め、他にいないか各地を探し回った。だが、二年の月日を掛けるもそれは徒労に終わった。

 僕の両親や祖父祖母、妹や弟達は誰一人見つからなかった。

  

 現状に絶望した僕らは帝国ガルガンティアを出奔し、隣国であるシア王国に移住するにした。

 ――――帝国からしたら逃亡者として。

 それから八年の月日が流れ、二十歳。

 都市街サースを拠点にして冒険者を続けていた僕達は中級冒険者となっていた。教会の司祭様の祈りを経て、レベルは全員レベル2に上がっている。

 マーサさんも都市街サースに住み込みパン屋として働いている。

 冒険者ギルドで良さげな依頼がないか、いつも通り一階、二階、三階の掲示板に張られた張り紙を三人ばらけて見て回っていた。

「指名依頼だ。」

 一階担当していたフォムが二階担当のディジーも三階に連れてきていて僕を見つけるなりそういったのだ。

 詳しい話は別室で、ということになりギルド長室と呼ばれる、一階の奥室に足を運ぶ――。

再出発リスタートの皆さん、どうぞ、お掛けになって下さい。」 

 僕達が部屋に入って真っ先に声を掛けてきた人の髪は原色と言っていい程の赤。胸程の長さの髪ロングを緩く内巻きと外巻きをバランスよく取り入れたおしゃれヘアー。髪が胸に載る程度に発達した胸囲バストを持ち合わせた伊達眼鏡の似合う美女だ。    

 僕達をパーティー名で呼んだのはギルド長の秘書兼事務員さんのティアさんだ。ギルド長お抱えの――専属事務員という印象であるが、本当の所は何も知らない知りたくないから無駄な会話はしない。

「それで、指名依頼と伺ったんですが。」

 ディジーとフォムと一緒にソファに座るのを確認して僕が切り出す。

 交渉事は僕の担当だからだ。

 髪は黒。一部サイドラインが入ったかのように染まっている白髪。前髪を額に垂らし切り下げ、後髪を襟足辺りで真っ直ぐに切りそろえた髪型。くりっとした目は世の汚いモノゴト全てを知り尽くしたかのようで濁り死んでいる。そして目の下のクマ。もう塗料でも塗りたくったのかと思う真黒な隈がある。十二歳ほどにしか見えない彼がギルド長その人である。

 ギルド長は自身の机に座っている。真正面にいるその人は中級冒険者冒険者になってからの方が怖さがよく分かるようになっていた。

 自分達とは格が違うのが分かって恐ろしいのだ。

 ステータスだけで何千違うのかは分からないがそれ程に隔絶した強さがあることがレベル2になって分かった。

「お前達を呼んだのは、ここより南下した――サルク村という開拓村の一つに迷宮ダンジョンが出現した可能性があるとのことだ。そこの調査が本命だ。迷宮攻略は出来るなら積極的に頼む。一応踏破報酬は用意しておくがあくまで調査が優先だ。無理のない範囲で頼む。調査報酬は迷宮という事もあり、金貨五枚。踏破報酬は金貨三十枚だ。受けてくれるな?」 

 報酬は一般的だ。

 危険リスクを鑑みて、美味しい部類に入るだろう。金貨一枚が一万メルに相当するので、調査報告だけで五万メルも稼げるからだ。

 中級冒険者になった僕達なら調査で死ぬような危険リスクは殆どないだろう。あるとすれば無茶をしてやらかした時だけだ。 

 断る理由も度胸もないので、素直に受け入れる。

「依頼、拝命しました。」

「では、再出発リスタートの皆さん依頼クエスト頑張ってくださいね。」

 ティアさんは営業笑顔えいぎょうスマイルを貼り付け、出入り口の扉を開けている。さっさと依頼に行けってことかな。

 一礼して僕達三人は速やかに奥室から退出した。



「死ぬとこだったわぁ。ああうめぇ…しあわせ。」

 僕らはそのままギルドを出て、マーサさんが住み込みで働いている《パンナのパン屋》という店に直行した。

 息の詰まるようなギルド長とのやり取りにディジーが愚痴りつつも、出来立ての大人気メニューのチーズパンを頬張って息を吹き返した。

 チーズパンは極限まで薄い生地にこれでもかってくらいのチーズが入ったパンで、パンを食べているのかチーズを食べているのか分からなくなる。ただこれが都市街サースの女性達を魅了してやまず、ディジーも大好物なのだ。

「これがフォムくんのアップリパイで、ユベントスくんのトマチパンね。注文は以上よね。顔色が優れないけど、おっかない魔物にでもあったのかい?」 

 昼過ぎで昼食を食べに来ていたお客の大半はもういない。なのでマーサさんが僕らに気に掛けるだけの余裕がお店にはあるようだ。

「……あれは魔物より魔物だと思って――。」

「ははは。栄誉あるギルド指名の依頼を受けて、武者震いでもしてるんだよね?やる気出るのも分かる。頑張ろうな!」

 僕は珍しくフォムが先程の件――を思い出しては身震いしてマーサの問いに答えようとしていたので割り込んだ。

 表立ってギルド長の悪口に捉えられるような話を外でなんて御法度だからだ。逃亡もとい移住して、お世話になっている国に恩を仇で返す様なことをしたくないというのもある。そう思える程度にはガルガンティア帝国より真っ当な国――いや冒険者ギルドの運営が誠実に行われていると判断できた。現に僕達はシア王国でも冒険者活動が出来ているし、マーサさんは優良企業ホワイトな職場に就けている。

「ふうん。アンタ達、中級冒険者になったのにまだまだ大変なんだね。」

「そんなところです、ね。はははっ……。」

 マーサさんは何となく察してくれたのかやんわりと労いの言葉をかけてくれ、受付に戻っていった。

 フォムは失言しかけたことなんて露ほどにも気にせず、甘いのか酸っぱいのかよく分からない味の赤い果物アップリが賽の目切りしてふんだんに盛られたパイにかぶり付いている。アップリというのは拳大の大きさの赤い実だ。食べてみなければ甘いのか酸っぱいのか分からない謎の食べ物である。フォムはいつも美味しそうに食べていて不思議でしょうがない。

 一言文句でも言ってやろうかと思ったが、折角の出来立てパンだ。僕も食事を堪能することにした。

 僕の頼んだトマチパンと言えば、トマチというこれまた赤い実なのだが、ベリーのような一口サイズの小さい実とチーズが入ったパンだ。このトマチがチーズとパンによく合う酸味の効いた実だ。一緒に食べるとパンがしっとりしていい。僕の大好物である。

 

「くったくった!ごちそっさん!じゃ、俺がポーションと干し肉の補充だけ済ましてやるから腰掛け鞄ポーチを寄こしな。」

「助かる。」

「ありがとう。はい。」

 僕達より早くに食べ終えたディジーがアイテムを補充してくれるらしい。ありがたい。ちゃんと感謝して腰掛け鞄ポーチを渡す。

 食べ終える頃には、準備は終わり出発となった。



 夜の二刻は軽く過ぎた頃、迷宮に一番近い位置にある村――サルク村に到着した。

「冒険者の方々、良く来てくださいました。サルク村の代表サルクと申します。依頼内容は迷宮の件なのですが、相違ないでしょうか?」

 三十代といった所のサルクという男が村人代表として話し掛けてきた。

「はい、間違いありません。発見されたという報告を受け、調査及び攻略の依頼を引き受けました。調査結果次第ですが、我々も自身の命が最優先です。人員の要請をして攻略に乗り出すこともあるので長期に渡る滞在になるやもしれません。申し訳ないのですが、我々が休息できる場所などありませんか?」

「一先ずは、空き家がございます。そちらへどうぞ。他の冒険者の応援が来た際は只今ただいま建設中の宿を作っている段階ですので、そちらにお泊りになれるように致します。」

「そうですか。感謝します。因みにですが、ここから迷宮まではどのくらいの距離になるかご存知の方はいらっしゃいませんか?」

 最寄り村に最適とは聞いているがどのくらいかかるのかくらいは聞いておかなくてね。すると代表のサルク殿の後ろの控えていた男の一人が一歩前に出てきた。

「隣村のタルク村より助勢に来ていたルイと申します。第一発見者である自分に道案内ガイドを務めさせて頂きたい。」

道案内ガイドまでして下さるのですか。助かります。では夜の間は寝るとして朝の五の刻にお願いできますか?」

「はい、往復でも五の刻ほどの距離ですから。お任せください。」

 幸い第一発見者の村人がいたので、一応道順だけ知る為に道案内ガイドを頼んだ。

 

 案内された空き家にはトイレと水道、お風呂は設計上完備されているが、置いてある物はベッドが四つだけ。机も魔石冷蔵庫もない。本当に誰も住んでない――空き家の名に相応しい場所を貸し与えて貰えたようだ。

 誰かの住処を無理やり空き家に見立てて、場所を作ったわけではないと思うと居心地が良い。冒険者稼業をしている男三人だと、小さな村では住民を一時的に他家に泊まらせ物品を最低限にして家丸ごと貸してくれたり……なんてのは往々にしてあるので、気兼ねなく使える《空き家》は最高なのだ。

 もう少しパーティーの人数が多いと野宿か、冒険者の女性だけ……みたいなこともある。逆に、二人組やソロは専ら村長宅か依頼主宅に泊まらせてもらえたりする。三人だと、野宿してくれとも村人達は言いづらいし、かといって大人の男三人が余分に寝泊まりできる程余裕のある村民宅というのは稀有である。


「はあ、今回は楽でいいな。村人達も気の良さそうな人達でさ。」

「わかる。」

「気兼ねしないでいいですよね。元冒険者でもいるのかな?焼けに準備が良いですし。」

「うーわ。ユベントスはお仕事形態モードだ。俺らにまで敬語使うなっての。でもまあ確かに、元冒険者が段取りして手配してくれたってレベルよな。」

「わかる。」

「すみません。何度注意されても仕事の時はきちんとしておきたいんですよね。僕が交渉役ですから。」

「わかってるけどよー。ちったぁ、気を抜くって事も覚えたほうがいいぜー」

「わかる。」

「お気遣いありがとうございます。」


 ディジーなりの優しさが垣間見えるいつものやり取りだ。相も変わらず、フォムは口数が少ないし、《わかる。》を連呼して同調相槌男どうちょうあいづちまんと化している。

 再出発リスタートの面々は、いつものやり取りルーティンを繰り広げることでいつもと変わらない状態コンディションにするのが彼等の依頼成功の秘訣なのだ。

 一通り言い合った彼等は睡眠を取った。


「では、よろしくお願いします。」

「こちらこそ。では先行させて頂きます。」

 ルイとユベントスのやりとりに合わせ、ディジーとフォムは一礼してから後に続いて森に入る。


 魔物はパラパラと閑散としつつもやはり配置スポーンしていた。それでも比較的安全に少数の魔物をフォムが始末して迷宮までの直通行きルート開拓を済ませる。

 同時に、村人である道案内ガイドの帰りの安全も確保しているというわけだ。

 村から真っ直ぐ、直進と言っても過言ではないため迷う心配もない。

「あの迷宮から出てきたのは黒鎧百足ヨロイムカデとトレントです。迷宮内では他の魔物もいるかもしれませんが……あそこで戦闘してる二種です。」

黒鎧百足ヨロイムカデはレベル1中位から上位のステータスにあたる魔物ですね。トレントは中位程度でしょうか。物理攻撃は打撃が有効なトレントに対して相性的に黒鎧百足が不利と……。この感じなら、トレントを殲滅でもしない限りは黒鎧百足が淘汰され、トレントのみが新種枠として生き残りそうですね。今回は迷宮の調査及び攻略が依頼となっているので、外に漏れ出た黒鎧百足ヨロイムカデとトレントの殲滅を望む場合、数が増えれば増える程、冒険者への報酬が高くなるので早めの依頼が良いと思います。」

「分かりました。村の者たちにはこの旨話しておきます。」

「では、一度村までルイさんを送り届けて、お昼を済ませた段階で我々は迷宮内の調査に赴きたいと思います。」


 再出発リスタートの面々は、ルイを護衛するように囲み、来た道を引き返した。

 

 サルク村に着くと、商人達が当たり前のように広場に居る。

「おいしいよ!おいしいよ!うちの串焼きは!」

「腹持ちのいい飯はどうだ!コメといってな!山菜を混ぜ込んだ握り飯で体にも良く片手で食べれるぞ!」

「こっちはポーションね、魔力回復に体力回復、敏捷上げ、耐久上げ、筋力上げ、魔力上げのポーションがある。効果は折り紙付きだよ!」

 商魂逞しく、耳敏い連中しょうにんのフットワークの軽さに半ば呆れつつ、道中倒した魔物の魔石でご飯を買う。

 僕達は魔法鞄・袋アイテムバッグを持っていない。ポーションは最低限の腰掛け鞄に入る魔力回復と体力回復ポーションのみで、後は保存食の干し肉だ。ディジーとフォムは近接戦闘を行うので、体力回復ポーションを二つだったはず。全て僕自身が賄っても問題ないが、飲み水は誰しも魔法で生み出せるので持ち合わせてはいない。

 

「敏捷…筋力…耐久…ぐぬぬぬ。俺、ぜってぇ金貨百枚貯めて魔法鞄買うんだ。ポーションを買い込んで、戦利品をこれでもかってくらい持って帰ってやるんだ……。」

「わかる。」

「ははは……はぁ。」

 ガルガンティア帝国から出奔した後は、無理のない依頼をこなしては武器防具の新調修理整備に、マーサさんが働いている《パンナのパン屋》にもご飯代を出して常客になったりと貯めては欲しいモノに費やしてきたが、魔法鞄マジックバッグには手が出なかった。兎に角、売買価格が高いせいで。

 通常の討伐依頼や採集程度なら集積荷馬カーゴ荷物持ちサポーターを貸与してもらうなり雇っている。

 だが、初見迷宮ダンジョンには不測の事態が常道だと思うのが常識的な判断である。よって荷馬を負傷または失えば過失責任は大きいと判断され、全額補填しなければならない。荷物持ちサポーターが仕事を引き受けるわけがない。彼等も命あっての、だ。そんな仕事を斡旋されたと吹聴されれば、再出発リスタートについてくれる荷物持ち《サポーター》は居なくなるだろう。

 なので、目の前の商人が此方が欲しがる商品を山ほど持っていても持ち運んでくれる者がいないので僕達の財布の紐が弛むことはない。


 準備を済ませた僕らは迷宮を目指した。


「おい、ユベントス!さっさとダンジョンに行って依頼クエスト済ましちまおうぜ。」

 ダンジョンの入り口湧いていた魔物を殲滅しきったのを確認したディジーはさっそくダンジョンの中に入ろうと急かす。

「わかってるよ。でもディジーもフォムも道中始末したのくらいなら戦利品がてら魔石解体の一つでもしようよ。」 

 僕が反応して、言葉を返す。

「すまないと思っている。」

「出たよ、フォムの『すまないと思っている。』因みに俺もすまないと思っている。」

 ディジーはからかい笑っている。

「ディジー笑い過ぎ。」

 僕はいつも解体をそっちのけにしがちな二人の生返事――気持ちの籠っていない謝罪に呆れながら、諫めている。



 

 僕達は外の安全を確保したので、迷宮ダンジョン突入する。

 

「うわ、すげえ。都市遺跡だな。ユベントスが好きそうだわ」

「ボロボロだと思っている。」

「うわぁ。すごい…。でもこれって一階層だけ?まじで出来立てほやほやの迷宮じゃん…そこにも感動…」


 入った順に――ディジー、フォム、僕が口を開いた。

 

「確か、報告に合ったのって黒鎧百足とトレントだよな?それなら魔物モンスターは森の中かね?あれ全部廃墟か?人型系魔物はいないってあり得る?そしたら幸運ラッキーじゃん!やっほーい!」

「人型系は捕食されたと思っている。」

「安易過ぎるよ、ディジー、フォム。……魔物の同士討ちでも起きた結果、迷宮から出てきた可能性は十分にあるよ。その時に被害に遭った建物が空き家になっているって考えた方がいい。僕が飛行フライで偵察するから。勝手に先に行かないでよ。」

「助かる。」

「助かる。」

 ディジーは途中からわざとふざけている。

 フォムは現実逃避したいらしい。

 僕は一先ず、いない方向で話は進んでいこうとする二人を諫める。

 あり得ないだろうと、嘆息をつきながら自身で偵察をすると提案した。

 ちゃんと感謝する辺りやっぱり二人ともふざけてた証明に他ならないが気にしてもしょうがない。

 


「遠くの家屋に豚人オークがいたよ。でもって数は二百くらいかな。一家につき、大体三匹から四匹の二十家位が密集して四分割されてる感じ。大体六十から八十って軍隊みたいだけどどうする?」

「げー、きっつくね?でも一家毎なら先制攻撃かましゃなんとでもなるな。応援待ちすっか?ぶっ倒すか?」

「奴等は繁殖するの早いと思っている。」

 僕の報告を聞いて、あからさまに面倒がった発言をしたディジーは好戦的で盾と腰に佩刀してある片手剣の柄に手をかけやる気十分と言った所か。

 フォムは双剣をとっくに抜き放っている。やる気というより殺る気満々だ。繁殖する前にぶっとばそうぜってことらしいね。

「僕達は迷宮の調査が本命なんだけどね。一気に相手にしたら負けるけど…消音結界張って、一家毎に倒す作戦でいい?気づかれたら即撤退って事で。基本的にはフォムがどれだけ手際よく倒せるかって感じかな。後、音は消せるけど匂いは無理だから血の匂いが充満し始めて他の家の豚人オークが勘づき始めても撤退だから。」

「はいよー」

「任された。」

 正直この作戦が上手くいくとは思えないけど、数を減らしておいて損はない。血の匂いに誘われて気づかれてしまうだろうけどやれるだけやっておきたい。

 何故か、魔物の数も少ない方だし。一階層、約千体程が迷宮と一緒に産まれてくると聞いていたので正直拍子抜けだ。考えられるのは魔物同士で相当に争ったか、外に出てしまったかだろう。

 豚人オークはレベル1上位からレベル2の中位までの個体が確認されている。外に出てないといいけどなぁ。

 

「まずは、端にある家からね。…消音結界。」 

 僕が家一つ分の大きさの結界を張る。どうやらその間は動けないらしい。結界魔法の維持が大変なのかもしれない。

 結界が張られてすぐ、家の入り口近くにいた豚人の喉を裂き、後ろから追従していたディジーがダメ押しに首を斬り落とす。

 フォムが三匹いた内の二匹の首を斬るも、三匹目が事態に気づいて、激高する。そして雄叫びを上げるも意味はない。

 フォムはしかめっ面で、後ろから盾と片手剣を持った前衛のディジーが盾と剣をがんがん打ち付け合って煽りヘイトを買って前に出ている。

 注意を逸らされた豚人オークは簡単に側面からの攻撃にたおれた。ここからは時間との闘いだ。

 結界魔法を解除し、そそくさと三人は合流し、次の家に向かっていく。

 


「あっとにっひきぃ。」

 今回は四匹一組。二匹を素早く倒すも三匹目、四匹目には気づかれている。魔物もそこまで馬鹿じゃないということだ。

 家の中では横薙ぎは出来ないらしく、振り下ろしのワンパターンだ。フォムに簡単に避けられ、あえなく倒される。それを見た豚人オークは怖気づいたのか、突撃して家から出ようとする。

「いかせないっぜ!」

 ディジーは入り口を塞ぐように盾を構え、立ちふさがる。

 突撃タックルされるも、恐慌状態によるものらしくちから不足。ディジーは豚人の突撃を真正面から弾き返した。

「腰が入ってねえぜ、腰がよぉ。」

 すかさず、後ろからフォムに切り伏せられ四匹いた家の豚人オークも殲滅された。

 四匹だと時間がかかるが、順調に殲滅していく。

 

 —―――おかしい。

 僕はこの違和感の正体が分からなかったが、残すところ四分の一程度にまで数を減らした段階で確信に至った。

 僕達以外の誰かがいる。

 確認を取る余裕はない。でも間違いない、僕は消音は使えるが、消臭は使えない。想像イメージが弱くて使えない。それなのに血の匂いが漂ってこない。大量に殺して回っているというのに。

 つまり、誰かが倒した死体に消臭でも使っているのか死体そのものを魔法鞄マジックバッグに収納しているかだ。敵対はしてきていないにしろ、不気味なのだ。

 

「よーしよし。おれらさいきょーう」

「だな。」

「不気味な位上手くいったね?後はボス部屋みたいな、あの家だけだ。あの家には僕が火魔法でもぶち込みまくるとするよ。」

「ユベントス結界ばっかだったもんなー。りょーかいー」

「任せた。」

 

 僕は平静を装う。そして姿の見えない協力者に、チカラを誇示するかのように火炎球を入り口側面、四方から撃ち込みまくる。

 最後の最後で此方に牙を剥かないように、変な気を起こさないでくれよ、という意味を込めて。

 石造りなので軽い火の粉は舞うものの、瓦礫になって中にいたであろうボスは埋もれている。

 瓦礫から出てきた一際大きい豚人オークと三匹の豚人達。

 

「ブモォオオオオ!!!!」

 豚人オークの叫び声に応える筈の同胞はもういない。

 

「おーおーあいつっぽいじゃん。挑発ヘイト

 すかさず前衛職の盾持ちディジーが挑発する。

 一斉に豚人達がディジーに意識を持っていかれている。

「フォム、瓦礫の中は足場が悪い。奴等が瓦礫から出てくるまでは僕が遠距離で直接魔法を撃ち込むから出てきたのから始末して。無理してつっこまないようにね。」

「わかった。」

 フォムは満身創痍の豚人オークに後れを取るとは思えないが、足場の悪い所に踏み込んだフォムを見えない協力者が奇襲するかもしれないと懸念して、注意を促す。

 棒はと言うと、火炎弾を撃ち込み炸裂させ、あっという間に通常個体の豚人達を丸焼きにする。

 一際大きい個体も火炎弾で執拗に足を狙い、這い出てきたところをディジーとフォムに両腕を斬り落とさせる。最後まで足搔き、頭で噛みつこうとするもフォムによって首を斬り落とされ絶命した。

 すると、一際大きい豚人の死体がボーリングの球並みの大きさの魔石に変わる。そして他の死体が光の泡となり消滅し、一か所に集まり台座を作り上げ、隣には宝箱が出現する。

「フォム、その巨大な魔石を台座に置いて。ディジー、僕と一緒に宝箱の中身を持てるだけ持って。迷宮の外とか、帰りも魔物と戦うかもしれないから大きいのは持ってかないようにね。時間的猶予は――多分迷宮は一日もすれば自然消滅だろうけど、僕達はもう戻ってこないからね。」

「あーつかれたのに、休みもなしかよー。しかもでけえお宝は置いてけとかどゆことー?取りにくればいいじゃん、一日も猶予あんならさー」

「一日は一般的な迷宮の話さ。この出来立てほやほや迷宮が一日かけて自然消滅するのか知らないし。お宝全部持って帰ろうと何往復もして迷宮と一緒に消えてった馬鹿みたいになりたくないだろう?」

「わかった。」

「それ最悪。はよもどろー。」


 ディジーが欲張り案を出すも、僕が一蹴する。

 どうやらディジーも気づいていたようだ。謎の存在に。素人じゃないんだから迷宮の仕組みについて知らないわけがない。僕達が最初に潜ることになったガルガンティア帝国の迷宮の魔物の間引き依頼を受けた際、ギルド職員から仕組みについてはレクチャーされている。

 話に割り込まなかったフォムは僕の話を最後まで聞いて相槌を打って返事を返す。僕達の様子に感づいたようだ。

 僕達は持ち運びしやすいものを適当に見繕い、逃げるようにして迷宮を出た。


 サルク村の代表のサルクさんに報告を済ませた僕達は、思わぬ速さで解決してくれたとのことで、夕食に御馳走を振舞ってもらい、ご厚意に甘え一泊してから帰ることにした。


「なあ、俺達以外にも何かいたよな。」

「いたな。」

「……気味悪かったね。でも助けてくれたってことでいいんだよね?僕達の作戦には穴があったもの。」

 みんなの意見が一致する。途端、あの迷宮に入り込んだナニカが僕達の周りにいるのではないかと思ってしまい、ベッドから起き上がる。

 そんな僕を見て、ディジーもフォムも顔を強張らせ、上体をゆっくり起こそうとしている。

「ごめん、何かあったわけじゃないんだけど……まだ近くにいるのかなって急に思っちゃって。」

「……その可能性は無きにしも非ずじゃね?」

「……。」

「僕達、朝起きたら天国とかないよね?」

「……わからん。」

「……。」

「どうしよう。このことギルド長達に報告したほうがいいのかな。」

「……わからん。」

「……。」

「ひとまず、ねよっか……。」

「おう。」

「うむ。」


 考えるのを止めた僕らは寝て、翌朝全速力で都市街サースに帰るのであった。 

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